↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリームライド〜異世界創造、夢の旅〜  作者: 神谷 夢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/34

第12話 観察

第12話 観察


森を抜ける頃には、


空が茜色に染まり始めていた。


海はナタリーの後ろを歩いていた。


今日だけで、


随分いろいろなことがあった。


初めての狩り。


リーフホーン。


エルフの集落。


世界樹。


長老から聞いた予言。


そして。


自分にとっては、


つい数日前に現れたはずの森に、


数千年という歴史が存在していること。


考えても、


答えは出ない。


「ナタリー」


「何だ」


海は少し迷った。


「……いや、何でもない」


「変な奴だな」


「それ何回目?」


「数えていない」


「俺も」


やがて、


木々の間から小屋が見えてきた。


ナタリーが足を止める。


「明日は北側だ」


「リーフホーンの群れだよね」


「ああ」


「分かった」


ナタリーが森へ戻ろうとする。


「あ、ナタリー」


「何だ」


「水路」


ナタリーが振り返る。


「調べてくる」


「頼む」


「うん」


ナタリーは頷き、


森の奥へ消えていった。


⸻


海は小屋へ入ると、


簡易寝床へ腰を下ろした。


「……疲れた」


腕を伸ばす。


脚も重い。


一日中、


ほとんど動きっぱなしだった。


それでも。


頭の中は、


なかなか静かにならない。


長老の予言。


ナタリーの年齢。


世界樹。


集落で水を運んでいたエルフたち。


明日の狩り。


海は寝床へ身体を倒し、


木の天井を見た。


「数千年……」


何度考えても、


やっぱり時間が合わない。


この世界で、


自分の知らない時間が流れているのか。


それとも。


歴史ごと、


最初から存在しているのか。


分からない。


しばらくして、


今度は集落の光景が浮かぶ。


大きな木桶。


何度も川へ向かうエルフたち。


「水路か……」


現実に戻ったら、


調べる。


それから、


また狩り。


海は枕元に置いた弓へ目を向けた。


今日、


初めて触った。


初めて撃った。


初めて、


生き物を仕留めた。


「もっと上手くなれるかな」


怖さはまだある。


グレイファングに追われた時の感覚も、


完全には消えていない。


それでも。


明日は一人ではない。


ナタリーたちと森へ入る。


海は目を閉じた。


すぐには眠れなかった。


今日見たものが、


次々と頭に浮かぶ。


そのうち、


考えていたことが少しずつ途切れ始め。


いつの間にか、


眠りに落ちていた。


⸻


目を開ける。


白い天井。


自分の部屋。


「……戻った」


海は、


しばらくそのまま天井を見ていた。


最近は、


二つの世界を行き来することにも、


少し慣れてきた。


木の天井なら、


ドリームワールド。


白い天井なら、


現実。


目覚めた瞬間の戸惑いも、


最初ほどではない。


海は身体を起こした。


腕を動かす。


脚。


肩。


昨日、


あれだけ森を歩いた。


リーフホーンも運んだ。


向こうでは、


腕も脚もかなり疲れていた。


それでも。


「……疲れ、残らないよな」


現実へ戻れば、


向こうで感じていた疲労は消えている。


傷も同じ。


なのに。


ステータスやスキルは、


こちらでも使える。


「身体は別なのに、


能力は同じ……?」


海は自分の手を見る。


「これも、


魔法みたいなものなのかな」


何度考えても、


仕組みは分からない。


時計を見る。


「やば」


海はベッドから降りた。


⸻


昼休み。


教室。


海は自分の席で、


スマートフォンを見ていた。


検索欄には、


川 水路 作り方


用水路。


取水。


勾配。


排水。


いくつものページを開く。


「……難しいな」


「何見てるの?」


隣から声がした。


顔を上げる。


美緒が、


海のスマートフォンを覗き込んでいる。


「水路」


「……水路?」


「うん」


「川から水引くやつ?」


「そう」


「何で急に?」


「ちょっと気になって」


