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第二十五話「社会人、公式配信を見る」

今回は、GEワールドの公式配信を見るお話です。


オンラインゲームでは、アップデート情報そのものだけでなく、みんなで同じ配信を見て盛り上がる時間も楽しみの一つだったりします。


新武器、新エリア、開発スタッフの話。


今回は、そんな公式配信をきっかけに、グレイたちが少しだけゲームを作る側について考えます。

 その日は、アンナと一緒に中層の街を歩いていた。


「今日どうする?」


 アンナが聞いてくる。


「特に決めてないね」


「じゃあ、適当にミッションでも行く?」


「いいよ」


 そんな話をしながらミッション受付のある広場へ向かっていると、いつもより人が多いことに気付いた。


 街の中央にある大型スクリーン。


 普段はゲーム内広告やイベント情報が流れている場所なのだが、その前にかなりの人数が集まっている。


「なんだろ?」


「イベントでもあるのかな」


 近づいてみる。


「あ」


 アンナが人混みの中を指差した。


「エミリアさんたちいるよ」


 見ると、エミリアとレイン、それにタクミがスクリーンの前に立っていた。


「エミリアさん!」


 アンナが声を掛ける。


 三人がこちらを見る。


「アンナ。グレイさんも」


「何してるの?」


「このあと公式配信があるんだよ」


 答えたのはタクミだった。


「公式配信?」


「アンナは観たことないのか? 次のアップデート情報、出るだろ」


「今日だったんだ。私はまとめサイトで見る派だから」


 アンナは知らなかったらしい。


「これからミッション行こうと思ってたんだけど、一緒に行かない?」


「配信終わってからなら、付き合ってもいいぞ」


 タクミが即答する。


「そんなに観たかったの?」


「新武器出るかもしれないし」


 なるほど。


 いつもならミッションの方を優先しそうなタクミまで待っている。


「せっかくだし、私たちも見ていく?」


 アンナが聞く。


「いいよ」


 私たちも三人の隣へ並んだ。


 周囲には、同じように配信を待っているプレイヤーがいる。


 座り込んでいる人。


 フレンド同士で話している人。


 巨大な重火器を背負ったまま、スクリーンを見上げている人。


 こうして見ると、ちょっとした映画館みたいだ。


 しばらくすると、大型スクリーンに表示されていた広告が消えた。


 画面が暗くなり、GEワールドのロゴが映る。


「始まった」


 アンナが言った。


 映像が切り替わる。


 そこに映ったのは、ゲームの中ではなく現実のスタジオだった。


 テーブルを囲んで座っている数人の外国人スタッフ。


 背後にはGEワールドのポスターや、ゲーム内に登場する武器のレプリカらしきものが飾られている。


 GEワールドは国産のゲームではなく、カナダのメーカーが出していた。


 出演者が英語で話し始める。


「……分かんない」


 アンナが呟いた。


 その直後、画面の下に日本語字幕が表示された。


『みなさん、こんにちは! 今回もGE WORLD UPDATE LIVEの時間です!』


「あ、出た」


「リアルタイム翻訳」


 レインが言う。


「便利だね」


「昔の海外ゲームだと、公式が翻訳出すまで何言ってるか分からないとかあったらしいよ」


「大変だね、それ」


 配信では、すぐに次回アップデートの紹介が始まった。


 最初に映ったのは、新しいアサルトライフルだった。


 黒い大型の銃。


 短い動画の中で、プレイヤーキャラクターが敵へ向かって連射する。


「これ強そう」


 タクミがすぐに反応した。


「見ただけで分かるの?」


「連射速度速いし、反動少ない」


「でも威力低いかもしれないよ?」


「そのときは使わない」


 判断が早い。


 次に紹介されたのは、新しい下層エリアだった。


 巨大な機械施設の内部。


 床には薄くナノマシンの霧のようなものが漂い、天井からは巨大な配管が何本も伸びている。


「ここ行きたい!」


 アンナが画面へ身を乗り出す。


「敵多そうだけど」


「みんなで行けばいいよ」


「ボスもいるみたい」


 レインが言った。


 画面の奥から、四本脚の巨大な機械生物が現れる。


「でかいな」


「絶対範囲攻撃あるね」


 周囲からも声が上がった。


「おお!」


「新エリア!」


「また下層か!」


「その敵、飛ばないだろうな!」


 配信なのに、まるでゲーム内イベントみたいだ。


 誰かが新情報に反応すると、その声につられて別の誰かも話し始める。


 何万人ものプレイヤーが遊んでいるゲームで。


 同じ時間に、同じ情報を見ている。


 こういうのも、オンラインゲームの遊び方なのかもしれない。


「あれっ?」


 アンナが突然、画面を指差した。


「この人、以前にも配信にいなかった?」


 スクリーンに一人の女性が映っている。


 金髪の外国人女性だった。


 ただし、普通の服ではない。


 白と青を基調に、金色の装飾が入った豪華な衣装。


 GEワールドの上層にいる上級司祭の格好だった。


「いた」


 タクミが言う。


挿絵(By みてみん)


