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ドリームライド〜異世界創造、夢の旅〜  作者: 神谷 夢


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第16話 鑑定

第16話 鑑定


海を後にし、


五人は集落へ戻る道を歩いていた。


森へ入ると、


背後から聞こえていた波の音が、


少しずつ遠ざかっていく。


レオンが、


歩きながら一度振り返った。


「海、か……」


カイが、


その横を見る。


「気になる?」


「あれだけの水を見て、


気にならない方がおかしいだろ」


ディルクも、


後ろを振り返る。


「次に行く時は、


もう少し調べてみたいな」


「魚もいると思うよ」


リシアが、


すぐに反応した。


「魚?」


「川にいるのとは違うのも、


たくさんいる」


レオンが、


カイを見る。


「食えるのか?」


「最初にそれ?」


「食えるかどうかは大事だろ」


「まあ、


食べられるのも多いけど」


「なら捕まえよう」


「そんな簡単じゃないって」


「弓で射ればいい」


「水の中にいるんだよ」


レオンが、


少し考える。


「……面倒だな」


カイが笑った。


「諦めるの早すぎ」


少し前を歩いていたナタリーが、


振り返る。


「話すのは構わないが、


周囲も見ておけ」


「分かってる」


レオンが答える。


カイも、


森へ視線を戻した。


⸻


しばらく進む。


来る時にも通った、


少し高くなった場所。


木々の隙間から、


青い海が見える。


その向こうには、


新しく現れた大地と、


連なる山々。


カイが、


足を少し緩めた。


「やっぱり、


でかいな……」


その時。


ガサッ。


近くの茂みが、


大きく揺れた。


ナタリーが、


すぐに足を止める。


「止まれ」


全員の空気が変わった。


カイとディルクが、


弓へ手をかける。


レオンとリシアも、


すぐに身構えた。


ガサガサッ――!


低い唸り声。


「グルルルル……」


茂みの中から、


一体の生き物が姿を現した。


四足。


大型犬より、


さらに大きい。


地面すれすれまで低い身体。


黒緑色の皮膚。


背中から尾にかけて、


薄いヒレのような突起が並んでいる。


太い前脚。


指の間には、


水かきのような膜。


口を開く。


鋭い歯が、


何本も並んでいた。


カイの視界に、


ウィンドウが現れる。


⸻


《タイドリザード》


LEVEL:8


⸻


「タイドリザード……」


ナタリーが、


カイを見る。


「知っているのか?」


「いや。


今、名前が出た」


リシアも、


目の前の生き物を見つめる。


「初めて見る」


その直後。


別の茂みが揺れた。


一体。


さらに、


その後ろからもう一体。


⸻


《タイドリザード》


LEVEL:9


⸻


⸻


《タイドリザード》


LEVEL:9


⸻


「三体……」


ディルクが、


矢を番える。


だが。


さらに、


低い唸り声。


木の陰から、


一回り大きな個体が姿を現した。


太い尾が、


地面を擦っている。


⸻


《タイドリザード》


LEVEL:10


⸻


カイが、


弓を握り直した。


「八。


九。


九。


……十」


レオンが、


一番大きな個体を見る。


「十が、


一番強いんだな?」


「うん」


ナタリーが、


一歩前へ出る。


「四体だ。


離れすぎるな」


「分かった」


LEVEL8のタイドリザードが、


身体を低くした。


次の瞬間。


地面を蹴る。


「来るぞ!」


⸻


真っ直ぐ、


カイへ向かってくる。


視界に、


いくつもの線が浮かんだ。


⸻


《予測 Lv.3》


⸻


青。


青。


その中。


一本だけ、


赤い線。


頭。


牙。


そして、


右から尾。


カイは、


ギリギリまで動かない。


タイドリザードが、


口を大きく開いた。


「今!」


横へ踏み込む。


ガチンッ!


牙が、


何もない空間を噛む。


赤い線は、


まだ続いている。


尾。


カイが、


身体を低くする。


ブンッ!


