第11話 エルフの集落
第11話 エルフの集落
二人で持ち上げたリーフホーンは、
想像していたよりずっと重かった。
「ちょ、待って……」
海は腕に力を入れ直す。
「まだ歩き始めたばかりだぞ」
前を持つナタリーが振り返った。
「分かってるけど、重いって」
「狩ったのはお前だ」
「それ何回言うの」
「落とさないように言っている」
森の中を進む。
狩りの時とは違う。
大きな獲物を二人で運んでいるせいで、
木の根。
ぬかるんだ土。
張り出した枝。
一人なら簡単に避けられるものが、
いちいち邪魔になる。
「右」
ナタリーが言う。
「右?」
「根がある」
「あ」
海は慌てて足を上げた。
「前見えないんだから、もう少し早く言ってよ」
「見えている私が教えているだろう」
「ギリギリなんだよ」
ナタリーが小さく笑う。
「文句が多いな」
「重いもの持ってるからね」
さらに進む。
「ナタリー」
「何だ」
「集落って遠い?」
「ここからなら、それほどでもない」
「それほどってどれくらい?」
「もう少しだ」
「その言い方、信用できないんだけど」
「ならここへ置いていくか?」
「それは困る」
二人はそのまま森を進んだ。
⸻
しばらくすると、
森の様子が少しずつ変わり始めた。
切り払われた枝。
踏み固められた細い道。
木の幹につけられた印。
簡素な柵。
明らかに、
誰かの手が入っている。
「……この辺から?」
「集落の近くだ」
海は周囲を見渡した。
昨日まで、
この森はただ広くて、
何が潜んでいるか分からない場所だった。
でも。
ここには、
誰かが暮らしている。
その痕跡が、
少しずつ増えていく。
やがて。
木々の先が開けた。
「……おお」
思わず、
海の歩みが緩む。
「止まるな。重い」
「あ、ごめん」
慌てて進む。
巨大な木々を囲むように、
いくつもの住居が建っていた。
木。
蔓。
葉。
獣皮。
石。
地面に建つ家もあれば、
太い幹の途中に作られた住居もある。
木と木の間には、
縄と板で作られた通路。
中央には広場。
火。
干された肉。
獣皮。
木製の道具。
走り回る子どもたち。
弓を手入れする者。
何かを編んでいる者。
「……ほんとに集落だ」
ナタリーが眉を寄せる。
「何だと思っていた」
「いや、分かってたけどさ」
昨日まで、
海が見たエルフはナタリー一人だけだった。
今は違う。
何十人ものエルフが、
目の前で普通に生活している。
⸻
《エルフの集落を発見しました》
《DP +20》
《LEVEL進行度:41% → 47%》
⸻
その時。
一人の男が、
こちらに気づいた。
「ナタリー!」
ナタリーも顔を上げる。
「レオン」
男が近づいてくる。
背が高く、
引き締まった身体。
腰には短剣。
背中には弓。
男――レオンの視線が、
海へ移った。
「その少年は?」
「カイだ。森で出会った」
レオンが、
海の服装を見る。
「見たことのない格好だな」
「ニホンという場所から来たそうだ」
「ニホン?」
「私も知らない」
海が口を挟む。
「そこ毎回説明難しいんだよ」
レオンが少し眉を上げた。
「言葉は通じるのか」
「なぜかね」
海が答える。
レオンは、
しばらく海を見る。
警戒している。
それは分かる。
だが、
ナタリーが普通に隣にいる。
その様子を見て、
レオンの表情が少しだけ和らいだ。
「俺はレオン。狩猟隊でナタリーを補佐している」
「神谷海。カイでいいよ」
「よろしく、カイ」
「よろしく」
レオンの視線が、
今度はリーフホーンへ移った。
「いい個体だな」
「カイが仕留めた」
「……カイが?」
レオンが海を見る。
「今日、弓を教えた」
「今日?」
「そうだ」
「初めてで?」
「うん」
レオンが、
今度はナタリーを見る。
「本当なのか?」
「私も驚いた」
「へえ……」
海は、
何となく居心地が悪くなる。
「とりあえず、これ重いから先に下ろしていい?」
「ああ」
レオンが笑った。
「ガイルを呼ぶ」
⸻
「ガイル!」
少し離れた場所で、
木材を削っていた男が顔を上げた。
