一本目の尻尾 14
目の前に狩人が二人も居る中で思うことではないが、とりあえず危機は脱した。
一度落ち着くと、火傷の痛みがまたぶり返す。立っていることなどできず、風が吹くだけで猛烈な激痛で、目の前がまたチカチカしてくる。
流石に意識を保つことが難しくなってきた。
狩る・狩られるの世界で生き、最後は共と同様、ヒト種に狩られるのか。
であれば、共と同様、最後は誇り高くあるべきだ。
私は何かを語り合う二人を正面にした。
地面に尻を着き、臍の前に前脚を揃え、背筋をぴんと伸ばし、顎を引く。
もう、これ以上一歩も動けない。最後の意地だ。
私の姿に気付いた狩人は、ゆっくりとした動作で山猫の毛皮の羽織りを脱いで脇に置き、鉈を地面に突き刺し、両膝を付いて、両拳を地面に着けた。
ドジもそれに倣い、同じ姿勢を取る。
狩人が多分、私に対して長々と何かを語っているが、相変わらず分からない。
いい加減、姿勢を保つのが困難になってきた頃、後方から草木を分けて近づいてくる音が二つ。
軽く横を向き、後方を確認すると、私が伸した狩人二人が矢を番えたまま近づいてきていた。
目の前の狩人が片手を上げると、番えた矢を外し、安堵したような顔で近づいて来る。
そして二人もまた、私の前で両膝と両拳を着き、神妙な面持ちで何かを語る。
もう覚悟を決め、止めを待っている。
早くひと思いに仕留めてほしい。
気が済んだのか、初めに膝を着いた狩人はドジに向かって指示を出した。ドジは近くの茂みにヨロヨロと向かい、葉を一枚ぷちりと捥いで、私の前にそっと置く。
置かれた葉は私の顔程大きく、真ん中が窪んでいて、雨上がりなどは雫が溜まる。
その雫は葉の香りを含むようで、どことなく鼻が通る感触がする。私は好んでこの葉に溜まる雫を飲用していた。
指示を出した狩人は膝を着いたままずりずりとこちらに寄ってきて、腰にぶら下げていた竹筒から水を注ぎ、ずいとこちらに押し出した。
そして少し下がり、固唾を飲んでこちらを見ている。
せめてもの慈悲か、はたまたこれ以上傷を負わせずに止めを刺す気か。
どちらにせよ、狩る側の山猫種の肉が旨いわけはないし、大きく火傷で欠損している毛皮など使いでもそう無いだろう。
少しでも使える部位のあるものとして扱ってもらった方が、私としても誇らしい。
私は、その水をひと舐めした。
相当喉が渇いていたことを自覚した私は、ついついそのまま飲み干してしまった。
最後だというのに、格好のつかないものだ。
飲み干して顔を上げると、ドジは座り込んで驚きつつも笑い声を上げる。
水を注いだ狩人はその深い皺の多い顔を大きく綻ばせ、大笑いを始めた。
後から合流した二人も同じだ。
仕留めたことがそれほど嬉しいか。
私も鼻が高い心地であった。
短い生であったが、偉大な父母と過ごし、そして誇り高き共と多くの時を過ごした。
共と、ヒト種の狩人を四人も相手にしたし、そして単独ではないがキンカンオウムすらも退けた。
この森林では、ある程度一目置かれる程度の存在には成れたのではないか。
ただ、まだ小さかった頃に巣穴を抜け出した時、思ったこと。
知らないことを知ること。
新しいものを感じること。
世界はきっと、この森林よりも大きい。
森林を抜けた先には何があるのか。
草木は、果実は、生き物は。
どんな匂いで、どんな色で、どんな姿なのか。
森林ではない世界を知らない私には、森林の延長線上にあるものしか思いつかない。
その外にあるもの。
それを、知りたかった。
ああ、もう少し生きたかったなあ。