太い尾が、


頭上を通り過ぎた。


「ディルク!」


「ああ!」


ヒュッ――!


ディルクの矢が、


肩へ突き刺さる。


だが。


浅い。


「硬い!」


タイドリザードが、


ディルクへ顔を向ける。


その瞬間。


踏み込んだ前脚の間から、


腹が見えた。


背中とは違う。


皮膚が、


明らかに薄い。


「……そこ!」


カイが、


矢を番える。


放つ。


ドッ!


矢が、


腹部へ深く突き刺さった。


「ギャァァッ!」


タイドリザードの身体が崩れる。


ディルクが、


すぐに二本目を放った。


首元へ突き刺さる。


数歩よろめき。


そのまま、


地面へ倒れた。


⸻


《タイドリザード Lv.8を討伐しました》


《EXP +180》


《LEVEL進行度:78% → 100%》


⸻


カイの身体を、


光が包んだ。


⸻


LEVEL UP


神谷 海


Lv.10 → Lv.11


《LEVEL BONUS》


最大HP +5


全ステータス +1


SP +3


⸻


さらに。


⸻


《余剰EXPを引き継ぎました》


《LEVEL進行度:0% → 14%》


⸻


「上がった……!」


だが。


確認している暇はない。


「カイ!」


ナタリーの声。


LEVEL9の一体が、


すぐそこまで迫っていた。


カイは、


地面を蹴る。


爪が、


目の前を横切った。


その横から、


レオンが飛び込んでくる。


「こっちだ!」


声と動きに、


タイドリザードの注意がレオンへ向く。


「レオン!


腹!」


「見えてる!」


タイドリザードが、


レオンへ突進する。


レオンは、


直前まで引きつけた。


そして。


横へ飛ぶ。


巨体が、


勢いのまま通り過ぎる。


腹が開く。


「カイ!」


「分かってる!」


カイが、


矢を放つ。


ドッ!


腹部へ突き刺さる。


タイドリザードが、


身体を捻った。


レオンが、


横から踏み込む。


肩をぶつけ、


さらに体勢を崩す。


「今だ!」


カイが、


もう一本の矢を番える。


放つ。


ドッ!


先ほどの矢の横へ、


深く突き刺さった。


タイドリザードが、


地面へ倒れる。


⸻


《タイドリザード Lv.9を討伐しました》


《EXP +220》


《LEVEL進行度:14% → 47%》


⸻


「二体!」


残り二体。


もう一体のLEVEL9は、


ナタリーへ向かっていた。


ナタリーが、


矢を放つ。


一射。


タイドリザードが避ける。


続けて、


二射目。


前脚へ刺さる。


それでも、


止まらない。


リシアが、


横から大きく声を上げた。


「こっちだ!」


タイドリザードの顔が、


一瞬だけリシアへ向く。


その隙。


ナタリーが、


もう一本。


前脚へ。


ドッ!


体勢が崩れる。


カイが、


胸へ手を当てた。


「光魔法」


白い光が、


身体を包む。


⸻


《光の加護》


⸻


地面を蹴る。


一気に、


距離を詰めた。


タイドリザードが、


リシアへ飛びかかろうとする。


赤い線。


跳ぶ位置。


身体が伸びきる瞬間。


腹部。


「リシア!


下がって!」


リシアが、


後ろへ跳ぶ。


タイドリザードが、


宙へ浮く。


カイが、


弦を放した。


ヒュンッ――!


矢が、


腹の中央へ突き刺さる。


そのまま、


地面へ落ちた。


ナタリーの矢が、


続けて首元へ刺さる。


動きが止まった。


⸻


《タイドリザード Lv.9を討伐しました》


《EXP +220》


《LEVEL進行度:47% → 80%》


⸻


残るのは、


LEVEL10。


一番大きな個体。


「グルルルルル……」


低く唸る。


突然。


喉が、


大きく膨らんだ。


カイが、


眉を寄せる。


次の瞬間。


赤い線が、


一気に伸びた。


「避けて!」


五人が、


左右へ飛ぶ。


直後。


タイドリザードの口から、


大量の水が噴き出した。


バシャァァァン!


