第20話 火晶毒
第20話 火晶毒
浜へ降りたカイたちの周囲には。
ガルドたちの帰還に気づいた龍人族が集まり始めていた。
角。
鱗。
腰に差した剣。
ガルドたちを見て安堵する者もいれば。
その後ろにいるナタリーたちへ、警戒した視線を向ける者もいる。
そして。
一人だけ姿の違うカイへ。
何度も視線が集まっていた。
人混みの中から。
一人の男が歩いてくる。
短い黒髪。
左頬から首元にかけて、濃い赤色の鱗。
腰には剣を差している。
「ガルド」
ガルドが振り向く。
「ザイル」
ザイルは。
ガルド。
ヴァン。
ロウガ。
そしてミラを順番に見る。
「無事だったか」
「ああ」
短く答えたガルドの後ろ。
ザイルの目が。
浜へ引き上げた大きな船へ向いた。
「その船は――」
「話は後だ」
ガルドが言う。
「族長に、俺たちが戻ったことを伝えてくれ」
ザイルは。
もう一度カイたちを見る。
「ああ。分かった」
ガルドがミラへ顔を向ける。
「行こう」
ミラが頷いた。
その歩みは。
自然と速くなっていた。
カイたちも。
後を追った。
⸻
浜を離れ。
集落へ続く道を進む。
しばらくすると。
カン。
カン。
カン。
乾いた金属音が聞こえてきた。
カイが顔を向ける。
石を組んだ炉。
赤く熱された金属。
それを大きな槌で叩く龍人族。
火花が。
何度も飛び散っている。
少し先にも。
別の炉。
さらにその先にも。
「鍛冶場、多いね」
カイが言う。
ロウガが隣から答えた。
「ラグニル山では、いくつもの鉱石が採れる」
山の方へ顎を向ける。
「火ノ島では火を扱える者も多い。採った鉱石を加工しているうちに、自然と鍛冶が発展した」
炉の横には。
赤黒い石。
銀色に光る石。
黒い塊。
様々な鉱石が積まれている。
その向こうには。
剣。
斧。
鉈。
鍬。
金槌。
武器だけではない。
暮らしに使う道具も並んでいた。
「ロウガが鍛造できるのも、それで?」
「ああ」
カイは。
並べられた道具を見ながら歩く。
さらに進むと。
建物の間から。
大きく開けた場所が見えてきた。
円形に積まれた石壁。
内側には。
広い土の地面。
周囲を囲むように。
何段もの石の座席が作られている。
「あれ何?」
カイが聞く。
ガルドが見る。
「武闘場だ」
「武闘場?」
「ああ」
ガルドは歩きながら続ける。
「年に一度、五つの集落から代表が出て武闘会を行う」
「ガルドも出るの?」
「ああ」
「やっぱり」
レオンが笑う。
「去年は何位だった?」
「俺たちの集落は二位だ」
「二位?」
カイもガルドを見る。
「強いじゃん」
ガルドは。
特に表情を変えなかった。
「一位ではない」
「そこ気にするんだ」
カイが笑う。
ロウガが武闘場を見る。
「武闘会は、強さを競うだけではない」
「他にもあるの?」
「順位によって、翌年ラグニル山で採掘できる鉱区と採掘量が決まる」
カイが目を丸くする。
「鉱石を掘れる量まで?」
「ああ」
「じゃあ結構大事なんだ」
「集落の暮らしにも関わる」
その時。
右側の家から。
苦しそうな声が聞こえた。
「……うぅ……」
カイが足を止める。
入口から。
薬草を抱えた女性が出てくる。
その後ろから。
水の入った器を持つ男。
二人とも。
表情が暗い。
カイが家を見る。
ガルドが言った。
「あの家にも、病に伏せている子がいる」
カイは。
何も言わなかった。
その先でも。
薬草を煮る匂い。
閉め切られた窓。
急ぎ足で水を運ぶ者。
カン。
カン。
響いていた鍛冶の音の中に。
苦しそうな咳が混じっていた。
⸻
「ここ」
ミラが足を止めた。
石の土台。
木の壁。
他の家と大きく変わらない。
