第13話 死闘
第13話 死闘
グランドグリズリーが、
ゆっくりこちらを向いた。
低い唸り声。
地面を踏む、
太い前脚。
ナタリーが弓を構えたまま、
声を落とす。
「全員、退くぞ!」
その言葉で、
レオンたちが一斉に動く。
カイも、
後ろへ下がろうとした。
その瞬間。
グランドグリズリーが、
大きく頭を持ち上げた。
胸が、
膨らむ。
「散れ!」
ナタリーの声。
グオオオオオオオ――!!
空気が震えた。
耳の奥が、
激しく痛む。
胸を、
何かに押さえつけられたような感覚。
「っ……!」
カイは、
横へ動こうとした。
動かない。
「……え?」
脚に力を入れる。
それでも。
動かない。
心臓だけが、
激しく鳴っている。
⸻
《状態異常:恐怖》
《敏捷低下》
⸻
「っ……動け……!」
グランドグリズリーが、
地面を蹴った。
ズンッ――!
一歩。
また一歩。
巨体が、
真っ直ぐこちらへ向かってくる。
速すぎるわけではない。
それでも。
今のカイは、
身体が動かない。
逃げられない。
その横から。
ヒュッ――!
一本の矢。
グランドグリズリーの顔を掠める。
風が叩きつけられた。
ドンッ――!
巨体の進路が、
僅かにずれる。
「カイ! 横へ!」
ナタリー。
カイは、
動かない脚へ無理やり力を込めた。
一歩。
身体を捻る。
グランドグリズリーの肩が、
すぐ横を通り過ぎた。
「っ……!」
カイは、
反射的に身体を捻り、
地面へ転がった。
そのまま。
グランドグリズリーが、
大木へ肩からぶつかる。
バキィッ――!!
太い幹が、
大きく揺れた。
枝が、
何本も落ちてくる。
カイは頭を庇った。
身体を起こす。
指。
動く。
脚にも、
少しずつ力が戻ってくる。
⸻
《格上敵性生物との初交戦を確認しました》
《震慄咆哮から生還しました》
《DP +25》
《LEVEL進行度:63% → 68%》
《所持DP:491 → 516》
⸻
カイは立ち上がった。
逃げる。
そう思って、
顔を上げた時だった。
「……ディルク?」
木の根元。
ディルクが倒れている。
弓は、
少し離れた場所。
額から血が流れていた。
動かない。
「ディルク!」
返事はない。
グランドグリズリーが、
身体を起こす。
倒れているディルクへ、
顔を向けた。
ヒュッ――!
矢が、
グランドグリズリーの頬へ刺さる。
もう一本。
首。
「こっちだ!」
ナタリーが走る。
グランドグリズリーの顔が、
そちらへ向いた。
「レオン!」
「分かってる!」
レオンが、
ディルクへ走る。
肩を掴む。
反応はない。
身体を担ぎ上げる。
「リシアも行け!」
「うん!」
「カイ!」
カイが振り向く。
「レオンについて行け!」
「……分かった!」
ナタリーが、
再び矢を放つ。
カイはレオンを追った。
⸻
走る。
木々の間。
前を行くレオンの肩には、
動かないディルク。
リシアが、
何度も後ろを確認している。
グオオオオオ――!!
背後から、
また咆哮。
カイの身体が、
僅かに強張った。
それでも、
走る。
ドンッ――!
バキィッ!
激しい音。
バキバキバキッ――!!
何本もの枝が、
折れる音。
カイは、
思わず振り返った。
木々の間。
ナタリーが見える。
一人。
グランドグリズリーの横へ回り、
矢を放つ。
巨体が追う。
ナタリーが飛ぶ。
その直後。
グランドグリズリーが、
木を一本、
そのまま薙ぎ倒した。
カイの足が、
止まった。
「カイ!」
レオンの声。
それでも。
カイは、
ナタリーから目を離せなかった。
この世界で、
最初に出会った。
最初に言葉を交わした。
そして。
初めてできた、
友達。
「……嫌だ」
「何?」
カイは、
弓を強く握った。
「このまま逃げるのは……嫌だ」
「カイ!」
カイは身体を反転させた。
走る。
「おい!」
レオンの声が、
背中から飛んでくる。
木を避ける。
根を飛び越える。
枝を腕で払う。
ドンッ――!