美緒が海を見る。


「最近、


そういうの多くない?」


「そう?」


「前はそんなに、


自分から色々調べてなかったじゃん」


「それは余計」


「でも本当でしょ」


海は少し笑った。


「まあ、


気になること増えたから」


「ふーん」


美緒が画面を見る。


「結構いろいろ出てくるね」


「出てくるんだけど、


調べるほど知らない言葉増えるんだよ」


「じゃあ図書室行ったら?」


「図書室?」


「用水路とか昔からあるんだし、


一冊にまとまってる本ありそうじゃない?」


海は少し考えた。


「ああ。


確かに」


「でしょ」


「行ってみる」


美緒が笑う。


「ほんとに行くんだ」


「言ったの美緒じゃん」


「ちゃんと勉強してきなよ」


「はいはい」


海は席を立った。


⸻


図書室。


農業。


土木。


昔の暮らし。


棚を見ながら、


使えそうな本を探す。


一冊を開く。


取水口。


水路。


川。


田畑。


スマートフォンで、


一つずつ調べていた言葉が、


一つの仕組みとして繋がっている。


「こういうことか……」


川の水を、


すべて水路へ流すわけではない。


一部だけを取り込む。


入口には、


枝や石が入りにくいように工夫する。


そして。


水路には、


緩やかな勾配が必要になる。


急すぎれば、


水の勢いが強くなり、


土を削る。


逆に。


傾斜が足りなければ、


水が流れない。


「少しずつ、


低くしていく……」


昨日見た川と、


集落を思い浮かべる。


⸻


《水路の基本構造を理解しました》


《DP +10》


《LEVEL進行度:81% → 91%》


⸻


ページを進める。


大雨。


増水。


流れ込む水が多すぎた場合。


余った水を逃がす場所。


さらに。


泥。


落ち葉。


詰まり。


定期的な手入れ。


「これも、


作った後があるんだ」


匠から教わった、


道具の手入れと同じだった。


⸻


《取水・勾配・排水について基礎知識を獲得しました》


《DP +8》


《LEVEL進行度:91% → 98%》


⸻


さらに別の本。


土を掘っただけの水路。


木を組んだ水路。


石で補強したもの。


土地や材料によって、


形は違う。


海はページをめくりながら、


昨日の集落を思い浮かべた。


森には、


木もある。


石もある。


加工のできるエルフもいる。


「これなら……」


⸻


《既存知識の応用方法を理解しました》


《DP +5》


⸻


視界が、


青白く染まった。


⸻


LEVEL UP


神谷 海


Lv.7 → Lv.8


⸻


《最大HPが上昇しました》


《全ステータス +1》


《SP +3》


《超過経験値を次のLEVELへ繰り越しました》


⸻


LEVEL 8


《LEVEL進行度:3%》


⸻


「八……」


さらに、


新しい表示。


⸻


SKILL ACQUIRED


《観察 Lv.1》


対象や周囲を注意深く見ることで、

見落としやすい変化・特徴・違和感に気づきやすくなります。


⸻


「観察……」


海は、


表示を見つめた。


見落としやすい変化。


特徴。


違和感。


「観察、か……」


どう使うものなのか。


そう考えかけたところで、


廊下から予鈴が聞こえた。


「やば」


時計を見る。


昼休みが終わる。


海は慌てて本を戻し、


図書室を出た。


⸻


教室へ戻り、


自分の席へ座る。


隣から、


美緒が顔を向けた。


「水路のこと、分かった?」


「結構」


「ほんと?」


「スマホで見てた時より、


ちゃんと繋がった」


「じゃあ、


行った甲斐あったじゃん」


「うん」


返事をしながら、


海は何気なく美緒を見る。


「あれ?」


「何?」


「髪、


結んだんだ」


美緒が、


後ろでまとめた髪に触れる。


「うん。


暑かったから」


「朝は下ろしてたよね」


美緒が、


少し目を丸くする。


「……海が気づいた」


「何その言い方」


「だって、


こういうの気づかないじゃん」


「失礼だな」


美緒が笑う。


海も笑いながら、


前を向く。


その時。


ふと、


さっき手に入れたスキルが頭をよぎった。


⸻