ミラが。
扉へ手を伸ばす。
その手が。
一瞬だけ止まった。
扉が開く。
「母さん、ただいま」
奥から。
すぐに足音が聞こえた。
「ミラ……!」
女性が現れる。
ミラとよく似た赤い鱗。
母親のエルナだった。
エルナは。
ミラの両肩へ手を置いた。
「よかった……無事だったのね」
「うん」
ミラも。
ほんの少し笑う。
だが。
すぐに聞いた。
「リュカは?」
エルナの表情が曇った。
「まだ熱が下がらないの」
ミラの目が。
奥の部屋へ向く。
エルナも。
後ろにいるカイたちへ気づいた。
ミラがカイを見る。
「母さん、こちらがカイさん」
そして。
奥へ視線を戻す。
「リュカを診てもらうために来てもらったの」
エルナが。
カイへ頭を下げる。
「お願いします」
カイも頭を下げた。
「はい」
ミラは。
すぐ奥へ向かった。
⸻
部屋の中。
窓際の寝床。
そこに。
一人の少年が横になっていた。
額から伸びる。
まだ小さな角。
頬には。
薄い赤色の鱗。
掛けられた布から出ている腕は。
細い。
呼吸も。
少し浅い。
ミラが。
寝床の横へ座った。
「リュカ」
閉じられていた瞼が。
ゆっくり開く。
「……姉ちゃん?」
「うん。ただいま」
「帰ってきたんだ」
「帰ってきたよ」
リュカが。
小さく笑った。
「俺、大丈夫だよ」
ミラが。
リュカを見る。
「もうすぐ治ると思う」
「リュカ」
「ほんとだって」
リュカが。
寝床へ肘をつく。
「ほら――」
身体を起こそうとする。
だが。
腕が震えた。
支えきれない。
「リュカ!」
ミラが。
すぐに身体を支えた。
「無理しないで」
「……平気だって」
「平気じゃないでしょ」
「ちょっと力入らなかっただけ」
「それを平気って言わないの」
ミラは。
リュカをゆっくり寝かせた。
額に乗っていた布を直す。
リュカは。
少し不満そうな顔をする。
「姉ちゃん心配しすぎ」
「するよ」
短い返事。
リュカが。
カイを見る。
「……その人は?」
カイが寝床へ近づいた。
「カイ」
「カイ?」
「うん」
しゃがみ。
リュカと目線を合わせる。
「ちょっと身体を見てもいい?」
リュカが。
ミラを見る。
「大丈夫」
ミラが言う。
リュカは。
小さく頷いた。
「いいよ」
カイは。
リュカへ意識を向ける。
「鑑定」
⸻
《鑑定 Lv.2》
名前:リュカ
種族:龍人族
年齢:9
LEVEL:3
SKILL
《火魔法 Lv.1》
《剣術 Lv.1》
状態:火晶毒蓄積症/重度
症状:高熱/四肢紅斑/食欲低下/筋力低下/呼吸機能低下
原因:《火晶毒》の長期的な体内蓄積
対処:《火晶毒》の摂取停止/《月白草》の根を服用
⸻
カイの目が。
一つの言葉で止まる。
「……火晶毒」
ミラが。
すぐにカイを見る。
「毒……?」
「うん」
カイは。
ガルドたちへ顔を向ける。
「火晶毒って、知ってる?」
ガルドが首を横に振った。
「聞いたことがない」
ロウガも。
表示は見えないまま、カイの言葉を聞いている。
「火晶石なら知っている」
「火晶石?」
「ああ」
ロウガが答える。
「ラグニル山で採れる鉱石の一つだ。鍛冶にも使う」
カイは。
もう一度リュカを見る。
「名前、似てるね」
「もし関係があるなら……」
ロウガの目が。
リュカへ向く。
「なぜ火晶石に関わるものが、こいつの身体に溜まっている?」
カイも。
そこが分からない。
ただ。
表示には。
はっきり出ている。
「でも、治す方法は分かる」
ミラが顔を上げる。
「本当ですか?」
「月白草の根」
その名前を聞いた瞬間。
ガルドとロウガの表情が変わった。
「知ってる?」
「ああ」
ガルドが答える。
