第22話 救う力
第22話 救う力
祭壇を出ると。
空は。
少しずつ傾き始めていた。
カイは。
腰へ下げたラグナリスを見る。
黒銀の刀身。
その奥に。
赤と白の光が。
僅かに残っている。
ガルドが。
山道へ視線を向けた。
「戻るぞ」
「うん」
六人は。
採った月白草を持ち。
急いで山を下り始めた。
足場の悪い道。
大きな岩。
木の根。
来た時よりも。
明らかに速い。
カイも。
遅れないようについていく。
しばらく進んだところで。
腰のラグナリスが。
歩くたびに僅かに揺れた。
カイが。
前を歩くガルドを見る。
「ガルド」
「何だ」
「この一件が落ち着いたらさ」
ガルドが。
少しだけ振り返る。
カイは。
ラグナリスの柄へ触れた。
「剣の使い方、教えてよ」
ガルドの視線が。
剣へ向く。
「ああ」
短い返事。
その横。
ロウガが言った。
「簡単ではないぞ」
「分かってるって」
「剣を使ったことは?」
「ちゃんとはない」
ロウガが。
カイを見る。
「なら、握り方からだ」
「そこから?」
「当然だ」
後ろから。
レオンが笑った。
「伝説の剣持ってるのに、握り方からなんだな」
「だから教えてもらうんだろ」
カイが返す。
ナタリーが。
前を向いたまま言った。
「話すのはいいが、足元を見ろ」
「分かってる」
カイは。
すぐに前へ視線を戻した。
六人の足は。
止まらない。
⸻
集落へ戻る頃には。
日はかなり傾いていた。
入口付近。
いつもより。
多くの龍人族が動いている。
川から汲んだ水を捨て。
空になった桶を運ぶ者。
別の水を。
急いで運んでいる者。
その中。
ヴァンが。
こちらへ気づいた。
「戻ったか」
ガルドが頷く。
「川のことは?」
「ああ」
ヴァンが答える。
「すぐに伝えた」
「他の集落にも使いを出している」
「バルガたちは?」
「ドレグ族長のところだ」
ガルドが頷く。
その横。
カイが聞いた。
「リュカは?」
「家にいる」
カイは。
すぐにガルドを見る。
「行こう」
「ああ」
そのまま。
リュカの家へ向かった。
⸻
扉を開く。
最初に。
ミラが振り返った。
「カイさん……!」
その目が。
カイの持っている袋へ向く。
「月白草は……?」
カイが。
袋を持ち上げた。
「取れた」
ミラの目が。
大きくなる。
「本当ですか?」
「うん」
「たくさんあった」
ミラが。
小さく息を吐いた。
「よかった……」
だが。
すぐに。
寝床へ視線を戻す。
リュカ。
額には。
汗。
身体は。
布の中でも分かるほど。
小さく震えている。
呼吸も。
浅い。
カイが。
寝床へ近づく。
「リュカ」
閉じていた目が。
ゆっくり開いた。
「……カイ?」
「うん」
リュカが。
少しだけ顔を動かす。
その横。
ミラを見る。
「姉ちゃん」
「何?」
「俺、大丈夫だよ」
ミラの眉が。
僅かに寄る。
「またそれ言ってる」
「ほんとだって……」
リュカが。
少し身体を起こそうとする。
腕に。
力を入れる。
だが。
すぐに震えた。
ミラが。
肩を支える。
「ほら。無理しないの」
「……ちょっとだけじゃん」
「駄目」
「姉ちゃん心配しすぎ」
「するよ」
リュカが。
少しだけ口を尖らせる。
カイは。
その様子を見たあと。
持ってきた月白草を見る。
「薬にしよう」
ミラが頷いた。
「お願いします」
⸻
月白草は。
すぐに薬師のもとへ運ばれた。
リシアも。
その横へ座る。
薬師が。
一本ずつ。
根の状態を確認する。
リシアも。
手に取った。
「傷んでいない」
薬師が。
リシアを見る。
「調薬ができるのか?」
「ああ」
「なら手を貸してくれ」
「分かった」
根を洗う。
付いている土を落とす。
細かく刻み。
鍋へ入れる。
火へ。
しばらく煮る。
浮いてきたものを。
薬師が取り除く。
リシアが。
液体を見る。
「まだ薄い」
さらに。
煮出す。
やがて。
薄い青色が。
薬液へ混ざり始める。
「今だ」
リシアが言う。
鍋を下ろす。
布で。
細かなものを濾す。
残った薬液を。
器へ。
カイが。
意識を向けた。
「鑑定」
⸻
名称:月白草抽出液
分類:薬液
品質:良好
