第27話 夢、そして夢
第27話 夢、そして夢
朝凪市総合運動公園。
休日の朝から。
いくつもの声が。
グラウンドへ響いていた。
笛。
ボールを蹴る音。
ベンチから飛ぶ指示。
観客席からの声援。
カイは。
サッカーバッグを肩に掛けたまま。
しばらく。
その光景を見ていた。
「……大会か」
少し前まで。
自分は。
火ノ島にいた。
揺れる大地。
白い光。
黒い光。
ヴォルグの身体にあった。
《闇の種》。
失われていた。
数か月の記憶。
そして。
WORLD PHASE 4。
頭の中には。
まだ。
答えの出ていないことが。
いくつも残っている。
でも。
今日は。
現実。
目の前にあるのは。
サッカーグラウンド。
カイは。
一度。
大きく息を吸った。
「今日は、こっちだ」
気持ちを。
切り替える。
「カイ!」
声。
見る。
悠斗。
その隣には。
蒼太。
他の部員たちも。
すでに集まっていた。
カイが。
そちらへ歩く。
「おはよう」
「おせえよ」
「まだ集合時間前だろ」
「そういう問題じゃない」
悠斗が。
笑いながら。
カイの肩を叩く。
蒼太も。
カイを見る。
「今日も頼むわ」
「何だよ、それ」
「いや」
悠斗が。
肩を竦める。
「最近のお前見てたら、そりゃ頼むだろ」
「練習だと一人だけ動きおかしいし」
「おかしいって言うなよ」
カイが。
苦笑する。
最近。
部活では。
自分でも分かるほど。
身体が変わっていた。
以前より。
速い。
走れる。
当たり負けしない。
届かなかったボールにも。
普通に。
追いつく。
切り返しても。
身体が流れない。
チームメイトたちは。
もう。
その変化を知っている。
ただ。
練習は。
練習。
今日は。
公式戦。
相手も。
本気。
その中で。
今の自分が。
どこまでやれるのか。
それは。
カイにも。
分からなかった。
「神谷」
黒田先生の声。
「アップ始めるぞ」
「はい!」
カイたちが。
グラウンドへ向かう。
その時。
「カイ!」
聞き慣れた声。
足が止まった。
観客席。
美緒。
カイに気づいて。
手を振っている。
「美緒」
カイが。
少しだけ。
そちらへ近づく。
「ちゃんと来たよ」
「ほんとに来たんだ」
「約束したでしょ」
美緒が。
少し呆れたように。
笑う。
「応援行くって言ったじゃん」
「うん」
カイも。
笑った。
「ありがと」
「珍しく素直」
「うるさいな」
美緒が。
グラウンドを見る。
「緊張してる?」
「いや」
カイが。
少し考える。
「多分、大丈夫」
「多分なんだ」
「でも」
カイが。
軽く。
つま先で地面を叩く。
身体。
調子はいい。
「今日は、結構いける気がする」
美緒が。
カイを見る。
「じゃあ」
少しだけ。
笑う。
「ちゃんと見てるから」
カイが。
頷く。
「うん」
黒田先生の声。
「神谷!」
「今行きます!」
カイは。
美緒へ手を上げる。
「じゃあ、行ってくる」
「頑張って!」
カイが。
グラウンドへ走っていった。
◇
今日の相手は。
青嶺中学。
昨年。
県大会ベスト4。
今年も。
県大会上位を狙う。
強豪校。
昨年の実績も。
今年の戦力も。
事前に。
黒田先生から。
聞かされている。
だから。
アップの段階で。
悠斗が。
相手を見ながら。
小さく息を吐いた。
「青嶺に勝てるかな……」
蒼太も。
相手を見る。
「去年ベスト4だろ」
「知ってる」
「普通に強いぞ」
「だから知ってるって」
カイも。
青嶺を見る。
相手の特徴は。
すでに。
頭に入っていた。
身体の大きな選手が多い。
声が揃っている。
動きにも。
迷いがない。
強豪校らしい。
まとまりだった。
それでも。
怖くない。
そう思った。
強がりではない。
自分でも。
不思議なくらい。
落ち着いている。
火ノ島で。
命を懸けて戦った。
龍人族とも。
剣を交えた。
それと比べること自体。
違う。
でも。
相手が強いからといって。
身体が固くなることは。
なかった。
ピーッ――!