《観察 Lv.1》


⸻


「……これ?」


⸻


午後の授業。


先生が黒板へ向かう。


ネクタイが、


少し曲がっている。


左腕には、


いつもの腕時計がない。


海は一瞬だけ、


そこへ目を向けた。


⸻


《観察 Lv.1》


⸻


「……これが効果か?」


小さく呟き、


海は黒板へ視線を戻した。


⸻


放課後。


サッカー部。


パス。


トラップ。


ボールを受ける。


悠斗が、


正面から寄ってきた。


ほんの一瞬。


視線が右へ動く。


右足へ、


少し体重が乗る。


海は先に、


ボールを左へずらした。


「うわ!」


そのまま抜く。


「何で分かった?」


「今、


右見たじゃん」


「俺が?」


「うん」


「マジ?」


次。


また悠斗が来る。


今度は。


視線だけではない。


肩。


足。


重心。


小さな動きが、


妙に目につく。


そして。


⸻


《予測 Lv.1》


⸻


薄い線。


悠斗の動く方向。


海は、


先に身体を入れた。


「またかよ!」


悠斗の声。


海は、


少し笑った。


観察で拾った動きと、


予測が繋がる。


その直後。


⸻


《予測 Lv.1の習熟度が規定値に到達しました》


SKILL LEVEL UP


《予測 Lv.1 → Lv.2》


⸻


海の視界に、


一瞬。


複数の薄い線が現れた。


右。


左。


止まる。


どれも、


同じ濃さではない。


「……」


ボールを持ったまま、


一瞬だけ見入る。


「カイ!」


「やば」


悠斗が足を出す。


海は慌ててボールを逃がした。


「今の取れただろ!」


「ちょっと考え事」


「練習中にするなよ!」


「ごめん」


海は笑いながら、


もう一度ボールを追った。


⸻


家へ帰る。


「ただいま」


「おかえり」


リビング。


匠が、


冷蔵庫から飲み物を出している。


その手。


人差し指の付け根。


小さな傷。


「父さん」


「ん?」


「指どうしたの?」


匠が、


自分の手を見る。


「ああ、これ?」


「うん」


「昨日ちょっと切った」


「包丁?」


「そう」


昨日。


目の前で、


包丁を研いでいるところを見ていた。


なのに。


その傷には気づかなかった。


「平気?」


「これくらい大丈夫だよ」


匠は、


そのままリビングへ戻っていった。


「……なるほど」


海も、


ようやく《観察》の感覚が分かってきた。


⸻


夕食。


風呂。


自分の部屋。


海は机へ座り、


昼に調べた内容をノートへまとめた。


取水。


勾配。


排水。


詰まり。


維持管理。


その時。


⸻


《新規創造候補を検出しました》


簡易水路


180DP


⸻


海は、


所持DPを確認する。


⸻


所持DP:553


⸻


「……いけるな」


海はCREATIONを閉じた。


明日は、


また狩りへ行く。


ふと、


使わずに残っているSPが頭に浮かんだ。


「STATUS」


⸻


未使用SP:13


⸻


海は能力値を見る。


グレイファングに追われた時。


何もできなかった。


今日仕留めたリーフホーンも、


自分一人では運べないほど重かった。


「まず、


力かな」


⸻


《SPを5消費しました》


《筋力:19 → 24》


⸻


森の中を進む、


ナタリーの姿が浮かぶ。


速い。


それなのに、


ほとんど音がしない。


追いつくどころか、


昨日は歩き方を真似するだけで精一杯だった。


⸻


《SPを5消費しました》


《敏捷:27 → 32》


⸻


残り。


明日は、


狩猟隊と森へ入る。


周囲へ気づく力も、


上げておきたかった。


⸻


《SPを3消費しました》


《感知:22 → 25》


⸻


《未使用SP:0》


⸻


海は立ち上がった。


拳を握る。


腕。


脚。


劇的に、


何かが変わったわけではない。


それでも。


身体に力が入りやすい。


軽く足を踏み出す。


「……違うな」


海は、


ベッドへ腰を下ろした。


今日一日。


今までなら気づかなかったものが、


自然と目に入った。


人でも、


あれだけ違う。


森なら。


