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ドリームライド〜異世界創造、夢の旅〜  作者: 神谷 夢


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第17話 海の向こう

第17話 海の向こう


昼休み。


教室には、弁当の蓋を開ける音と、生徒たちの話し声が入り混じっていた。


カイたちも、いつものように机を寄せている。


悠斗が弁当を開くなり、眉を寄せた。


「唐揚げ一個しかない」


「あるならいいじゃん」


カイは自分の弁当に箸を伸ばす。


悠斗の視線が、その手元で止まった。


「……お前、二個あるな」


「見るなよ」


「見えたんだよ」


美緒が笑う。


「欲しいなら普通に言えばいいのに」


「美緒、分かってないな」


「何が?」


「こういうのは交渉なんだよ」


カイが箸を止めた。


「じゃあ、何くれる?」


悠斗が自分の弁当を覗き込む。


「卵焼き」


「一個?」


「一個」


「いらない」


「二個!」


「成立」


「早っ。絶対俺が損してるだろ」


文句を言いながら、悠斗は卵焼きを二つ差し出した。


カイも唐揚げを一つ渡す。


悠斗はすぐに口へ放り込んだ。


「うま」


「結局すぐ食べるんじゃん」


美緒が呆れたように笑う。


「交渉成立したからな」


「それ、交渉っていうの?」


「言う」


「たぶん言わない」


カイも笑った。


「俺もそう思う」


「二対一ずるくね?」


そんなくだらない話をしながら、昼休みは過ぎていく。


しばらくして、悠斗が後ろの席から呼ばれた。


「ちょっと行ってくる」


悠斗が席を離れる。


カイも空になった弁当箱を片づけ始めた。


その時。


「カイ」


美緒が声をかける。


「ん?」


「今日さ……」


少しだけ迷ってから。


「一緒に帰らない?」


カイが顔を上げる。


「今日?」


「うん」


「俺、部活あるよ?」


「知ってる」


「結構待つと思うけど」


「図書室で課題やってるから大丈夫」


「いいの?」


「うん」


そこまで言ってから、美緒は少し声を落とした。


「昨日の話……ちょっと気になって」


「ああ……」


それだけで、何の話かは分かった。


「分かった。終わったら連絡する」


「うん」


美緒が小さく笑う。


ちょうどそこへ、悠斗が戻ってきた。


「何の話?」


「何でもない」


美緒が答える。


「俺がいなくなった瞬間に?」


カイが適当に返す。


「数学教えてほしいって」


「マジで? じゃあ俺も――」


「嘘」


「おい!」


チャイムが鳴った。


三人は笑いながら、それぞれの席へ戻っていった。


⸻


放課後。


グラウンドには、普段より張り詰めた空気があった。


大会が近い。


基礎練習を終えると、すぐにゲーム形式へ移った。


「大会まで時間ないぞ!」


顧問の黒田の声が飛ぶ。


「試合のつもりでやれ!」


「はい!」


部員たちの声が重なる。


笛が鳴った。


すぐにボールが動き始める。


「カイ!」


右から来たボールを、カイが足元へ収めた。


顔を上げる。


正面に一人。


その後ろに、もう一人。


相手の足。


腰。


肩。


視線。


重心。


《観察》。


そこへ《予測 Lv.3》を重ねる。


視界の中に、いくつもの進路が伸びた。


右。


左。


後ろ。


その中の一本が赤く変わる。


カイは右へ身体を向けた。


相手が反応する。


重心が動いた。


次の瞬間。


赤い線が変わる。


左。


カイは迷わず切り返した。


「っ!」


相手の身体だけが右へ残る。


その横を抜いた。


「カバー!」


二人目が前へ出る。


だが、カイはその選手だけを見ていなかった。


右を走る悠斗。


中央へ入っていく陸。


一度、悠斗を見る。


相手の視線も引かれる。


カイが身体を開いた。


悠斗へ出す。


そう見えた瞬間。


中央へ一本の赤い線が通った。


「陸!」


カイは縦へ蹴る。


ボールは二人の間を抜ける。


走り込んだ陸が、ぴたりと受けた。


そのまま右足を振る。


バシッ――!