がっしりした体格。
腕には細かな傷。
腰には、
いくつもの道具。
「何だ?」
「獲物だ」
「今行く」
男――ガイルが近づいてくる。
そして海を見る。
「誰だ?」
「カイだ。ナタリーが森で見つけた」
「見つけたって何だよ」
海が言う。
ナタリーが答える。
「間違ってはいない」
「拾い物みたいじゃん」
ガイルが笑った。
「面白い奴だな」
それから、
リーフホーンへ視線を落とす。
「こいつは?」
「カイが仕留めた」
ガイルの手が止まる。
「この子が?」
「弓を持ったのも今日が初めてだ」
「……冗談だろ」
「私もそう思った」
「ナタリーまで言う?」
ガイルは、
海をもう一度見る。
「ガイルだ。獲物の解体や道具作りをしている」
「カイ。よろしく」
「ああ」
レオンとガイルが加わり、
四人でリーフホーンを運ぶ。
さっきまでの重さが、
一気に軽くなった。
「最初から四人で持ちたかった……」
「狩り場に四人はいなかっただろう」
「そうなんだけどさ」
⸻
集落の中へ入るにつれ、
視線が集まる。
特に子どもたちは、
遠慮なく海を見ている。
海が手を振ってみる。
一人の子どもが、
すぐに木の陰へ隠れた。
「逃げられた」
レオンが笑う。
「見たことのない服だからな」
「日本じゃ普通なのに」
ナタリーが、
海のTシャツを見る。
「何度見ても変な服だ」
「そっちも日本じゃかなり目立つよ」
「ニホンの基準は知らん」
「俺もこっちの基準知らないから同じだよ」
少し離れたところから、
一人の女性エルフが歩いてくる。
淡い金色の髪。
腕には、
薬草の入った籠。
「ナタリー、おかえり」
「セリア」
女性――セリアの視線が、
すぐ海へ向いた。
「まあ」
「何?」
「本当に見たことのない服」
海が肩を落とす。
「やっぱそこなんだ」
セリアが小さく笑った。
「私はセリア。薬草と治療を任されているの」
「カイです」
「よろしく、カイ」
「よろしく」
セリアが、
ナタリーを見る。
「ナタリーが連れてきたの?」
「そうだ」
「珍しい」
ナタリーの眉が動く。
「何がだ」
「あなたが会ったばかりの誰かを、集落まで連れてくるなんて」
「獲物を一人で運べなかっただけだ」
「そういうことにしておく」
「セリア」
「はいはい」
海は、
二人を交互に見る。
「仲いいんだね」
「黙れ」
ナタリーが即答した。
セリアは、
楽しそうに笑った。
海はそのまま、
集落の中へ視線を向ける。
狩りをする者。
道具を作る者。
薬草や治療を担う者。
食べ物を保存する者。
子どもたち。
誰か一人だけで、
ここが成り立っているわけではない。
⸻
《エルフ族の生活と役割について理解が深まりました》
《DP +8》
《LEVEL進行度:47% → 52%》
⸻
リーフホーンを解体場へ運び終えると、
ナタリーが海を見る。
「長老へ挨拶する」
「俺が?」
「集落へ来たのだから当然だ」
「分かった」
ナタリーの後について、
中央へ向かう。
大きな木。
その根元に、
一人の年老いたエルフがいた。
長い銀髪。
深い皺。
だが、
背筋はまっすぐ伸びている。
ナタリーが、
少し姿勢を正した。
「アルヴェル長老」
老人が顔を上げる。
「戻ったか、ナタリー」
「はい」
アルヴェルの視線が、
海へ向く。
しばらく、
じっと見られる。
海も、
少し姿勢を正した。
「その少年か」
「はい。カイといいます」
アルヴェルは、
ナタリーを見る。
そして、
わずかに笑った。
「珍しいな」
「何がでしょう」
「お前が、随分と打ち解けている」
ナタリーが少し黙る。
「……そう見えますか」
「見えるな」
海が横から言う。
「長老もそう思うって」
「カイ」
「はい」
「黙っていろ」
アルヴェルが小さく笑った。
「なるほど。確かに珍しい」
「長老まで……」
ナタリーが、
少し困った顔をする。
アルヴェルは、
改めて海へ向き直った。
「私はこの集落の長老、アルヴェルだ」
「神谷海です。カイでいいです」
「カイか」
アルヴェルは、
その名前を確かめるように口にした。