水が、


さっきまで立っていた場所を叩く。


土が、


大きく抉れた。


レオンが、


目を見開く。


「なんだ今の!」


「また来る!」


喉が、


再び膨らむ。


赤い線。


今度は、


ナタリーへ。


「ナタリー!」


ナタリーが、


すぐに飛ぶ。


大量の水が、


木の幹へ直撃した。


バキッ!


細い木が、


音を立てて折れる。


「まともに受けるな!」


ナタリーが叫ぶ。


カイは、


光を纏ったまま側面へ回る。


弓を構える。


だが。


タイドリザードが、


すぐに身体を向けた。


赤い線。


尾。


「っ!」


カイが跳ぶ。


ブンッ!


足元を、


太い尾が薙ぎ払う。


着地。


その瞬間。


タイドリザードが、


カイへ突進した。


「カイ!」


レオンが、


横から飛び込む。


カイの肩を、


強く押した。


二人の身体が、


別々の方向へ転がる。


ガチンッ!


牙が、


すぐ横で閉じた。


「痛っ……!」


カイが、


身体を起こす。


レオンも、


すぐに立ち上がる。


「ぼーっとすんな!」


「してないって!」


「今、


噛まれかけただろ!」


「ありがとう!」


「礼は後だ!」


ヒュッ――!


ディルクの矢が、


タイドリザードの背中へ刺さる。


だが。


やはり浅い。


リシアが、


倒れている二体へ目を向けた。


腹部へ刺さった、


カイの矢。


背中へ刺さった矢とは、


深さが全く違う。


「カイ!」


「何?」


「さっき、


腹には矢が深く刺さってたよな!」


「うん!」


リシアが、


LEVEL10のタイドリザードを見る。


「なら、


腹を狙えるようにすればいい!」


レオンが、


すぐにカイを見る。


カイも、


頷いた。


「やるぞ」


「うん」


レオンが、


タイドリザードへ向き直る。


「カイ!


右から回れ!」


「分かった!」


カイが、


地面を蹴る。


光の加護。


一気に右側へ。


タイドリザードが、


カイを追う。


赤い線。


突進。


「来い……!」


カイは、


直前まで待つ。


そして。


大きく横へ飛んだ。


巨体が、


そのまま前へ流れる。


「今だ!」


レオンが、


側面から勢いよくぶつかった。


巨体が、


大きく揺れる。


「重っ……!」


だが。


倒れない。


カイも、


すぐに踏み込む。


光の加護で強化された脚。


前脚の横へ、


蹴りを叩き込む。


ドンッ!


タイドリザードの身体が、


さらに傾く。


そこへ。


ナタリーの矢。


前脚へ突き刺さる。


支えを失った巨体が、


横へ倒れた。


「今!」


腹部が、


完全に露出する。


カイが、


矢を番える。


《予測》。


赤い線が、


腹部の一点へ集まる。


弦を、


限界まで引いた。


「いけっ!」


放つ。


ヒュンッ――!


ドッ!!