ゴールネットが揺れた。


「ナイス!」


陸が拳を上げる。


カイも手を上げて返した。


戻る途中。


悠斗が横へ並ぶ。


「今、絶対俺に出すと思った」


「相手もそう思ってた」


「だから俺使ったの?」


「うん」


「性格悪っ」


「いい仕事したじゃん」


「勝手に使うなよ!」


悠斗は文句を言いながら笑っていた。


すぐに再開。


今度は守備。


カイはボールを持つ相手だけを見ない。


その左右。


後ろ。


悠斗。


陸。


次にボールが入りそうな場所。


《観察》で拾った情報へ、《予測》を重ねる。


右。


中央。


縦。


一本が赤く変わった。


相手が蹴るより先に、カイは走り出していた。


バシッ。


パスを奪う。


「また!?」


そのまま反転。


前へ。


相手が身体を寄せてくる。


肩がぶつかった。


「っ!」


だが。


カイの身体はほとんど流れなかった。


逆に相手の方が半歩外へ弾かれる。


カイは止まらない。


そのまま加速。


一人。


二人。


追いつかれない。


「速っ!」


後ろから声が飛ぶ。


ゴール前。


キーパーを見る。


《予測》。


右へ飛ぶ。


赤。


カイは左隅へ蹴り込んだ。


バシンッ――!


ゴール。


「ナイス、カイ!」


カイは軽く拳を握った。


再開しても、勢いは落ちなかった。


相手の縦パス。


コースは見えている。


以前なら。


出る場所が分かっていても、届かなかったはずの距離。


踏み込む。


「……!」


自分でも驚くほど身体が前へ出た。


足先がボールへ届く。


奪う。


そのまま前へ。


陸が左。


悠斗が右。


二人の動き。


相手の位置。


赤い線が次々と切り替わっていく。


中央へ運ぶ。


一人が寄る。


二人目も来る。


足が出る前に、ボールをずらす。


二人の間を抜ける。


「マジか!」


その先。


三人目。


カイは一度、身体を沈めた。


相手が止まる。


その横へ一気に抜けた。


「カイ、今日やばくね?」


声が聞こえる。


カイ自身にも分かっていた。


《予測》だけじゃない。


身体がついてくる。


見えた場所へ、余裕を持って入れる。


足を出せる。


当たり負けしない。


何度走っても、まだ動ける。


次。


陸へ出す。


陸がワンタッチで悠斗へ。


悠斗が返す。


カイはもう、その先へ走っている。


ボールが来る前から。


ゴール前に赤い線。


受ける。


そのままシュート。


ゴール。


「またかよ!」


相手側から声が上がる。


悠斗が笑う。


「今日のお前、反則だろ!」


「知らないよ!」


「誰も止められてねえじゃん!」


相手もカイへ人数を寄せ始める。


「カイ見るぞ!」


「二人行け!」


左右から二人。


それでも。


どちらが先に来るのか。


二人の間にどこで隙間が生まれるのか。


全部見えている。


一人目が足を出す。


その前に触る。


二人目が身体を寄せる。


逆へ。


二人の間を抜けた。


「嘘だろ!」


カイから笑いがこぼれる。


楽しい。


見える。


そして。


身体が、その通りに動く。


最後の一本。


カイが中央でボールを受けた。


正面から三人。


悠斗が右。


陸が左。


相手の視線。


足の向き。


いくつもの線。


その中に。


三人の間を抜け、悠斗へ繋がる一本の赤い線。


「悠斗!」


カイが足の外側でボールを押し出した。


狭い隙間を通り抜ける。


「うおっ!」


悠斗が走り込む。


そのままシュート。


ゴール。


ピーッ――!


