↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリームライド〜異世界創造、夢の旅〜  作者: 神谷 夢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/34

第18話 龍人族

第18話 龍人族


長老のもとを出ると、広場には四人のエルフが待っていた。


カイが足を止める。


昨日、海まで一緒に行ったナタリー、ディルク、レオン、リシアとは別の顔ぶれだ。


最初に目についたのは、背中に長弓を背負った青年だった。


細身で、髪は後ろで短く束ねている。


その隣には、腰に短剣を差した小柄な少女。


少し後ろには、レオンより一回り大きな男が、大きな斧を肩に担いでいた。


最後の一人は、他の三人から少し離れ、森の方を眺めている。


ナタリーがカイを見る。


「紹介しておこう」


弓を背負った青年へ視線を向ける。


「アレンだ。弓の扱いなら、集落でもかなり腕が立つ」


アレンがカイへ軽く頭を下げた。


「よろしく」


「カイです。よろしく」


次に、小柄な少女。


「ミーナ。薬草や食べられる植物に詳しい」


「よろしくね、カイ」


ミーナは柔らかく笑った。


「よろしく」


その隣。


斧を担いだ大柄な男が、自分から口を開く。


「ゼフだ」


声も太い。


「重い物なら任せろ」


カイがゼフの肩にある斧を見る。


「……見れば分かるかも」


ゼフが一瞬黙った。


「そうか」


真顔のまま頷く。


レオンが吹き出した。


「ゼフに冗談言っても返ってこないぞ」


「冗談じゃない」


「ほらな」


「レオン」


ゼフが見る。


「何だ?」


「お前の荷物も持つか?」


「結構です」


今度はカイが笑った。


最後。


森を見ていた青年がこちらを向く。


ナタリーが言う。


「ノア。周囲の異変に気づくのが早い」


ノアが軽く頭を下げた。


「よろしく」


「よろしく」


レオンが周囲を見回す。


「九人か」


それからナタリーを見る。


「これなら夜も交代できそうだな」


「ああ。そのために四人にも来てもらった」


アレンが背中の弓を直す。


「何日いることになるか分からないからな」


ミーナも頷く。


「食べ物も必要になるね」


ナタリーが全員を見る。


「準備ができているなら出る」


「大丈夫だ」


ディルクが答えた。


レオンも荷物を背負い直す。


「行くか」


九人は集落を離れ、海岸へ向かった。


⸻


森へ入る。


今日は、水や食料だけではない。


毛布。


縄。


斧。


鉈。


鍋。


火を起こすための道具。


海岸で数日を過ごせるよう、それぞれが荷物を分けて背負っていた。


しばらく歩いたところで。


レオンがカイの背中を見る。


「お前、それ重くないか?」


「結構重い」


「持ってやろうか?」


カイがレオンを見る。


自分より大きな荷物を背負っている。


「いや、レオンの方が持ってるじゃん」


「まだ余裕ある」


横を歩いていたゼフが振り返った。


「貸せ」


「え?」


「カイの荷物」


「いや、大丈夫だよ」


「そうか」


ゼフはそれだけ言って前を向いた。


カイがレオンを見る。


「本当にそれだけなんだね」


「だから言っただろ」


少し前から、ミーナの声がする。


「リシア、それ何?」


「まだ分からない」


リシアが道端の葉を見ていた。


「集落の近くでは見たことがない」


「帰りに少し持って帰ろうよ」


「そうする」


レオンが呆れたように言う。


「お前ら、まだ海にも着いてないぞ」


ミーナが振り返る。


「見つけた時に見ておかないと、帰りに見つからないかもしれないでしょ」


「お前までリシアみたいだな」


「前からだけど?」


「そうなのかよ」


カイが笑う。


前を歩いていたナタリーが振り返った。


「置いていくぞ」