また、
大きな音。
「ナタリー……!」
さらに走る。
木々の隙間。
グランドグリズリー。
その前。
ナタリーが、
後ろへ飛ぶ。
着地。
さらに下がる。
だが。
背後には、
太い木。
グランドグリズリーが、
前脚を振り上げた。
⸻
《観察 Lv.1》
⸻
肩。
前脚。
爪。
⸻
《予測 Lv.2》
⸻
振り下ろされる。
ナタリーが、
避けきれない。
カイは走りながら、
矢を抜いた。
足を止める。
弦を引く。
狙う。
放つ。
ヒュッ――!
矢が、
グランドグリズリーの目の横へ突き刺さった。
「グォッ!」
巨体の頭が、
カイへ向く。
爪が、
ナタリーの横を抉った。
ナタリーが、
そこから飛び退く。
「カイ!?」
「正面に立つな!」
グランドグリズリーが、
カイへ身体を向ける。
カイは横へ走った。
胸が膨らむ。
「もっと離れろ!」
グオオオオオオ――!!
身体が、
一瞬強張る。
脚が重い。
それでも。
最初とは違う。
止まらない。
カイは、
さらに横へ走る。
⸻
《仲間の危機を回避しました》
《DP +10》
《LEVEL進行度:68% → 74%》
《所持DP:516 → 526》
⸻
背後。
ズンッ。
ズンッ。
重い足音。
振り返る。
グランドグリズリーが、
こちらへ向かってくる。
⸻
《予測 Lv.2》
⸻
右。
左。
さらに奥。
複数の線。
カイは右へ飛んだ。
巨体が、
すぐ横を通過する。
その先。
大木。
グランドグリズリーは、
避けようとしない。
肩から、
そのままぶつかった。
バキィッ――!!
木が折れた。
幹。
枝。
木片。
一気に飛ぶ。
カイは腕で顔を庇った。
ガッ!
肩へ直撃。
⸻
HP:135 → 127
⸻
カイは転がる。
すぐに起きる。
ナタリーの矢が、
グランドグリズリーの背へ刺さる。
向きが変わる。
ナタリーが走る。
グランドグリズリーが追う。
その途中。
岩を前脚で踏み砕く。
砕けた石が、
周囲へ飛んだ。
ナタリーの頬を掠める。
赤い線。
それでも、
弓を引く。
「ナタリー!」
「前を見ろ!」
グランドグリズリーが、
カイへ向き直っていた。
前脚。
⸻
《予測 Lv.2》
⸻
右。
木。
左。
太い根。
後ろ。
遅い。
横から、
風が叩きつけられた。
グランドグリズリーの身体が、
僅かに流れる。
カイは、
その隙間へ飛び込んだ。
爪が、
背中のすぐ後ろを通る。
グランドグリズリーが、
そのまま身体を捻る。
もう一方の前脚。
「ナタリー!」
ドッ――!
ナタリーの身体が、
吹き飛んだ。
地面へ落ちる。
転がる。
肩から脇腹。
服が裂け、
赤く染まっていく。
「ナタリー!」
カイが走ろうとする。
ナタリーは、
片手を地面についた。
立つ。
弓を拾う。
その時。
ヒュッ――!