もっと多くのものを、


見落としていたのかもしれない。


足跡。


草。


木。


獲物。


あるいは。


自分へ近づいてくる、


危険そのもの。


そして。


《予測》も変わった。


一本だった線が、


今は複数に分かれる。


海は、


ゆっくりベッドへ身体を倒した。


明日は、


ナタリーたちと森へ入る。


観察して。


その先を読む。


森の中で、


どこまで使えるのか。


想像すると、


少しだけ気持ちが高ぶった。


グレイファングに追われた時には、


眠ることさえ怖かった世界。


今は、


その森へもう一度入ろうとしている。


「……変わったな」


自分のことなのに、


少しだけ可笑しかった。


海は照明を消した。


暗くなった部屋で、


目を閉じる。


次に目を開けた時。


昨日までとは、


少し違う森が見えるかもしれない。


⸻


鳥の声。


風。


葉が擦れ合う音。


海は目を開けた。


木の天井。


身体を起こす。


「……こっちか」


床へ足をつく。


立ち上がった瞬間。


身体が軽い。


脚にも、


昨日より力がある。


小屋の外へ出る。


一本の木。


幹に、


細い傷。


海の視線が止まる。


表面が、


まだ乾ききっていない。


近づいて見る。


「……新しい?」


何の跡かは、


分からない。


だが。


昨日なら、


気にも留めなかったはずだ。


⸻


《観察 Lv.1》


⸻


海は弓を持って、


森へ入った。


⸻


木々の間を進む。


途中。


道が二つに分かれた。


海の足が止まる。


「……どっちだ?」


周囲を見る。


右。


左。


木の幹。


片方に、


小さな切り傷のような印。


さらに。


その先の草だけが、


何度も踏まれて少し薄くなっている。


⸻


《観察 Lv.1》


《追跡 Lv.1》


⸻


「こっちか」


右へ進む。


しばらくすると、


昨日見た大木が現れた。


海の歩調が、


少しだけ速くなる。


⸻


ガサッ。


海が止まる。


前方。


背の低い草が揺れた。


すぐには近づかない。


草。


音。


地面。


小さな足跡。


次の瞬間。


茂みから、


灰褐色の動物が飛び出した。


長い耳。


小さな身体。


⸻


フォレストラビット


LEVEL:1


⸻


一瞬だけ海を見る。


そして。


森の奥へ逃げていった。


「……ウサギ?」


緊張していた肩から、


少し力が抜ける。


海は、


また歩き始めた。


⸻


しばらくして。


再び、


足が止まる。


今度は。


地面。


さっきより、


ずっと大きな足跡。


木の根元には、


灰色の毛。


海の表情が変わる。


「……いる」


少し離れた木の陰から、


森の奥を見る。


風。


葉。


匂い。


足跡の向き。


海は、


足音を抑える。


⸻


《静音歩行 Lv.1》


⸻


遠回りする。


やがて。


木々の隙間。


灰色の身体が見えた。


グレイファング。


一頭。


こちらには、


気づいていない。


海は動かなかった。


そのまま、


静かに距離を取る。


グレイファングは、


海の存在に気づかないまま、


森の奥へ消えていった。


⸻


《敵性生物との接触を回避しました》


《DP +5》


《LEVEL進行度:3% → 8%》


⸻


海は、


グレイファングが消えた方向を見る。


昨日までは、


見つけてから逃げていた。


今日は。


見つかる前に、


離れられた。


「……違うな」


少しだけ、


口元が緩んだ。


⸻


木につけられた印。


踏み固められた道。


簡素な柵。


やがて、


エルフの集落が見えてきた。


「着いた」


入口近くにいたエルフが、


海を見る。


まだ、


少し警戒する視線。


「……カイか」


「あ、うん」


「ナタリーなら広場にいる」


「ありがとう」


昨日より、


視線は少ない。


それでも。


珍しそうに見る者はいる。


海はその中を、


広場へ向かった。


⸻


ナタリー。


レオン。


そして。


見覚えのない二人。


一人は、


短い銀髪の男。


もう一人は、


濃い金髪を後ろで束ねた女性。


ナタリーが、