効果:解毒/毒性物質の排出促進
⸻
「大丈夫」
カイが頷く。
「ちゃんと解毒作用がある」
薬師も。
すぐに立ち上がった。
「急ごう」
⸻
最初は。
リュカ。
ミラが。
身体を少し起こして支える。
「リュカ」
「ん……」
「薬、飲める?」
器を。
口元へ。
リュカが。
少し飲む。
顔が。
すぐに歪んだ。
「……苦い」
「薬だから」
「もっと甘いのないの?」
「ない」
「えぇ……」
ミラが。
僅かに笑う。
カイも。
横から言った。
「頑張って飲もう」
リュカが。
薬を見る。
「これ飲んだら治る?」
「毒を身体から出してくれる」
「じゃあ飲む」
もう一度。
少しずつ。
時間をかけて。
最後まで飲む。
ミラが。
ゆっくり寝かせた。
そのまま。
少し待つ。
一分。
二分。
さらに。
時間が過ぎる。
身体の震えは。
僅かに弱くなった。
だが。
呼吸。
浅いまま。
顔色も。
ほとんど変わらない。
ミラが。
カイを見る。
「カイさん……」
「見てみる」
カイが。
リュカへ意識を向けた。
「鑑定」
⸻
名前:リュカ
状態:火晶毒蓄積症/重度
《火晶毒》:減少中
体力:著しく低下
回復力:低下
⸻
「薬は効いてる」
ミラの表情が。
少しだけ緩む。
カイは。
表示を見つめる。
火晶毒は。
減っている。
なのに。
リュカの呼吸は。
ほとんど変わっていない。
「でも……」
カイが。
リュカの胸を見る。
もう一度。
今度は。
そこへ意識を集中する。
「鑑定」
表示が。
変わった。
⸻
状態:重度衰弱
《火晶毒》:減少中
重傷箇所:呼吸器
損傷原因:《火晶毒》の長期蓄積
⸻
「……分かった」
ミラが。
すぐにカイを見る。
「何がですか?」
「毒は減ってる」
カイは。
リュカの胸を見る。
「でも、息をするところが傷ついてる」
「傷……?」
「うん」
「身体も弱りすぎてるから」
カイは。
表示を見る。
「毒が抜けても、すぐに回復できないんだと思う」
リュカが。
カイを見る。
「俺……治る?」
カイは。
すぐに頷いた。
「大丈夫」
リュカの目を見る。
「薬はちゃんと効いてる」
「まだ苦しいところが残ってるから」
カイが。
自分の手を見る。
「そこも治せるか、やってみる」
「できるの?」
「やってみないと分かんない」
「そっか」
リュカが。
小さく頷く。
カイは。
寝床の横へ座った。
「胸、触るよ」
「うん」
手を当てる。
意識する。
鑑定で見えた。
傷ついている場所。
「治癒」
淡い光が。
掌から広がる。
リュカの胸を包み。
そのまま。
身体の内側へ。
溶けるように消えていった。
しばらくして。
カイが。
もう一度。
「鑑定」
⸻
重傷箇所:呼吸器
損傷:軽減
状態:回復中
⸻
「効いてる」
ミラが。
顔を上げる。
「本当ですか?」
「うん」
「ちゃんと治ってる」
カイは。
もう一度。
手を当てる。
「治癒」
光。
少しして。
リュカが。
ゆっくり息を吐いた。
「……ふぅ」
ミラが。
すぐに顔を覗き込む。
「リュカ?」
「姉ちゃん」
「何?」
「さっきより楽」
「ほんと?」
「うん」
リュカが。
少し笑う。
「だから大丈夫だって」
「それは違うでしょ」
「なんで?」
「カイさんが治してくれたから」
「でも楽になった」
「もう……」
ミラが。
ようやく。
少し笑った。
⸻
カイたちは。
他の患者のもとへ向かった。
月白草抽出液を。
順番に飲ませる。
カイが。
状態を見る。
「鑑定」
必要な者には。
手を当てる。
「治癒」
一人。
また一人。
時間が過ぎていく。
何度目か。
カイが。
一人の子どもへ治癒を使った時。
視界に。
文字が浮かんだ。
⸻
《治癒の熟練度が一定値に達しました》
《治癒 Lv.1 → Lv.2》
⸻
「あ」
ナタリーが。
カイを見る。
「どうした?」
「治癒のレベルが上がった」
「何が変わった?」
「分かんない」
次の患者。
呼吸器に。
まだ損傷が残っている。
カイは。
手を当てた。
「治癒」
淡い光。
一度。
それだけ。
カイが。
すぐに鑑定する。
⸻
重傷箇所:呼吸器
損傷:大幅改善
状態:安定
⸻
「……え?」
もう一度見る。