矢が、


腹部へ深く突き刺さる。


「ギャァァァァァッ!」


タイドリザードが、


激しく暴れる。


ディルク。


ナタリー。


二人の矢が、


続けて腹へ刺さった。


巨体が、


大きく震える。


やがて。


力が抜けた。


ドサッ――。


森に、


静けさが戻る。


⸻


《タイドリザード Lv.10を討伐しました》


《EXP +280》


《LEVEL進行度:80% → 100%》


⸻


カイの身体が、


再び光に包まれた。


⸻


LEVEL UP


神谷 海


Lv.11 → Lv.12


《LEVEL BONUS》


最大HP +5


全ステータス +1


SP +3


⸻


続けて。


⸻


《余剰EXPを引き継ぎました》


《LEVEL進行度:0% → 18%》


⸻


さらに。


新しい表示が現れた。


⸻


《LEVEL 12到達》


《新規SKILLを獲得しました》


《鑑定 Lv.1》


⸻


カイは、


表示を見つめた。


「……鑑定?」


⸻


《鑑定 Lv.1》


対象が持つ情報を読み取ります。


⸻


レオンが、


カイを見る。


「どうした?」


「新しいスキルが出た」


カイは、


倒れているLEVEL10のタイドリザードを見る。


「ちょっと試してみる」


意識を向ける。


「鑑定」


新しいウィンドウが、


視界に開いた。


⸻


《鑑定 Lv.1》


名称:タイドリザード


LEVEL:10


特性:硬質外皮/水中での高い機動性


弱点:腹部


⸻


「……すご」


ナタリーが、


カイを見る。


「何が分かった?」


「こいつのこと」


カイは、


倒れているタイドリザードを見る。


「皮膚が硬い。


水の中だと、


かなり速く動けるみたい」


リシアが、


前脚の膜を見る。


「これか」


「多分」


カイは、


表示の下を見る。


「それと、


弱点も出てる」


ディルクが、


振り返る。


「弱点?」


「腹」


カイは、


自分の矢が刺さっている場所を見る。


「やっぱり、


ここが弱かったみたい」


リシアも、


腹部を見る。


「だから深く刺さったのか」


「うん」


カイは、


《鑑定 Lv.1》の表示を見つめた。


さっきまでは、


名前とLEVELしか分からなかった。


今は、


相手の特徴も。


弱点も見える。


「これ、


かなり使えるかも」


その時。


カイの視線が、


足元へ向いた。


銀色がかった葉。


来る途中、


リシアが採っていたものと同じ植物。


「……これも?」


カイが、


しゃがむ。


「鑑定」


⸻


《銀葉草》


効果:解熱/炎症の緩和


注意:根に弱い毒性があります


⸻


「植物もいける……」


リシアが、


すぐ隣へしゃがんだ。


「何が分かった?」


「銀葉草っていうらしい」


「名前まで?」


「うん」


カイは、


葉を見る。


「葉は、


熱を下げたり、


腫れを抑えるのに使える」


「でも、


根には少し毒があるみたい」


リシアが、


銀葉草を見る。


根。


茎。


葉。


順番に確認する。


「それを、


見ただけで?」


「鑑定しただけ」


リシアが、


カイを見る。


少しの沈黙。


「……全部やれ」


「え?」


「森の植物。


全部だ」


「無理だって!」


「少しずつでいい」


「どれだけあると思ってるの」


「私も知らない」


「じゃあ余計無理じゃん」


ディルクが、


声を上げて笑った。


レオンも、


肩を揺らしている。


リシアが、


二人を見る。


「何がおかしい」


「いや」


レオンが、


笑いを堪える。


「カイも大変だなと思って」


「他人事みたいに言わないでよ」


カイも笑った。


⸻


ナタリーが、


倒れたタイドリザードを見る。


「一体、


持ち帰る」


リシアが、


すぐに頷いた。


「調べたい」


レオンが、


LEVEL8の個体を見る。


「一番小さいので、


これか……」


「頑張れ」


カイが笑う。


レオンが、


ゆっくり振り返る。


「お前もだぞ」


「もちろん」


「今、


絶対逃げようとしてただろ」


「してないって」


ディルクが、


近くに落ちていた太い枝を拾う。


「ほら。


日が暮れる前に戻るぞ」


タイドリザードの脚を縛り、


枝へ固定する。


四人で持ち上げた。


「重っ!」


レオンの声が、


森に響く。


「口動かしてないで、


手動かせ」


カイが言う。


レオンが、


横目で見る。


「……お前」


「何?」


「さっきの仕返しか?」


「何のこと?」


「こいつ……!」


「暴れるなって!