海に気づく。


「来たか」


「ちゃんと着いた」


「一人で来られたのだな」


「途中、


グレイファングがいた」


ナタリーの表情が、


少し変わる。


「戦ったのか?」


「避けた」


「そうか」


それだけ言って、


ナタリーは頷いた。


レオンが笑う。


「少しは、


森の歩き方を覚えたらしいな」


銀髪の男が、


海を見る。


「こいつがカイか?」


「ああ」


レオンが答える。


「昨日、


リーフホーンを仕留めた」


「弓を覚えたその日に?」


男が、


少し疑うように海を見る。


「本人の前で疑う?」


海が言う。


男が笑った。


「悪い。


ディルクだ」


「カイ」


隣の女性も、


軽く手を上げる。


「リシア」


「よろしく」


「よろしく」


⸻


海は、


ナタリーを見る。


「水路、


調べてきた」


「そうか」


「川、


もう一回見たい」


「なら、


狩りへ出る前に行こう」


五人は、


集落の端へ向かった。


⸻


川。


海は、


川と集落の間を歩いた。


地面を見る。


雨で削られた、


細い筋。


少し湿った土。


落ち葉が、


一方向へ寄っている場所。


⸻


《観察 Lv.1》


⸻


海はしゃがみ、


地面に残った跡を目で追う。


川側から、


集落の方へ。


「……やっぱり」


ナタリーが、


横から見る。


「何が分かった?」


海は、


地面を指した。


「雨が降った時、


水がこっちへ流れてる」


「分かるのか?」


「正確な高さは分かんない」


海は、


細く削られた地面を見る。


「でも、


水が流れた跡が残ってる」


さらに歩く。


途中。


少し低くなっている場所。


湿り気が強い。


「ここは避けた方がいい」


レオンが聞く。


「なぜだ?」


「水が溜まりそう」


海は、


少し右へ回る。


「こっちなら、


集落まで繋げられると思う」


ナタリーは、


川と集落の方向を見比べた。


「ここまで水を引けそうか?」


「多分。


実際に流してみないと分からないけど」


海は、


CREATIONを開いた。


⸻


簡易水路


180DP


所持DP:561


⸻


「やってみる」


⸻


《180DPを消費しました》


所持DP:381


⸻


淡い光が、


海の前へ集まった。


「……!」


ディルクが、


反射的に一歩下がる。


リシアの手が、


弓へ向かう。


レオンも、


言葉を失ったまま地面を見る。


「待て」


ナタリーが制する。


「カイの力だ」


「力?」


光が、


地面に沿って伸びていく。


土が、


浅く削られる。


その先。


木材が組み上がり、


水を通す樋が形になる。


川辺には、


簡単な取水口。


何もなかった場所に、


次々と水路が作られていく。


「……魔法か?」


リシアが呟く。


「俺も、


よく分かんない」


「自分の力なのにか?」


ディルクが言う。


「そうなんだよ」


レオンは、


まだ水路から目を離さない。


「一瞬で……


これだけのものを?」


やがて。


光が消えた。


川から集落へ。


一本の水路が、


伸びている。


ナタリーも、


しばらく黙っていた。


「カイ」


「何?」


「……本当に作ったのか?」


「作ったっていうか、


出したっていうか」


その時。


取水口へ、


川の水が入り始めた。


最初は、


細い流れ。


やがて。


木樋へ。


溝へ。


水が流れていく。


「来た」


海は、


流れを目で追う。


ナタリーたちも、


流れる水を追うように集落へ戻った。


⸻


集落。


最初の水が、


水路の先へ届いた。


桶を持っていたエルフが、


足を止める。


「……水?」


もう一人。


さらに。


近くにいた者たちが、


集まってくる。


「川から来ている」


「ここまで?」


「何だ、これは……」


子どもが、


水へ手を伸ばす。


「冷たい!」


その声で、


さらに人が集まる。


ガイルも、


騒ぎを聞きつけてやってきた。


「何があった?」


水路を見る。


そのまま、


言葉を失う。


「……これを誰が?」


ナタリーが、


海を見る。


「カイだ」


「これを?」