一本の矢が、
グランドグリズリーの首へ刺さった。
反対側から、
もう一本。
「こっち向け!」
レオン。
少し離れたところには、
リシア。
「戻ってきたの?」
レオンが、
次の矢をつがえる。
「俺たちだけ逃げるわけにはいかないだろ!」
リシアも射る。
グランドグリズリーが、
そちらへ向く。
ナタリーが叫ぶ。
「散れ!」
四人が、
一斉に動いた。
⸻
グランドグリズリーが、
レオンを追う。
速さなら、
レオンの方が上。
距離を取りながら、
木々の間を抜ける。
リシアが、
反対側から射る。
向きが変わる。
カイも矢を放つ。
ナタリー。
矢。
風。
一人が狙われれば、
別の誰かが射る。
止まる暇がない。
グランドグリズリーが、
頭を上げる。
「咆哮!」
四人が散る。
グオオオオオオ――!!
空気が震えた。
カイの脚が、
一瞬重くなる。
グランドグリズリーが、
リシアへ向きを変える。
一歩。
二歩。
大きな歩幅で、
距離を詰めてくる。
「リシア!」
リシアが、
横へ飛ぶ。
巨体が通り過ぎる。
その肩が、
二本の木をまとめて薙いだ。
バキバキッ――!
飛んだ枝が、
リシアの脚へ当たる。
身体が崩れる。
レオンの矢が、
グランドグリズリーの顔へ。
「こっちだ!」
リシアから、
注意が逸れる。
カイも射る。
一本。
外れる。
もう一本。
肩に刺さる。
カイの腕が、
少しずつ重くなっていた。
息も、
上がっている。
額から、
汗が落ちる。
レオンも、
顔の横から血を流している。
リシアは、
片脚を庇いながら動く。
ナタリーの服は、
脇腹まで赤く染まっていた。
グランドグリズリーにも、
何本もの矢が刺さっている。
肩。
背。
脚。
胸。
血も流れている。
それでも。
まだ動く。
攻撃範囲へ入れば、
前脚が飛んでくる。
離れれば、
身体ごと距離を詰めてくる。
木を挟んでも、
止まらない。
バキッ――!
幹が倒れる。
枝。
石。
土。
ガッ!
石が、
カイの脇腹へ当たる。
⸻
HP:127 → 119
⸻
カイは、
また矢をつがえた。
放つ。
ズンッ。
グランドグリズリーが踏み込む。
カイは横へ。
巨体が旋回する。
そこで。
カイの目が、
左前脚で止まった。
踏み込む。
一瞬。
身体が沈む。
次。
また。
左。
「……左脚」
グランドグリズリーが、
再び方向を変える。
左前脚。
僅かに、
体重を逃がした。
「ナタリー!」
「左脚!」
ナタリーの視線が、
そこへ向く。
「左を狙え!」
レオンが射る。
リシア。
カイ。
ナタリー。
矢が、
左前脚へ集まる。
「グォォォッ!」
巨体が、
大きく身体を振った。
前脚を、
地面へ叩きつける。
ドンッ――!
土が跳ねる。
⸻
《観察により弱点を発見しました》
《DP +15》
《LEVEL進行度:74% → 82%》
《所持DP:526 → 541》
⸻
グランドグリズリーが、
また進む。
旋回。
追ってくる。
だが。
カイには、
その一歩が、
さっきより僅かに鈍く見えた。
ナタリーも、
同じものを見たのか。
レオンを見る。
「……テンペストアローを使う」
レオンの表情が変わる。
「時間を稼いでくれ」
「分かった!」
ナタリーは、
後方へ下がる。
弓を構える。
唇が、
静かに動き始めた。
レオンが叫ぶ。
「リシア! 散れ!」
リシアが、
反対側へ走る。
「カイ! ナタリーが溜めてる間、俺たちで引きつけるぞ!」
カイは、
言われるがまま走った。
⸻
レオンが射る。
グランドグリズリーが向く。
リシアが、
反対側から射る。
また向きが変わる。
カイも放つ。
グランドグリズリーが、
カイを見る。
胸が膨らむ。
横へ。
グオオオオオ――!!