余計重い!」


ディルクが笑う。


ナタリーも、


前を向いたまま少し笑っていた。


⸻


集落へ戻る頃には、


空が赤く染まり始めていた。


入口へ近づくと、


何人ものエルフがこちらを見る。


そして。


運んでいるものに気づいた。


「何だ、それは?」


「見たことがないぞ」


子供たちまで、


駆け寄ってくる。


「近づくな」


ナタリーが、


すぐに手で制した。


タイドリザードを、


地面へ下ろす。


ドスン。


「っはぁ……」


レオンが、


その場へ腰を下ろす。


「もう二度と持たない」


カイも、


肩を回す。


「俺も重かった」


「お前、


途中からほとんど端持ってただろ」


「ちゃんと持ってたじゃん」


「重さが違う!」


「細かいなあ」


「誰のせいだ!」


ディルクが、


二人の間を通る。


「元気なら、


まだ運べそうだな」


「無理!」


レオンとカイの声が、


同時に重なった。


ディルクが笑う。


⸻


リシアは、


すでにタイドリザードの横へしゃがんでいた。


背中。


脚。


尾。


皮膚を、


一つずつ確認していく。


「カイ」


「何?」


「さっきの鑑定。


死んだ後でも使えるか?」


「あ」


カイも、


タイドリザードを見る。


「やってみる」


意識を向ける。


「鑑定」


⸻


《タイドリザード》


状態:死亡


食用部位:尾肉/腿肉/背肉


非食用部位:胆嚢/消化器官


注意:尾の付け根に強い臭気を発する器官があります


⸻


「……食べられる」


その瞬間。


レオンが、


立ち上がった。


「本当か?」


「元気じゃん」


「いいから。


どこが食える?」


「尾とか、


脚とか、背中」


「どこが一番うまい?」


「まだそこまでは出てないよ」


「じゃあ調べろ」


「急かすなって」


リシアが、


カイを見る。


「食べられない場所も分かるのか?」


「うん」


カイは、


腹の一部を指した。


「この辺は駄目みたい」


「分かった」


リシアが、


近くのエルフへ声をかける。


刃物が運ばれてくる。


数人で、


解体が始まった。


厚い皮へ、


刃が入る。


ギッ――。


「硬いな」


力を込めながら、


少しずつ皮を剥いでいく。


そして。


尾の付け根へ、


刃が入った時。


「……っ!」


カイが、


思わず鼻を押さえた。


「臭っ!」


レオンも、


顔をしかめる。


「なんだこれ!」


周囲にいた子供たちが、


一斉に後ろへ下がった。


「くさーい!」


「鼻痛い!」


大人たちまで、


顔を背ける。


獣臭さとも違う。


鼻の奥に、


まとわりつくような強烈な臭い。


リシアが、


尾の付け根を見る。


「さっき言っていた器官か?」


「多分」


カイが、


その部分へ意識を向ける。


「鑑定」


⸻


《臭腺》


強い臭気を発する器官。


食用不可。


傷つけると、周囲の肉へ臭いが移ります。


⸻


「あ、


これだ」


「どうする?」


「破らないように、


丸ごと取った方がいいみたい」


リシアが、


解体しているエルフへ伝える。


慎重に。


周囲の肉ごと切り分け、


臭腺を取り除いていく。


少し離れた場所へ置く。


カイが、


もう一度鼻から息を吸った。


「……さっきより全然マシ」


ディルクも、


頷く。


「本当だな」


「鑑定、


すごいな……」


カイ自身、


まだ使い道を把握しきれていなかった。


⸻


解体された尾から、


大きな肉の塊が切り出される。


淡い桃色。


所々に、


白い脂が入っている。


だが。


近づくと、


まだ少し臭う。


レオンが、


顔をしかめた。


「本当にうまいのか?」


「今見る」


カイが、


肉へ意識を向ける。


「鑑定」


⸻


《タイドリザードの尾肉》


食用可能


特徴:脂が多く、非常に柔らかい。


注意:臭腺周辺の脂に強い臭みがあります。


推奨処理:臭腺周辺の脂を丁寧に除去。


推奨調理:直火焼き。