「それは困る!」


レオンが歩調を速める。


カイもその横へ並んだ。


⸻


長い森を抜ける。


潮の匂いが濃くなり。


やがて。


波の音が聞こえてきた。


木々の間から、強い光が差し込む。


「着いた」


カイが少し歩調を速める。


森を抜けた瞬間。


視界が一気に開けた。


海。


昨日と変わらず。


青い水が、目の前いっぱいに広がっている。


その向こう。


山の見える大きな陸地も、そのままそこにあった。


初めて海を見る四人は、しばらく足を止めていた。


アレンが呟く。


「……これが海か」


ミーナも目を見開いている。


「大きい……」


ゼフは波打ち際から、その先へ視線を動かす。


「向こうまで全部、水なのか」


「うん」


カイが答える。


「俺の世界にもある」


ノアは海よりも、その向こうに見える大地を見ていた。


「昨日までは、あれも無かったんだな?」


ナタリーが頷く。


「ああ」


ノアはしばらく大地を見たあと。


「見張りを置くことにして正解だな」


とだけ言った。


カイも海の向こうを見る。


何があるのか。


誰かいるのか。


まだ何も分からない。


⸻


荷物を置くと。


ナタリーが森と砂浜の境目を歩き始めた。


何度か立ち止まり。


海を見る。


森を見る。


やがて。


少しだけ地面が高くなっている場所で止まった。


「ここにしよう」


ディルクが隣へ行く。


「海も見えるな」


「ああ」


ナタリーが後ろを見る。


背後には木々がある。


海から吹いてくる風も、砂浜の中央より弱い。


ゼフが斧を肩から下ろした。


「木を切る」


ディルクも鉈を持つ。


「太すぎるのはいらない。柱にできるくらいでいい」


「分かった」


二人が森へ入る。


カイは縄を地面へ置いた。


「俺は?」


ナタリーが地面へ四か所、足で印をつける。


「ここに柱を立てる」


「分かった」


レオンも横へ来た。


「じゃあ掘るか」


二人で地面を掘り始める。


しばらくすると。


ゼフが太い枝を二本まとめて抱え、森から戻ってきた。


カイが手を止める。


「それ一人で持ってきたの?」


「ああ」


その後ろから。


ディルクも一本、肩に担いで戻ってくる。


「ゼフに任せると、全部一人で運ぶぞ」


「運べるからな」


「俺の仕事がなくなるだろ」


「他をやればいい」


ディルクが苦笑する。


「相変わらずだな」


カイも立ち上がり。


ゼフから一本受け取った。


柱を穴へ差し込み。


レオンが支える。


カイとナタリーが土を戻し、足で踏み固めていく。


その間に。


リシアとミーナも森から戻ってきた。


二人とも。


大きな葉を何枚も抱えている。


「これを屋根に使う」


リシアが言った。


ミーナも一枚をカイへ渡す。


「雨をかなり弾くよ」


「へえ……」


カイは葉を見る。


両手で持っても大きい。


ふと。


《鑑定》を思い出す。


「ちょっと見ていい?」


ミーナが首を傾げる。


「何を?」


「鑑定」


カイが葉へ意識を向けた。


⸻


《鑑定 Lv.1》


名称:雨避け葉


状態:良好


用途:防水/包み葉


特徴:表面が水を弾く


⸻


「本当に雨避けって名前なんだ」


ミーナが驚く。


「名前まで分かるの?」


「うん。水を弾くっていうのも出てる」


リシアが腕を組んだ。


「言っただろ」


「疑ってないって」


「鑑定した」


「気になっただけ!」


ミーナが笑う。


「面白いね、それ」


「結構便利だよ」


「じゃあ、後で私も見てほしいものがある」


「……」


カイがリシアを見る。


それからミーナを見る。


「リシアが二人になった」


「どういう意味だ」


「どういう意味?」


二人から同時に返される。


カイは黙って葉を運び始めた。


少し離れたところで。


レオンが笑っていた。


⸻