変わらない。
「一回で……」
ナタリーが。
横から聞く。
「どうした?」
「すごく治ってる」
カイは。
自分のSTATUSを開く。
MPを見る。
減った量は。
今までと変わっていない。
「使う力は同じなのに……」
カイが。
自分の手を見る。
「治せる量が増えてる」
ナタリーが。
僅かに頷いた。
「なら、今まで以上に役立つな」
「うん」
ナタリーが。
カイを見る。
「大丈夫か?」
「大丈夫」
カイが頷く。
その後も。
必要な者だけ。
治癒を続けた。
やがて。
薬師が。
最後の重症者を見終える。
長く。
息を吐いた。
「……これなら」
カイが。
顔を上げる。
薬師が。
頷いた。
「もう、すぐに命を落とすような者はいない」
カイの肩から。
力が抜けた。
「……よかった」
ナタリーも。
小さく息を吐いた。
⸻
カイは。
最後にもう一度。
リュカの家へ戻った。
寝床。
リュカは。
まだ横になっている。
だが。
呼吸は。
さっきより深い。
顔色も。
少し戻っている。
ミラが。
その隣に座っていた。
「カイさん」
「もう一回見てもいい?」
「はい」
カイが。
リュカを見る。
「鑑定」
⸻
名前:リュカ
状態:火晶毒蓄積症/中度
《火晶毒》:減少中
呼吸器:回復中
体力:低下
状態:安定
⸻
カイが。
笑った。
「大丈夫」
ミラが。
カイを見る。
「本当ですか?」
「うん」
「まだちゃんと休んだ方がいいけど」
リュカが。
すぐに口を開く。
「姉ちゃん」
「何?」
「もう起きていい?」
「駄目」
「えー」
「今日は寝てなさい」
「もう平気なのに」
「平気じゃない」
「姉ちゃん心配しすぎ」
「だから、するって言ってるでしょ」
リュカが。
少し不満そうに。
布へ顔を沈めた。
「……分かったよ」
ミラが。
その頭を。
優しく撫でる。
リュカは。
嫌がらなかった。
カイは。
その様子を見て。
静かに立ち上がった。
⸻
家を出ると。
ガルド。
ロウガ。
ヴァンが。
待っていた。
ヴァンが。
カイへ声をかける。
「他の集落にも、川のことは伝わった」
「うん」
「水は止めている」
「月白草も運び始めた」
カイが。
小さく頷く。
ガルドが。
ヴァンを見る。
「大長老は?」
「ドレグ族長のところだ」
「分かった」
ガルドが。
カイたちを見る。
「行こう」
⸻
ドレグ族長のいる建物。
中には。
バルガ。
シド。
ケイン。
三人もいた。
縄は。
まだ外されていない。
その正面。
一人の龍人族が。
座っている。
広い肩。
短く整えられた角。
落ち着いた眼差し。
この集落の族長。
ドレグ。
そして。
その隣。
白に近い髪。
長い角。
年老いた龍人族が。
静かに座っていた。
大長老。
ラザン。
ガルドが。
姿勢を正した。
「ドレグ族長」
ドレグが。
ガルドを見る。
「戻ったか」
「はい」
続いて。
ガルドは。
ラザンへ頭を下げる。
「大長老」
ラザンが。
ゆっくり目を開いた。
「話は聞いている」
ガルドが。
バルガを見る。
「五族長会議について、確認させていただきたいことがあります」
ドレグが。
表情を僅かに険しくした。
「黒炉を切り捨てるという話か」
「はい」
ドレグは。
首を横に振った。
「そのような決定はない」
バルガの顔が。
僅かに動いた。
「……そんなはずは」
ドレグが。
バルガを見る。
「私は五族長会議へ出ている」
「次の武闘会で黒炉から鉱区を全て取り上げる」
「黒炉そのものを切り捨てる」
静かな声。
「そのような話は、一度も出ていない」
バルガの目が。
揺れる。
「でも……」
「ヴォルグ様は……」
ガルドが。
バルガを見る。
「一つ聞く」
バルガが。
顔を上げる。
「ヴォルグ族長は」
ガルドが聞く。
「以前から、他の集落をあれほど敵視していたのか?」
バルガが。
黙る。
少しして。
「……いや」
ガルドの目が。
細くなる。
「いつからだ」
「数か月前……」
「数か月?」
「ああ」
バルガが。
視線を落とす。
「前は」
一度。
言葉が止まる。
「武闘会で負けても」
「次だって言う人だった」
その横。
シドとケインも。
黙って聞いている。