適切に処理した場合、非常に美味。


⸻


カイの目が止まる。


「……非常に美味だって」


レオンが、


すぐに身を乗り出す。


「本当か?」


「でも、


まだ臭い部分が残ってる」


カイが、


白い脂を指した。


「この辺を、


もっと取るみたい」


リシアたちが、


言われた部分を削いでいく。


一枚。


また一枚。


もう一度、


カイが匂いを嗅ぐ。


「……お」


さっきまでの、


鼻を刺すような臭いがほとんどない。


レオンも、


顔を近づける。


「全然違うな」


代わりに。


肉と脂の、


濃い香り。


ナタリーが、


尾肉を見る。


「焼いてみるか」


「焼こう」


レオンが、


即答した。


「嬉しそうだなあ」


「お前も食うだろ」


「食べる」


「ほら」


カイも笑った。


⸻


その頃。


ナタリーの話を聞いた戦士たちが、


残りのタイドリザードを回収するため、


森へ向かっていた。


日が沈む前。


倒した三体も、


次々に集落へ運び込まれる。


「でかい!」


「こっちはもっと大きいぞ!」


子供たちが、


少し離れたところから騒いでいる。


集落の中央では、


大きな火が焚かれた。


今度は、


腿肉。


カイが、


切り出された肉を見る。


「鑑定」


⸻


《タイドリザードの腿肉》


食用可能


特徴:弾力が強く、旨味が濃い。


注意:血が残ると強い臭みが出ます。


推奨処理:十分な血抜き。


推奨調理:香草とともに煮込む。


⸻


「こっちは、


しっかり血を抜いて煮込むみたい」


リシアが、


並べられている香草を見る。


「これなら合うかもしれない」


「それも見る?」


「頼む」


「はいはい」


カイは、


香草を一つ手に取る。


鑑定。


次。


また鑑定。


肉の臭みを和らげるもの。


香りを強くするもの。


煮込むと苦味が出るもの。


食べすぎると腹を壊すもの。


同じ草に見えても、


一つずつ違う。


「これと、


これが良さそう」


カイが渡す。


リシアは、


素直に受け取った。


「便利だな」


「もうちょっと褒めてもいいよ」


「便利だ」


「俺じゃなくて、


スキルじゃん」


リシアが、


少し笑った。


⸻


火の上。


厚く切られた尾肉が、


焼かれていく。


ジュウゥゥゥ――。


脂が落ちる。


炎が、


一瞬大きく上がった。


「おおっ!」


周囲から、


声が上がる。


最初の強烈な臭いは、


どこにもない。


代わりに。


焼けた脂と肉の香りが、


集落の中へ広がっていく。


「……腹減った」


カイが、


小さく呟く。


隣にいたレオンが、


ゆっくりこちらを見る。


「何?」


「俺が食えるか聞いた時、


笑ってたよな?」


「知らない」


「言ったぞ」


「気のせい」


ぐぅ――。


カイの腹が鳴った。


一瞬。


静かになる。


レオンが、


吹き出した。


「ほら!」


「うるさい!」


ディルクまで、


声を上げて笑った。


⸻


日が沈む頃。


集落の中央には、


多くのエルフたちが集まっていた。


直火で焼かれた尾肉。


香草と一緒に煮込まれた腿肉。


木の実。


果物。


焼いた根菜。


大きな器が、


次々に並べられていく。


昨日。


巨大なグランドグリズリーに襲われた。


地震も起きた。


壊れた小屋も、


まだ完全には直っていない。


それでも。


焚き火の周りには、


笑い声があった。


カイも、


ナタリーたちと一緒に座る。


目の前には、


焼き上がった尾肉。


レオンが、


手を伸ばした。


「俺が最初な」


「何で?」


「食えるか確かめる」


「食べたいだけでしょ」


「違う」


「じゃあ俺が食べる」


「待て」


レオンが、


先に一切れ取った。


「ずるっ!」


まだ熱い肉を、


口へ入れる。


噛む。


一度。


二度。


レオンの動きが止まった。


カイが、


顔を覗き込む。


「どう?」


レオンは、


何も言わず。