試合開始。
ボールが。
動く。
青嶺中学。
やはり。
強い。
身体も大きい。
寄せも早い。
ボールを失った後の。
切り替えも。
速い。
数分。
互いに。
探り合う。
カイは。
前線で。
相手を見る。
センターバック。
右。
左。
ボランチ。
サイド。
目。
身体。
足。
一つずつ。
視界に入る。
その時。
赤。
一本。
線が伸びた。
《予測》。
相手の足元から。
ボランチへ。
さらに。
その先。
右サイド。
カイの目が。
僅かに細くなる。
来る。
身体が。
動く。
青嶺のDFが。
パスを出した。
だが。
その時には。
カイが。
コースへ入っていた。
「なっ――!」
ボールを奪う。
前。
一人。
DFが。
寄せる。
赤い線。
右足。
ボールへ。
カイは。
相手が足を出す。
その前に。
左へ。
切り返した。
速い。
自分でも。
以前との違いが分かる。
抜く。
二人目。
肩から。
強く。
ぶつかってくる。
ドン――!
だが。
カイの軸は。
ほとんど。
動かなかった。
「え……?」
青嶺の選手の方が。
一歩。
外へ流れる。
カイは。
その横を。
抜けた。
そして。
さらに。
加速。
三人目。
正面。
カイが。
ボールを。
僅かに外へ。
DFの身体が。
つられる。
その逆。
内側へ。
一気に入る。
「速っ――」
ゴール。
キーパー。
赤い線。
左へ。
飛ぶ。
カイは。
逆。
右足。
振り抜く。
バシュッ――!
ネットが。
大きく揺れた。
一瞬。
静かになる。
そして。
「よっしゃあああ!」
朝凪中のベンチ。
歓声。
悠斗が。
走ってくる。
「何だ今の!」
背中を。
叩かれる。
「三人抜いたぞ!」
「うん」
「うんじゃねえよ!」
カイは。
自分の足を見る。
《予測》。
確かに。
見えた。
でも。
それだけじゃない。
線が見えた瞬間に。
身体が。
反応できる。
接触されても。
崩れない。
抜いた後も。
さらに。
引き離せる。
身体そのものが。
以前とは。
違う。
観客席。
美緒が。
立ち上がっていた。
その顔には。
驚き。
普段。
身近にいるカイ。
学校では。
普通に話す。
ふざけることもある。
そのカイが。
今。
グラウンドでは。
周囲の選手と。
明らかに。
違って見えた。
そして。
青嶺中学。
センターバックの二人が。
互いを見る。
「十一番……」
「あいつ、速いぞ」
試合前の情報では。
朝凪中に。
警戒すべき選手がいるとは。
聞いていた。
だが。
最初は。
朝凪中の。
一選手。
それだけだった。
実際に。
対峙するまでは。
ここまでの選手だとは。
思っていなかった。
だが。
今。
認識が変わった。
警戒すべき選手。
神谷カイ。
青嶺のキャプテンが。
声を飛ばす。
「次は行かせるな!」
「分かってる!」
強豪校。
一度抜かれた程度で。
崩れたりはしない。
だからこそ。
すぐに。
対応する。
◇
試合再開。
青嶺も。
すぐに。
対応を変えた。
「十一番、自由にするな!」
一人。
カイの横。
さらに。
もう一人。
二人で。
マーク。
ボールが来る。
背中。
右。
左。
挟まれる。
赤い線。
右の選手。
足が出る。
カイは。
ボールを。
僅かに浮かせた。
足を越える。
同時に。
身体を反転。
左の選手が。
追う。
だが。
カイの一歩目の方が。
速い。
「くそっ!」
一気に。
離れる。
青嶺のDFが。
叫ぶ。
「付いてるだろ!」
「付いてる!」
「じゃあ何で抜けるんだよ!」
カイは。
走りながら。
思う。
《予測》が。
なくても。
相手より。
速い。
見えてから。
動いても。
間に合う。
その上で。
赤い線まで。
見えている。
前。
三人目。
カイは。
一度。
蒼太へ。
「蒼太!」
「おう!」
パス。
蒼太から。
リターン。
ただ。
少し。
前へ流れる。
「悪い!」
でも。
カイは。
二歩で。
追いついた。
ボールを。
自分のものにする。
「嘘だろ」
