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ドリームライド〜異世界創造、夢の旅〜  作者: 神谷 夢


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第19話 火ノ島

第19話 火ノ島


ガルドたちは、焚き火のそばへ腰を下ろした。


向かいにはカイたち。


少し離れた波打ち際には、四人が乗ってきた小さな船がある。


ナタリーがガルドを見る。


「火ノ島のことを、詳しく聞かせてほしい」


「ああ」


ガルドが頷く。


一度、海の向こうへ視線を向けた。


「火ノ島には、五つの集落がある」


カイも遠くの大地を見る。


「五つ……」


「合わせて、およそ七百の龍人が暮らしている」


「七百人……」


昨日まで。


山が見えるだけだった場所。


そこに、それだけの人が暮らしている。


ディルクが遠くに見える山を指した。


「あの山は?」


「ラグニル山」


ガルドが答える。


「我らが崇める始祖ラグニルの名を持つ山だ。五つの集落は、あの山を囲むように存在している」


ガルドの声に。


ヴァン。


ロウガ。


ミラも静かに耳を傾けている。


「病が初めて現れたのは、およそ三月前だ」


カイはガルドへ視線を戻した。


「最初は一人だった」


焚き火の薪が、小さく弾ける。


「高い熱が続き、数日すると身体に力が入らなくなった。食事も取れなくなり、やがて寝床から起き上がることすらできなくなった」


ガルドは淡々と話している。


だが。


膝の上に置かれた拳には、力が入っていた。


「薬師たちは熱を抑える薬を使った。一時的に下がることはあっても、またすぐに熱が上がった」


誰も口を挟まない。


「その子が亡くなる頃には、別の集落でも同じ症状の子が出ていた」


ミラが目を伏せる。


ガルドが続けた。


「今では五つの集落すべてで発症している」


ナタリーが尋ねる。


「今、病に伏せている子は?」


「三十を超えている」


カイの表情が変わった。


ガルドは続ける。


「これまでに十二人が亡くなった」


「……十二人」


カイが呟く。


数字にすると。


余計に重かった。


ミラが静かに口を開いた。


「症状が進んだ子には、手足の先に赤い斑点が現れることがあります」


カイがミラを見る。


「そこまで進むと、食事だけでなく、水を飲むことさえ難しくなる子もいます」


ガルドが火を見つめる。


「薬師たちは今も手を尽くしている。巫女セラも祈りを続けている」


少しの沈黙。


その中で。


ミラが握っていた手を、さらに強く握った。


「……私の弟も」


カイが顔を上げる。


「弟?」


ミラが頷く。


「リュカといいます。九つです」


「今は?」


ミラは。


ほんの少しだけ間を置いた。


「……まだ、生きています」


カイは何も言えなかった。


「そっか……」


それだけ返す。


下手な言葉をかけるより。


今は。


その方がいい気がした。


しばらくして。


ガルドがカイを見る。


「先ほど」


「うん?」


「お前なら、病の原因が分かるかもしれないと言ったな」


カイの表情が少し変わる。


「ああ」


「お前には、何か特別な力があるのか?」


ナタリーたちも。


カイを見る。


カイは少し考えた。


「……詳しくは言えないけど」


ガルドの目を見る。


「見た相手が、今どういう状態なのか分かることがある」


「身体の状態が?」


「うん」


「病にも使えるのか?」


カイは首を横に振った。


「分からない」


ガルドは黙って聞いている。


「病気の人に使ったことはないから。でも……試してみる価値はあると思う」


ガルドの視線が。


少しだけ強くなる。


カイは海の向こうを見る。


火ノ島。


五つの集落。


七百人。


病に伏せる三十人以上の子ども。


亡くなった十二人。


そして。


九歳のリュカ。


少しの間。


誰も話さなかった。


やがて。


カイが口を開いた。


「俺は……」


ナタリーが見る。


カイは。


もう一度、火ノ島を見た。


「行きたい」


ナタリーは。


すぐには答えなかった。


カイを見つめる。


そして。


静かに頷いた。


「分かった」


