第二十四話「社会人、AIのフレンドが欲しいというプレイヤーに出会う」
今回は、MMOでフレンドを作るにはどうしたらいいのか、というお話です。
人がたくさんいるオンラインゲームでも、普通に遊んでいるだけでは、なかなか知り合いができないことがあります。
そんな中、ある初心者プレイヤーが少し変わったアイデアを思いつきます。
「だったら、AIのフレンドを作ればいいんじゃない?」
今回はそんなところから始まります。
その日は、アンナと一緒に中層ロビーを歩いていた。
特に目的があるわけではない。
ミッションへ行くでもなく、ショップを見るでもなく。
何となく人の多い方へ歩いていると、少し先のベンチから聞き慣れた声が飛んできた。
「おーい」
見る。
ミナトだった。
いつものようにベンチへ座っている。
その隣には、見覚えのないプレイヤーが一人いた。
装備を見る限り、GEワールドを始めて、まだそれほど経っていないようだ。
「グレイさん、アンナ。ちょっといい?」
「なに?」
アンナが先に近づく。
私も、その後ろへ続いた。
するとミナトは、いきなりアンナへ聞いた。
「なぁ、アンナってさ」
「うん」
「初めてのフレンドって、どうやってできた?」
「え?」
アンナが止まった。
「初めて?」
「そう。GEワールドで最初にフレンドになった人」
「えーっと……」
アンナは本気で考え始めた。
「どうだったっけ」
「覚えてないの?」
「三年も前だからね」
「そんな前だっけ?」
「そうだよ。さすがに思い出せない」
アンナは腕を組む。
「最初の頃って、今と全然違ったし」
「まあ、そうか」
ミナトが隣のプレイヤーを見る。
「この人さ」
紹介されたプレイヤーが軽く頭を下げた。
「どうも、ユウトです」
「グレイです」
「アンナです」
「どうも」
挨拶を交わす。
ミナトが続けた。
「いま彼の話を聞いていたんだけど、フレンドが一人もできないんだって」
「え?」
アンナがユウトを見る。
「一人も?」
「はい」
ユウトは少し困ったように笑った。
「始めて半年くらいなんですけど」
「普通にミッション行って、ジャンク集めもして、イベントも参加してるんですけど」
「全然できないんですよね」
「野良で一緒になった人とかは?」
私が聞く。
「いますけど」
「ミッション終わったら解散します」
「ああ」
「だいたい『よろしくお願いします』って言って」
「終わったら『お疲れさまでした』って言って」
「それで終わりです」
「なるほど」
「フレンド申請するほど話してないし」
「急に送ったら変かなって」
確かに。
同じミッションを一度クリアした。
それだけで、
『フレンドになりませんか?』
と送るのは、少し勇気がいる。
「それで俺に聞いてきたんだけどさ」
ミナトが言った。
「俺、ほとんどミッション行かないから分かんないんだよね」
「え?」
ユウトが見る。
「だって俺、ロビーで喋ってるだけだし」
「知ってる」
アンナが笑いながら言う。
「なんか適当に喋ってたら、知り合い増えてた」
「それ、参考にならないじゃないですか」
「だから今、アンナに聞いたんだって」
「私?」
「アンナ、普通にミッションも行くじゃん」
「まあ、行くけど」
アンナは、もう一度考え込む。
「ロビーで誰かに話しかけてみるとか?」
ユウトが即座に聞き返した。
「誰にです?」
「え?」
「いや」
ユウトが周囲を見る。
「こんなに人いるじゃないですか」
確かに。
ロビーには、今日も多くのプレイヤーがいる。
ショップの前で装備を見ている人。
ベンチで話している人。
ミッション受付へ走っていく人。
画面を開いたまま動かない人。
「この中の誰に話しかければいいんです?」
「……」
アンナが黙った。
「急いでる人かもしれないし」
「フレンド待ってる人かもしれないし」