青嶺のDFが。
追う。
キーパー。
前。
カイ。
右足。
ボールの下へ。
軽く。
触る。
ふわり。
キーパーの。
頭上。
越える。
ゴール。
二点目。
「嘘だろ……」
青嶺のDFが。
止まる。
今度は。
偶然ではない。
一人では。
止められない。
だから。
二人を付けた。
それでも。
抜かれた。
青嶺のベンチから。
声が飛ぶ。
「十一番に入る前を潰せ!」
「受けさせるな!」
「はい!」
警戒から。
明確な対策へ。
青嶺中学の守備が。
カイを中心に。
動き始める。
カイは。
大きく。
息を吐く。
でも。
まだ。
全然。
苦しくない。
むしろ。
身体は。
動きやすくなっている。
◇
前半。
二対〇。
ハーフタイム。
青嶺中学のベンチでは。
監督を中心に。
選手たちが。
集まっていた。
「十一番を一人で見ようとするな」
「受けた瞬間に二人」
「前を向かれたら三人目が入れ」
「裏を取られるな」
「はい!」
昨年。
県大会ベスト4。
今年も。
その先を目指している。
こんなところで。
負けるつもりなど。
誰一人。
ない。
だからこそ。
本気で。
カイを。
止めに来る。
後半。
青嶺は。
さらに。
カイへ人数を割いた。
ボールを持てば。
二人。
三人。
囲む。
カイを。
自由にしない。
それだけを。
考えている。
でも。
止まらない。
一人。
かわす。
二人。
追ってくる。
三人目。
コースを塞ぐ。
カイは。
一度。
後ろへ戻す。
そして。
すぐに。
走る。
「裏!」
青嶺のDFが。
叫ぶ。
ボールが。
返ってくる。
今度は。
少し高い。
胸。
収める。
着地。
その瞬間。
前へ。
一歩。
相手の足。
赤い線。
その横。
抜ける。
「また――!」
シュート。
ネット。
三点目。
「ハットトリック!」
観客席。
ざわめき。
「神谷って誰だ?」
「十一番、何年?」
「速すぎないか?」
声。
聞こえる。
青嶺側は。
歓声など。
耳に入っていなかった。
三対〇。
一人。
二人。
それでも駄目。
三人目を。
用意しても。
止められない。
青嶺のキャプテンが。
唇を噛む。
「まだ終わってない!」
声を張る。
「一点返すぞ!」
「おう!」
その声に。
仲間が。
応える。
だが。
顔には。
明らかな焦りが。
浮かび始めていた。
去年。
県大会ベスト4まで。
勝ち上がった。
自分たちが。
一人の選手に。
ここまで。
崩されている。
「次は絶対止める」
センターバックが。
呟く。
自分へ。
言い聞かせるように。
カイは。
次を見る。
青嶺も。
そのままでは終わらない。
逆サイド。
突破。
カイが。
戻る。
だが。
間に合わない。
クロス。
シュート。
ゴール。
三対一。
「よしっ!」
青嶺中学。
初めて。
大きな歓声。
「まだいける!」
「あと二点!」
「追いつくぞ!」
強豪。
簡単には。
折れない。
悠斗。
蒼太。
他のチームメイトも。
少しずつ。
足が重くなっている。
当然だった。
後半。
暑さ。
緊張。
本気の試合。
疲れる。
でも。
カイだけは。
まだ。
走れた。
そして。
青嶺中学の選手たちも。
それに気づいていた。
「……なんで」
一人が。
カイを見る。
「なんであいつ、まだ走れるんだよ」
自分たちは。
苦しい。
脚も。
重い。
息も。
上がっている。
なのに。
朝凪中の十一番だけ。
試合開始と。
ほとんど変わらない。
「カイ!」
悠斗が。
ボールを。
大きく蹴る。
少し。
高い。
そして。
長い。
カイが。
走る。
青嶺のDFも。
追う。
でも。
差が。
広がる。
「追え!」
「追ってる!」
「速すぎる!」
カイ。
跳ぶ。
胸。
トラップ。
着地。
目の前。
三人。
青嶺中学が。
最後に用意した。
三人。
「絶対止めろ!」
キャプテンの声。
一人。
右。
赤い線。
二人目。
左。
三人目。
中央。
三人とも。
カイだけを。
見ている。