「ラグニル山の上部に生える薬草だ」
「じゃあ取ってくれば――」
「簡単ではない」
ロウガが言った。
「自生している場所が少ない」
ガルドも続ける。
「山の上部は崖が多い。強い魔物もいる」
カイは。
一度リュカを見る。
「まずは」
表示へ視線を戻す。
「これ以上、火晶毒が身体に入らないようにしないと」
ガルドが頷いた。
「ああ」
⸻
ガルドの案内で。
次に向かったのは。
同じ集落に住む少年の家だった。
十一歳。
ノル。
家族の了承を得て。
カイが鑑定する。
⸻
《鑑定 Lv.2》
名前:ノル
種族:龍人族
年齢:11
LEVEL:4
状態:火晶毒蓄積症/中度
原因:《火晶毒》の長期的な体内蓄積
対処:《火晶毒》の摂取停止/《月白草》の根を服用
⸻
「……同じだ」
家を出る。
その時。
道の脇で。
一人の男が壁へ手をついた。
ガルドが気づく。
「ダグ」
男が顔を上げる。
「ガルド」
年は三十代ほど。
身体は大きい。
だが。
顔色が良くない。
「どうした」
「何でもない」
ダグは。
こめかみを押さえた。
「最近、頭が痛むだけだ」
手を何度か握る。
「指も少し痺れる」
カイの目が。
その手へ向く。
「ダグ、ちょっと見てもいい?」
「俺を?」
「うん」
ダグは。
不思議そうにしながら頷いた。
「鑑定」
⸻
名前:ダグ
種族:龍人族
年齢:34
LEVEL:8
状態:火晶毒蓄積/軽度
症状:倦怠感/頭痛/手指の痺れ
原因:《火晶毒》の長期的な体内蓄積
⸻
カイの表情が変わる。
「ダグにも、同じ火晶毒が溜まってる」
ダグが眉を寄せる。
「……この頭痛や痺れも、その毒のせいなのか?」
「うん。まだ軽いみたいだけど」
ダグが。
自分の手を見る。
カイは。
周囲の家を見る。
リュカ。
ノル。
ダグ。
年齢も。
住んでいる家も違う。
「みんなが毎日、同じように口にしてるものって何だろう」
ガルドが考える。
「食事は家によって違う」
リシアも言う。
「肉も、採る場所や獲物で変わる」
「薬草も同じじゃないよね」
「ああ」
その時。
近くを歩いていた龍人族が。
腰に提げていた容器から水を飲んだ。
カイの目が止まる。
「……水」
ガルドも。
そちらを見る。
「水は、みんな同じ?」
「ラグニル川の水を使っている」
「他の集落も?」
「五つの集落すべてだ」
カイが。
小さく頷く。
「だから、他の集落でも同じ症状が出てるんだ……」
ガルドも頷いた。
だが。
少しして。
「ただ」
カイが見る。
「幸いにも、黒炉集落では今のところ被害は出ていない」
「そうなんだ」
「ああ」
まず。
水を確かめる。
⸻
集落の脇を流れる川。
透明な水。
底の小石まで。
はっきり見える。
カイがしゃがむ。
手ですくう。
冷たい。
「鑑定」
⸻
《鑑定 Lv.2》
名称:ラグニル川の水
状態:汚染
含有:《火晶毒》
濃度:低濃度
原因物質:《火晶石》
性質:継続摂取により体内へ蓄積
主な症状:高熱/倦怠感/筋力低下/四肢紅斑/神経症状
特記事項:身体能力およびLEVELが高いほど《火晶毒》への抵抗力が高く、症状の発現・進行が遅くなる
⸻
カイは。
手の中の水を見つめた。
「……これだ」
ガルドが近づく。
カイは。
手の水を川へ戻す。
「この水に、火晶毒が入ってる」
ロウガの表情が変わる。
「原因は?」
「火晶石って出てる」
「……火晶石が?」
ロウガが川を見る。
「火晶石は何度も扱っている。だが、毒が出るなど聞いたことがない」
カイも。
表示を見る。
「水に入ると何か変わるのかもしれない」
それ以上は。
今は分からない。
カイの目が。
一番下へ移る。
「……だからか」