「でも」
バルガが続ける。
「数か月前から……急に荒くなった」
「すぐ怒鳴るようになった」
「誰かが何か言っても聞かない」
「他の集落は信用するなって」
「黒炉を奪おうとしてるって」
拳が。
ゆっくり握られる。
「ずっと……言うようになった」
ガルドが。
何も言わない。
ロウガも。
眉を寄せている。
バルガが。
小さく言った。
「……ヴォルグ様だから」
その声には。
さっきまでの強さはなかった。
⸻
その時。
ラザンの視線が。
カイの腰へ向いた。
「その剣は」
カイが。
ラグナリスを見る。
ガルドが。
姿勢を正した。
「もう一つ、ご報告があります」
「聞こう」
「ラグニル山で」
ガルドが言う。
「ラグニル様の祭壇を見つけました」
ラザンの目が。
僅かに見開かれた。
「……祭壇を?」
「はい」
「我らも知らない場所でした」
ガルドが。
カイを見る。
「封印されていた扉を」
「カイが光属性で開きました」
ラザンの視線が。
カイへ移る。
「光属性……」
「うん」
カイが頷く。
「俺、光属性を持ってる」
ガルドが続ける。
「そして」
「祭壇の中に、この剣がありました」
カイが。
ラグナリスを抜く。
黒銀の刀身。
赤。
白。
二つの光が。
僅かに揺れる。
「名前は」
カイが言う。
「光焔剣」
ラザンが。
剣を見る。
「ラグナリス……」
「知ってる?」
ラザンは。
ゆっくり首を横に振った。
「その名は知らぬ」
「でも」
カイが続ける。
「この剣を抜いた時」
「俺、炎属性を得た」
ラザンの表情が。
変わった。
「炎……」
ガルドが。
静かに頷く。
「はい」
「我らの火とは異なる力です」
しばらく。
ラザンは。
ラグナリスを見つめていた。
やがて。
静かに口を開く。
「炎について」
「今に残っている話は多くない」
カイが。
聞く。
「ラグニル様が使ってたんだよね?」
「ああ」
ラザンが頷く。
「始祖ラグニル様が扱ったとされる力」
「火とは異なり」
一度。
言葉を切る。
「全てを焼き尽くし」
「全てを浄化する」
カイの目が。
ラグナリスへ向く。
祭壇で。
この剣を鑑定した時。
そこには。
《浄化》
と表示されていた。
「それ以上は?」
ラザンが。
首を横に振る。
「私が知るのも、そこまでだ」
「祭壇が本当に残っていたことすら」
「今では伝承に近い話だった」
ラザンは。
カイを見る。
「新たに現れた地に」
「龍人族を救う光が現れる」
巫女セラの予言。
ラザンが。
静かに続ける。
「その言葉も」
「少しずつ意味を持ち始めているのかもしれんな」
カイは。
何も答えなかった。
まだ。
自分にも分からない。
その横。
ガルドが。
立ち上がる。
「大長老」
「ああ」
「黒炉へ向かいます」
ラザンが。
ガルドを見る。
「ヴォルグに会うのだな」
「はい」
ドレグも。
ガルドを見る。
「気をつけろ」
ガルドが。
頭を下げる。
「承知しました」
カイも。
立ち上がった。
「俺も行く」
ナタリー。
レオン。
リシア。
ロウガ。
全員。
続いて立ち上がった。
⸻
外へ出る。
六人は。
そのまま黒炉集落へ向かった。
歩きながら。
カイは。
ラグナリスの柄へ触れる。
「ガルド」
「何だ」
「約束、忘れないでよ」
「何の話だ」
カイが。
剣を見る。
「剣」
「ああ」
ガルドが。
前を向いたまま答える。
「この一件が終われば教える」
「絶対だよ」
ロウガが。
横から言う。
「その時になって嫌だと言うなよ」
「言わないって」
レオンが。
横から口を挟む。
「俺も見てていい?」
ロウガが。
レオンを見る。
「お前は剣を使えるだろう」
「使えるけど、龍人族の剣術も気になる」
「自分の型を崩すな」
「見るだけならいいだろ?」
ロウガは。
少し考えた。
「見るだけならな」
「よし」
カイが。
少し笑う。
その時。
ナタリーが。
前を向いたまま言った。
「気を抜くな」
カイが。
ナタリーを見る。
「分かってる」
「ヴォルグが何を考えているかは、まだ分からない」
「ああ」
カイも。
前を見る。
⸻
しばらく進む。
木々の向こう。
何本もの煙が。
空へ伸びている。
黒炉集落。