その中の一人が。
息を飲んだ。
三点。
取られた。
何度。
囲んでも。
抜かれた。
そして。
目の前の十一番は。
まだ。
走れる。
「……来るぞ」
誰かが言った。
その声は。
さっきまでとは。
違った。
警戒でもない。
焦りでもない。
もっと。
本能的なもの。
「止めろ……」
一人が。
僅かに。
後ろへ重心を置く。
「こいつ……」
喉が鳴る。
「止められないぞ……」
一瞬。
恐怖。
戦慄。
同じ中学生。
同じグラウンドに立つ。
一人の選手。
なのに。
今。
三人の目には。
そう見えなかった。
また。
抜かれる。
そんな考えが。
ボールを奪うより先に。
頭へ浮かぶ。
それでも。
青嶺中学の選手たちは。
逃げなかった。
三人で。
カイの前へ。
立つ。
カイは。
一瞬。
止まる。
相手三人の。
重心が。
前へ寄る。
その瞬間。
加速。
右。
一人目。
抜く。
「っ!」
二人目。
足。
伸びる。
ボールだけ。
外。
身体。
内。
すれ違う。
「待て!」
三人目。
肩から。
ぶつかる。
ドン――!
カイの足が。
一歩。
地面へ。
沈む。
青嶺の選手が。
全体重を。
ぶつける。
それでも。
倒れない。
「なんで――」
そのまま。
押し返す。
抜ける。
三人。
全員。
突破。
「……まだいける」
キーパー。
前へ。
左足。
低く。
逆。
バシュッ――!
ゴール。
四点目。
大歓声。
青嶺のキーパーは。
振り返ったまま。
しばらく。
動かなかった。
DFの一人も。
その場に。
立ち尽くす。
三人で。
囲んだ。
身体も。
ぶつけた。
それでも。
止められなかった。
「……マジかよ」
小さく。
声が落ちた。
だが。
試合は。
まだ終わっていない。
青嶺のキャプテンが。
仲間へ叫ぶ。
「下向くな!」
「まだ試合中だ!」
その声で。
選手たちが。
もう一度。
動き始める。
カイも。
戻る。
相手を。
馬鹿にする気持ちなど。
一つもなかった。
青嶺は。
強かった。
最後まで。
本気で。
向かってくる。
だから。
自分も。
最後まで。
やる。
少し後。
ピーッ――!
長い笛。
終了。
四対一。
朝凪中。
勝利。
カイ。
四得点。
◇
青嶺中学の選手たちは。
すぐには。
動けなかった。
一人が。
芝へ。
膝をつく。
別の選手は。
両手で。
顔を覆った。
キーパーは。
ゴールの前で。
俯いたまま。
拳を。
強く握っている。
昨年。
県大会ベスト4。
今年は。
その先へ。
行くつもりだった。
こんなところで。
終わるなど。
考えていなかった。
「くそ……」
声が。
震える。
一人の選手が。
目元を。
ユニフォームで。
拭う。
「まだ……」
唇を。
噛む。
「まだ上、行きたかったのに……」
別の選手も。
芝へ。
座り込む。
涙が。
落ちた。
悔しい。
それだけ。
本気だった。
カイは。
少し離れた場所から。
その姿を見る。
勝った。
嬉しい。
四点。
取った。
それでも。
相手を見て。
笑う気には。
ならなかった。
青嶺は。
最後まで。
諦めなかった。
三人で。
囲んでも。
抜かれても。
また。
立ちはだかった。
整列。
「ありがとうございました!」
両チームが。
頭を下げる。
カイが。
顔を上げる。
目の前。
青嶺のキャプテン。
目は。
赤い。
それでも。
真っ直ぐ。
カイを見る。
「……強かった」
カイは。
少し。
目を見開く。
そして。
首を横へ振る。
「そっちも」
一度。
息を吸う。
「強かった」
青嶺のキャプテンが。
僅かに。
唇を噛む。
それから。
「次は負けない」
カイが。
頷く。
「うん」
それだけ。
互いに。
離れる。
◇
「勝ったぁ……」
悠斗が。
芝へ。
座り込む。
蒼太も。
両膝へ手を置いて。
荒く。
息を吐いている。
「疲れた……」
その隣。
カイは。
立っていた。
汗は。
かなり。
出ている。
でも。
呼吸は。
すでに。
落ち着き始めていた。