ガイルは、


しゃがんで木樋の接合部分を見る。


「今作った」


レオンが言う。


ガイルが、


ゆっくり海を見る。


「今?」


「うん」


「……どうやって?」


「説明しづらい」


「だろうな」


セリアもやってくる。


「何の騒ぎ?」


水を見る。


水路を見る。


そして。


桶を持ったまま立っているエルフたちを見る。


「……これ、


川まで行かなくてもいいの?」


「水が流れている間は」


海が答える。


セリアの表情が変わる。


「それなら、


水汲みに使っていた人たちが……」


「他の仕事ができる」


レオンが続ける。


周囲が、


少しずつざわめき始める。


驚き。


戸惑い。


喜ぶ声。


子どもたちは、


すでに水へ手を入れて遊んでいる。


海は、


流れる水を見た。


昨日。


自分が見た時は、


桶を抱えた者たちが、


何度も森へ向かっていた。


今。


水の方から、


集落へ来ている。


⸻


《生活用水路を構築しました》


《世界開拓への貢献を確認しました》


《DP +30》


《LEVEL進行度:8% → 16%》


⸻


続いて。


⸻


《集落への継続的な給水に成功しました》


《DP +20》


《LEVEL進行度:16% → 21%》


⸻


ナタリーが、


水へ触れる。


しばらくして。


海を見る。


「カイ」


「何?」


「ありがとう」


海は、


少しだけ照れくさくなった。


「……どういたしまして」


⸻


しばらくして。


五人は狩りへ出た。


ナタリー。


レオン。


ディルク。


リシア。


海。


森を進む。


今日の狙いは、


リーフホーンの群れ。


ナタリーが、


地面の痕跡を見ながら進む。


海も、


昨日より周囲を見る。


足跡。


折れた草。


糞。


木の傷。


一つ一つは、


小さなもの。


でも。


《観察》で拾ったものを、


《追跡》が繋げていく。


ナタリーが、


手を上げた。


全員が止まる。


「近い」


少し先。


木々の向こうに、


複数の影が見える。


ナタリーは、


地面へ簡単な線を描いた。


「レオンとリシアは左へ」


二人が頷く。


「ディルクは右」


「ああ」


「カイは私と来い」


「分かった」


ナタリーが、


海を見る。


「一頭だけを見るな」


「味方も?」


「ああ」


「射線も」


「そうだ」


海は頷いた。


⸻


位置につく。


木々の向こう。


リーフホーン。


一頭。


二頭。


さらに奥。


群れになっている。


ナタリーが、


指で合図を送る。


遠くで、


レオンたちが動く。


茂みが揺れる。


リーフホーンが、


一斉に顔を上げた。


走る。


「来るぞ」


海は、


弓を構える。


一頭。


速い。


狙う。


放つ。


ヒュッ――。


外れた。


「くそっ」


「次!」


ナタリーの声。


もう、


別の個体が走っている。


海は見る。


前脚。


首。


視線。


走る直前の、


小さな動き。


⸻


《観察 Lv.1》


⸻


そして。


複数の線。


⸻


《予測 Lv.2》


⸻


左へ逃げる線。


そのまま走る線。


右へ切れる線。


そのうち一本が、


少し濃い。


海は、


濃い線の先へ狙いをずらした。


放つ。


ヒュッ――。


命中。


リーフホーンが、


数歩走り。


倒れた。


⸻


《リーフホーンを討伐しました》


《経験値 +25》


《DP +20》


《LEVEL進行度:21% → 34%》


⸻


群れは、


さらに森の奥へ走る。


「追うぞ」


ナタリーたちが動く。


海も続く。


足跡が、


いくつも重なる。


海は走りながら、


地面を見る。


大きな足跡。


小さな足跡。


土の新しい崩れ。


折れたばかりの草。


⸻


《観察 Lv.1》


《追跡 Lv.1》


⸻


「右!」


海が言う。


ナタリーが、


一瞬だけ地面を見る。


「合っている」


さらに追う。


複数の痕跡が、


次第に分かれて見えてくる。


⸻


《追跡 Lv.1の習熟度が規定値に到達しました》


SKILL LEVEL UP


《追跡 Lv.1 → Lv.2》