身体が重くなる。
カイは、
歯を食いしばって走る。
グランドグリズリーが、
その間に距離を詰める。
⸻
《予測 Lv.2》
⸻
右。
カイは飛ぶ。
巨体が、
カイのいた場所を通る。
その先。
大木。
肩からぶつかる。
バキィッ――!
木片。
枝。
土。
細い枝が、
カイの腕へ突き刺さる。
⸻
HP:119 → 112
⸻
矢をつがえる。
放つ。
外れる。
「まだか!」
レオンが叫ぶ。
後方。
ナタリーの詠唱が続いている。
「もうすぐだ!」
レオンが、
また射る。
リシアも続く。
グランドグリズリーが、
レオンへ向く。
大きな歩幅で、
距離を詰める。
レオンが横へ飛ぶ。
その先。
大木。
グランドグリズリーの前脚が、
幹を薙ぐ。
バキッ!
折れた幹が、
倒れる。
レオンが、
地面へ飛び込む。
倒木が、
背中のすぐ後ろへ落ちた。
ドォンッ――!
土煙。
その中から、
レオンが転がり出る。
グランドグリズリーが、
リシアへ向く。
リシアが射る。
外れる。
もう一本。
カイが、
首へ矢を放つ。
刺さる。
グランドグリズリーの頭が、
カイへ向いた。
カイは横へ駆ける。
巨体が、
その後を追う。
森が、
また壊れる。
後ろでは、
ナタリーの詠唱が続いていた。
⸻
何度目かの攻防。
カイは飛ぶ。
地面へ転がる。
立つ。
弓を構える。
息が、
苦しい。
レオンも、
肩で息をしている。
リシアの矢も、
残り少ない。
それでも。
三人とも、
止まらない。
やがて。
ナタリーの声が、
止まった。
だが。
矢はまだ放たれない。
足元の草が揺れる。
葉が、
空へ浮かぶ。
ナタリーの周囲へ、
風が集まり始めた。
一本の矢。
その周りを、
風が何重にも渦巻く。
グランドグリズリーが、
ナタリーへ顔を向けた。
「まずい!」
レオンが射る。
頬。
リシアも射る。
肩。
カイも、
傷ついた左前脚へ放つ。
「グォッ!」
グランドグリズリーが、
カイへ向き直った。
一歩。
二歩。
巨体が、
こちらへ迫る。
カイは走る。
グランドグリズリーが、
木を。
岩を。
茂みを。
薙ぎ倒しながら進む。
バキバキバキッ――!
枝が降る。
石が飛ぶ。
ガッ!
カイの背中へ、
木片。
⸻
HP:112 → 101
⸻
転びかける。
踏みとどまる。
また走る。
レオンの矢。
リシアの矢。
三人で、
グランドグリズリーをナタリーから引き離す。
風が、
さらに強くなる。
ナタリーの髪が舞う。
服が激しく揺れる。
それでも。
矢はまだ放たれない。
「ナタリー!」
レオンが叫ぶ。
「あと少し!」
グランドグリズリーが、
頭を上げた。
「散れ!」
グオオオオオオ――!!
カイは横へ走る。
身体が強張る。
グランドグリズリーが、
レオンへ向く。
レオンが、
横へ飛ぶ。
だが。
僅かに遅い。
グランドグリズリーの肩が、
身体を掠めた。
ドッ――!
レオンが吹き飛ぶ。
地面を転がる。
リシアが、
すぐに射る。
一射。
二射。
グランドグリズリーが、
そちらへ向く。
カイも射る。
レオンが、
何とか身体を起こした。
口元から、
血が落ちる。
ナタリーの周囲。
風が、
一点へ集まり始める。
渦を巻いていた風が、
一本の矢へと収束していく。
草が、
地面へ押し伏せられる。
葉が、
激しく舞う。
ナタリーの弓が、
軋む。
さらに。
風が集まる。
矢の周囲で渦巻いていた風が、
次第に小さくなる。
一本の矢へ、
押し込められていく。
ナタリーが、
弓を限界まで引き絞った。
「離れろ!!」
カイ。
レオン。
リシア。
三人が、
一斉に飛び退く。
⸻
《テンペストアロー》
⸻
ナタリーの指が、
弦から離れた。
バンッ――!