脚も。
まだ。
動く。
悠斗が。
下から。
カイを見る。
「やっぱ最近のお前、おかしいって」
「またそれ?」
「いや」
息を吸う。
「練習でもヤバかったけど」
カイを見る。
「試合でここまでやると思わねえだろ」
蒼太も。
頷く。
「相手、途中からお前しか見てなかったぞ」
「三人付いてたし」
「うん」
カイは。
自分の手を見る。
公式戦。
本気の相手。
昨年。
県大会ベスト4。
その青嶺中学に。
複数で。
囲まれても。
止められなかった。
《予測》。
もちろん。
大きかった。
でも。
それ以上に。
自分自身が。
変わっている。
「俺……」
小さく。
呟く。
「本当に強くなってる」
今日は。
それが。
はっきり。
分かった。
◇
着替えを終え。
観客側へ。
美緒が。
待っていた。
カイが。
近づく。
「どうだった?」
美緒は。
数秒。
黙る。
「……すごかった」
「ほんと?」
「ほんとって」
美緒が。
思わず。
笑う。
「四点取った人が言う?」
「いや」
カイも。
笑う。
「どう見えてたのかなって」
「どうって……」
美緒が。
グラウンドを見る。
試合を。
思い返すように。
「いつものカイと」
少し。
言葉を探す。
「同じ人に見えなかった」
「それ褒めてる?」
「褒めてるよ」
美緒が。
すぐに返す。
「なんか」
もう一度。
カイを見る。
「一人だけ、全然違った」
カイが。
少し。
照れたように。
笑う。
「そっか」
「うん」
その時。
「神谷君」
知らない声。
カイ。
美緒。
振り返る。
男。
四十代くらい。
スポーツメーカーのロゴが入った。
黒いジャケット。
首から。
関係者証。
「はい」
男が。
名刺を差し出した。
カイが。
受け取る。
そこには。
プロサッカークラブの名前。
カイの目が。
止まった。
「……え?」
「急に声をかけてすまない」
男が。
穏やかに。
笑う。
「クラブでスカウトをしている」
カイは。
名刺。
男。
交互に見る。
美緒も。
隣から。
名刺を見る。
「スカウト……?」
男が。
頷く。
「正直に言うと」
カイを見る。
「今日の試合を見るまで、君のことは知らなかった」
「今日は別の選手を見に来ていたんだ」
男が。
グラウンドを見る。
「でも」
もう一度。
カイを見る。
「君のプレーを見て、声をかけないわけにはいかなかった」
カイの手が。
名刺を。
少し強く握る。
「神谷君」
「はい」
「一度、うちの練習に参加してみないか?」
カイの目が。
大きくなる。
「俺が……?」
「ああ」
男は。
迷わない。
「もちろん、今日一試合ですべてを決める話じゃない」
「ただ」
カイを見る。
「君が、どこまでできる選手なのか」
一度。
間。
「もっと見てみたい」
心臓が。
強く。
鳴る。
プロ。
サッカー。
ずっと。
目指してきた。
まだ。
遠いと思っていた。
でも。
今。
その世界にいる人間が。
自分へ。
声をかけている。
「先生やご家族とも相談して」
男が言う。
「興味があれば連絡してほしい」
「……はい」
「待っているよ」
男が。
一礼。
離れていく。
カイは。
その背中を。
しばらく。
見ていた。
「……カイ」
美緒。
「ん?」
「今の」
一度。
間。
「プロの人だよね?」
カイは。
名刺を見る。
「……うん」
美緒の表情が。
明るくなる。
「すごいじゃん!」
「まだ練習に来ないかってだけだよ」
「それでもすごいでしょ」
「そうだけど……」
まだ。
実感が。
追いつかない。
美緒が。
笑う。
「ちゃんと頑張りなよ」
カイが。
顔を上げる。
「うん」
「せっかく声かけてもらったんだから」
「分かってるって」
「ほんとに?」
「ほんと」
二人。
少し。
笑う。
カイは。
もう一度。
名刺を見る。
現実で。
ずっと。
追いかけてきた夢。
その距離が。
今日。
少しだけ。
縮まった。
◇
「ただいま」
家。
玄関。
「おかえり」
