第六話「社会人、サ終したゲームから来た人と少し話した夜」
今回は、サ終したゲームから来たプレイヤーのお話です。
オンラインゲームって、終わるときはあっさり終わりますよね。
でも、その中で積み重ねてきたものは、結構大きかったりします。
グレイさんたちとは少し違う温度感のお話ですが、
こういう人もいるよね、くらいの感じで読んでいただけたら嬉しいです。
その日は、特にやることを決めずにログインした。
限定ミッションもないし、素材集めでもやるか。
街を出て、いつものようにフィールドへ向かう。
目についたジャンクを拾いながら、適当に回るだけの時間だ。
ギルドチャットは静かだった。
少しして、アンナから短いメッセージが来る。
『今なにしてるの?』
『ジャンク拾い』
『合流してもいい?』
『どうぞ』
それだけやり取りして、同じフィールドに入ってきたアンナと合流する。
しばらく二人で無言のまま動いていた。
特に会話をするでもなく、目に入ったものを拾っていく。
こういう時間も悪くない。
ふと、少し離れた場所に倒れているプレイヤーが見えた。
「……あ」
アンナが小さく声を出して、そのまま駆け寄っていく。
近づいて確認すると、完全にダウンしていた。
敵にやられたのか、単純に油断したのかは分からない。
ユウと名前が表示されている、中層のサイボーグ傭兵だった。
武器もデフォルトのアサルトライフルに見えた。
アンナがそのまま蘇生を入れる。
少しして、そのプレイヤーが起き上がった。
『どうも、ありがとうございます……!』
すぐにチャットが飛んでくる。
やけに丁寧だった。
『大丈夫?』
アンナが軽く返す。
『はい、本当に助かりました』
また一言、きっちりした返事が返ってくる。
少しだけ間があった。
その人は、こちらを気にしているようにも見えた。
『最近始めた感じ?』
アンナが気になったのか話しかける。
『はい、すみません。まだ始めて二週間で、あまり慣れていなくて……』
少し遠慮がちな返事だった。
それ自体は珍しくない。
ただ、どこか慎重すぎるようにも感じた。
『このタイプのゲーム、やってた?』
今度は私が聞く。
このGEワールドというネトゲは銃撃戦のアクション主体で、
ネトゲの中ではあまり見ない感じのゲームだからだ。
『いえ、全然……』
『前は、別のゲームをやっていて』
『今まではファンタジーのコマンドRPGが主で、回復役をやっていました』
少しだけ間を置いてから、続ける。
『そのゲームが、終わってしまって』
そこで、少しだけ空気が変わる。
アンナも一瞬黙った。
『そうなんだ』
短く返す。
サービス終了、略してサ終。ネトゲの宿命だ。
どんなネトゲでも、最後にはサ終する。
長い時間をかけて資産を作り、人間関係を作り、
生活の基盤になることもある。
それが突然終わってしまうのがサ終だ。
『最後まで残ってたんです』
その人は、ぽつりと続けた。
『人気が下火になって、新規ユーザーはほぼ増えない。
でも人が減っていっても、ずっとやってて』
『毎日顔を合わせて、挨拶していた。
ギルドの人たちとも、最後まで』
言葉は静かだったが、重さがあった。
『前のギルドの人は?』
グレイが聞く。
『みんな、バラバラになりました……』
『別のゲームに行った人もいますし』
『それ以来、連絡も、あまり取っていなくて』
それ以上は続かなかった。
本当に仲がいい人たちだったんだろうなと思う。
それで十分だった。
『一人で来たんだ』
『はい』
短い返事だった。
『なんでこっちに?』
アンナが少し不思議そうに聞く。
『人がいるゲームに行こうと思って』
『それで、たまたま見つけて』
『でも、全然違うジャンルだよね?』
アンナが言う。
『剣とか魔法じゃないし、
おそらく前にやっていたのはパーティプレイ主体の
コマンドRPGじゃない?』
同じネトゲと言っても、方向性がまるで違う。
『そうですね』
少しだけ笑うような気配があった。
『でも……』
『あまり、そこは気にしてなくて』
『前は、拠点でずっと話してることも多くて』
『え、それゲームやってなくない?』
『それでも、楽しかったんです』
『……』
『そういう遊び方もあるでしょ』
『だから、人がいる方がいいので』
その一言で、大体分かった。
サ終というのは、誰でも経験したくないものだ。
少しの間、三人とも何も言わなかった。
風の音と、遠くの戦闘音だけが聞こえる。
『こっちはどう?』
一言だけ聞く。
『人が多くて、少し安心します』
『でも……』
『ちょっと、入りづらくて』
正直な言葉だった。
『まあ、このゲームそういう感じだしね』
それはわかる気がする。
『会話あんまりないし』
『淡々としてるし』
コマンドRPGのネトゲは連携が必須だから、
自然と、みんなでワイワイ遊ぶ印象だ。
『そうなんですよね』
『ちょっと、どうしたらいいか分からなくて』
アンナが小さく首を傾げる。
『人いるなら、いいんじゃないの?』
その人は少しだけ考えてから答えた。
『人が多いのと、馴染めるのは、少し違う気がして』
その言葉に、アンナは何も返さなかった。
このゲームにも会話はある。
でも、自然に生まれる感じではない。
そのやり取りを見ながら、少しだけ考える。
居場所としてゲームをやっている人と、
遊びとしてゲームをやっている人。
たぶん、その違いだ。
『まあ、そのうち慣れると思うよ』
グレイが言う。
『合う合わないもあるし』
『はい、ありがとうございます』
また丁寧な返事が返ってくる。
『あんまり気にしなくていいと思うけどね』
アンナも言う。
『倒れたら起こすし』
その人は少しだけ笑ったようだった。
『ありがとうございます』
それだけ話して、その人は別の方向へ向かっていった。
残された二人は、またジャンク拾いに戻る。
『なんか、大変そうだね』
アンナがぽつりと言う。
『まあね』
短く返す。
『そんなに変わる?』
『環境で変わるでしょ』
それだけ言って、また手を動かす。
人が減っていくのを見ていると、
少し慎重になるのかもしれない。
人がいる場所に来ても、
それがそのまま居場所になるとは限らない。
「……まあ、そういうものか」
小さく呟いて、目の前のジャンクを拾い上げた。
ゲームは、今日も普通に動いている。
それだけで十分だと、私は思っている。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回のお話は、「ゲームをどう遊ぶか」というより、
「ゲームに何を求めているか」の違いがテーマでした。
グレイさんのように、面白ければ遊ぶという人もいれば、
ユウのように、その場所にいること自体が大事な人もいる。
どちらが正しいというわけではなく、
ただ少しだけ、見ているものが違うだけなのかもしれません。
オンラインゲームって、そういうズレも含めて面白いのかなと思います。
それでは、また次回もよろしくお願いします。