太い枝を柱に。


その間へ細い枝を渡す。


縄で何度も固定する。


その上へ。


雨避け葉を少しずつ重ねていった。


地面には。


乾いた草と葉を厚めに敷く。


九人いる。


一つ作っただけでは足りない。


少し離して。


もう一つ。


さらに。


食料や荷物を地面へ直接置かなくて済むよう、低い棚も作った。


ゼフが完成した寝床の柱を押す。


びくともしない。


「大丈夫だ」


カイも押してみる。


「結構しっかりしてる」


ディルクが縄の結び目を見る。


「この結び方も使えるな」


カイは少し嬉しくなった。


最初は。


父に教わった結び方を、一人で何度も練習していた。


今では。


こうして実際に誰かの役に立っている。


「カイ」


ナタリーに呼ばれる。


「次は火だ」


「あ、うん」


カイは立ち上がった。


⸻


海を見渡せる場所まで移動する。


石をいくつも運び。


円形に並べる。


中央へ薪を置く。


ディルクが火をつけると。


ぱち。


ぱちぱち。


小さかった火が。


少しずつ薪へ移っていった。


アレンが焚き火を見る。


「これは消さないのか?」


「見張りがいる間は残す」


ナタリーが答える。


ディルクが荷物の中から、いくつかの束を取り出した。


黒い樹脂を塗った樹皮。


その上から。


湿った草と葉が巻かれている。


カイが近づく。


「それが合図に使うやつ?」


「ああ」


ディルクが一束だけ持つ。


「試しておこう」


火へ入れた。


じゅっ。


炎が一瞬弱くなる。


その直後。


もくっ――。


濃い黒煙が立ち上った。


カイが見上げる。


「すご……」


普段の焚き火とは。


一目で違う。


太く。


黒い煙。


風に揺れながらも、はっきり空へ伸びている。


ノアが煙を目で追う。


「これなら森の中からでも分かる」


アレンも頷いた。


「多少離れていても見落とさないな」


ナタリーが全員を見る。


「何か異変があれば、この束を火へ入れる」


黒煙を指す。


「森へ入っている時にこれを見たら、すぐに戻れ」


カイが頷く。


「分かった」


レオン。


リシア。


ミーナ。


ゼフ。


アレン。


ノア。


全員が続いて頷いた。


ディルクは試しに入れた束を火から取り出し。


砂をかけて消す。


残りの束は。


焚き火のすぐ横へ置いた。


ノアが手を伸ばし。


位置を確かめる。


「ここならすぐ使える」


ナタリーが頷いた。


⸻


少し休むと。


ナタリーが全員を集めた。


「最初は、私とディルクが海を見る」


アレンとノアへ顔を向ける。


「二人も残ってくれ」


「分かった」


アレンが答える。


ノアも頷く。


「俺は森側も見る」


「頼む」


ナタリーは残った五人を見る。


カイ。


レオン。


リシア。


ミーナ。


ゼフ。


「食料を取ってきてくれ」


ゼフが立ち上がる。


「狩ればいいんだな」


「ああ。ただし遠くまで行きすぎるな」


「分かった」


リシアが袋を持つ。


「食べられる物も見る」


ミーナもすぐ横へ立つ。


「私も」


レオンが二人を見る。


「狩りが先だからな?」


「分かっている」


「分かってるよ」


二人がほとんど同時に答える。


カイが笑った。


「レオン、諦めた方がいいよ」


「お前もそっち側だろ」


「俺はちゃんと狩るって」


「鑑定で変なの見つけたら絶対止まるだろ」


「……それは」


レオンが指を差す。


「ほら」


ナタリーが息を吐く。


「日が落ちる前には戻れ」


「はい」


カイが答えた。


五人は森へ入った。


⸻


海岸から離れていく。


さっきまで大きく聞こえていた波の音が。


少しずつ遠くなっていく。


ゼフが先頭。


その後ろにレオン。


リシアとミーナは。


左右の植物にも目を向けながら進んでいる。


カイは時々。