矢が、
カイの視界から消える。
次の瞬間。
ドスッ――!
グランドグリズリーの胸へ、
深々と突き刺さった。
一瞬。
何も起こらない。
そして。
ドォォォン――!!
圧縮されていた風が、
一気に解き放たれた。
胸元を中心に、
暴風が吹き荒れる。
毛が逆巻く。
血が飛ぶ。
土が巻き上がる。
周囲の木々が、
大きくしなる。
「グォォォォォォォォ――!!」
苦痛の咆哮。
巨体が、
大きく仰け反る。
前脚が沈む。
ドンッ――!
膝をついた。
胸から、
大量の血が流れ落ちる。
だが。
太い前脚が、
地面を掴んだ。
ゆっくり。
巨体が、
持ち上がる。
「まだ……立つのかよ」
再び。
グランドグリズリーが立った。
⸻
胸から、
血が流れ続けている。
呼吸は、
明らかに荒い。
左前脚。
踏み出すたび、
大きく沈む。
それでも。
こちらへ進んでくる。
「まだ来るぞ!」
四人が散る。
動きは、
明らかに遅くなっている。
それでも。
前脚が届く範囲は広い。
木へ身体をぶつける。
岩を踏む。
砕けた石が飛ぶ。
カイが避ける。
一つ。
二つ。
三つ。
最後の一つが、
脇腹へ。
⸻
HP:101 → 91
⸻
グランドグリズリーが、
そのまま身体を捻る。
前脚。
⸻
《予測 Lv.2》
⸻
左。
間に合わない。
後ろ。
木。
右。
爪。
カイは、
身体を低くした。
だが。
振り抜かれた爪の先が、
肩を掠めた。
「っ……!」
一瞬遅れて、
焼けるような痛みが走る。
Tシャツが裂け、
肩口から血が滲んだ。
⸻
HP:91 → 68
⸻
「カイ!」
ナタリーの声。
カイは、
そこから走る。
ヒュッ!
リシアの矢。
グランドグリズリーの首へ。
カイから注意が逸れる。
レオンも射る。
ナタリーも。
だが。
ナタリーの矢は、
さっきより遅い。
弓を持つ腕も、
震えている。
カイは、
矢筒へ手を伸ばした。
指に触れた矢。
二本。
「……あと二本」
一本を抜く。
ナタリー。
レオン。
リシア。
全員、
傷だらけ。
グランドグリズリーも、
胸から血を流し続けている。
ここで。
決めるしかない。
カイは、
矢をつがえた。
放つ。
胸。
テンペストアローが穿った傷の近く。
刺さる。
「グォッ!」
残り。
一本。
グランドグリズリーが、
前脚を振る。
カイは避ける。
折れた木。
根。
足を取られる。
「うわっ!」
地面へ倒れる。
顔を上げる。
グランドグリズリー。
目の前。
前脚が上がる。
⸻
《予測 Lv.2》
⸻
爪が、
振り下ろされる。
その瞬間。
予測線が、
これまでより濃く浮かんだ。
一つ。
二つ。
三つ。
わずかな身体の動きまで、
今までより早く見える。
⸻
《予測の習熟度が上昇しました》
《予測 Lv.2 → Lv.3》
⸻
カイは、
身体を捻った。
ドンッ――!
爪が、
すぐ横の地面を抉る。
カイは転がり、
距離を取る。
立ち上がる。
最後の一本。
カイは、
矢を握った。
もう、
これしかない。
ナタリー。
レオン。
リシア。
三人も、
残った力で弓を構えている。
グランドグリズリーが、
咆哮を上げた。
グオオオオオオ――!!