「前回は中層の傭兵みたいな服着てたよ」


「毎回コスプレしてるのかな」


 アンナが楽しそうに笑う。


「こういうの専門の人?」


「専門?」


「宣伝担当とか」


 するとエミリアが、何でもないことのように言った。


「この人、プロデューサーだよ」


「えっ?」


 アンナが止まった。


「この人が?」


「うん」


「プロデューサーなの?」


 私も聞き返す。


「GEワールドの?」


「そう」


 スクリーンを見る。


 女性は満面の笑顔で、新しい武器について説明している。


「コスプレ担当の人だと思ってた」


 アンナが言った。


「そんな担当あるの?」


 タクミが返す。


「あるかもしれないじゃん」


「毎回コスプレするだけの?」


「それだけじゃないと思うけど」


 そんな話をしている間に、今度はプロデューサー本人による実機プレイが始まった。


 新エリアを進みながら、新しい武器を試している。


 慣れているのか、結構うまい。


「普通に遊んでるね」


「自分のゲームだからね」


 ところが次の瞬間。


 巨大な敵が地面を叩いた。


 範囲攻撃。


 プロデューサーのキャラクターが巻き込まれる。


 体力ゲージが一気に消えた。


 死亡。


 スタジオから笑い声が上がる。


 大型スクリーンの前からも笑い声が聞こえた。


「あ、死んだ」


 アンナが言う。


『これは……まだ調整中ですから!』


 字幕が出る。


「ほんとかな」


 タクミが言った。


「今の、普通に避けるの遅くなかったか?」


「言わないであげなよ」


 アンナが笑う。


 プロデューサーは自分でも笑いながら、また説明を続けている。


 それを見ていて、ふと思った。


「プロデューサーって」


「うん?」


 アンナがこちらを見る。


「こんなに配信に出る必要あるのかな」


「え?」


「ゲームを作る人なんでしょ?」


「まあ、そうだけど」


「だったら別に、表に出なくてもゲームは作れるよね」


「言われてみれば」


 アンナもスクリーンを見る。


「でも私は、作ってる人が直接話してくれるの結構好きだけど」


「私も」


 エミリアが言う。


「どういう考えでアップデートしてるのか分かるし」


「顔が見える方が安心する人もいるだろうね」


 レインも言った。


「運営ってだけだと、誰が作ってるのか全然分からないし」


「それはそうなんだけどさ」


 タクミが口を挟む。


「表に出ない方がいいときもあるんじゃない?」


「どういうとき?」


 アンナが聞く。


「別のゲームでいたよ」


「プロデューサーが毎回公式配信に出てたんだけどさ」


「期待外れなアップデートが続くと、その人が毎回叩かれてた」


「毎回?」


「ゲームのバランス悪いとか、コンテンツつまらないとか」


「最終的に、このプロデューサーがいるからつまらないみたいな話になって」


「それは大変だね」


「そのうち配信にも出なくなったな」


 アンナが少し困った顔をする。


「じゃあ、出ない方がいいのかな」


「それも違うと思う」


 エミリアが言った。


「人気があるプロデューサーもいたよ」


「どういう人?」


「ゲームがすごく好きな人で」


「自分でも、作ってるゲームを遊んでて」


「配信で、なんでこの仕様にしたのかとか、これから何をしたいのかとか、ずっと説明してた人」


「へえ」


「その人自身にも結構ファンがいたみたい」


「それはちょっと分かるかも」


 アンナが言う。


「自分が遊んでるゲームを、作ってる人も好きなんだって分かると嬉しいし」


「そうだね」


 ただ。


 表に出れば、顔が見える。


 顔が見えれば、その人に感情も向く。


 いい感情も。


 悪い感情も。


「成功したら、この人のおかげ」


 私は言った。


「失敗したら、この人のせい」


「そうなるのかな」


「なりやすいのかも」


 エミリアが言った。


「本当は一人で作ってるわけじゃないんだけどね」


 画面では、また別の新要素が紹介されている。


 今度は武器の調整についてだった。


 いくつかの武器が強化され、一部の強すぎた装備は弱体化されるらしい。


 周囲から、


「えー!」


「それ弱くするの!?」


「やっと修正された!」


 いろいろな声が聞こえる。


「ほら」


 タクミが言った。


「これだけでも意見バラバラじゃん」


「そうだね」


「ユーザーの意見聞けってよく言うけど」


「全部聞いてたらゲーム壊れるでしょ」


「全部?」


 アンナが聞く。


「ある人は、もっと難しくしろって言う」


「別の人は、難しすぎるって言う」


「この武器強くしろって言う人もいれば、強すぎるから弱くしろって言う人もいる」


「まあ……」


「自分が使ってる武器だけ強くしてほしい人もいるし」


「それはいるね」


 レインが頷いた。


「じゃあ、ユーザーの意見って聞かない方がいいの?」


「そこまで言ってない」


 タクミが即座に返す。


「意見を聞くことと」


 エミリアが言った。


「その通りに作ることは、別なんじゃない?」


「なるほど」


 アンナが頷く。


 ちょうどそのとき。


 スクリーンのプロデューサーが、新しく追加されるミッションについて説明を始めた。