海岸側の空を振り返った。


まだ。


黒煙は上がっていない。


「気になる?」


ミーナが聞く。


「ちょっとね」


「何もないといいね」


「うん」


その時。


リシアが足を止めた。


「足跡」


全員が止まる。


土の上。


二つに割れた蹄の跡が残っている。


レオンがしゃがんだ。


「鹿だな」


カイも隣へ。


「鑑定」


⸻


《鑑定 Lv.1》


対象:獣の足跡


状態:新しい


⸻


「新しいって」


「なら近くにいるかもしれないな」


レオンが立ち上がる。


リシアは少し先を見る。


「こっちにもある」


ゼフが斧の柄へ手をかけた。


「追うか?」


「ああ」


レオンが答える。


五人は。


残された足跡を追い始めた。


⸻


途中。


低い枝に灰色の毛が引っかかっていた。


カイが近づく。


「鑑定」


⸻


《鑑定 Lv.1》


名称:灰角鹿の体毛


状態:新しい


用途:防寒素材


⸻


「灰角鹿だ」


ミーナが少し嬉しそうな顔をする。


「なら、お肉も取れるね」


レオンが横を見る。


「薬草に詳しいんじゃなかったのか?」


「お肉も食べるよ?」


「そりゃそうだけど」


リシアが毛を見る。


「近いな」


そこからは。


全員が声を落とした。


足跡。


折れた草。


低い位置で千切れた葉。


一つずつ追っていく。


しばらくして。


赤い実のなった低木の前で。


リシアとミーナが同時に止まった。


レオンも足を止める。


「ほら」


「まだ何も言ってない」


ミーナが赤い実を一粒見る。


「これ、集落の近くにはないよ」


リシアがカイを見る。


「鑑定」


「分かったよ」


カイが笑いながら赤い実へ意識を向ける。


「鑑定」


⸻


《鑑定 Lv.1》


名称:赤房の実


状態:完熟


用途:食用


特徴:強い酸味


⸻


「食べられる。でもかなり酸っぱいみたい」


ミーナが一粒摘む。


リシアも一粒。


レオンが嫌そうな顔をした。


「二人とも食うのかよ」


「食べられる」


リシアが答える。


二人が。


ほぼ同時に口へ入れた。


「…………」


「…………」


同時に顔をしかめる。


レオンが笑った。


「同じ顔してるぞ!」


「うるさい」


リシアが睨む。


ミーナは口元を押さえている。


「酸っぱ……」


カイも笑う。


「だから言ったじゃん」


「でも」


ミーナが残っている実を見る。


「肉に合わせたら美味しいかも」


リシアがすぐ頷く。


「私もそう思う」


レオンがカイを見る。


「本当に二人になったな」


「言ったでしょ」


二人は。


赤房の実をいくつか摘み、袋へ入れた。


ゼフが周囲を見たまま言う。


「行くぞ」


「あ、はい」


五人は。


再び灰角鹿の跡を追った。


⸻


少しして。


ゼフが片手を上げた。


全員が止まる。


木々の奥。


ざっ。


何かが草を踏む音。


リシアが。


木の陰からゆっくり覗く。


その先。


灰色の大きな身体。


頭には。


立派な灰色の角。


灰角鹿。


草を食べている。


カイも。


木の陰からその姿を見る。


「鑑定」


⸻


《鑑定 Lv.1》


名称:灰角鹿


分類:獣


状態:警戒なし


特徴:脚力が高い


弱点:首元


⸻


「首が弱い」


カイが小声で伝える。


レオンが頷いた。


「俺とゼフが前へ出る」


リシアが左を見る。


「こっちを塞ぐ」


ミーナは弓を手に取った。


「私は右を見る」


カイは。


灰角鹿へ視線を戻す。


「俺は動きを見る」


五人が。


少しずつ位置を変える。


音を立てないように。


ゆっくり。


灰角鹿はまだ気づいていない。


レオンが。


ゼフを見る。


ゼフが一度頷く。


次の瞬間。


レオンが地面を蹴った。


ざっ!