ガルドが見る。
「何がだ?」
「LEVELが高くて、身体が強いほど、この毒の影響を受けにくいみたい」
ガルド。
ヴァン。
ロウガ。
三人を見る。
「みんな、ずっと修練してるから」
カイが続ける。
「今の濃度なら、症状が出るまで時間がかかるんだと思う」
ガルドが。
川を見る。
カイも。
上流へ視線を向ける。
「この川、もう少し調べた方がよさそうだね」
ガルドも。
同じ方向を見る。
「ああ」
「上流から確かめよう」
⸻
ミラは。
リュカのそばへ残った。
エルナもいる。
山へ向かうのは。
カイ。
ナタリー。
レオン。
リシア。
ガルド。
ヴァン。
ロウガ。
七人。
ラグニル川に沿って。
山へ向かった。
集落を離れる。
木々が深くなる。
足元には。
大きな岩が増えていく。
川の流れも。
少しずつ速くなっていた。
しばらく進んだところで。
カイが水へ意識を向ける。
「鑑定」
⸻
状態:汚染
《火晶毒》:検出
⸻
さらに上へ。
もう一度。
「鑑定」
⸻
状態:汚染
《火晶毒》:検出
⸻
「まだある」
カイが立ち上がる。
その時。
ナタリーが足を止めた。
「何かいる」
全員の動きが止まる。
低い。
唸り声。
岩の上。
一つ。
影が現れた。
灰黒色の体毛。
大きな身体。
岩肌を掴む太い爪。
鋭い牙。
その後ろから。
もう一体。
さらに。
二体。
四体。
カイが。
一番近い個体を見る。
「鑑定」
⸻
《鑑定 Lv.2》
名称:岩牙狼
分類:獣
LEVEL:19
状態:戦闘態勢
特徴:硬い体毛を持ち、岩場での機動力が高い。群れで獲物を追い込む
弱点:喉元/腹部
⸻
「LEVEL19……」
カイが。
別の個体を見る。
LEVEL18。
次。
LEVEL20。
最後。
LEVEL17。
レオンの表情が変わる。
「こんなLEVELのやつが、普通に出てくるのかよ……」
ガルドが。
剣を抜いた。
「山では珍しくない」
「マジかよ……」
一体の岩牙狼が。
岩を蹴る。
一気に。
ガルドへ飛びかかった。
だが。
ガルドの剣が。
先に動く。
一閃。
岩牙狼の身体が。
横へ崩れ落ちた。
その横。
ヴァンへ。
二体目。
ヴァンは。
半歩だけ身体をずらした。
剣が走る。
喉元。
一撃。
二体目も。
地面へ転がる。
LEVEL20の個体が。
ロウガへ向かう。
ロウガが。
正面から剣を合わせた。
ガキッ。
爪と刃がぶつかる。
次の瞬間。
ロウガの身体が。
前へ出た。
岩牙狼の腹へ。
刃が入る。
三体目も。
倒れた。
残った一体。
LEVEL17。
岩牙狼が。
カイたちを見る。
そして。
岩を蹴った。
《予測》。
赤い線が。
左へ伸びる。
「レオン、左!」
レオンが。
一気に回り込む。
岩牙狼が。
進路を変えた。
そこへ。
リシアの矢。
肩へ突き刺さる。
岩牙狼が吠えた。
ナタリーも。
すでに弓を引いている。
矢が放たれる。
前脚へ。
深く突き刺さった。
岩牙狼の身体が。
大きく傾く。
カイも。
弓を構える。
赤い線。
岩牙狼が。
次に頭を上げる場所。
喉元。
「そこ……!」
指を離す。
矢が飛ぶ。
狙った場所へ。
深く突き刺さった。
岩牙狼の巨体が。
岩場を滑る。
そのまま。
動かなくなった。
直後。
カイの視界に。
表示が浮かぶ。
⸻
《LEVEL UP》
神谷 海 LEVEL 12 → 13
ナタリー LEVEL 19 → 20
レオン LEVEL 18 → 19
リシア LEVEL 17 → 18
⸻
さらに。
もう一つ。
⸻
《鑑定の熟練度が一定値に達しました》
《鑑定 Lv.2 → Lv.3》
⸻
「鑑定も上がった」
レオンが。
剣を収める。
