第七話「社会人、ゲーム内課金について少し考える(前編)」
今回はゲーム内課金のお話です。
オンラインゲームでは昔から、
「課金はズルなのか?」
「時間をお金で買うのはアリなのか?」
みたいな話があります。
人によって考え方がかなり違う部分でもありますよね。
今回はそんな話を、いつものようにグレイさんたちが少しだけ話します。
その日は、帰りが少し遅かった。
軽く食事を済ませてPCを立ち上げる頃には、もう日付が変わりかけている。
ログインしてギルドリストを開く。
思った通り、ほとんど落ちていた。
いつものことだ。
社会人ばかりのギルドだから、平日はこんなものだった。
そんな中、一人だけオンライン表示が残っていた。
アンナだ。
『まだいたんだ』
『今来たところ』
『絶対嘘でしょ』
『いやホント』
たぶん嘘だ。
でも別にどうでもいい。
『なんか行く?』
『季節ミッションとかどう?』
『じゃ、それで』
短いやり取りだけして、そのまま二人でミッションへ向かう。
深夜帯の野良マッチは、人が少ない。
その代わり、変わった人と当たることも多かった。
数秒後、マッチングが成立する。
フィールドへ降り立って、軽く周囲を確認する。
そこで、アンナが小さく声を漏らした。
『え?』
『どうしたの?』
『いや、あの武器』
視線の先を見る。
同じパーティの一人が、銃身が青く光るライフルを背負っていた。
黒と銀を基調にした特殊モデル。
あれは高難易度ミッションを何度も周回しないと手に入らない武器だ。
性能自体は極端に強いわけではない。
ただ、持っている人はかなり珍しかった。
他にも入手に必要な素材量が多く、作成難易度がとにかく高い。
ベテランでも完成まで根気と時間がかかる類の武器だった。
『あれ、作るの物凄く大変な武器だよね?』
『そう』
『以前、作ろうとしてすぐに挫折した』
『かなり古参のプレイヤーかも?』
そう返しながら、そのプレイヤーを見る。
動きはぎこちなかった。
開始位置で少し立ち止まり、武器変更を間違え、壁にも軽く引っかかっている。
どう見ても初心者寄りだった。
『……あれ、もしかして課金?』
アンナが小さく言う。
このゲームでは、一部の素材や装備を課金で即時交換することもできる。
普通に集めることも可能だが、かなり時間がかかる。
だから、珍しい武器を持っている人は、相当強いプレイヤーか課金のどちらかだった。
『まあ、そうかもね』
『ズルくない?』
アンナが言う。
『だって、普通にやったら作れないでしょ?』
『でも、別に強いわけじゃないよ』
『珍しいだけ』
GEワールドの武器の火力は、カスタマイズ内容の比重が大きかった。
だから銃本体は、火力ではなく挙動が違う。
連射型だったり、貫通特化だったり、爆発型だったり。
課金してレア武器を手に入れたからといって、圧倒的に強くなるわけでもない。
『でも、なんか嫌じゃない?』
『頑張って集める意味なくならない?』
その気持ちも分からなくはない。
『時間をお金で買ってるだけでしょ』
『うーん……』
アンナは納得していない声を出す。
戦闘が始まる。
初心者らしいそのプレイヤーは、確かに動きは慣れていなかった。
遮蔽物の使い方もぎこちないし、スキルを撃つタイミングも少しズレている。
ただ、武器自体はしっかり使っていた。
『あ、でもちゃんと使えてる』
アンナが少し意外そうに言う。
『見た目で選んだだけかもしれないけどね』
『それはありそう』
少しだけ笑う。
敵を処理しながら、アンナがまた言った。
『でもさ、他のゲームだともっと酷いのあったよね』
『武器ガチャのやつ?』
『そう』
アンナが呆れたように続ける。
『新武器引いたら火力倍とか』
『持ってないと人権ないとか』
『あったね、そういうゲーム』
『あれよりはマシだけど』
『でもやっぱり課金ってズルい気がする』
『課金といえば、月額制のゲームもあるでしょ?』
GEワールドは基本無料のゲームだった。
主な課金内容は、自分で作らないといけない武器や能力の即時解放。
集めるのが面倒な素材の入手。
あとはコスチュームや髪型などだ。
『あー、あったね』
『毎月払わないと遊べないやつ』
『課金そのものが悪いわけじゃなくない?』
『うーん……』
アンナが少し考える。
『でも、あれはみんな同じ条件じゃん?』
『まあ、それはそう』
言いたいことは分かる。
月額料金制のゲームでは、課金しないと手に入らないような物が全員に配布される。
結局、人によって「許せるライン」が違うだけだ。
ミッションは特に問題なく進んでいく。
初心者らしいプレイヤーも、途中で倒れることなくついてきていた。
たぶん、ゲームそのものには慣れていない。
でも、楽しそうではあった。
『なんかさ』
アンナがぽつりと言う。
『時間を飛ばしてるだけって言われると、それはそうなんだけど』
『ゲームなのに、時間飛ばして意味あるのかなって』
『人によるんじゃない?』
武器を頑張って作る行為そのものが、ゲームのコンテンツではないかという意見もある。
その場合、課金による武器の入手が、ゲーム体験そのものを失っているのでは――と言いたいのも分かる。
『時間ない人もいるし』
『まあ、社会人ゲーだしね、このゲーム』
実際、このゲームは社会人プレイヤーが多い。
素材集めも長いし、装備更新も重い。
全部を普通にやろうとすると、かなり時間がかかる。
『でも、私はちょっともったいない気がする』
『集めるのもゲームじゃない?』
『それも分かるよ』
短く返した。
言いたいことは分かる。
でも、そこは人それぞれでもいいのかなと思う。
たくさんのプレイヤーが、このGEワールドにログインしている。
何に魅力を感じ、何をやりたいのかは、みんな違うはずだ。
さっきのプレイヤーなら、まず使ってみたい武器を手に入れる。
それを持って、この世界を旅してみたかったのかもしれない。
それで楽しい時間を過ごせたなら、それはそれでいいのでは。
ボスを倒し、ミッションが終了する。
『おつかれさまです!』
初心者プレイヤーが、すぐにチャットを打ってきた。
妙に礼儀正しい。
『おつ』
『おつかれー』
短く返す。
ロビーへ戻る。
『そういえば』
アンナが言った。
『グレイさんって課金してるの?』
『まあ、それなりに』
『えっ』
本気で驚いた声だった。
『なんか意外』
『そう?』
『いや、絶対してないタイプかと思ってた』
『武器とかにはあんまり使わないけど』
『じゃあ何に使ってるの?』
少しだけ迷ってから、一言だけ。
『拠点』
『……は?』
『よかったら見に来る?』
アンナが完全に困惑したまま、数秒止まる。
『え、ちょっと待って』
『グレイさんって、ハウジング勢なの?』
『まあ、少し』
そう返して、グレイは拠点転送メニューを開いた。
第七話でした。
今回はオンラインゲームの課金まわりのお話です。
昔は月額制、途中から基本無料、武器ガチャ、スキン課金など、
オンラインゲームの課金形式もかなり増えましたよね。
個人的には「何を楽しいと思うか」で結構変わるのかなと思っています。
装備を作る過程そのものが楽しい人もいれば、
好きな武器を先に持って遊びたい人もいる。
そこがオンラインゲームの面白いところかもしれません。
そして最後に出てきたグレイさんの拠点。
次回は後編、ハウジングのお話になります。