黒田の笛が鳴った。


「終了!」


悠斗が振り返る。


「カイ! 今のパス何だよ!」


「入ったじゃん」


「いや入ったけど!」


陸も寄ってくる。


「今日のカイ、ほんと止められないな」


「自分でもちょっとびっくりしてる」


「ちょっとどころじゃないだろ」


三人が話していると。


「神谷!」


黒田の声が飛んだ。


「はい!」


カイが振り返る。


黒田は腕を組んだまま、カイを見る。


「今日の動き、忘れるなよ」


「はい!」


「周りもよく見えてる。身体も動いてる」


「はい」


「大会でも、それくらいやってくれ」


「はい!」


黒田が少し笑う。


「期待してるぞ」


「はい!」


カイは大きく返事をした。


大会。


その言葉が。


今日は、今までよりずっと近く感じた。


⸻


練習を終え。


着替えを済ませたカイはスマホを見る。


美緒からメッセージが届いていた。


『図書室にいるよ』


カイは、


『今終わった』


と返した。


少しして。


鞄を持った美緒が図書室から出てくる。


「お疲れ」


「待たせた?」


「大丈夫。課題終わった」


「じゃあ良かったじゃん」


「カイ待ってなかったら、途中でやめてたかも」


「じゃあ俺のおかげじゃん」


「それは違う」


「何でだよ」


二人で笑いながら昇降口へ向かう。


校門を出る。


最初は、いつもの話だった。


授業。


悠斗。


部活。


そして。


「大会、もう近いんだよね?」


美緒が聞く。


「うん」


「今日、練習どうだった?」


カイは少し考えたあと。


「めちゃくちゃ良かった」


と答えた。


美緒が少し驚く。


「珍しく自分で言うじゃん」


「本当によかったんだって」


「そんなに?」


「うん」


「じゃあ、期待しとく」


「プレッシャーかけないでよ」


「自分でめちゃくちゃ良かったって言ったんじゃん」


「それとこれは別」


美緒が笑った。


学校から離れるにつれ、周りを歩く生徒も少なくなっていく。


住宅街へ入った頃。


美緒が少し静かになった。


何度か、横を歩くカイを見る。


そして。


「……カイ」


「ん?」


少し間を置いて。


「昨日も……行ったの?」


何のことかは、すぐに分かった。


「……うん」


「どうだった?」


「色々あったよ」


「また危ないこと?」


「……それもあった」


美緒の表情が曇る。


「やっぱり」


「でも、それだけじゃないよ」


カイは昨日の景色を思い出す。


「海ができてた」


「……海?」


「うん」


美緒がカイを見る。


「今までなかったところに?」


「そう。昨日までは何もなかった」


「急に?」


「うん」


「そんなことあるんだ……」


「俺もびっくりした」


カイは前を見ながら続ける。


「しかも、その向こうに大きな陸地も見えた」


「陸地?」


「うん。山もあった」


美緒は少し考える。


「じゃあ……また世界が広がったってこと?」


「多分」


「すごいね……」


「うん」


しばらく歩く。


美緒が聞いた。


「危ないことって?」


「ああ……」


カイが少し苦笑する。


「帰りにモンスターが出た」


「また?」


「四体」


「四体も!?」


「でも、一人じゃなかったし。何人か一緒だったから」


「怪我は?」


「してない」


「本当に?」


「本当」


美緒の視線がカイの顔から腕へ動く。


さらに足元。


怪我がないか確かめているのが分かった。


「……なら、よかった」


それでも。


まだ心配そうだった。


「そこでレベルも上がった」


「今いくつ?」


「十二」


「強くなった?」


「うん。かなり」


「そっか……」


カイは、もう一つ思い出した。


「あと、新しいスキルも覚えた」


「どんなの?」


「鑑定」


「鑑定?」


「見たものの情報が分かる」


「例えば?」


「モンスターなら特徴とか弱点。植物なら薬になるとか、毒があるとか」