灰角鹿が顔を上げる。


耳が立つ。


一瞬で。


走り出した。


カイの視界に。


《予測》の線が伸びる。


「左!」


灰角鹿が左へ逃げる。


だが。


その先にはリシア。


すぐに方向を変えた。


右。


ミーナが弓を引く。


矢が。


灰角鹿の少し前へ突き刺さる。


さらに進路が変わる。


「ゼフ!」


ゼフが前へ出た。


大きな身体が。


逃げ道を塞ぐ。


灰角鹿が急激に向きを変える。


その先へ。


レオンも回り込む。


「逃がすか!」


また。


灰角鹿が曲がる。


赤い線が。


カイの目の前へ伸びた。


「来る!」


カイが一歩前へ出る。


灰角鹿が。


カイの姿を見て、直前で大きく方向を変えた。


「ゼフ!」


カイが叫ぶ。


その先へ。


ゼフが踏み込む。


斧を振る。


一撃。


灰角鹿が。


地面へ崩れ落ちた。


森が静かになる。


カイは息を吐いた。


「……取れた」


レオンが近づいてくる。


「今の誘導、よかったな」


「見えてたから」


ゼフが。


倒れた灰角鹿を見る。


「十分な大きさだ」


ミーナとリシアも近づく。


「これなら何食分か取れそう」


ミーナが言う。


リシアは。


さっき取った赤房の実を持ち上げた。


「これを使う」


レオンの顔が曇る。


「やっぱり使うの?」


「使う」


「俺の分は普通に焼いてくれよ」


「同じものを食べる」


「何でだよ」


カイが笑う。


その時だった。


視界に。


新しい文字が浮かんだ。


⸻


《鑑定の熟練度が一定値に達しました》


《鑑定 Lv.1 → Lv.2》


⸻


「あ」


レオンが見る。


「どうした?」


「鑑定のレベル上がった」


ミーナも近づく。


「何が変わったの?」


「分かんない」


リシアが灰角鹿を見る。


「もう一度使えば分かる」


「そうだね」


カイも灰角鹿へ視線を戻した。


「鑑定」


⸻


《鑑定 Lv.2》


名称:灰角鹿


分類:獣


状態:死亡


食用:可能


特徴:脂肪が少なく、腿肉と背肉は柔らかい


注意:胆嚢は強い苦味を持つ


弱点:首元/腹部


⸻


「……増えた」


リシアがすぐ聞く。


「何が?」


「さっきより詳しい」


「肉は?」


「そこ?」


レオンが笑う。


カイは表示を見る。


「腿と背中が柔らかいって」


ミーナも頷く。


「じゃあそこから使おう」


レオンが二人を見る。


「食べる話になると早いな」


「重要だ」


「重要だよ」


リシアとミーナの声が重なる。


カイが笑った。


「本当に似てるね」


二人が同時に見る。


「何が?」


「何でもないです」


カイはすぐに目を逸らした。


⸻


灰角鹿を運ぶため。


その場で血を抜き。


ゼフとレオンが縄をかけ始める。


カイもその横で手伝っていた。


「これなら二人で持てる?」


「俺一人でも――」


ゼフが言いかける。


レオンが遮る。


「二人で持つ!」


ゼフがレオンを見る。


「そうか」


「何でも一人でやろうとするなよ」


「できるからな」


「そういう問題じゃない」


カイが笑いながら縄を締める。


その時。


ミーナの声がした。


「……あれ」


カイが顔を上げる。


「何?」


ミーナは。


木々の向こうを見ていた。


海岸の方角。


指を差す。


カイも見る。


木々の隙間。


空へ。


一本。


黒い煙が伸びている。


「……黒煙」


カイの顔から笑みが消えた。


レオンも振り返る。


その瞬間。


表情が変わる。


「戻るぞ!」


縄から手を離す。


ゼフもすぐ斧を持ち直した。


リシア。


ミーナ。


カイ。


全員が走り出す。


灰角鹿は。


その場へ残した。


⸻


森を駆ける。


レオン。


ゼフ。


リシア。


カイ。


ミーナ。


誰も足を緩めない。


枝をかわす。


木の根を飛び越える。


斜面を駆け下りる。


「まだ上がってる!」


カイが木々の隙間から空を見る。


黒煙は。


まだ消えていない。


「ああ!」


レオンが前を向いたまま答える。


何が起きた。