「ナタリー……」


「なら、私も行く」


レオンが肩をすくめた。


「まあ、カイだけ行かせるわけないしな」


ディルクが頷く。


リシアも。


何も言わず、同じように頷いた。


ガルドが。


五人を見る。


「……感謝する」


その時。


レオンが波打ち際の船を見た。


「あ」


カイが見る。


「何?」


レオンが船を指差す。


「あれに全員乗れる?」


ガルドが即答した。


「無理だ」


「やっぱりか」


カイも立ち上がり。


船へ近づく。


四人が乗って。


荷物を積む。


それだけで。


ほとんど余裕がない。


カイは船の横にしゃがんだ。


木造の船体。


帆。


帆柱。


舵。


縄。


板の継ぎ目には。


繊維のようなものが詰められ、その上から樹脂が塗られている。


昨夜。


現実世界で調べたものと重なる。


「……みんなが乗れる船」


カイが小さく呟く。


もっと大きい船があれば。


そう思った瞬間だった。


視界の端。


《CREATION》に、新しい項目が増える。


⸻


《CREATION》


中型帆船


船体用木材


船骨材


帆布


防水樹脂


船舶用ロープ


木製舵


鉄製固定具


⸻


「……出た」


レオンが近づく。


「何が?」


「船」


「出せるの?」


カイは《中型帆船》を見る。


必要なDPを確認する。


すぐに首を横へ振った。


「船そのものは無理」


「高い?」


「全然足りない」


レオンが船を見る。


「じゃあ駄目じゃん」


「いや……」


カイは。


その下に並ぶ項目を見る。


船体用木材。


船骨材。


帆布。


防水樹脂。


ロープ。


金具。


そして。


周囲の森を見る。


「全部、出す必要ないんじゃない?」


「どういうことだ?」


ナタリーが近づいてくる。


カイは。


ガルドたちの小舟を見る。


それから。


ロウガへ視線を向けた。


「みんなが乗れるくらいの船……作れないかな」


ロウガの眉が寄った。


「簡単に言うな」


「やっぱり難しい?」


「船は木を組めばできるものではない」


ロウガが船体を叩く。


「船底の形。骨組み。重さ。帆柱。舵。板の合わせ方。水を入れないための処理」


一つずつ。


指を動かしていく。


「どれか一つでも雑なら、海に出てから困る」


「……そっか」


「造ったことは?」


「ない」


「なら、なぜ造れると思った」


「昨日調べた」


ロウガが止まった。


「……昨日?」


「うん」


しばらく。


ロウガがカイを見る。


レオンが横で笑いを堪えている。


「何?」


カイが聞く。


「いや」


ロウガは小さく息を吐いた。


「昨日知った者が、今日船を造ろうと言い出すとは思わなかっただけだ」


「俺も今、ちょっと無謀だったかなって思ってる」


「少しではない」


「そこまではっきり言う?」


ロウガは船へ目を戻した。


「だが」


カイも見る。


「この船の構造なら分かる」


「本当?」


「修繕は何度もしている。鍛造や木材加工もできる」


ガルドが横から言う。


「必要なら、我らも手を貸す」


カイの表情が明るくなる。


「じゃあ、材料があれば?」


ロウガは。


今度はすぐに否定しなかった。


森を見る。


小舟を見る。


CREATIONから現れた項目は、ロウガには見えていない。


「何を用意できる?」


「帆と、丈夫な縄と、防水に使う樹脂。それと金具」


ロウガがカイを見る。


「そこまで用意できるのか?」


「できると思う」


「木は?」


リシアが森を見る。


「選べる」


ロウガがリシアへ視線を向ける。


「船に向く木が分かるのか?」


「水に強く、曲げても割れにくい木なら何種類かある」


今度は。


ロウガの目が少し変わった。


ゼフが斧を持ち上げる。


「切るなら俺がやる」


ディルクも頷いた。


「運ぶのも任せろ」


ロウガは。


全員を見回した。


やがて。


砂浜に落ちていた長い枝を拾う。


「なら」


砂の上へ。


一本の線を引いた。


「まず形を決める」


⸻


船首。


船尾。


船底。


九人と荷物を乗せられるよう。


小舟より二回りほど大きな形が、砂の上に描かれていく。


カイは。


