第4話 LEVEL UP
ドリームライド
第4話 LEVEL UP
「……繋がってる」
海は、目の前に浮かぶ数字をもう一度見た。
⸻
所持DP:164
⸻
現実世界で過ごした一日。
学校へ行った。
授業を受けた。
サッカーをした。
河川敷で走った。
知らないことを調べた。
父親から紐の結び方も教わった。
その間に増えたDPが、全部ここに残っている。
「ってことは……」
海は自分の身体を見る。
DPだけじゃない。
現実の部活中には、
《敏捷が上昇しました》
《体力が上昇しました》
という表示まで出ていた。
こっちで筋トレをした時も、筋力が上がった。
現実でも。
ドリームワールドでも。
同じように、自分が成長している。
海は少し考えてから呟いた。
「ゲームみたいだな……」
DP。
CREATION。
筋力。
体力。
敏捷。
ここまで揃っている。
だったら。
海の頭に、ゲームでよく見るもう一つの言葉が浮かんだ。
「……レベルとかもあんの?」
その瞬間だった。
目の前のウインドウが光った。
「え?」
所持DPの表示が消える。
代わりに、新しい文字が浮かび上がった。
⸻
《条件を達成しました》
《LEVEL表示を解放します》
⸻
「あるのかよ!」
思わず声が出た。
画面が切り替わる。
⸻
神谷 海
LEVEL:1
LEVEL進行度:82%
⸻
「八十二?」
海は画面へ顔を近づけた。
あと十八%。
「これ、どうやったら上がんだ?」
LEVELの文字を押す。
反応なし。
進行度を押す。
何も出ない。
「また教えてくれないのかよ」
だったら、
試せばいい。
⸻
海は歩き始めた。
百メートル。
⸻
《DP +1》
⸻
LEVELを確認する。
変化なし。
さらに歩く。
一キロ。
⸻
《DP +10》
⸻
もう一度確認する。
⸻
LEVEL進行度:83%
⸻
「上がった」
海の口元が緩む。
DPを獲得すれば、LEVELにも影響する。
少なくとも、
そう見えた。
「あと十七%」
だったら簡単だ。
もっと動けばいい。
海は走り出した。
一キロ。
⸻
《DP +10》
⸻
LEVELを見る。
⸻
83%
⸻
「……あれ?」
増えていない。
さらに一キロ走る。
DPは増える。
でも、
LEVELは変わらない。
「なんでだよ」
海は足を止めた。
さっきは歩いて上がった。
今は同じように移動しているのに、
上がらない。
「同じことじゃダメってこと?」
昨日、
石を拾った時のことを思い出す。
チュートリアルではDPが入った。
でも、その後何個拾っても何も起きなかった。
LEVELも同じなのかもしれない。
ただ繰り返すだけでは、
成長とは認められない。
「じゃあ……」
海はその場でスクワットを始めた。
十回。
二十回。
三十回。
五十回。
しばらくして。
⸻
《筋力が上昇しました》
⸻
すぐにLEVELを開く。
⸻
LEVEL進行度:85%
⸻
「二%!」
海の目が輝く。
歩いた時より大きい。
「これか!」
腕立て。
腹筋。
ダッシュ。
急停止。
切り返し。
ジャンプ。
サッカーの自主練のように、
次々と身体を動かす。
⸻
《筋力が上昇しました》
⸻
《敏捷が上昇しました》
⸻
《体力が上昇しました》
⸻
通知が出るたびに、
海はLEVELを確認する。
八十六。
八十七。
八十八。
少しずつ上がっていく。
「あと十二……!」
完全に火がついた。
こうなると海は止まらない。
⸻
しばらく身体を動かした。
LEVEL進行度は九十%。
だが、
そこから動かなくなった。
スクワット。
変化なし。
腕立て。
変化なし。
ダッシュ。
変化なし。
「またかよ……」
海は膝に手をついた。
汗が額から落ちる。
身体を使えば、
DPは増える。
でもLEVELは上がらない。
「やっぱ、新しいことか?」
海は顔を上げた。
周囲には、
石。
土。
自分のバッグ。
それだけ。
何か、
まだやっていないこと。
海の視線が、
少し大きな石に止まった。
「……運んでみるか」
自分でも、
何の意味があるのか分からない。
でも、
試せることは試す。
海は石を両腕で抱えた。
「重っ……!」
持ち上げる。
十メートルほど運んで、
地面へ置く。
もう一つ。
今度は少し小さい石。
さっきの石の上へ乗せる。
「……ん?」
二つ積んだところで、
海は少し考えた。
「これ、目印にできるな」
何もない荒野。
少し歩くだけで、
どこから来たのか分からなくなる。
なら、
遠くからでも分かる物があればいい。
海は石を集め始めた。
大きな石を下へ。
その上に、
少し小さな石。
三つ目。
崩れる。
「うわっ」
もう一度。
下の石の向きを変える。
乗せる。
また崩れる。
「意外とムズいな」
今度は石の形を見る。
平らな面。
重心。
乗せる位置。
四つ。
五つ。
少しずつ高さが出てくる。
最後に、
拳ほどの石を一番上へ置く。
手を離す。
崩れない。
「よし」
高さは腰より少し上。
何もない荒野なら、
十分目印になる。
その瞬間。
⸻
《初めて構造物を作成しました》
⸻
「構造物?」
続いて表示。
⸻
《DP +10》
《器用が上昇しました》
⸻
「十!?」
海はLEVELを開いた。
⸻