「そんなことまで分かるの?」


「うん」


美緒が少し考える。


「人にも使えるの?」


「まだ人には試してない」


カイも美緒を見る。


「でも、多分できると思う」


「じゃあ……私にやってみる?」


「いいの?」


「うん」


「本当に?」


「いいって」


美緒が笑う。


カイは足を止めた。


美緒へ意識を向ける。


「じゃあ……鑑定」


すぐに。


視界へ半透明のウィンドウが浮かんだ。


⸻


《鑑定 Lv.1》


名前:桜井 美緒


年齢:15歳


状態:健康/やや不安


特技:料理


備考:カイの身を案じている/カイに好意を持っている


⸻


「…………」


カイの目が、最後の一行で止まった。


カイに好意を持っている。


「……え?」


もう一度見る。


変わらない。


「…………え?」


好意。


その意味が分からないわけではない。


十五歳だ。


だからこそ。


頭が追いつかなかった。


頬が一気に熱くなる。


カイは反射的に美緒から視線を逸らした。


「カイ?」


「いや……」


「どうしたの?」


「何でもない」


「何でもない顔じゃないけど」


美緒がじっとカイを見る。


「顔、赤くない?」


「赤くない!」


「赤いよ」


美緒が顔を覗き込んでくる。


「ちょっ……近いって!」


カイが思わず一歩離れた。


美緒が目を丸くする。


「え?」


「いや……ごめん」


「何なの?」


「その……」


本人に。


俺のこと好きって出た。


なんて。


言えるわけがない。


カイは何とか別の項目へ目を向けた。


「健康だった」


「……それは知ってる」


「あと、料理が得意」


「そこまで分かるの?」


「みたい」


美緒も少し驚いている。


「他には?」


「ちょっと不安って出てる」


「不安?」


「俺のこと、心配してるって」


「あ……」


美緒がわずかに視線を逸らした。


「それは……まあ」


「うん」


その下に書かれていることは、言わなかった。


少しだけ。


妙な沈黙が続く。


美緒が横目でカイを見る。


「まだ何か出てた?」


「……言わない」


「何で?」


「言わない方がいいと思う」


「私のことなのに?」


「だからだよ」


「何それ」


美緒が少し笑う。


カイも笑った。


けれど。


顔の熱は、まだ引いていなかった。


「これ……勝手に人に使っちゃ駄目だな」


「そんなに色々分かるの?」


「思ったより」


「じゃあ余計気になる」


「無理」


「ケチ」


「そういう問題じゃないって」


二人はまた歩き始めた。


⸻


その後。


カイは昨日倒したモンスターのことも話した。


「それで、倒したやつを持って帰った」


「持って帰ったの?」


「うん」


「何で?」


「鑑定してみたくて」


「それで?」


「食べられるって出た」


美緒が足を止めかける。


「……食べたの?」


「食べた」


「モンスターを?」


「うん」


「怖くない?」


「最初、めちゃくちゃ臭かった」


「もっと嫌なんだけど」


カイが笑う。


「でも、臭いの原因も分かったんだよ」


「鑑定で?」


「うん。そこを取ったら全然違った」


「おいしかったの?」


「めちゃくちゃ」


「本当に?」


「本当」


カイは昨日の焚き火を思い出す。


焼ける肉。


集まってきたエルフたち。


笑い声。


「最後はみんな集まって、お祭りみたいになってた」


美緒も少し笑った。


「楽しそう」


「うん」


さっきまで強張っていた表情が、少しだけ和らぐ。


また歩く。


しばらくして。


美緒がふと聞いた。


「その向こうの陸地には、行けるの?」


カイは昨日見た大地を思い出した。


海の向こう。


山の見える、大きな陸地。


「船があれば、行けると思う」


「船……」


「うん」


カイは少し考える。


「行ってみたい気持ちはあるけど」


言葉を止める。