ロウガの手元をじっと見ていた。


船底へ。


緩やかな曲線が引かれる。


「船底って、平らじゃ駄目なんだよね?」


ロウガが手を止めた。


「知っているのか」


「昨日見た」


「昨日か……」


「もうそこはいいじゃん」


レオンが吹き出す。


ロウガは。


何も言わず線を引き続けた。


だが。


ほんの少しだけ。


口元が緩んでいた。


⸻


最初に。


木を選ぶ。


リシアとミーナが森へ入り。


ロウガも一緒に確認する。


幹を叩き。


木肌を見る。


曲がり方を見る。


「これは?」


リシアが一本を示す。


ロウガが手を当てる。


「骨組みに使える」


「こっちは?」


「船体には向かない。割れやすい」


三人が選んだ木に印をつける。


そこへ。


ゼフ。


ガルド。


ヴァン。


ディルク。


斧が振り下ろされる。


乾いた音が森へ響く。


切り出した木を。


全員で海岸まで運ぶ。


カイは。


自然からすぐに用意できない物だけを。


CREATIONから交換していった。


帆布。


防水樹脂。


船舶用ロープ。


鉄製固定具。


地面へ現れた素材を見て。


ガルドたちの動きが止まる。


ロウガが。


鉄製固定具を一つ拾った。


指でなぞる。


裏返す。


もう一つ取る。


並べる。


「……全部、同じだ」


「使えない?」


カイが聞く。


「逆だ」


ロウガが。


さらに二つ並べる。


「寸分違わず、同じ形をしている」


カイには。


それが普通に見える。


だが。


ロウガは違った。


「これだけの数を、これほど正確に揃えるのは容易ではない」


「じゃあ使える?」


「ああ」


ロウガが頷く。


「かなり助かる」


カイが笑った。


「よかった」


「お前の力は不思議だな」


ロウガが言う。


カイは。


CREATIONのことまでは説明せず。


「俺もそう思う」


とだけ答えた。


⸻


作業は。


日が傾くまで続いた。


ロウガが船体の形を決め。


リシアたちが木を選ぶ。


ゼフたちが切り出し。


カイとレオンが枝を落とし、表面を削る。


ナタリー。


アレン。


ノアも。


木材を運び。


縄を締め。


できることを探して動いた。


夕方には。


砂浜に。


船底の骨組みが形を見せ始めていた。


「……これが船になるのか」


レオンがしゃがみ込む。


「まだ骨だけじゃん」


カイが言う。


「分かってるよ」


「でも」


カイも。


組み上がった骨組みを見る。


朝には。


何もなかった。


今は。


確かに船の形がある。


少し離れた場所では。


ガルドたち四人が、自分たちの寝床を作り始めていた。


海岸で数日過ごすため。


カイたちの拠点の横へ。


枝を組み。


雨避け葉を重ねていく。


カイも手伝おうとしたが。


ロウガに止められた。


「休め」


「でも」


「明日も船を造る」


「……分かった」


カイは。


焚き火の近くへ座った。


しばらくして。


砂を踏む音が聞こえた。


ざっ。


ざっ。


カイが顔を上げる。


ガルドが。


少し離れた砂浜で剣を振っていた。


ヴァン。


ロウガ。


ミラも。


同じように。


何度も。


何度も。


決まった動きを繰り返している。


「船造ってたのに……」


カイが呟く。


ガルドが剣を止めた。


「何だ?」


「まだ修練するの?」


「ああ」


「毎日?」


「当然だ」


カイは少し考える。


「でも、龍人族って争いは好きじゃないんだよね?」


ガルドが。


剣を鞘へ収めた。


「争わぬことと」


カイを見る。


「弱くあることは違う」


カイは。


その言葉を少し考えた。


「……そっか」


ガルドたちは。


その後も修練を続けた。


やがて剣を収めると。


今度は砂浜へ座り。


目を閉じる。


誰一人。


話さない。


波の音だけが。


静かに続いていた。


⸻


二日後。


砂浜の景色は。


大きく変わっていた。


骨だけだった船には。


船体の板が張られている。


カイが板を支える。


反対側から。


ロウガが金具を打ち込む。


カン。


カン。


カン。


「次」


「はい」