LEVEL進行度:97%
⸻
「一気に七!?」
歩く。
走る。
筋トレ。
それよりも、
初めて何かを作った時の方が、
大きく進んだ。
「新しいことやった方が上がるのか……?」
あと三%。
海は周囲を見回した。
「何か……」
バッグ。
水。
石。
そして、
ロープ。
海の動きが止まった。
今日。
父親から結び方を教わった。
現実では一度成功している。
でも、
この世界ではまだやっていない。
「これだ」
海はロープを取り出した。
父親の手元を思い出す。
「一回回して……」
一度目。
緩い。
「違う」
ほどく。
二度目。
途中で手が止まる。
「こっちか?」
三度目。
回す。
通す。
返す。
最後に引く。
ぎゅっ。
結び目が締まった。
海は左右からロープを引っ張る。
ほどけない。
「できた」
表示が現れる。
⸻
《技能条件を達成しました》
⸻
海の目が大きくなる。
⸻
《ロープワーク Lv.1を習得しました》
⸻
「スキル!」
さらに。
⸻
《DP +5》
⸻
その直後。
目の前の画面が、
すべて消えた。
「え?」
一瞬、
何もなくなる。
次の瞬間。
海の視界いっぱいに、
青白い光が弾けた。
⸻
LEVEL UP
神谷 海
Lv.1 → Lv.2
⸻
「……上がった」
海は数秒、
画面を見たまま固まっていた。
そして。
「上がった!」
思わず声を上げる。
その直後。
新しい表示が続く。
⸻
LEVEL BONUS
最大HP +5
全ステータス +1
SP +3
⸻
「エスピー?」
海は首を傾げる。
続いて、
さらに説明が表示された。
⸻
《SP:ステータスポイント》
《任意のステータスへ自由に割り振ることができます》
⸻
「好きなとこに振れるってこと?」
海の表情が変わる。
筋力。
体力。
敏捷。
器用。
知力。
感知。
精神。
そのどれかを、
自分で選んで伸ばせる。
「……これ、結構でかくない?」
でも。
今すぐ振る必要があるのか。
まだ基準すら分からない。
筋力12が高いのか。
敏捷18がどれくらいなのか。
知力11が普通なのか。
何も分からない。
「とりあえず残しとくか」
海はSPには触れなかった。
そして、
LEVEL UPの通知が消える。
代わりに、
新しい表示。
⸻
《LEVEL UP報酬》
《STATUSを解放しました》
《CREATION:基礎素材を解放しました》
⸻
「来た!」
昨日、
何度呼んでも出てこなかったもの。
STATUS。
海は迷わず触れた。
⸻
神谷 海
LEVEL:2
HP:105 / 105
筋力 12
体力 15
敏捷 18
器用 11
知力 11
感知 13
精神 10
未使用SP:3
SKILL
ロープワーク Lv.1
⸻
「HP……」
海の指が止まった。
百五。
最大も百五。
「体力とは別なんだ」
ゲームなら、
HPはたぶん生命力。
ゼロになれば――。
そこまで考えて、
海は少し嫌な想像をした。
「……いや、考えんのやめよ」
次。
筋力12。
体力15。
敏捷18。
器用11。
知力11。
感知13。
精神10。
「やっぱ敏捷が一番高い」
サッカーをしているからだろうか。
体力も高い。
筋力は、
それより少し低い。
「知力十一……」
海は少しだけ顔をしかめた。
「これ低いのか?」
基準が分からない。
数字だけ見ても、
今のところ何とも言えない。
ただ。
Lv.2になったことで、
全ての数字が一つずつ上がっている。
それとは別に、
自分で使える3SP。
つまり。
普段の努力でも能力は上がる。
LEVELが上がっても強くなる。
さらに、
自分で伸ばしたい能力まで選べる。
「これ、やった分だけ強くなれるってことか……」
海はしばらくSTATUSを眺めていた。
不思議な感覚だった。
少し前まで、
自分が速いのは、
サッカーをずっとやってきたから。
それだけだった。
今は、
その「速さ」まで数字になっている。
海は未使用SPの横を見る。
⸻
3
⸻
「……まだいい」
今は使わない。
まず、
この数字が現実でどれくらいの意味を持つのか。
それを確かめてから決めたい。
海はSTATUSを閉じようとした。
その時だった。
一番下。
今まで見たことのない項目がある。
⸻
WORLD
PHASE:1
NEXT PHASE:LEVEL 5
⸻
海の指が止まった。
「……フェーズ?」
今はLEVEL 2。
次はLEVEL 5。
海は、
NEXT PHASE
へ触れた。
⸻
《現在は閲覧できません》
⸻
「なんだよ」
もう一度。
⸻
《現在は閲覧できません》
⸻
海は画面を睨んだ。
それから、
ゆっくり荒野を見渡した。
何もない。
どこまでも続く大地。
昨日から何度見ても、
同じ景色。
でも。
PHASE 1。
ということは。
「……次があるってことだよな」
海はもう一度、
LEVEL 5
の文字を見る。
さっきまで、
何をすればいいのか分からなかった。
今は違う。
DPを貯める。
自分を鍛える。
新しいことを覚える。
レベルを上げる。
そして、その先には――
⸻
NEXT PHASE:LEVEL 5
⸻
海はしばらく、
その文字を見つめた。
何もない荒野が、
少しだけ違って見えた。