以前。
川を調べるために通った時にも。
他の集落より。
積まれている鉱石は少なかった。
近づくほど。
その違いが。
はっきり見えてくる。
炉。
何度も補修された跡。
割れた壁には。
別の石が埋め込まれている。
鍛冶場の横。
積まれた鉱石も。
少ない。
道具も。
刃を研ぎ直し。
柄を取り替え。
長く使っているものが多い。
カイは。
周囲を見る。
「……バルガが言ってたこと」
レオンが。
カイを見る。
「何?」
「黒炉が苦しいってところは」
カイが。
鉱石を見る。
「本当だったんだね」
ガルドが。
静かに答える。
「ああ」
「武闘会で負ければ、採掘量は減る」
「それは決まりだ」
カイは。
もう一度。
集落を見る。
その時。
前方。
人影。
一人。
二人。
その後ろにも。
何人もの龍人族が。
道を塞ぐように立っている。
全員。
武器を持っていた。
ガルドが。
足を止める。
ナタリーも。
すぐに周囲を見る。
レオンが。
小さく息を吐いた。
「……歓迎って感じじゃないな」
ロウガが。
一歩前へ出る。
黒炉の龍人族の一人が。
剣の柄へ手を置いた。
「帰れ」
ガルドは。
動かない。
「ヴォルグ族長に会いに来た」
「会わせられない」
「話を聞くだけだ」
「帰れと言った」
ガルドの目が。
僅かに細くなる。
「バルガたちが捕まったことは知っているな」
その言葉で。
黒炉の者たちの表情が変わる。
カチャ。
一人が。
剣を抜いた。
それを合図にしたように。
周囲でも。
武器へ手が伸びる。
ナタリーが。
弓へ手をかける。
レオンも。
剣の柄を握った。
リシアも。
静かに弓を構える。
カイも。
ラグナリスの柄へ手を置いた。
その時。
「やめろ」
低い声。
黒炉の者たちが。
止まる。
人の間。
奥から。
一人の男が歩いてくる。
大柄。
濃い赤黒の鱗。
右の角には。
古い傷。
腰には。
一本の剣。
ガルドが。
名前を呼んだ。
「ヴォルグ」
男が。
ガルドを見る。
鋭い目。
険しい表情。
「ガルドか」
その声も。
荒い。
ヴォルグは。
順番に。
周囲を見る。
ナタリー。
レオン。
リシア。
ロウガ。
そして。
カイ。
その視線が。
腰のラグナリスで止まった。
ほんの一瞬。
ヴォルグの表情が。
変わる。
だが。
すぐに。
ガルドへ戻った。
「何の用だ」
ガルドが。
一歩前へ出る。
「聞きたいことがある」
「俺にはない」
「五族長会議だ」
その言葉で。
ヴォルグの目が。
さらに険しくなる。
ガルドが続けた。
「黒炉を切り捨てる」
「次の武闘会で負ければ、鉱区を全て奪う」
一度。
言葉を切る。
「そんな決定は出ていない」
ヴォルグの眉が寄る。
「……何?」
「大長老ラザン様と」
「ドレグ族長に確認した」
ガルドは。
ヴォルグから目を逸らさない。
「五族長会議で、そんな話は一度も出ていない」
周囲の黒炉の龍人族たちが。
ざわめく。
ヴォルグの顔が。
さらに険しくなった。
「今さら……」
低い声。
「そんな話を信じろと言うのか」
「事実だ」
「黙れ!」
ヴォルグの声が。
集落へ響く。
周囲が。
一瞬で静かになった。
カイが。
ヴォルグを見る。
バルガが言っていた。
数か月前から。
急に荒くなった。
目の前のヴォルグは。
ガルドの話を。
聞こうとすらしていない。
ヴォルグが。
低い声で言った。
「バルガたちを返せ」
ガルドが。
動かない。
「その前に」
「火晶石を川へ入れさせた理由を聞く」
ヴォルグの顔から。
一瞬。
表情が消えた。
川。
火晶石。
その言葉に。
何かが。
僅かに揺れたように見えた。
だが。
次の瞬間。
ヴォルグの目が。
再び鋭くなる。
「……帰れ」
「ヴォルグ」
「帰れと言っている!」
ヴォルグの手が。
剣の柄へ伸びる。
周囲の黒炉の龍人族たちも。
一斉に。
武器を構えた。
ガルド。
ロウガ。
ナタリー。
レオン。
リシア。
全員の空気が変わる。
カイも。
ラグナリスの柄を握る。
黒炉集落。
いくつもの炉から。
赤い火が。
空へ揺れている。
その中で。
二つの集団が。
向かい合う。
そして。
ヴォルグが。
剣を抜いた。