新しい板を持ち上げる。


レオンが反対側を支える。


「ここ?」


「ああ」


三人で位置を合わせる。


ロウガが継ぎ目を指でなぞる。


「いい」


「よし」


カイが笑う。


「嬉しそうだな」


レオンが言う。


「だって今の一発で通ったし」


「昨日は何回やり直した?」


「言わなくていいじゃん」


「六回」


ロウガが答えた。


「ロウガまで!」


レオンが笑う。


少しずつ。


龍人族との会話も。


最初の頃より自然になっていた。


⸻


少し離れたところでは。


ミラが船舶用の縄をまとめている。


カイが次の板を取りに行き。


その横を通った。


「ミラ」


「はい?」


「リュカって」


ミラの手が止まる。


カイは。


少し迷ってから聞いた。


「今、どのくらい悪いの?」


ミラは。


手元の縄を見る。


「まだ食事は取れています」


カイが小さく息を吐く。


「そっか」


「ただ……」


ミラが続ける。


「熱は下がっていません」


「……」


「以前より、起きていられる時間も短くなりました」


カイは。


それ以上聞かなかった。


ミラも。


それ以上は話さなかった。


少しして。


カイが縄を一本持ち上げる。


「これ、船に持ってくね」


「はい」


作業へ戻る。


その方が。


今は良かった。


⸻


船体へ。


防水樹脂を塗る。


板の継ぎ目。


船底。


水に触れる場所を。


一つずつ。


ロウガが確認していく。


帆柱も立てる。


ガルド。


ゼフ。


ヴァン。


ディルクが支え。


カイたちが縄を引く。


「上げるぞ!」


太い帆柱が。


ゆっくり立ち上がっていく。


「そのまま!」


ロウガの声。


縄が張る。


帆柱が。


船体の中央へ立った。


最後に。


CREATIONで用意した帆布。


大きな布が。


海からの風を受ける。


ばさっ――。


一気に膨らんだ。


カイが見上げる。


「おお……」


レオンも。


隣で同じように見上げている。


ロウガだけは。


船の周囲を歩いている。


「まだだ」


レオンが見る。


「まだ?」


ロウガが船体を叩く。


「浮かなければ船ではない」


「それはそうだけどさ」


⸻


舵。


ロープ。


固定具。


帆柱。


板の継ぎ目。


全員で最後まで確認する。


ロウガが。


一つずつ触れていく。


やがて。


船体から手を離した。


「出すぞ」


カイの表情が変わる。


「うん」


全員が。


船体へ手をかけた。


砂の上。


少しずつ。


押していく。


ざっ。


ざざっ。


船首が波へ入る。


さらに押す。


水が。


船底へ回る。


船体が大きく揺れた。


カイは。


息を止める。


次の波。


船が。


ふわりと持ち上がった。


ロウガとガルドが。


すぐに船へ乗る。


船底。


板の継ぎ目。


舵。


帆柱。


一つずつ確認していく。


しばらくして。


ロウガが顔を上げた。


「問題ない」


一瞬。


静かになる。


「よし!」


レオンが拳を上げた。


カイも。


思わず笑う。


「できた!」


ミーナも。


リシアも。


笑顔になる。


ガルドが。


船を見たあと。


カイたちへ向き直った。


深く頭を下げる。


「感謝する」


カイが頷いた。


「うん」


火ノ島を見る。


「早く行こう」


⸻


出航するのは。


カイ。


ナタリー。


ディルク。


レオン。


リシア。


そして。


ガルド。


ヴァン。


ロウガ。


ミラ。


アレンたちは。


海岸へ残る。


ナタリーがノアを見る。


「出たのを確認したら、長老へ報告を頼む」


「ああ」


「アレン、ミーナ、ゼフはここを頼む」


三人が頷く。


カイは。


船へ乗り込んだ。


足元が。


ゆらりと揺れる。


「うわ」


レオンが後ろから来る。


「何?」


「揺れる」


「船だからな」


ガルドが言う。


「知ってるけど、実際乗ると全然違うね」


全員が乗る。


荷物を積む。


ロープを外す。


ガルドとヴァンが帆を確認する。


ロウガが舵へ。


風が。


帆へ入った。


ばさっ――!