「ニホンという場所から来たと聞いた」
「はい」
「どこにある?」
海が困る。
また、
この質問。
「……説明すると長くなるんですけど」
「構わん」
「たぶん、この世界にはないです」
アルヴェルの表情が、
少し変わった。
ナタリーも海を見る。
「この世界にはない?」
「うん。俺が住んでる世界は地球っていうんだけど」
「チキュウ……」
ナタリーが呟く。
「俺、寝るとこっちに来るんです」
海は、
少しだけ冗談っぽく笑った。
「変ですよね」
だが、
アルヴェルは笑わなかった。
じっと、
海を見ている。
「カイ」
「はい」
「一つ、聞いてもよいか」
「何ですか?」
「世界樹の声を聞いたことはあるか?」
「……世界樹の声?」
海はナタリーを見る。
ナタリーも、
分からないようだった。
「ないです」
「そうか」
アルヴェルは、
少し考える。
「長老?」
ナタリーが呼ぶ。
「昔から、
長老にのみ伝えられてきた話がある」
ナタリーの表情が変わった。
「私も知らない話ですか?」
「そうだ」
アルヴェルが、
海を見る。
「世界樹が生まれた時の話だ」
⸻
数千年前。
まだ世界が、
深い闇に包まれていた時代。
空から、
一粒の光が落ちた。
それは、
世界を灯す光の種
と呼ばれた。
種は大地へ根を下ろし、
長い時をかけ、
巨大な樹となった。
それが、
世界樹。
やがて、
その周囲に森が生まれ。
生命が生まれ。
そして、
エルフの祖が生まれた。
「それが、
我々に伝わる始まりの話だ」
アルヴェルが言う。
「数千年前……」
「そう伝えられている」
⸻
《世界樹の起源に関する伝承を知りました》
《DP +10》
《LEVEL進行度:52% → 59%》
⸻
アルヴェルは続ける。
「そして、もう一つ」
声が、
少し低くなる。
「世界が再び大きく姿を変える時――」
アルヴェルの目が、
海へ向く。
「異なる世界より、
創造を携えし者が現れる」
「……創造?」
「その者は世界を学び」
静かに、
その先を告げる。
「世界もまた、
その者と共に成長する」
海は、
すぐには何も言えなかった。
ナタリーも、
アルヴェルを見ている。
「長老。それは……」
「予言だ」
海が口を開く。
「じゃあ、
それが俺ってこと?」
アルヴェルは、
ゆっくり首を横に振った。
「分からぬ」
「分からないんですか?」
「予言とは答えではない」
アルヴェルの目が細くなる。
「後になって初めて、
意味を知るものだ」
「……」
「お前がその者なのか。
そうでないのか」
「今、
決める必要はない」
海は、
少しだけ息を吐いた。
いきなり、
自分が何か特別な存在だと言われても、
困るだけだった。
アルヴェルが、
わずかに笑う。
「ただ」
「はい」
「お前が珍しい客人であることは、間違いないようだ」
「それは……
俺もそう思います」
ナタリーが小さく息を吐く。
「自覚はあるんだな」
「少しはね」
⸻
《長老にのみ伝えられてきた予言を知りました》
《DP +12》
《LEVEL進行度:59% → 66%》
⸻
長老のもとを離れ、
二人は集落を歩く。
「ナタリー」
「何だ」
「長老の話、知ってた?」
「世界樹の始まりは知っている」
「予言は?」
「初めて聞いた」
「そうなんだ」
「長老だけに伝わると言っていただろう」
「そっか」
歩きながら、
海は巨大な木々を見上げる。
「世界樹って、この近く?」
「ここから少し離れている」
「見れる?」
「簡単には近づけない」
「何で?」
「神聖な場所だからだ」
「なるほど……」
海は少し考えてから、
ナタリーを見る。
「ナタリーって何歳?」
「百二十七だ」
「……え?」
海の足が止まった。
「何だ」
「百二十七歳?」
「そうだ」
海は、
ナタリーの顔を見る。
どう見ても若い。
「エルフって、
そんな長生きなの?」
「普通だ」
「百二十七で?」
「我々は百歳で成人する」
「百歳で成人……」
今度は、
ナタリーが海を見る。
「ニホンでは違うのか?」
「全然違うよ」
「どれくらい生きる」