「何がいるか分かんないから……正直怖いよ」


美緒は黙った。


二人の足音だけが続く。


そして。


「……本当に、危ないことはしないで」


美緒の声は小さかった。


それでも。


カイには、はっきり聞こえた。


「うん」


カイも短く答えた。


⸻


道が分かれる場所。


美緒が足を止める。


「私、こっちだから」


「うん」


「今日はありがとう」


「美緒が聞きたいって言ったんじゃん」


「そうだけど」


美緒が少し笑う。


「話してくれて、ありがとう」


「……うん」


「じゃあ、また明日」


「また明日」


美緒が歩いていく。


カイも反対へ向かった。


数歩。


歩いたところで。


また頭の中に浮かぶ。


カイに好意を持っている。


「…………」


頬がまた熱くなる。


「どうすりゃいいんだよ……」


美緒のことは昔から知っている。


一緒にいるのも楽しい。


でも。


突然。


こんな形で相手の気持ちを知るとは思っていなかった。


「……今考えても無理だ」


カイは首を振り、そのまま家へ向かった。


⸻


夜。


夕食と風呂を済ませたカイは、自分の部屋でスマホを眺めていた。


帰り道の会話を思い出す。


船があれば、行けると思う。


「……船か」


気になって調べてみる。


小型帆船。


何人かで乗れる木造船。


帆。


舵。


ロープ。


船体。


普段なら、ただ船として見ていたもの。


でも。


実際に海を渡ることを考えると、見る場所が変わった。


風を帆へ受ける。


風向きによって帆の角度を変える。


舵で進む方向を調整する。


次に。


乗れる人数。


飲み水。


食料。


荷物。


ロープ。


道具。


天候。


波。


小さな船ほど、荒れた海の影響を受けやすい。


「船があれば、それで終わりじゃないんだな……」


さらに画面を進める。


木造船の構造。


外側の板。


その内側を支える骨組み。


継ぎ目。


防水。


帆柱。


舵。


「へえ……」


画面を拡大していると。


開いたドアから父が顔を出した。


「何見てるんだ?」


「船」


「船?」


父が部屋へ入ってくる。


「急にどうした」


「ちょっと気になって」


父がスマホを覗く。


「木造船か」


「うん」


画面の骨組みを指す。


「外側の板だけじゃないんだな」


「これ?」


「そう。中に骨組みがある」


「へえ」


「外だけじゃ、力かかった時に形を保てないだろ」


カイは別の画像を見る。


「じゃあ、こういうのがかなり大事なんだ」


「だろうな。俺も船大工じゃないから詳しくは知らないけど」


「そこは知らないんだ」


「知らんものは知らん」


父が笑う。


「あと、木を並べただけじゃ水も入るだろうな」


「やっぱり?」


「そりゃな」


「どうするの?」


「昔なら隙間に繊維を詰めたり、樹脂を使ったりじゃないか?」


「樹脂……」


「そこから先は自分で調べろ」


「途中で投げた」


父が肩をすくめる。


「父さんはAIじゃないからな」


「それは知ってる」


カイが笑う。


父も笑いながら部屋を出ていった。


カイは再び画面を見る。


骨組み。


外板。


防水。


帆。


舵。


ロープ。


一つずつ見ていく。


「……結構大変なんだな」


しばらく調べたあと。


カイはスマホを置いた。


その時。


ふと、今日の部活が頭に浮かぶ。


あのパスカット。


ドリブル。


競り合い。


最後まで落ちなかった運動量。


「……やっぱ、違ったよな」


カイは自分の脚を見る。


相手が何をするのかは、《予測》で分かっていた。


でも。


以前なら。


見えていても、身体が間に合わない場面はあった。


今日は違った。


届いた。


追いついた。


抜けた。


身体を当てられても崩れなかった。


何度走っても、まだ動けた。


カイはステータスを開いた。


⸻


神谷 海


LEVEL:12