「試してみれば?」
「うん」
カイは。
ナタリーを見る。
「ナタリー、ちょっと鑑定していい?」
「ああ」
カイが。
意識を向ける。
「鑑定」
⸻
《鑑定 Lv.3》
名前:ナタリー
種族:エルフ
LEVEL:20
HP:195/195
MP:148/148
STATUS
筋力:31
体力:30
敏捷:36
器用:34
知力:22
感知:35
精神:29
SKILL
《弓術 Lv.5》
《短剣術 Lv.4》
《狩猟 Lv.5》
《索敵 Lv.4》
《統率 Lv.3》
ORIGINAL SKILL
《テンペストアロー》
⸻
カイの目が。
大きくなる。
「……前より、かなり詳しく見える」
ナタリーが。
カイを見る。
「何が増えた?」
「HPと……MP」
さらに。
その下。
細かい数値。
「ステータスも全部出てる」
カイの視線が。
一番下へ移る。
「テンペストアローもある」
「それまで見えるのか」
「うん」
ただ。
テンペストアローだけ。
他のスキルとは。
別の場所に表示されている。
ORIGINAL SKILL。
カイは。
そこを少しだけ見つめた。
次に。
レオンへ顔を向ける。
「レオンもいい?」
「いいよ」
「鑑定」
⸻
《鑑定 Lv.3》
名前:レオン
種族:エルフ
LEVEL:19
HP:190/190
MP:92/92
STATUS
筋力:30
体力:28
敏捷:36
器用:29
知力:20
感知:29
精神:24
SKILL
《剣術 Lv.5》
《体術 Lv.3》
《俊足 Lv.4》
《狩猟 Lv.3》
⸻
「敏捷、ナタリーと同じだ」
レオンが笑う。
「俺、速いからな」
「自分で言うんだ」
「事実だろ」
カイが。
リシアを見る。
「リシアも」
「構わない」
「鑑定」
⸻
《鑑定 Lv.3》
名前:リシア
種族:エルフ
LEVEL:18
HP:185/185
MP:126/126
STATUS
筋力:23
体力:25
敏捷:33
器用:36
知力:28
感知:36
精神:27
SKILL
《弓術 Lv.4》
《採取 Lv.5》
《索敵 Lv.4》
《調薬 Lv.3》
⸻
「全然違うな」
カイが。
三人を見比べる。
レオンが聞く。
「何が?」
「得意なところ」
カイは笑った。
「ちゃんと数字にも出てる」
ナタリーが。
川上へ目を向ける。
「行くぞ」
「うん」
カイも。
弓を背負い直した。
⸻
七人は。
さらに上流へ向かった。
やがて。
木々の間から。
建物が見えてくる。
炉から。
何本もの煙が上がっていた。
カイが見る。
「あれが黒炉集落?」
「ああ」
ガルドが答える。
七人は。
集落へは入らず。
川沿いを進む。
レオンが。
黒炉集落を見る。
「武闘会だと、ここはどうなの?」
ガルドが答えた。
「長く最下位が続いている」
「ずっと?」
「ああ」
カイが。
集落を見る。
「じゃあ、採掘できる量も少ない?」
「他の集落より少ない」
ロウガが言う。
「割り当てられる鉱区も限られる」
黒炉集落には。
鍛冶場がある。
炉も燃えている。
だが。
カイたちが最初に通った集落と比べると。
積まれた鉱石は少ない。
並んでいる道具も。
多くはなかった。
そのまま。
さらに上流へ進む。
黒炉集落を過ぎ。
山の奥へ。
しばらく歩いたところで。
カイが。
川へしゃがんだ。
「鑑定」
⸻
名称:ラグニル川の水
状態:清浄
《火晶毒》:検出なし
⸻
「……ない」
ナタリーが見る。
「毒が?」
「うん」
カイが。
川下を見る。
「ここは大丈夫」
ガルドも。
水を見る。
少し戻る。
また。
川を鑑定する。
清浄。
さらに下る。
「鑑定」