最初ほどの圧はない。
巨体が、
カイへ向く。
一歩。
また一歩。
傷ついた左前脚を庇いながら、
距離を詰めてくる。
カイは見る。
⸻
《観察 Lv.1》
⸻
胸。
血。
左脚。
頭。
⸻
《予測 Lv.3》
⸻
未来が、
重なる。
右。
左。
後ろ。
そして。
一つ。
グランドグリズリーが、
大きく踏み込む。
その瞬間。
胸。
テンペストアローが穿った傷が、
真正面へ向く。
「……そこだ」
カイは、
最後の矢をつがえた。
弦を引く。
グランドグリズリーが、
近づいてくる。
さらに。
引く。
指に、
力を込める。
一歩。
また一歩。
もう少し。
「いけぇぇぇっ!!」
カイは、
指を離した。
ヒュッ――!
矢が飛ぶ。
同時に。
レオン。
リシア。
ナタリー。
三本の矢も、
グランドグリズリーへ向かう。
カイの矢が、
胸の傷へ突き刺さった。
「グォォッ――!!」
巨体が、
大きく揺れる。
それでも。
一歩。
まだ来る。
「止まれ……!」
もう一歩。
「止まれよ……!」
前脚が、
沈む。
巨体が傾く。
「止まれぇぇぇっ!!」
ズズッ――。
そして。
ドォン――!!
グランドグリズリーが、
地面へ崩れ落ちた。
誰も動かない。
荒い呼吸だけが、
森の中に響いている。
数秒。
巨体は、
動かない。
そして。
⸻
《グランドグリズリーを討伐しました》
⸻
《初回討伐報酬》
《格上討伐ボーナス》
《共同討伐ボーナス》
《高難度戦闘ボーナス》
⸻
《DP +320》
《LEVEL経験値 +133%》
《所持DP:541 → 861》
⸻
青白い光が、
カイを包んだ。
⸻
LEVEL UP
神谷 海
Lv.8 → Lv.10
⸻
LEVEL BONUS
最大HP +10
全ステータス +2
SP +6
⸻
HP:145 / 145
LEVEL進行度:15%
⸻
同時に。
ナタリー。
レオン。
リシア。
三人の身体にも、
淡い光が広がった。
ナタリーは、
脇腹へ手を当てた。
裂けた服の下。
さっきまであった傷が、
消えている。
「……レベルが上がったのか」
レオンが、
自分の手を見る。
「久しぶりに上がったな」
リシアも、
驚いたように身体を見下ろす。
「私も……」
カイが、
三人を見る。
「みんなも?」
「ああ」
レオンが頷く。
「最近は強い相手と戦うこともなかったからな」
その時。
カイを包んでいた光が、
変わった。
青白い光とは違う。
白く。
柔らかく。
それでいて、
目を離せないほど強い光。
カイの身体から、
ゆっくりと溢れ始める。
ナタリーたちも、
言葉を失ったまま、
その光を見つめていた。
⸻
《LEVEL 10到達》
《魔力機能を解放します》
⸻
白い光が、
カイの全身を包む。
⸻
《光属性を取得しました》
⸻
《光魔法を解放しました》
《治癒 Lv.1を習得しました》
⸻
「治癒……」
その時。
レオンの表情が変わった。
「ディルク!」
レオンが、
走り出す。
ナタリー。
リシア。
カイも、
その後を追った。
木々の間を抜ける。
少し走った先。
大きな岩の陰。
そこに。
ディルクが、
横たわっていた。
「ディルク!」
レオンが、
すぐに膝をつく。
反応はない。
額。
肩。
脇腹。
傷は、
そのまま残っている。
カイは、
ディルクの横へ膝をついた。
さっき覚えた、
《治癒》。
額の傷へ、
手を伸ばす。
「……治れ」
手のひらから、
淡い光が広がった。
ディルクの額を包む。
開いていた傷が、
ゆっくり塞がっていく。
⸻
MP:60 → 45
⸻
それでも。
ディルクは、
目を開けない。
カイは、
肩へ手を当てた。
「もう一回……」
光。
⸻
MP:45 → 30
⸻
傷が、
少しずつ閉じる。
ディルクの呼吸が、
僅かに深くなった。
だが。
脇腹。
服は、
まだ血に濡れている。
カイは、
そこへ手を伸ばす。
「治れ……!」
光が、
再び広がる。
⸻
MP:30 → 15
⸻
流れていた血が、
止まっていく。
「ディルク」
レオンが、
顔を覗き込む。
まだ。
目は開かない。
呼吸も、
浅い。
カイは、
もう一度手を当てた。
「カイ、待て」
ナタリーの声。
カイは、