母の声。
カイは。
サッカーバッグを。
置く。
リビング。
父もいた。
「試合どうだった?」
「勝ったよ」
「お」
父が。
顔を上げる。
「何点?」
「四対一」
「カイは?」
少し。
間。
「四点」
父の動きが。
止まる。
「……全部?」
「うん」
母も。
キッチンから。
顔を出す。
「四点?」
「うん」
「すごいじゃない」
カイが。
少し。
笑う。
「あとさ」
ポケットから。
名刺を。
取り出す。
テーブルへ。
置く。
「今日」
父が。
それを見る。
「ん?」
「プロのスカウトに」
一度。
言葉を切る。
「声かけられた」
沈黙。
父。
母。
二人が。
カイを見る。
「……スカウト?」
父が。
名刺を取る。
目を通す。
表情が。
変わった。
「これ……本当に?」
「うん」
「一度、練習に参加してみないかって」
母も。
横から。
名刺を見る。
「すごいじゃない……」
「まだ」
カイが言う。
「何か決まったわけじゃないよ」
「それはそうだけど」
父が。
名刺を見たまま。
笑う。
「でも、向こうから声をかけてもらったんだろ?」
「うん」
「なら」
カイを見る。
「十分すごいことだ」
胸の奥が。
少し。
熱くなる。
母も。
嬉しそうに。
笑う。
「黒田先生とも、ちゃんと相談しないとね」
「うん」
「学校のこともあるんだから」
「分かってる」
父が。
カイの肩を。
軽く叩く。
「まあ」
「今日は、よくやったな」
カイは。
少しだけ。
俯いて。
笑った。
「……うん」
四点。
勝利。
スカウト。
全部。
嬉しい。
でも。
こうして。
父と母に。
話せたことも。
嬉しかった。
◇
夜。
部屋。
カイは。
ベッドに。
横になっていた。
手には。
名刺。
何度見ても。
そこにある文字は。
変わらない。
プロサッカークラブ。
スカウト。
練習参加。
「……俺が」
まだ。
少し。
不思議だった。
今日。
相手を。
一人。
二人。
三人。
抜いた。
止められなかった。
自分でも。
はっきり。
分かる。
強くなっている。
現実でも。
そして。
ドリームワールドでも。
LEVEL15。
光属性。
炎属性。
ラグナリス。
《予測》。
《浄化》。
少し前まで。
何もなかった。
荒野。
一人。
そこから。
ナタリー。
レオン。
リシア。
ガルド。
ロウガ。
仲間が。
増えた。
現実では。
プロへの道。
こちらでは。
まだ。
やるべきことがある。
「もっと……」
カイが。
目を閉じる。
「強くなりたいな」
今日。
自分は。
強くなったと。
はっきり。
思えた。
でも。
まだ。
先がある。
もっと。
その先へ。
行ける。
そんな気がした。
瞼が。
重くなる。
意識が。
少しずつ。
沈んでいく。
そして。
カイは。
眠りに落ちた。
◇
風。
頬を。
撫でる。
「……ん」
カイが。
目を開ける。
木の天井。
現実の。
自分の部屋ではない。
遠くから。
人の声。
そして。
剣のぶつかる音。
カイは。
身体を起こした。
「……火ノ島」
ベッドから。
足を下ろす。
現実で。
あれだけ走った。
それでも。
身体は。
軽い。
立ち上がる。
装備を。
確認する。
ラグナリス。
弓。
全部。
ある。
窓を。
開ける。
朝。
青い空。
あの時。
空を覆った。
白。
黒。
そのどちらも。
今は。
ない。
「……黒い光」
ヴォルグ。
最後の記憶。
山で見つけた。
黒い光。
そこから先。
数か月の。
記憶がない。
答えは。
まだ。
出ていない。
その時。
外から。
声。
「起きたか」
窓から見る。
ナタリー。
建物の前。
こちらを見上げている。
「今起きた」
「遅い」
「え?」
「もうレオンは飯食ってるぞ」
「早っ」
ナタリーが。
少し笑う。
「お前が遅いんだ」
カイが。
外へ出る。
朝の火ノ島。
すでに。
龍人族たちが。
動き始めている。
少し離れた場所。
剣が。
ぶつかる。
ガキン――!
