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第九話「社会人、この人いつゲームしてるんだろうと思った」

今回は、MMOのロビーでよく見かける「この人いつゲームしてるんだろう?」という人のお話です。


戦闘や装備集めではなく、街で人と話すことそのものを楽しんでいるプレイヤーっていますよね。


昔やっていた某国産MMOでも、そういう人を結構見かけた気がします。

 その日は、いつもより少し早めにログインした。


 仕事は普通に終わったが、珍しく残業がなかった。


 軽くシャワーを浴びて、飲み物だけ用意してPCの前へ座る。


 GEワールドを起動し、いつもの街へ降り立った。


 ロビーは今日も賑やかだった。


 人の多いゲームだから、夜になると自然と人が集まる。


 武器を見せ合っている人。


 エモートで遊んでいる人。


 マーケットを眺めている人。


 色んなプレイヤーがいた。


 その中で、少し離れたベンチ付近にアンナの姿を見つける。


 誰かと話しているようだった。


『こんばんは』


 近づきながら軽くチャットを打つ。


『あ、グレイさん』


 アンナが振り向く。


 すると、隣にいたプレイヤーもこちらを見た。


『こんばんはー!』


 妙に明るい声だった。


 名前はミナト。


 軽装寄りの中層キャラで、武器は腰に下げている拳銃だけ。


 見た感じ、戦闘用の装備というよりコーデ重視だった。


『アンナさんのお友達?』


『ギルドの人』


『へぇー!』


 反応が軽い。


 初対面なのに距離感が妙に近かった。


『今日暑くなかった?』


『帰りの電車やばかったんだけど』


 そんな話が始まる。


 GEワールドの話ではない。


『あとコンビニの新作アイス食べた?あのチョコ味のやつ』


『まだ』


『あれ美味しかったよー』


 会話が妙に自然だった。


 というより、話すのが上手い。


 テンポが軽く、変に空気が止まらない。


 アンナも普通に返していたが、少しだけ困っているようにも見えた。


『そういえばさ』


 ミナトが続ける。


『最近、別鯖の人とも話すようになったんだけど』


『このゲーム、人多いよねー』


『まあ、多いね』


『ロビーいるだけで結構知り合い増えるし』


 グレイはその言葉を聞きながら、ぼんやり周囲を見る。


 確かに、こういうタイプの人はたまにいる。


 ミッションより、街にいる時間の方が長い人。


『なんか行く?』


 アンナがこちらを見る。


『季節ミッションでもどう』


『いいよ』


 短く返す。


 その流れで、グレイはミナトにも声をかけた。


『よかったら一緒に行く?』


 一瞬だけ間が空く。


『あー、ごめん!』


『ちょっと今、別の人待ってて』


 返事が早かった。


 断り慣れている感じすらある。


『そっか』


『じゃあ、また今度ねー!』


 そう言って、ミナトは別方向へ歩いていった。


 数秒後には、また別のプレイヤーへ話しかけていた。


挿絵(By みてみん)


 その様子を見送りながら、アンナがぽつりと言う。


『あの人、前からいるんだよね、だいたいこの時間にさ』


『そうなんだ』


『うん』


『よく話しかけてくるし』


『悪い人じゃないんだけど』


『ただね……ミッションやってるの、一回も見たことない』


 少しだけ笑いそうになる。


『ロビー勢なんじゃない?』


『ロビー勢ってなに?』


『街にいるのがメインの人』


『それゲームしてるって言うの?』


 アンナが不思議そうに言う。


『本人はしてるつもりなんじゃない?』


 実際、ああいう人は珍しくない。


 チャット。


 スクリーンショット。


 雑談。


 フレンド作り。


 ゲームの戦闘や装備集めより、オンライン空間そのものを楽しんでいる。


『でもさ』


 アンナが少し考えながら続ける。


『あの人、ほんとにずっと喋ってるんだよね』


『ログインするたび誰かといるし』


『友達多いんじゃない?』


『いや、それもうSNSじゃん』


 それは少しわかる気がした。


 GEワールドには、そういう遊び方をしている人が一定数いる。


 街で雑談して。


 SSを撮って。


 人と話して。


 そのまま落ちる。


 戦闘を一切しない日もある。


『昔のMMOに多かったよ、こういう人』


『へぇ……』


『ログインして喋って帰るだけ』


『何が楽しいんだろ』


『まあ、人いると落ち着くんじゃない?』


 アンナは少しだけ考え込む。


『でも、ゲームって遊ぶためのものじゃない?』


『遊んでるでしょ』


『いや、戦ってないじゃん』


『会話してる』


『うーん……』


 納得していない顔だった。


 ミッションを受注して、転送ゲートへ向かう。


 途中、さっきのミナトがまた別の集団と笑いながら話しているのが見えた。


『……すごいなぁ』


 アンナが小さく言う。


『なにが?』


『コミュ力』


 少しだけ笑う。


『ああいう人いると、ロビーの空気明るくなるしね』


『まあ、それはわかる』


 アンナはそう返しながらも、まだ少し不思議そうだった。


 ミッションが始まる。


 いつものように敵を処理しながら、ふとさっきの光景を思い出す。


 ゲームを遊ぶ人。


 ゲームの中で人と話す人。


 ゲームの世界そのものを居場所にしている人。


 同じログインでも、見ているものは案外違う。


 戦闘を終えてロビーへ戻る。


 すると、さっきのベンチ付近に、まだミナトがいた。


 今度は別のプレイヤーたちと集まって、楽しそうにエモートをしている。


『……まだいる』


 アンナが呟く。


『まあ、楽しそうだしいいんじゃない?』


『うーん……』


 そう言いながら、アンナも少しだけその光景を眺めていた。


 夜のロビーには、今日も色んな人がいる。


 ミッションへ行く人。


 装備を眺めている人。


 ただ誰かと話している人。


 GEワールドは、今日も普通に賑わっていた。

第九話でした。


今回はGEワールドの「ロビー文化」のお話でした。


ゲームを遊ぶ人。

ゲームの中で人と話す人。

オンライン空間そのものを居場所として使っている人。


同じMMOでも、見ているものって結構違うんですよね。


某国産MMOを遊んでいた頃、ロビーでずっと雑談している人を本当にたくさん見かけました。

ミッションをやっているところを一度も見たことがないのに、なぜかいつもいる人とか。


でも、そういう人がいることでロビーの空気が出来ていたのかもしれません。


次回もまた、GEワールドの日常を書いていこうと思います。

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