タイドリザードか。


別の魔物か。


それとも。


海の向こうから。


何かが来たのか。


波の音が聞こえ始める。


潮の匂い。


近い。


「もうすぐだ!」


レオンの声。


木々が薄くなる。


光。


海。


「ナタリー!」


五人が。


砂浜へ飛び出した。


⸻


最初に見えたのは。


黒煙だった。


焚き火の中に。


合図用の束が入っている。


その先。


ナタリー。


ディルク。


アレン。


ノア。


全員。


立っていた。


カイは。


まず四人を見る。


血は見えない。


倒れている者もいない。


「……よかった」


小さく息を吐く。


だが。


四人は。


こちらを見ていなかった。


全員。


同じ方向を見ている。


海岸。


カイも。


そちらへ視線を向けた。


そこに。


四人。


見知らぬ者が立っていた。


「……誰?」


レオンとリシアたちも足を止める。


ナタリーが。


一度だけこちらを見る。


「来たか」


レオンが息を整えながら聞く。


「何があった?」


ナタリーは。


すぐに正面へ視線を戻した。


「海から来た」


「海から?」


カイは。


見知らぬ四人を見る。


最初は。


人間に見えた。


だが。


明らかに違う。


先頭に立つ男。


大柄な身体。


額の左右から。


後ろへ向かって伸びる二本の角。


頬から首。


肩。


両腕。


そして。


服の隙間から見える胸元にも。


赤黒い鱗が広がっている。


腰には剣。


その後ろ。


細身の男にも角がある。


鱗は先頭の男ほど多くないが。


首筋から肩。


前腕にかけて広がっている。


もう一人の男。


角はやや短い。


鱗は首元と片腕を中心に見える。


そして。


最後の女性。


四人の中では。


最も鱗が少ない。


頬。


手の甲。


首元に。


赤い鱗がわずかに見える。


全員。


腰に剣を差している。


だが。


誰も抜いてはいない。


ナタリーも動かない。


アレンは。


弓へ手を伸ばせる位置。


ノアも。


四人から目を離さない。


カイは警戒したまま。


四人の周囲へ視線を動かした。


そこで。


その後ろにあるものへ気づく。


波打ち際。


木で作られた小さな乗り物。


一本の帆柱。


帆。


舵。


「……船」


昨夜。


何度も調べたものだ。


形は。


昨夜見たものと少し違う。


それでも。


すぐに船だと分かった。


大きくはない。


四人が乗り。


最低限の荷物を積めば。


それだけでかなり狭そうだった。


ディルクが小さな声で聞く。


「あれが船か?」


「うん」


「昨日話していた、水の上を進むものか」


「そう」


カイは再び。


四人へ視線を戻した。


波だけが。


砂浜へ寄せては引いていく。


カイは。


一番前の男を見る。


さっき。


《鑑定》はLv.2になった。


意識を向ける。


「鑑定」


⸻


《鑑定 Lv.2》


名前:ガルド


種族:龍人族


LEVEL:29


SKILL


《剣術 Lv.6》


《火魔法 Lv.5》


《精神統一 Lv.5》


《???》


特性:???


弱点:???


⸻


カイの目が。


LEVELの数字で止まる。


「……二十九」


小さく呟く。


次。


その後ろに立つ細身の男。


⸻


《鑑定 Lv.2》


名前:ヴァン


種族:龍人族


LEVEL:26


SKILL


《剣術 Lv.5》


《火魔法 Lv.5》


《???》


特性:???


弱点:???


⸻


次。


もう一人の男。


⸻


《鑑定 Lv.2》


名前:ロウガ


種族:龍人族


LEVEL:24


SKILL


《剣術 Lv.5》


《火魔法 Lv.4》


《鍛造 Lv.4》


《???》


特性:???


弱点:???


⸻


最後。


女性。


⸻


《鑑定 Lv.2》


名前:ミラ


種族:龍人族


LEVEL:22


SKILL


《剣術 Lv.4》


《火魔法 Lv.4》


《???》


特性:???


弱点:???