⸻
状態:汚染
《火晶毒》:検出
⸻
カイの目が。
変わった。
「この間だ」
七人が。
周囲を見る。
川辺。
岩。
草。
水の中。
リシアが。
少し離れた場所で止まった。
「カイ」
岩の陰。
赤黒い石の欠片。
一つではない。
カイが拾う。
「鑑定」
⸻
名称:火晶石
分類:鉱石
状態:破砕済み
性質:水中に長時間置くことで《火晶毒》を微量に溶出
⸻
カイの表情が変わる。
「……これだ」
ロウガへ渡す。
ロウガは。
割れた面を見る。
指でなぞる。
もう一つ。
地面から拾った。
「自然に割れたものじゃない」
「分かるの?」
「ああ」
ロウガが。
欠片を返す。
「採掘した後に砕いている」
ガルドの顔が。
険しくなる。
その時。
片手を上げた。
全員が止まる。
カチャ。
少し先。
硬いもの同士が。
触れる音。
ガルドが。
音を立てず前へ進む。
カイたちも。
後を追う。
岩陰。
その向こう。
三人の龍人族。
足元には。
大きな麻袋が置かれていた。
肩幅の広い男が。
袋へ手を入れる。
掴み出したのは。
赤黒い石の欠片。
カイの目が。
細くなる。
火晶石。
男は。
そのまま川へ落とした。
ぼちゃん。
続けて。
もう一つ。
ぼちゃん。
さらに。
もう一つ。
ガルドが。
岩陰から出た。
「バルガ」
三人が。
一斉に振り返る。
肩幅の広い男――バルガの目が。
一瞬大きくなった。
「……ガルド?」
ガルドが。
川を見る。
「何をしている」
バルガの後ろ。
細身のシド。
短い角を持つケイン。
二人も。
カイたちを見る。
バルガは。
すぐに麻袋の口を閉じた。
「採掘で出た屑石を処分していただけだ」
ロウガが。
川を見る。
「川へ捨てているのか」
「邪魔になるからな」
「なぜここで?」
「それがお前に何の関係がある」
ロウガの目が。
細くなる。
カイは。
川へ近づいた。
「鑑定」
⸻
名称:ラグニル川の水
状態:汚染
含有:《火晶毒》
原因物質:《火晶石》
濃度:上昇中
⸻
カイが。
バルガを見る。
「その石から、火晶毒が出てる」
バルガの顔が。
わずかに強張った。
シドとケインも。
黙る。
ガルドが。
静かに聞く。
「知っていたのか」
「何の話だ」
バルガが返す。
「火晶毒など知らん」
「なら」
ガルドが。
足元の麻袋を見る。
「なぜ砕いた火晶石を、わざわざ川へ捨て続けている」
「屑だと言っただろう」
「この下流では子どもたちが死んでいる」
バルガの口が。
止まった。
「同じ毒が、身体から出てる」
カイが言う。
「この川を飲んでる人たちから」
バルガが。
カイを見る。
その目が。
さっきまでとは変わった。
シドが。
一歩。
右へ動く。
ヴァンの視線が。
その足へ向く。
ケインも。
ゆっくり山側へ身体をずらした。
ロウガが。
何も言わず横へ出る。
二人の先へ。
立つ。
シドの足が止まった。
バルガが。
周囲を見る。
ガルド。
ヴァン。
ロウガ。
ナタリー。
レオン。
リシア。
そして。
カイ。
ガルドの右手が。
ゆっくり腰へ下がる。
ガルドの声が。
低くなる。
「やめろ」
バルガは。
答えなかった。
川の音だけが。
響く。
バルガが。
シドを見る。
次に。
ケイン。
二人の手も。
武器へ伸びる。
「……誰も帰すな」
バルガが。
剣を抜いた。
シド。
ケイン。
二人も。
同時に武器を抜く。
「カイ、下がれ!」
ガルドの声。
バルガが。
地面を蹴った。
一瞬で。
ガルドとの距離が縮まる。
振り下ろされる刃。
ガルドも。
剣を抜く。
二本の剣が。
正面からぶつかった。
ガキン――!
激しい金属音が。
ラグニル山に響いた。