船が。


ゆっくり前へ進み始める。


「動いた……」


カイは。


船縁から後ろを見る。


海岸が。


少しずつ離れていく。


アレンたちの姿も。


次第に小さくなっていく。


前を見る。


火ノ島。


昨日まで。


向こう側から見ているだけだった場所。


今は。


自分たちの方から。


近づいている。


⸻


沖へ出ると。


揺れは大きくなった。


船が。


波へ乗る。


上がる。


落ちる。


また上がる。


カイは。


船縁を掴んだ。


「思ったより揺れるな……」


横を見る。


レオンが。


黙っている。


「レオン?」


「何だよ」


「静かじゃない?」


「俺だって静かな時くらいある」


「顔白くない?」


「気のせいだ」


さらに。


船が大きく揺れた。


レオンが。


口を押さえる。


「……」


カイが見る。


「絶対気持ち悪いでしょ」


「……ちょっとだけ」


リシアがレオンを見る。


「大丈夫か?」


「大丈夫に見えるか……?」


「見えない」


「じゃあ聞くなよ……」


カイは。


青い顔をしたレオンを見る。


「ちょっと待って」


意識を向ける。


「鑑定」


⸻


《鑑定 Lv.2》


名前:レオン


種族:エルフ


状態:船酔い


症状:吐き気/めまい/倦怠感


原因:船の揺れによる平衡感覚の乱れ


対処:香醒草の葉を服用することで症状を軽減


⸻


カイの目が止まった。


「……香醒草?」


リシアが反応する。


「香醒草?」


「ああ。知ってる?」


「ミーナが持たせてくれた薬草の中にある」


リシアが。


荷物の中から小さな袋を出す。


何種類かの薬草。


その中から。


細長い緑の葉を取り出した。


「これだ」


カイが葉を見る。


「鑑定」


⸻


名称:香醒草


用途:薬用


効能:吐き気/めまいの緩和


使用方法:葉をそのまま服用可能


⸻


「それ」


カイが言う。


リシアが。


レオンへ差し出した。


「食べろ」


レオンが葉を見る。


「これを?」


「そのままでいい」


「美味い?」


リシアが少し考える。


「苦い」


レオンの顔がさらに曇る。


「今の俺に苦い草食わせるの?」


「吐くよりいいだろ」


「……それはそうだけど」


レオンは。


嫌そうな顔のまま葉を口へ入れた。


噛む。


次の瞬間。


顔が歪む。


「っ……にがっ!」


カイが吹き出す。


「そんなに?」


「食ってみろよ!」


「俺、酔ってないし」


「ずるいぞ……」


リシアが。


もう一枚取り出す。


「まだいるか?」


「いらない!」


しばらくして。


レオンが。


ゆっくり顔を上げた。


「あれ……」


「どうした?」


カイが聞く。


「ちょっと楽になった」


「本当に?」


「ああ」


カイは。


もう一度レオンを見る。


「鑑定」


⸻


状態:船酔い(軽度)


症状:改善中


⸻


「……本当に良くなってる」


カイが呟く。


「何が?」


レオンが聞く。


だが。


カイは答えなかった。


表示を見つめる。


船酔い。


症状。


原因。


そして。


香醒草。


何を使えば。


どう改善するのか。


そこまで。


《鑑定》には表示されていた。


カイが顔を上げる。


「……待って」


ナタリーが見る。


「どうした?」


カイは。


火ノ島を見る。


それから。


ガルドたちへ視線を向けた。


「これ……病気にも使えるかもしれない」


ミラの表情が変わる。


「どういうことですか?」


ガルドが聞く。


カイは。


少し考えた。


ここまで。


一緒に船を造った。


何日も同じ海岸で過ごした。


そして今。


同じ船で火ノ島へ向かっている。


もう。


隠す必要はない。


「俺」


ガルドを見る。


「《鑑定》っていうスキルを持ってるんだ」


「鑑定?」


「ああ」


「見たものの情報が分かる」


ガルドが。


カイを見る。


「先ほど言っていた力か」


「うん」


カイはレオンを見る。


「今、レオンに使ったら」


「船酔いしてるってだけじゃなくて、原因と、効く薬草まで分かった」


ミラが。


手に持っていた縄から手を離す。


「……原因まで分かるんですか?」


「うん」


ガルドは。


まだ何かを考えている。


当然だ。


初めて聞く力。


それだけで。


すぐ信用できるものでもない。


カイもそれに気づいた。


「ガルド」


「何だ」


「試していい?」


「俺に?」


「うん」


少しの間。


ガルドがカイを見る。


やがて。


頷いた。


「構わん」


カイが。


ガルドへ意識を向ける。


「鑑定」


⸻


《鑑定 Lv.2》


名前:ガルド


種族:龍人族


LEVEL:29


SKILL


《剣術 Lv.6》


《火魔法 Lv.5》


《精神統一 Lv.5》


《???》


特性:???


弱点:???


⸻


「ガルド」


カイが言う。


「LEVEL29」


ガルドの表情が止まった。


「剣術Lv.6」


「火魔法Lv.5」


「精神統一Lv.5」


ヴァン。


ロウガ。


ミラ。


三人が。


ガルドを見る。


ガルド自身も。


しばらく何も言わなかった。


「……誰から聞いた?」


「誰からも」


カイが答える。


ロウガを見る。


「ロウガもいい?」


ロウガは。


目を細める。


「やってみろ」


「鑑定」


⸻


《鑑定 Lv.2》


名前:ロウガ


種族:龍人族


LEVEL:24


SKILL


《剣術 Lv.5》


《火魔法 Lv.4》


《鍛造 Lv.4》


《???》


特性:???