⸻


二十九。


二十六。


二十四。


二十二。


カイは。


ゆっくり表示から目を離した。


「……強い」


レオンが小さな声で聞く。


「分かるのか?」


「うん」


カイは四人を見る。


「全員、俺よりずっと上だ」


レオンの表情が引き締まる。


その時。


先頭の男――ガルドが。


一歩。


前へ出た。


ざっ。


ナタリーの姿勢がわずかに低くなる。


レオンも。


腰の武器へ手を伸ばす。


だが。


ガルドはそこで止まった。


剣には触れない。


両腕を身体の横へ下ろしたまま。


深く。


頭を下げた。


「突然この地を訪れたこと、まずは詫びたい」


誰も。


すぐには答えない。


ガルドが。


ゆっくり頭を上げた。


「私はガルド」


後ろへ視線を向ける。


「ヴァン」


ヴァンが静かに頭を下げる。


「ロウガ」


ロウガも続く。


「ミラ」


ミラも。


姿勢を正して一礼した。


ガルドが再び正面を向く。


「我らは、火ノ島より来た龍人族だ」


カイは。


改めて四人を見る。


龍人族。


鑑定で見えたものと同じだ。


ナタリーは。


まだ四人から目を離さない。


「私はナタリーだ」


ガルドが小さく頷く。


ナタリーが続ける。


「この地へ来た理由を聞かせてもらいたい」


ガルドは。


一度だけ自分たちの剣へ視線を落とした。


「無断で足を踏み入れたことは、重ねて詫びる」


そして。


ナタリーを見る。


「争いを求めて来たわけではない」


ナタリーは何も答えず。


続きを待った。


ガルドが。


海の向こうへ視線を向ける。


山の見える大地。


昨日。


カイたちが初めて見つけた場所。


「あの地が、火ノ島だ」


「火ノ島……」


カイも。


その先を見る。


ガルドが続ける。


「大地が激しく揺れた日」


カイの眉が動く。


「地震……」


「地震?」


ガルドがカイを見る。


「俺の世界では、大地が大きく揺れることをそう呼ぶ」


「そうか」


ガルドが短く頷く。


「その地震の後だった」


ガルドは。


今カイたちが立っている大地へ目を向ける。


「突然、この土地が現れた」


ナタリーと。


ディルクが顔を見合わせる。


こちらと同じ。


昨日まで。


火ノ島はなかった。


そして。


火ノ島から見ても。


こちらの大地は存在していなかった。


ガルドは続ける。


「その後、巫女セラが予言を告げた」


その名前が出た瞬間。


ヴァン。


ロウガ。


ミラ。


三人の姿勢がわずかに正された。


「巫女?」


カイが聞く。


ガルドが答える。


「我ら龍人族は、始祖ラグニルを崇めている」


「ラグニル……」


「龍人の始祖」


その名を口にするガルドの声には。


強い敬意があった。


「巫女セラは、ラグニルへ祈りを捧げ、我らの進む道を示す者」


ガルドは。


カイたちが立つ大地を見る。


「この地が現れた後」


「巫女は告げた」


波が。


砂浜へ打ち寄せる。


ガルドが。


ゆっくり口を開く。


「新たに現れた地に――」


その目が。


真っ直ぐ前を向く。


「龍人族を救う光が現れる、と」


「……光?」


カイの胸が。


どくんと鳴った。


光。


その言葉に。


自分が持つものが頭をよぎる。


だが。


今は何も言わなかった。


ナタリーがガルドを見る。


「龍人族を救うとは、どういう意味だ?」


そこで。


初めて。


ガルドの表情が少しだけ変わった。


硬い顔。


その奥に。


重いものが見える。


ミラも。


わずかに目を伏せた。


「火ノ島では」


ガルドが静かに言う。


「子どもたちの間で、病が広がっている」


カイの表情が変わる。


「病……?」


「ああ」


「子どもだけ?」


「今のところは」


ガルドが頷く。


「初めは熱が出る」


少し間を置く。


「その後、身体から力が失われていく」


ミラの手が。


静かに握られた。


「食べることもできなくなり」


「やがて――」


ガルドが。


一度口を閉じる。


砂浜に。


波の音だけが残った。


「命を落とす」


誰も。


すぐには言葉を出せなかった。


ナタリーが聞く。


「原因は?」


ガルドが首を横に振る。


「分からぬ」


短い答え。


「薬師たちも手を尽くした」


「使う薬草を変え」


「調合を変え」


「巫女セラも祈りを続けている」


ガルドの拳が。


ゆっくり握られる。


「だが」


「病は止まらぬ」


ミラが。


わずかに唇を噛んだ。


ガルドは続ける。


「我らには、傷や病を魔法で癒やせる者もいない」


少し。


間が空く。


「薬と祈り」


「今の我らにできるのは、それだけだ」


カイは。


何も言えなかった。