もう一切れへ手を伸ばした。


「おい」


ディルクが、


その手を止める。


「答えろ」


レオンが、


肉を飲み込む。


「……うまい」


「ほんと?」


「食ってみろ」


カイも、


一切れ取る。


熱い。


何度か息を吹きかけ、


口へ入れた。


「……っ!」


柔らかい。


噛むと、


脂が口の中へ広がる。


表面は香ばしく。


中には、


しっかり肉汁が残っている。


あれだけ強かった臭いは、


ほとんど感じない。


「うまっ!」


レオンが、


得意そうに笑う。


「だろ?」


「何でレオンが得意げなの?」


「俺が最初に食った」


「関係ないじゃん」


ナタリーも、


肉を口へ運ぶ。


少し噛んで。


目を細めた。


「これは……


いいな」


ディルクは、


煮込みを食べている。


「カイ。


こっちも食ってみろ」


カイが、


器を受け取る。


香草の香り。


柔らかく煮えた肉。


一口。


「……うま」


焼いた尾肉は、


脂の旨味が強い。


煮込んだ腿肉は、


肉そのものの味が濃い。


「同じやつの肉なのに、


全然違う」


リシアが、


頷く。


「部位で変わるんだな」


そう言いながら。


視線は、


少し離れた場所に置かれた皮へ向いていた。


レオンが、


呆れた顔をする。


「今くらい食えよ」


「食べてる」


「ずっと皮見てるだろ」


「硬い。


何かに使える」


カイが笑う。


「リシアらしいな」


「カイ」


「何?」


「あとで皮も鑑定しろ」


「やっぱり?」


周囲から、


笑い声が上がった。


⸻


気づけば。


集落の中央は、


随分と賑やかになっていた。


子供たちが、


焼いた肉を持って走り回る。


「走るな!」


大人に怒られても、


笑いながら逃げていく。


誰かが、


果物を持ってくる。


別の誰かが、


薪を火へ投げる。


「もっと焼け!」


「こっちもできたぞ!」


「肉まだあるか!」


あちこちから、


声が飛ぶ。


カイは、


焚き火の前でその光景を眺めた。


「……なんか、


お祭りみたい」


レオンが、


肉を頬張りながら見る。


「オマツリ?」


「みんな集まって、


食べたり、


騒いだりするやつ」


レオンは、


周囲を見渡した。


「なら、


こっちでは宴だな」


「宴?」


「ああ。


みんなで食って、


飲んで、


騒ぐ」


カイも、


辺りを見る。


笑う大人たち。


走り回る子供たち。


焚き火を囲む、


たくさんの人。


「じゃあ今日は、


宴ってことか」


レオンが笑う。


「そういうことだ」


カイも、


笑った。


⸻


少しして。


大皿に残っていた、


最後の尾肉。


レオンが気づく。


同時に。


カイも気づいた。


二人の視線が、


肉へ落ちる。


「……」


「……」


レオンが、


カイを見る。


「俺のだ」


「何で」


「年上だから」


「関係ない」


「今日一番働いた」


「それも怪しい」


「俺はお前を助けた」


「それは感謝してるけど、


肉とは別」


「じゃあ譲れ」


「嫌」


二人の手が、


同時に動く。


「取った!」


カイが、


一瞬早く肉を掴んだ。


「おい!」


「早い者勝ち!」


カイが、


立ち上がって逃げる。


「待て!」


レオンも、


すぐに追いかける。


「やだよ!」


「返せ!」


焚き火の周りを、


カイが走る。


レオンが追う。


「子供か!」


ディルクが、


腹を抱えて笑っている。


リシアも、


声を上げて笑った。


ナタリーは、


額へ手を当てる。


「お前たちは……」


カイは、


振り返りながら、


肉を口へ放り込んだ。


「あっ!」


レオンが止まる。


カイが、


口いっぱいに肉を頬張ったまま笑う。


「……うまい」


「こいつ!」


レオンが、


カイへ飛びかかった。


「うわっ!」


二人が、


そのまま地面へ転がる。


周囲から、


さらに大きな笑い声が上がった。


⸻