『今回のエリアでは、今までよりも高低差を使った戦闘を楽しんでもらいたいと考えています』


 字幕が表示される。


『中層や上層とは違う、下へ下へと進んでいく感覚を作りたかったんです』


 画面には、開発中のマップが映る。


 巨大な縦穴。


 その壁に沿って作られた施設。


 敵と戦いながら、少しずつ地下へ降りていく構造らしい。


『そのため、今回は敵の配置や移動能力もそれに合わせて作っています』


 単に、


『新しいマップです』


 と言っているわけではない。


 なぜ作ったのか。


 どう遊んでほしいのか。


 それを説明している。


「もしかして」


 私は言った。


「人気があるプロデューサーって、ユーザーが今望んでいるものを作る人じゃないのかもね」


「じゃあ、どういう人?」


 アンナが聞く。


「自分たちが、どんなゲームにしていきたいかが明確で」


 スクリーンを見る。


「それがなぜ面白いかを、プレイヤーに説明できる人なのかも」


「ビジョンってこと?」


 エミリアが言う。


「たぶん」


「その上で、プレイヤーの意見も聞く」


「必要なら変える」


「なるほどね」


「ユーザーの言う通りにするだけなら」


 タクミが言った。


「プロデューサーいらないし」


「それはそうかも」


 アンナが頷く。


 だが、すぐに続けた。


「でもさ」


「うん?」


「自分の考えが絶対正しいって人でも困るよ?」


「……そうなんだよね」


「でしょ?」


「じゃあ、結局どうすればいいの?」


「そこが難しいんじゃない?」


「またそれ?」


 アンナが笑う。


 ちょうど配信も終盤に入ったらしい。


 出演者たちが今回の情報をまとめ始める。


 もう大きな情報は終わったのか。


 周囲のプレイヤーも、少しずつ話し始めていた。


「じゃあ、このあとミッション――」


 アンナが言いかけたときだった。


 スクリーンが突然暗くなる。


「ん?」


 スタジオへ画面が戻る。


 プロデューサーが笑顔で何か言った。


『最後に、もう一つだけお見せします』


「まだあるの?」


 アンナが画面を見る。


 映像が始まった。


 真っ暗な空間。


 遠くに光が見える。


 カメラがゆっくり進むと、見たこともない世界が姿を現した。


「なにこれ」


 レインが呟く。


 見たことのない敵。


 巨大な建造物。


 そして最後。


 一瞬だけ、プレイヤーキャラクターが見慣れない能力を使っていた。


「待って!」


 タクミが叫ぶ。


「今の能力なに?」


挿絵(By みてみん)


「中層の新能力? いや、上層かな?」


 アンナが言う。


「新エリアも楽しそう」


「下層より、さらに下のような」


 レインが画面を見つめる。


「かなり深そう」


 エミリアも、さっきまでの話を忘れたようにスクリーンへ集中している。


 もちろん。


 私も同じだった。


 プロデューサーが表に出る意味。


 ユーザーの意見をどこまで聞くべきなのか。


 どんな人がゲームを作るべきなのか。


 考えれば、いろいろある。


 でも。


 新しい世界を見せられると。


「……これは、ちょっと楽しみだね」


 思わずそう言った。


「でしょ!」


 アンナが嬉しそうに笑った。


 やがて配信が終わり、大型スクリーンにいつものGEワールドのロゴが戻る。


「じゃあ」


 アンナが振り返った。


「今度こそミッション行く?」


「行く」


 タクミが即答する。


「新武器はまだ来ないよ?」


「分かってるって」


 エミリアとレインも一緒に歩き出す。


 私たちは、そのままミッション受付へ向かった。


 さっきまで、ゲームを作る人について話していたのに。


 配信が終われば。


 また、いつものプレイヤーに戻る。


 それくらいが。


 たぶん、ちょうどいいのかもしれない。


今回は、公式配信とゲームのプロデューサーについてのお話でした。


オンラインゲームでは、開発者やプロデューサー本人が配信に出演して、アップデート内容を直接説明することがあります。


作っている人の顔が見えて、その人自身がゲームを楽しんでいる姿が見えると、プレイヤーとしても親近感を持ちやすいと思います。


その一方で、表に出る人がゲームそのものの「顔」になりすぎると、アップデートへの不満まで一人の人間へ集中してしまうこともあります。


そして今回もう一つ考えたかったのが、


「ユーザーの意見を聞くこと」と「ユーザーの言う通りに作ること」は同じなのか?


という部分でした。


プレイヤーの意見は一つではありません。


難しくしてほしい人もいれば、簡単にしてほしい人もいる。

強くしてほしい武器がある人もいれば、その武器を弱くしてほしい人もいる。


全部を聞くことはできません。


だからこそ、プロデューサーには「このゲームをどうしたいのか」というビジョンが必要で、それをプレイヤーに説明できることも大切なのかもしれません。


もちろん、自分の考えだけを押し通せばいいわけでもない。


その辺りの難しさも含めて、今回はグレイたちに考えてもらいました。


とはいえ、最後に新情報が出たら、そんな話も忘れて普通に盛り上がる。


やっぱりプレイヤーとしては、それくらいが一番楽しいのかもしれません。

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