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第四話「社会人、語尾にニャンを付ける人とマッチした夜」

今回は、ちょっと変わったプレイヤーのお話です。


オンラインゲームをやっていると、

たまに見かける「そのスタイルを貫いている人」。


正直ちょっと気になるけど、

ちゃんとプレイしているなら問題ない……のかもしれません。


そんなゆるい空気感で読んでもらえたら嬉しいです。

 その日は、仕事が少しだけ長引いた。


 帰宅したのは二十三時を過ぎた頃で、夕食もシャワーも手早く済ませることになった。

 時計を見ながら、今日は一回だけにしておこうかな、と考える。


 それでも結局、私はPCの前に座っていた。


 電源を入れて、ログイン画面を開く。

 見慣れた音が鳴って、GEワールドの街が表示される。


---


 ギルドチャットを開くと、ちょうどアンナがいた。


『おつかれ』


『おつかれー』

『まだやるの?』


『一回だけ』


『えらい』


 何がえらいのかは分からないが、とりあえずそういうことになっているらしい。


『アンナは?』


『私はもうちょっとやるかな』

『レオンはさっき落ちたよ』


『そっか』


 短いやり取りを終えて、私はそのままマッチング画面を開いた。

 アンナも同じミッションに参加するらしく、少しして同じパーティになった。


 残り二人もすぐに埋まる。


 いつも通り、知らない誰かとの短い共同作業が始まるはずだった。


---


 開始直後、チャットに一文が流れた。


『よろしくニャン☆彡』


 私は一瞬だけ、画面を見直した。


 見間違いではなかった。


 キャラクターの方にも自然と目がいく。

 猫耳のような機械耳を頭に付けた、小柄な女の子のアバターだった。

 フリルの多い服に、小さなブーツ。武器だけは妙に物騒で、大きめのライフルを背負っている。


 少し遅れて、アンナから個人チャットが飛んでくる。


『なにこれ』


 短い一文だったが、言いたいことはよく分かった。


『かわいいじゃん』


『そこ?』


 すぐに返ってきたその一言で、アンナが本気で困惑しているのが伝わってくる。


---


 ミッションが始まる。


 最初の敵が出現し、戦闘に入る。


 猫耳のキャラクターは、見た目に反してちゃんと動いていた。

 射線の取り方も悪くないし、敵の湧き位置もよく見ている。無理に前へ出るわけでもなく、必要なところではきちんと前に出る。


 普通に、上手かった。


『左から来るニャン☆彡』


 チャットが流れる。


 語尾はともかく、内容はちゃんとしている。

 実際、その一言のおかげで処理が少し早くなった。


 アンナからまた個人チャットが来る。


『ちゃんとしてるのが逆に困るんだけど』


『困る?』


『気になるでしょ普通』


 そう言われてみれば、気にならないこともない。

 ただ、私はどちらかといえば感心していた。


挿絵(By みてみん)


 ここまでブレずにやるなら、それはそれでたいしたものだと思う。


---


 中盤の少し面倒なギミックに入る。


 タイミングよく遮蔽物へ移動しないと大きく削られる場面だ。

 初見だと一瞬迷いやすい場所でもある。


『そこ危ないニャン☆彡』


 猫耳のプレイヤーがそう打った直後、自分は迷いなく安全地帯へ滑り込んだ。


 そのまま反撃に移る動きも早い。


 アンナが、今度は普通のパーティチャットで言った。


『普通に上手いね』


『ありがとニャン☆彡』


 返事までそのままだった。


 私は思わず少しだけ口元が緩む。


 アンナはたぶん、半分くらい呆れている。


---


 そのまま戦闘は進んでいく。


 猫耳のプレイヤーは終始その調子だった。


『回復置くニャン☆彡』

『次、右から湧くニャン☆彡』

『ナイスニャン☆彡』


 やっていることは丁寧で、チャットの内容も有益だ。

 なのに、どうにも真面目な空気になりきらない。


 不思議なバランスだった。


 アンナが小さくこぼす。


『普通に喋れないのかな……』


『普通に喋ってるんじゃない?』


『いや絶対違うでしょ』


 そこまで言ってから、アンナも少しだけ笑っていた。


---


 ボス戦に入る。


 大きく動く敵を囲みながら、各自で位置を取り、攻撃を重ねていく。

 猫耳のプレイヤーは、やはり安定していた。


 妙に派手な見た目と口調をしているのに、やることは堅実だ。


 危ない場面で無理をしないし、味方の位置もよく見ている。

 たぶん、こういうプレイスタイルだからこそ、あの口調でも成立しているのだろう。


『決めるニャン☆彡』


 最後の一撃に合わせるように、そのチャットが流れた。


 少しして、ボスが倒れる。


 リザルト画面が表示される。


---


『おつかれさまニャン☆彡』


 最後まで徹底していた。


 アンナが一瞬だけ無言になって、それからようやく打つ。


『おつかれさまです』


 妙にかしこまった返事だった。

 たぶん、どう返すのが正解なのか少し迷ったのだと思う。


 私も短く返した。


『おつかれ』


 それで十分だった。


---


 ロビーに戻る。


 猫耳のプレイヤーは、そのまま軽く手を振るようなエモートをしてから抜けていった。

 最後まで一貫していた。


 少しして、アンナからまたチャットが来る。


『なんだったの、今の』


『楽しそうだったね』


『まあ……うん、そうだけど』


 否定しきれないらしい。


『ちゃんと上手かったし』


『それはそう』

『でも気になるでしょ、語尾』


『ブレないのはすごいと思うよ』


 送ってから、自分でも少しだけ変なことを言った気がした。

 でも、たぶん本音だった。


 中途半端に恥ずかしがるでもなく、誰かに合わせるでもなく、最後まで自分の遊び方を崩さなかった。

 それはそれで、ひとつの才能かもしれない。


---


 アンナはしばらく返事をしなかったが、少ししてからこう打った。


『まあ、楽しんでるならいいのか』


『そういうこと』


 それで会話は終わった。


---


 私はマウスから手を離して、椅子の背にもたれた。


 変わった人だったとは思う。

 たぶん、また会ったらすぐに分かる。


 でも、困ることは何もなかった。

 むしろ、少しだけ印象に残る、悪くないミッションだった。


「……まあ、そういう遊び方もあるか」


 小さく呟いて、ログアウトボタンにカーソルを合わせる。


 画面が切り替わる。


 静かな部屋に、PCのファンの音だけが残った。


 明日も仕事だ。


 でも、今日もちゃんとログインした。

 それで十分だと、私は思っている。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今回のようなロールプレイをしている人、

実際に見かけたことがある方もいるのではないでしょうか。


最初は少し戸惑いますが、

最後までブレずにやりきっていると、それはそれで一つのスタイルなのかなと思います。


グレイさんはあまり気にしないタイプですが、

アンナのように気になる人も多そうですね。


次回はまた少し違った方向のネトゲあるあるを予定しています。


よければブックマークや評価もよろしくお願いします。

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