ディルクを見る。
「……もう少し」
手のひらに、
白い光が集まる。
「治れ……!」
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MP:15 → 0
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淡い光が、
ディルクの身体を包み込んだ。
しばらくして。
胸が、
大きく上下する。
一度。
もう一度。
呼吸が、
深くなる。
「……っ」
ディルクの指が、
僅かに動いた。
「ディルク!」
レオンが、
顔を覗き込む。
カイも、
小さく息を吐いた。
「……よかった」
その瞬間。
視界が、
大きく揺れた。
「……っ」
身体から、
力が抜ける。
「カイ?」
ナタリーの声。
カイの視界に、
文字が浮かんだ。
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《WORLD条件を達成しました》
《PHASE 2を終了します》
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WORLD PHASE 3
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《生態系の進化を開始します》
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ゴゴッ――。
「……?」
足元。
地面が、
僅かに揺れた。
ゴゴゴゴゴ――。
今度は、
はっきりと。
木々が、
一斉に軋む。
鳥が、
森から飛び立った。
揺れが、
さらに大きくなる。
ゴゴゴゴゴゴゴ――!!
地面そのものが、
唸っている。
遠く。
森の向こうから。
ゴゴォォォォ――。
何かが、
大きく動いているような、
低い音。
カイは、
顔を上げようとした。
「何が……」
そこで。
膝から、
力が抜けた。
「カイ!」
ナタリーの声。
身体を、
誰かに支えられる。
揺れる森。
飛び立つ鳥。
ナタリーの顔。
白い文字。
全部が、
少しずつ暗くなっていく。
「カイ!」
声が、
遠くなる。
そして。
何も、
聞こえなくなった。
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白い天井。
カイは、
ゆっくり目を開けた。
朝。
自分の部屋。
いつもの景色。
それでも。
頭の中には、
まだあの森が残っている。
グランドグリズリー。
咆哮。
倒れたディルク。
血を流すナタリー。
何度も、
もう駄目だと思った。
それでも。
「……生きてる」
自分も。
ナタリーも。
レオンも。
リシアも。
ディルクも。
「……よかった」
カイは、
小さく息を吐いた。
最後に見た文字が、
頭へ浮かぶ。
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WORLD PHASE 3
《生態系の進化を開始します》
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あの地震。
今度は、
何が起きるんだろう。
不安はある。
それでも。
気にならないわけがない。
カイは、
時計を見る。
「……学校行くか」
ベッドから起き上がり、
制服へ手を伸ばした。
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神谷 海 現在
LEVEL:10
HP:145 / 145
MP:60 / 60
筋力 26
体力 25
敏捷 34
器用 19
知力 19
感知 27
精神 19
LEVEL進行度:15%
未使用SP:6
所持DP:861
属性:光
SKILL
予測 Lv.3
観察 Lv.1
弓術 Lv.2
狩猟 Lv.2
追跡 Lv.2
静音歩行 Lv.1
方位確認 Lv.1
工作 Lv.1
ロープワーク Lv.1
光魔法 Lv.1
治癒 Lv.1
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