ガルド。
ロウガ。
二人が。
朝から。
剣を交えている。
「……もう鍛錬してる」
ナタリーが。
息を吐く。
「朝からずっとだ」
「ほんとに好きなんだな」
「龍人族は、みんなああなのか?」
「いや」
後ろ。
レオン。
食べ物を。
片手に持ちながら。
歩いてくる。
「多分あの二人が特におかしい」
ガキン――!
また。
音。
ロウガの剣。
ガルドが。
受ける。
押し返す。
「まだ甘い」
「これからが本番だ」
カイが。
思わず。
笑う。
「カイ」
ナタリー。
「何?」
「なんか機嫌いいな」
「え?」
「起きてから」
ナタリーが。
カイを見る。
「少し笑ってる」
カイは。
名刺を。
思い出す。
プロ。
スカウト。
父。
母。
美緒。
「……ちょっと」
「何だ」
「いいことがあった」
ナタリーが。
眉を上げる。
「向こうで?」
「うん」
「そうか」
それ以上。
聞かない。
レオンが。
横から。
「何だよ、気になるだろ」
「別にいいだろ」
「よくない」
「そのうち話すよ」
「ほんとか?」
「多分」
「多分って何だよ」
少し離れて。
リシアも。
こちらへ歩いてくる。
「朝から何してるの?」
「カイが何か隠してる」
「隠してないって」
「怪しい」
「リシアまで?」
カイが。
笑う。
ガキン――!
また。
剣の音。
カイが。
ガルドたちを見る。
「……俺も後で混ぜてもらおうかな」
ナタリーが。
カイを見る。
「好きだな、お前も」
「強くなりたいから」
「そうか」
ナタリーは。
少しだけ。
笑っていた。
◇
朝食を終え。
六人が。
集まった。
カイ。
ナタリー。
レオン。
リシア。
そして。
鍛錬を終えた。
ガルド。
ロウガ。
レオンが。
先に口を開く。
「で」
「これからどうする?」
誰も。
すぐには。
答えなかった。
火ノ島へ来た理由。
リュカたちの病。
月白草。
黒炉。
川。
ヴォルグ。
まだ。
黒い光の謎は。
残っている。
それでも。
今。
カイたちにできることには。
一区切り。
ついている。
ナタリーが。
静かに言う。
「一度、集落へ戻ろう」
レオンが。
頷く。
「俺もそれがいいと思う」
リシアも。
「長老にも、ちゃんと話さないと」
これから。
三人は。
カイと。
旅を続ける。
だから。
正式に。
長老へ。
伝えておきたい。
カイにも。
報告したいことがある。
「俺も」
カイが言う。
「長老に話したい」
ナタリーが。
見る。
「炎属性か」
「うん」
光属性。
そして。
火ノ島で得た。
炎属性。
二つの属性。
ラグナリスのことも。
伝えておきたい。
「じゃあ決まりだな」
レオンが。
立ち上がろうとする。
その時。
「待て」
ガルド。
全員が。
見る。
ガルドは。
ロウガを見る。
ロウガが。
小さく。
頷く。
そして。
ガルドが言った。
「俺たちも行く」
カイが。
目を瞬く。
「え?」
「エルフの集落へ?」
「その先もだ」
カイが。
ガルドを見る。
「一緒に旅するってこと?」
「ああ」
ロウガも。
頷く。
カイは。
少し。
驚いた。
「でも」
火ノ島を見る。
「二人とも、ここを離れて大丈夫なの?」
ガルドも。
同じ方向を見る。
「火ノ島は」
一度。
言葉を切る。
「今回、お前たちに救われた」
病。
川。
黒炉。
まだ。
やるべきことはある。
だが。
ラザン大長老。
族長たち。
島を支える者は。
いる。
「だから」
ガルドが。
カイを見る。
「今度は俺が、外へ出たい」
「外へ?」
「ああ」
拳を。
握る。
「お前たちと戦って」
「知らないものを見た」
ラグナリス。
光属性。
炎。
そして。
火ノ島では。
知ることのできなかったもの。
「俺は」
ガルドが。
静かに言う。
「まだ強くなれる」
ロウガも。
口を開く。
「俺も同じだ」
ガルド。
LEVEL29。
ロウガ。
LEVEL24。
カイから見れば。
二人とも。
十分すぎるほど。