⸻


「……十二」


数字を見ながら、今日の感覚を思い返す。


ドリームワールドでLEVELが上がる。


その度に。


現実の自分も変わっている。


それ自体は前から分かっていた。


でも。


今日は、その差がはっきり分かった。


「こんなに変わるんだ……」


手を握る。


開く。


また握る。


大会が近い。


黒田の言葉が蘇る。


『大会でも、それくらいやってくれ』


カイは少し笑った。


「今日くらい動けたら……」


大会でも。


もっとやれる。


《観察》。


《予測》。


そして。


LEVEL12まで上がった自分自身。


その全部が、サッカーにも繋がっている。


「……楽しみだな」


ステータスを閉じた。


ベッドへ横になる。


目を閉じる。


今日の練習。


大会。


海。


船。


そして。


最後に浮かんだのは。


美緒だった。


カイに好意を持っている。


「…………」


カイは目を開けた。


「何で最後それなんだよ……」


布団を少しだけ顔まで引き上げる。


また頬が熱くなる。


しばらくして。


そのまま意識が沈んでいった。


⸻


鳥の声。


カイが目を開ける。


最初に見えたのは、朝の空だった。


身体の下には、昨夜敷いた毛布。


近くには、宴で使った焚き火の跡が残っている。


昨日。


タイドリザードを食べ。


みんなで騒いだあと。


ここで眠った。


カイは身体を起こす。


「……朝か」


毛布を畳んでいると。


昨夜調べた船が頭に浮かんだ。


その瞬間。


視界にCREATIONが開く。


昨日まではなかった項目が増えていた。


⸻


《CREATION》


丸木舟


小型帆船


帆布


木製舵


防水樹脂


船舶用ロープ


⸻


「……出てる」


カイが小型帆船を思い浮かべる。


表示が開いた。


⸻


《小型帆船》


必要DP:2,800


推奨人数:4〜6名


⸻


「高っ……」


今の所持DPでは届かない。


カイは他の項目にも目を向ける。


帆布。


舵。


防水樹脂。


昨夜まで知らなかったものが、CREATIONへ追加されている。


「本当に増えるんだな……」


その時。


後ろから声がした。


「何を見てるんだ?」


「うわっ!」


カイが振り返る。


レオンだった。


「びっくりした!」


「そんな驚くか?」


「後ろから急に話しかけるからだろ」


レオンが笑う。


「悪い悪い」


少し離れたところから。


ナタリーとディルクも歩いてくる。


さらにその後ろ。


リシアもこちらへ向かっていた。


「全員起きてたんだ」


カイが言う。


レオンが笑う。


「お前が最後だ」


「嘘」


「本当」


ディルクが横から言う。


「レオンもさっき起きたところだ」


「言うなよ」


カイが笑う。


「やっぱり」


そこへ来たリシアが、カイを見る。


「昨日の肉、残ってないか?」


「朝一番に聞くことそれ?」


「重要だ」


「残ってないよ」


「そうか」


本気で残念そうな顔をする。


レオンが肩をすくめた。


「相変わらずだな」


ナタリーが四人を見る。


「昨日のことを、長老へ報告しておこう」


ディルクが頷く。


「そうだな。海だけでも大きな話だ」


カイもCREATIONを閉じる。


「行こう」


昨日。


一緒に海まで行った五人。


そのまま揃って、長老のもとへ向かった。


⸻


長老のもとへ着く。


「来たか」


長老が五人を見渡した。


ナタリーが一歩前へ出る。


「はい。昨日のことで、ご報告があります」


「聞こう」


「ありがとうございます」


ナタリーは、昨日の出来事を順番に話し始めた。


森の先。


昨日まで何もなかった場所に。


巨大な水の広がりが現れていたこと。


「カイは、あれを海と呼んでいます」


長老がカイを見る。


「海……」


「うん。俺のいる世界にもある」


ディルクが続ける。