⸻


海の中で、


足跡の繋がりが、


以前より明確になる。


「こっち」


今度は、


迷わない。


⸻


少し先。


再び、


群れの一部が見えた。


一頭が、


こちらへ逃げてくる。


海は弓を構えた。


だが。


その先に、


レオンがいる。


海は弓を下げる。


リーフホーンが、


目の前を横切った。


次。


別の個体。


今度は、


射線が空いている。


観察。


複数の予測線。


濃い一本。


海は、


そこへ矢を送った。


命中。


⸻


《リーフホーンを討伐しました》


《経験値 +25》


《DP +20》


《LEVEL進行度:34% → 46%》


⸻


続けて。


⸻


《味方の位置を把握し、安全な射線を選択しました》


《DP +10》


《LEVEL進行度:46% → 51%》


⸻


海は、


次の矢をつがえる。


さっきより、


動きが滑らかだった。


矢。


弦。


引く。


狙う。


放す。


一つ一つを、


頭の中で確認する必要が減っている。


⸻


《弓術 Lv.1の習熟度が規定値に到達しました》


SKILL LEVEL UP


《弓術 Lv.1 → Lv.2》


⸻


やがて。


リーフホーンの群れは、


森のさらに奥へ消えた。


ナタリーが、


手を上げる。


「ここまでだ」


全員が止まる。


海は、


大きく息を吐いた。


「はぁ……」


ディルクが、


倒れた二頭を見る。


「二頭か」


「何とか」


「昨日初めて弓を持ったとは思えないな」


レオンも、


少し笑う。


ナタリーは、


海を見る。


「昨日より、


周りが見えている」


海は少しだけ考え、


頷いた。


「俺も、


そんな気がする」


⸻


《初めて集団狩猟で役割を果たしました》


《経験値を獲得しました》


《DP +10》


《LEVEL進行度:51% → 63%》


⸻


さらに。


⸻


《狩猟 Lv.1の習熟度が規定値に到達しました》


SKILL LEVEL UP


《狩猟 Lv.1 → Lv.2》


⸻


海は、


倒したリーフホーンを見る。


昨日は、


ナタリーに言われたことを、


一つずつやるだけだった。


今日は、


自分で見つけ。


考え。


動けた。


その時。


ナタリーの表情が変わった。


森の奥を見る。


レオンも、


少し遅れて顔を上げる。


「……静かだな」


海も、


周囲を見る。


鳥。


さっきまで鳴いていた。


虫の音もしていた。


今は。


風。


葉が擦れる音。


それだけ。


⸻


《観察 Lv.1》


⸻


海の視線が、


一本の木で止まった。


幹。


深い傷。


「ナタリー」


「何だ」


「これ」


ナタリーが近づく。


表情が、


さらに険しくなる。


レオンが、


地面へしゃがんだ。


「足跡もある」


海も見る。


大きい。


リーフホーンとは、


まるで違う。


その時。


ミシッ――。


全員が止まった。


森の奥。


次。


バキッ!


太い枝が、


折れる音。


ディルクが弓を構える。


リシアも。


レオンも。


ナタリーの声が、


低くなる。


「カイ」


「何?」


「私より前へ出るな」


「分かった」


ズン。


地面が、


わずかに揺れた。


木々の向こう。


黒褐色の影。


一歩。


また一歩。


枝を押し分け、


巨体が姿を現す。


太い前脚。


長い爪。


盛り上がった肩。


四足で歩いているだけで、


背は周囲の低い枝へ届きそうだった。


そして。


身体を起こす。


「……でか」


三メートルはある。


視界に、


表示が浮かんだ。


⸻


グランドグリズリー


LEVEL:22


⸻


「……二十二?」


海の声が、


わずかに震えた。


ナタリーが、


弓を引き絞る。


だが。


昨日、


グレイファングの話をしていた時とは、


明らかに表情が違う。


「全員」


低い声。


「下がれ」


グランドグリズリーが、


ゆっくりこちらを向いた。


静まり返った森に。


腹の底へ響くような、


低い唸り声が広がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。