強い。
それでも。
二人は。
もっと先を。
見ている。
ガルドが。
続ける。
「火ノ島を救ってもらった恩もある」
「だが」
カイを見る。
「それだけで、島を出るつもりはない」
少し。
口元を。
緩める。
「お前たちといれば」
「俺たちも、もっと強くなれる気がする」
ロウガが。
短く。
「同感だ」
ナタリーが。
二人を見る。
「本気なんだな」
「ああ」
迷いは。
なかった。
カイは。
ナタリーを見る。
レオン。
リシア。
二人も。
異論はなさそうだった。
カイが。
笑う。
「じゃあ」
ガルド。
ロウガ。
二人を見る。
「一緒に行こう」
「ああ」
ガルドが。
答える。
ロウガも。
頷いた。
◇
ラザン大長老へ。
二人は。
自分たちの意思を。
伝えた。
ラザンは。
しばらく。
何も言わなかった。
ガルド。
ロウガ。
二人を。
じっと。
見ている。
やがて。
口を開いた。
「決めたのだな」
「はい」
ガルドが。
答える。
「己を鍛えるため」
「そして」
カイたちを見る。
「彼らと共に、外を見たいと思います」
ラザンが。
ロウガを見る。
「お前もか」
「ああ」
「後悔はないか」
「ない」
ラザンが。
目を閉じる。
少し。
長い。
沈黙。
そして。
目を開いた。
「ならば」
低く。
力のある声。
「行ってこい」
ガルド。
ロウガ。
二人の表情が。
僅かに変わる。
「己の目で見ろ」
「己の剣で知れ」
ラザンが。
続ける。
「そして」
「今より強くなって戻れ」
ガルドが。
深く。
頭を下げる。
「必ず」
ロウガも。
黙って。
頭を下げた。
◇
出発の準備は。
長く。
かからなかった。
必要な。
食料。
水。
武器。
最低限の荷物。
岸には。
何人もの。
龍人族が。
集まっていた。
ラザン。
ミラ。
リュカ。
セラ。
そして。
今回。
カイたちと関わった者たち。
ガルド。
ロウガ。
二人が。
島を出る。
それを。
見送りに来ている。
リュカが。
カイの前へ。
走ってくる。
「カイ」
「ん?」
「また来てくれる?」
カイが。
笑う。
「うん」
「絶対?」
「絶対」
リュカが。
安心したように。
笑った。
「約束だよ」
その隣。
ミラが。
カイを見る。
「本当に」
少し。
言葉を止める。
「ありがとうございました」
カイは。
首を横へ振る。
「俺だけじゃないよ」
ナタリー。
レオン。
リシア。
皆を見る。
「みんなでやったから」
ミラが。
微笑む。
「はい」
セラも。
カイの前へ。
静かに。
頭を下げる。
「光を灯す者」
「え?」
セラが。
顔を上げる。
「どうか」
「お気をつけて」
カイは。
少しだけ。
戸惑いながら。
頷いた。
「うん」
ガルドと。
ロウガ。
二人も。
島の者たちへ。
向き直る。
言葉は。
多くない。
ただ。
深く。
頭を下げた。
そして。
船へ。
ナタリー。
レオン。
リシア。
ガルド。
ロウガ。
最後に。
カイ。
乗り込む。
船が。
少し。
揺れる。
岸。
リュカが。
大きく。
手を振る。
「カイー!」
カイも。
手を上げる。
「またね!」
「絶対だよ!」
「分かってる!」
船が。
ゆっくり。
岸を離れる。
火ノ島。
ラグニル山。
龍人族の集落。
少しずつ。
遠ざかる。
カイは。
一度だけ。
振り返った。
そして。
前を向く。
隣には。
ナタリー。
レオン。
リシア。
ガルド。
ロウガ。
六人。
まずは。
エルフの集落へ。
そこで。
旅立つことを。
正式に伝える。
船は。
静かに。
海を進んでいった。
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【DP集計】
開始所持:2,329DP
獲得:+211DP
消費:0DP
終了所持:2,540DP
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