ガルドが。


低い声で続ける。


「すでに」


一度。


言葉が止まった。


「多くの子が命を落とした」


カイの胸が。


重くなる。


「……そんなに」


「ああ」


ガルドは短く答えた。


その表情は。


ほとんど変わらない。


それでも。


握られた拳だけが。


さらに強くなる。


強い。


カイには分かる。


LEVEL29。


LEVEL26。


LEVEL24。


LEVEL22。


剣術。


火魔法。


四人とも。


カイより遥かに高いLEVELを持っている。


それでも。


病気の子どもを。


救うことはできない。


「だから」


ガルドが言う。


「巫女セラの言葉を無視することはできなかった」


後ろにある小さな船を見る。


「我ら四人が」


「この地を確かめる役目を受けた」


カイは。


黙ったままガルドを見ていた。


原因の分からない病。


何をしても治らず。


すでに。


何人もの子どもが命を落としている。


その話を聞いているうちに。


カイの頭には、一つの可能性が浮かんでいた。


少し迷ってから。


口を開く。


「……俺なら」


ガルドがカイを見る。


「その病気の原因……分かるかもしれない」


ガルドの表情が変わった。


「何?」


ヴァン。


ロウガ。


ミラも。


一斉にカイを見る。


「絶対じゃないよ」


カイはすぐに続けた。


「実際に病気の子を見ないと分からないし、本当に原因まで分かるかも分からない」


一度。


言葉を止める。


「でも……何か見つけられるかもしれない」


ガルドが。


カイをまっすぐ見る。


「それは」


少し間を置く。


「火ノ島へ来れば、分かるのか?」


「多分――」


「待て」


ナタリーの声が。


カイの言葉を止めた。


カイが振り返る。


「ナタリー?」


ナタリーは。


険しい表情でカイを見ていた。


「簡単に決めるな」


「でも……」


「火ノ島がどんな土地なのか、私たちは何も知らない」


ナタリーが。


ガルドたちを見る。


「この者たちの話を疑っているわけではない」


ガルドは。


黙ってナタリーの言葉を聞いている。


「だが」


ナタリーは。


再びカイを見る。


「そこに他に何がいるのか」


「どんな魔物がいるのか」


「危険がないのか」


「私たちは何一つ知らないんだ」


カイは。


何も言えなかった。


その通りだった。


昨日まで。


火ノ島が存在することすら知らなかった。


美緒に聞かれた時も。


自分で言った。


何がいるか分からない。


だから。


怖い。


その気持ちは。


今だって変わっていない。


カイは。


海の向こうを見る。


それでも。


頭に浮かぶのは。


ガルドから聞いた話だった。


熱が出て。


身体から力がなくなり。


食べることすらできなくなる。


そして。


命を落とす。


しかも。


それが子どもたちに起きている。


「……でも」


カイが口を開く。


ナタリーが見る。


「子どもがそんな目に遭ってるって聞いて……見過ごせないよ」


ナタリーの眉が。


わずかに動いた。


「俺に何もできないなら」


カイは続ける。


「行ったって仕方ないと思う」


「でも」


ガルドたちを見る。


「俺なら、原因を見つけられるかもしれない」


カイは。


少しだけ拳を握った。


「だったら……何もしないでいる方が嫌だ」


ナタリーは。


すぐには答えなかった。


しばらく。


カイを見ている。


「カイ」


その声は。


さっきより静かだった。


「助けたいという気持ちだけで、危険な場所へ行っていいわけではない」


「分かってる」


カイは。


すぐに答えた。


「今すぐ行くって決めてるわけじゃないよ」


ナタリーが黙って聞く。


「もっと話を聞きたい」


カイはガルドを見る。


「火ノ島がどんなところなのか」


「病気になった子が今どれくらいいるのか」


そして。


波打ち際にある小さな船へ目を向ける。


「どうやって行くのかも」


もう一度。


ナタリーを見る。


「ちゃんと聞いてから考えたい」


ナタリーは。


しばらくカイを見つめた。


やがて。


小さく息を吐く。


「……分かった」


カイの表情が少し緩む。


「まずは」


ナタリーがガルドを見る。


「詳しく話を聞こう」


ガルドが。


深く頷いた。


「ああ」


カイも。


もう一度。


海の向こうを見る。


火ノ島。


昨日までは。


ただの未知の大地だった。


今は。


そこに。


助けを待っているかもしれない子どもたちがいる。


波が。


静かに砂浜へ打ち寄せていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。