「平均だと、
八十歳くらいかな」
ナタリーの足が止まった。
「……八十?」
「うん」
「百歳にも届かないのか」
「届く人もいるけど、
平均ならそれくらい」
「それでは、
我々なら成人する前に一生を終えることになる」
「そっちの基準だとね」
「ニホンでは何歳で成人する」
「十八歳」
「十八……」
今度は、
ナタリーが黙る。
「早すぎないか?」
「俺に言われても」
少しして。
ナタリーが聞いた。
「では、カイは?」
「俺?」
「何歳だ」
「十五」
「……十五?」
「うん」
ナタリーが、
海をまじまじと見る。
「まだ成人していないのか」
「してないよ」
「……」
「何その顔」
「思っていたより、
ずっと幼かった」
「その言い方やめて」
「事実だろう」
「日本だと高校生だから、
そこまで子ども扱いされないよ」
「コウコウセイ?」
「それ説明すると、
また長い」
ナタリーが小さく笑った。
⸻
《エルフ族の寿命と成長について知りました》
《DP +8》
《LEVEL進行度:66% → 70%》
⸻
だが。
海は、
ふと足を止めた。
百二十七歳。
そして、
世界樹は数千年前から存在する。
この集落も、
ナタリーが生まれる前からある。
PHASE 2。
海にとっては、
ほんの数日前。
あの日、
雨が降った。
次に来た時には、
森があった。
川があった。
生き物がいた。
そして、
エルフがいた。
「……」
数千年。
自分にとっては、
数日。
「ナタリー」
「何だ」
「この集落って、
ナタリーが生まれる前からあるんだよね?」
「そうだ」
「世界樹は数千年前から」
「伝承ではな」
「……」
どう考えても、
時間が合わない。
自分が来ていない間に、
本当に数千年が流れたのか。
それとも。
森も。
エルフも。
それまでの歴史ごと、
この世界に生まれたのか。
海には分からない。
「どうした?」
ナタリーが聞く。
「……まだ分かんない」
「何がだ?」
「こっちの話」
答えは出なかった。
⸻
集落の奥。
灰色の毛皮が、
いくつか干されていた。
海の足が止まる。
「これ……」
「グレイファングだ」
ナタリーが言う。
「やっぱり」
昨日、
自分を追いかけた姿。
それが今、
皮になって干されている。
「グレイファングも狩るの?」
「必要ならな」
「怖くない?」
ナタリーが、
少し不思議そうに海を見る。
「一頭なら問題ない」
「……」
海は、
昨日の自分を思い出す。
一頭から、
必死で逃げた。
ナタリーが続ける。
「ただし、
群れは別だ」
「群れ?」
「あれは本来、
群れで狩る」
「何匹くらい?」
「決まっていない」
「多いと?」
「十を超えることもある」
海の顔が引きつる。
「十……」
「一匹に気を取られている間に、
横や後ろへ回られる」
ナタリーは、
干された毛皮を見る。
「囲まれれば、
熟練した狩人でも危険だ」
「俺、
昨日一匹でよかった……」
「そうだな」
⸻
《グレイファングの生態について理解が深まりました》
《DP +6》
《LEVEL進行度:70% → 73%》
⸻
しばらく歩くと、
集落の端。
何人かのエルフが、
大きな木桶を抱えて歩いていた。
「何してるの?」
「水を汲みに行く」
「川?」
「そうだ」
空の桶を持って、
森へ入っていく者。
水の入った桶を抱え、
戻ってくる者。
「毎日?」
「当然だ」
「何回も?」
「必要な分だけ」
海は、
水の入った桶を見る。
かなり重そうだ。
昨日、
ナタリーが蛇口から出る水を、
何度も止めたり出したりしていた姿が浮かんだ。
海はCREATIONを開く。
所持DPを確認する。
「これだけあれば、
何かできそうなんだけどな……」
一覧を見る。
だが、
今あるものの中に、
集落の水汲みそのものを解決できそうなものはなかった。
海はCREATIONを閉じた。
「川って、
どっち?」
「あちらだ」
ナタリーが指す。
海は、
川のある方向と、
集落の位置を見比べた。
「ここまで水、
流してこれないかな」
「流す?」
「うん」