弱点:???


⸻


「LEVEL24」


ロウガの表情が変わる。


「剣術Lv.5」


「火魔法Lv.4」


そして。


「鍛造Lv.4」


今度は。


ロウガが黙った。


船を一緒に造った。


ロウガが物作りに長けていることくらいは。


想像できるかもしれない。


だが。


LEVEL。


スキルの段階。


それまで。


カイが知る方法はない。


ガルドが。


ゆっくりカイを見る。


「……本当に見えているのだな」


「うん」


カイが頷く。


「でも、全部じゃない」


「俺より強い人だと、見えないところもある」


ガルドは。


先ほどの言葉を思い返すように黙った。


カイが続ける。


「今までは、状態とか特徴を見る力だと思ってた」


レオンを見る。


「でも、船酔いしたレオンを見たら」


もう一度。


火ノ島へ視線を向ける。


「原因と、改善する方法まで出た」


ミラが。


カイを見つめる。


「それなら……」


カイも。


ミラを見る。


「うん」


「リュカにも使ってみたい」


ミラの目が。


わずかに揺れた。


「……お願いします」


「うん」


カイが頷く。


「着いたら、すぐ見せて」


⸻


その直後だった。


ざばっ――!


船の右側で。


大きく水が跳ねた。


カイが振り向く。


「何!?」


水面。


黒い影。


一つ。


二つ。


三つ。


ガルドが立ち上がる。


「シーランナーだ」


「魔物?」


「ああ。弱い」


言い終わるより早く。


一体が水面から飛び出した。


鋭い歯。


細長い身体。


船縁へ向かってくる。


ヴァンが剣を抜いた。


一閃。


飛び込んできたシーランナーが。


そのまま海へ落ちる。


「はや……」


カイが呟く。


別の一体。


左。


水面が盛り上がる。


《予測》。


赤い線。


「後ろ!」


カイが叫ぶ。


「舵の方!」


ロウガが振り向く。


水面から。


もう一体。


飛び上がる。


だが。


ロウガの剣が。


それより早い。


一撃。


船体へ触れる前に。


海へ叩き落とした。


最後の一体が。


船の横を並ぶように走る。


ナタリーが身構える。


ガルドが言う。


「来る」


影が消える。


次の瞬間。


ざばっ!


船首の横から。


シーランナーが飛び出す。


ガルドが。


一歩踏み込む。


剣が走る。


それだけだった。


魔物が。


海へ落ちる。


静かになる。


カイが。


周囲の水面を見る。


「……終わり?」


ガルドが剣を収める。


「ああ」


「早っ」


後ろから。


弱々しい声。


「……終わった?」


カイが振り返る。


レオンが。


船縁にもたれている。


「終わったよ」


「よかった……」


「レオン、何もしてないじゃん」


「俺は今……海と戦ってる……」


カイが笑った。


リシアも。


小さく笑う。


ガルドたちも。


さっきより少しだけ。


表情が柔らかくなっていた。


⸻


航海は続く。


海岸から見ていた時は。


山しか分からなかった。


だが。


近づくにつれて。


少しずつ。


火ノ島の姿が変わっていく。


山の麓。


深い森。


黒い岩肌。


海へ伸びる崖。


そして。


浜。


「見えてきた」


カイが船首から前を見る。


さらに近づく。


森の隙間。


建物。


煙。


人影。


「あれ……」


浜辺に。


何人もの人が集まり始めている。


角。


鱗。


龍人族。


こちらの船に気づいたらしい。


ガルドが。


船首へ出る。


ミラも。


その隣へ。


カイは。


ミラの横顔を見る。


さっきまでとは違う。


視線は。


浜のさらに向こうへ向いている。


リュカ。


その名前が。


カイの頭にも浮かんだ。


船が。


浅瀬へ入る。


速度が落ちる。


浜にいる龍人族の姿が。


はっきり見える。


ガルドが言った。


「着くぞ」


カイは。


前を見る。


火ノ島。


船底が。


浅い砂を擦った。


ガルドとヴァンが船を固定する。


カイは船縁へ手をかけた。


降りる。


足が。


砂へ沈む。


初めて踏む土地。


顔を上げる。


目の前には。


角と鱗を持つ龍人族たち。


その向こうには。


火ノ島の集落へ続く道。


カイは。


前を向いた。


火ノ島そのものが。


カイに何かを訴えかけているように見えた。


ここに見つけなければならない何かがある。


カイはふと、そんな気がした。


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