宴が落ち着いた頃。


空には、


満天の星が広がっていた。


焚き火も、


さっきより小さくなっている。


カイは、


少し離れた場所へ座っていた。


顔を上げる。


星。


数え切れないほどの光。


昨日。


美緒に話したばかりだった。


『私も見てみたいな』


その言葉が、


頭に浮かぶ。


「……見せたいな」


「何をだ?」


横から、


ナタリーの声。


いつの間にか、


近くへ座っていた。


カイは、


もう一度空を見る。


「この空」


「空?」


「うん」


少し笑う。


「こっちの景色」


ナタリーは、


カイを見る。


それ以上は、


聞かなかった。


少し離れた場所では、


レオンとディルクが、


まだ何かを話している。


時々、


笑い声が聞こえる。


リシアは。


「……まだ皮見てるし」


タイドリザードの皮を、


火の近くで調べていた。


ナタリーも、


そちらを見る。


「放っておけ」


カイが、


小さく笑う。


「ほんと好きなんだな」


「知らないものを調べるのがな」


カイは、


自分の手を見る。


《鑑定》。


今日、


手に入れた新しい力。


モンスターの弱点。


薬草の効果。


食べられる肉。


臭みの取り方。


料理の仕方。


今までなら、


分からなかったものが。


少しずつ、


分かるようになっていく。


その向こうには、


今日初めて見た海。


さらにその先には、


新しい大地。


何があるのか。


誰かがいるのか。


まだ、


何も分からない。


怖さはある。


今日だって、


タイドリザードの牙が、


すぐそこまで迫った。


それでも。


カイは、


胸の奥が高鳴るのを感じていた。


もっと見たい。


もっと知りたい。


「……楽しかったな」


カイが、


ぽつりと言う。


ナタリーが、


横を見る。


「そうか」


「うん」


焚き火が、


パチッと音を立てた。


⸻


夜も深くなり。


一人。


また一人と、


家へ戻っていく。


カイも立ち上がった。


「俺も寝る」


「ああ」


ナタリーが、


軽く手を上げる。


「またな」


「うん。


また」


カイは、


小屋へ戻った。


扉を閉める。


ベッドへ腰を下ろす。


身体には、


戦った疲れが残っていた。


でも。


嫌な疲れではない。


そのまま、


仰向けになる。


天井を見る。


目を閉じると。


今日の景色が、


次々に浮かんだ。


木々の向こうに現れた、


青い海。


その先に広がる、


新しい大地。


タイドリザード。


レベルアップ。


《鑑定》。


焚き火。


肉の焼ける匂い。


笑っていた、


ナタリーたち。


そして。


満天の星。


「……美緒にも、


見せられたらな」


小さく呟く。


いつか。


そんな日が来るのだろうか。


分からない。


でも。


少しだけ、


期待している自分がいた。


カイは、


その余韻を残したまま。


ゆっくり、


眠りへ落ちていった。


⸻


「カイー!」


遠くから、


声が聞こえる。


「起きなさい!」


カイが、


ゆっくり目を開けた。


白い天井。


カーテンの隙間から、


朝の光が差し込んでいる。


自分の部屋。


「……戻った」


しばらく、


そのまま天井を見る。


数秒前まで。


焚き火の前にいたような気がする。


笑い声も。


肉の匂いも。


星空も。


まだ、


はっきり残っている。


「カイー!


遅れるよ!」


階下から、


もう一度母親の声。


「今行く!」


カイは、


身体を起こした。


ベッドから降りる。


窓の外には、


いつもの朝。


家。


道路。


行き交う人。


昨日と、


何も変わらない景色。


それでも。


カイの頭には、


あの海が残っている。


その向こうの、


まだ何も知らない大地も。


カイは、


制服へ手を伸ばした。

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