海はしゃがみ、
地面に一本の線を引いた。
「川から、
水だけ通る道を作る」
「道?」
「水路」
ナタリーが、
地面の線を見る。
「水が勝手にここまで来るのか?」
「ちゃんと作れば」
「作れるのか?」
「……」
水は、
低い方へ流れる。
それくらいは知っている。
でも。
川からどうやって水を分けるのか。
どれくらい傾斜をつけるのか。
水量が増えた時はどうするのか。
途中で土が崩れたらどうするのか。
詳しいことまでは分からない。
「今の俺じゃ、
ちゃんとは作れない」
「ニホンにはあるのだろう?」
「あるよ」
「なら知っているのではないのか?」
「見たことあるのと、
作れるのは違うって」
ナタリーが、
少し考える。
「……そういうものか」
「そういうもの」
海は立ち上がる。
「一回、
ちゃんと調べてみる」
「ガッコウで?」
「学校とか、
図書館とか」
「トショカン?」
「本がいっぱいある場所」
「そんな場所があるのか」
「ある」
「ニホンは、
やはり妙な場所だな」
「便利な場所って言ってよ」
ナタリーが少し笑う。
それから、
水桶を運ぶエルフたちを見る。
「もし、
本当にできるなら」
海へ視線を戻す。
「皆、助かる」
海も、
同じ方向を見る。
毎日。
何度も。
重い水を運ぶ。
自分にとっては、
蛇口をひねれば済むこと。
「……うん」
海は頷いた。
「調べてみるよ」
⸻
《集落の水事情を把握しました》
《DP +5》
《生活環境の改善方法を考案しました》
《DP +5》
《LEVEL進行度:73% → 78%》
⸻
夕方。
集落では、
リーフホーンの解体が進んでいた。
ガイルが手際よく、
肉。
皮。
角。
骨。
それぞれを分けていく。
海は、
少し離れたところから見ていた。
「本当に全部使うんだね」
ガイルが顔を上げる。
「使えるものを捨てる理由がない」
「骨も?」
「道具になる」
「角は?」
「刃や飾りにも使える」
「皮は?」
「服にもなる。
袋や敷物にも使える」
海は、
ガイルの手元を見る。
さっきまで一頭の生き物だったものが、
いくつもの用途へ分けられていく。
ナタリーが言っていた。
無駄にはしない。
その意味が、
ようやく少し分かった。
「へえ……」
ガイルが海を見る。
「興味があるなら、
今度教えてやる」
「いいの?」
「ナタリーが連れてきた客だろ」
「客扱いになったんだ」
「今のところはな」
「今のところ?」
ガイルが笑った。
⸻
《狩猟資源の利用方法について理解が深まりました》
《DP +6》
《LEVEL進行度:78% → 81%》
⸻
少し離れた場所では、
セリアが薬草を選り分けている。
レオンは、
他の狩人たちと話していた。
集落へ来た時ほど、
海を見る視線も強くない。
まだ、
珍しそうには見られる。
それでも。
最初の空気とは、
ずいぶん違っていた。
ナタリーが、
海の横へ来る。
「そろそろ戻るか?」
「うん」
海は集落を見る。
「また来てもいい?」
「狩りをするならな」
「それ毎回条件つくんだ」
「遊び場ではない」
「分かってるよ」
その時。
少し離れたところから、
レオンが声をかけた。
「ナタリー」
「何だ、レオン」
「明日は北側へ出るぞ」
「分かった」
海が反応する。
「狩り?」
レオンが頷く。
「ああ。
明日は人数を出す」
「何かいるの?」
「リーフホーンの群れを追う」
海は、
ナタリーを見る。
「俺も行っていい?」
ナタリーは、
少し考える。
「今日覚えたことを忘れていなければな」
「忘れないよ」
「なら来い」
「よし」
海の顔が、
少し明るくなった。
⸻
帰る前。
海は、
もう一度、
水桶を運ぶエルフたちを見た。
川。
集落。
水路。
今はまだ、
作り方を知らない。
でも。
知らないなら、
調べればいい。
「ナタリー」
「何だ」
「次来るまでに、
水路のこと調べてくる」
ナタリーが頷く。
「頼む」
海は少し笑った。
「そういう時は素直なんだ」
「何がだ」
「何でもない」
二人は、
森へ向かって歩き始めた。