「あの水は、口にすると辛くて喉が痛くなる」


長老の眉がわずかに動いた。


カイが説明する。


「海の水には塩が混ざってるんだ」


「塩?」


「うん。白岩と同じものだと思う」


「白岩と……」


長老が考え込む。


ナタリーが続けた。


「そして、海の向こうには別の大地が見えました」


長老が顔を上げる。


「大地が?」


「はい」


「どれほど離れている?」


「こちらからでも、山が確認できる距離です」


部屋が静かになった。


大地震のあと。


海。


その向こうに現れた大地。


長老はしばらく考えてから。


「……続けてくれ」


「はい」


今度は。


帰り道で遭遇したモンスターについて。


タイドリザード。


四体。


ナタリーとディルクが、戦いの様子を説明する。


そして。


カイがLEVEL12になり、《鑑定》を得たこと。


長老がカイを見る。


「鑑定とは?」


「見たものの情報が分かるスキル」


「どのようなことまで分かる?」


「対象によって違うみたいだけど」


カイは昨日のことを思い返す。


「モンスターなら特徴や弱点。植物なら薬になるとか、毒があるとか」


リシアが口を開く。


「食べ物も分かる」


長老がリシアを見る。


「食べ物?」


ナタリーが横からリシアを見る。


その視線に気づき。


リシアが少しだけ姿勢を正した。


「……食べられる部位や、処理の仕方も分かりました」


レオンが小さく笑う。


カイもつられて口元が緩んだ。


長老が頷く。


「それで昨夜の肉か」


ナタリーが答える。


「はい。カイの鑑定がなければ、食べようとは思わなかったでしょう」


「そうか」


長老がカイを見る。


「大きな力を得たな」


「まだ使い始めたばっかりだけど」


「それでもだ」


カイは少しだけ頷いた。


しばらくして。


ナタリーが長老を見る。


「もう一つ、お願いがあります」


「何だ?」


「海辺については、警戒した方がよいと思います」


長老の表情が引き締まる。


「警戒か」


「はい」


ナタリーは続ける。


「タイドリザードのような魔物が、森の方へ来ないとは限りません」


ディルクも口を開いた。


「海の向こうには、知らない大地まで現れた」


少し間を置き。


「こちらが向こうを見つけたなら、向こうからもこの土地が見えているかもしれない」


長老は黙って聞いている。


ナタリーが続ける。


「何かが森へ入り込んでから気づくのでは遅いかと」


「なるほど」


長老は少し考えた。


やがて。


「海岸に見張りを置こう」


ナタリーが頷く。


「はい。その方がよいと思います」


ディルクも続ける。


「海辺で見ていれば、向こうから何か近づいてきても早く気づける」


長老が頷いた。


「人選は任せてもよいか?」


ナタリーが頭を下げる。


「はい。承知しました」


「必要な者には私からも話しておこう」


「ありがとうございます」


長老が五人を見る。


「何が起こるか分からぬ以上、備えておくに越したことはない」


「はい」


ナタリーが答えた。


レオンが腕を組む。


「見張りか……」


リシアがすぐに言う。


「海辺なら、昨日見られなかったものもあるかもしれない」


レオンが横を見る。


「お前、見張りよりそっちが目的になってないか?」


「見張りはする」


「本当かよ」


「する」


カイが笑う。


ナタリーが四人を見る。


「遊びに行くわけじゃないぞ」


「分かってるって」


レオンが答える。


ナタリーは長老へ向き直った。


「では、準備を進めます」


「頼んだ」


「はい」


五人は長老のもとを後にした。


海の向こうには。


昨日まで存在しなかった大地がある。


そして。


海辺には、タイドリザードのような魔物もいる。


何かが起きてからでは遅い。


カイたちは。


海岸に見張りを立てるため、準備を始めた。

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