「誰かとボイスチャットしてるかもしれないし」
「そう言われると」
アンナもロビーを見回す。
「難しいね」
「人はこんなにいるのに」
ユウトが言う。
「誰とも知り合いじゃないんですよ」
少しだけ、その言葉が引っ掛かった。
人が多い。
それと、知り合いができることは。
確かに、別の話なのかもしれない。
「あ」
突然、アンナが声を出した。
「思い出した」
「最初のフレンド?」
「うん」
アンナが頷く。
「学校の友達だった」
「学校?」
「中学二年の時」
「その子が先にGEワールド始めてて」
『一緒にやらない?』
「って誘われたんだ」
「じゃあ」
ユウトが聞く。
「ゲームの中で知り合った人じゃないんですか?」
「……そうなるね」
アンナ自身も、今気付いたようだった。
「その人は?」
「もう辞めちゃった」
「結構前かな」
「今でも連絡取ってるの?」
「学校では普通に話してたけど」
「今はほとんど取ってないかな」
「中学の時の友達だからね」
ミナトが少し意外そうに聞いていた。
「アンナでも、そんな感じなんだ」
「今はブラックチャペル入ってるから」
「レオンもいるし」
「グレイさんもいるし」
「ほかにもいっぱい知り合い増えたけど」
アンナは少し笑う。
「最初の一人をどう作ったかって聞かれると、私も分かんないや」
「私も」
言いながら考える。
「フレンドの作り方って、攻略情報みたいには説明できないね」
「そうなんですよ」
ユウトが言った。
「レベル上げなら、調べれば出てくるじゃないですか」
「武器の作り方も」
「ミッションの攻略も」
「でも」
「フレンドの作り方って検索しても、話しかけましょうとか、ギルド入りましょうとかしか出てこなくて」
「まあ、そうなるだろうね」
「そこで思ったんですよ」
ユウトが少し身を乗り出した。
「AIプレイヤーとか売ってくれればいいのにって」
「えっ、AIプレイヤー?」
アンナが首を傾げる。
「NPCじゃなくて?」
「NPCじゃなくて」
ユウトは手を動かしながら説明する。
「普通のプレイヤーみたいなやつです」
「ほら、最近だとAIキャラクターとお話できるアプリもあるじゃないですか」
「そんな感じのものをゲーム内で作って」
「自分専用で」
「ログインしたら挨拶してくれて」
「ミッション誘ったら一緒に来てくれて」
「チャットもできて」
「前に話した内容も覚えてる」
「自分のプレイスタイルも覚えてくれる」
「確かにね」
ミナトが妙に感心している。
「それ、普通に売れそう」
「でしょ?」
「最近のAIの進歩は凄いからね」
私も言う。
「ゲーム操作までやらせるのは大変そうだけど」
「そのうち、できるようになるんじゃないですか?」
「まあ、ありそう」
アンナも楽しそうに考え始める。
「好きな見た目にできるの?」
「できた方がいいですね」
「性格も?」
「選べたら最高です」
「優しい人とか?」
「それ」
「絶対怒らないやつ」
「下手でも?」
「下手でも」
「何回死んでも?」
「何回死んでも」
「すごいね」
アンナが笑う。
「めちゃくちゃ優しい」
「それだけじゃないですよ」
ユウトが続ける。
「誘って断られないし」
「ログイン時間も合わせてくれる」
「一週間くらい休んでも気まずくならないし」
「急にゲーム辞めたりもしない」
「それは強いな」
ミナトが言う。
「俺より付き合いいいじゃん」
「ミナトは誘ってもミッション来ないもんね」
「戦いたくないからね」
「そこは堂々と言うんだ」
「でも」
話を聞いているうちに。
確かに、便利だと思えてきた。
初心者なら、分からないことをAIに聞くこともできる。
人と組む前に練習することもできる。
高難度へ行く前に、パーティプレイを覚えることだってできるかもしれない。
「結構いいんじゃない?」
アンナが言った。
「私も欲しいかも」
「でしょ?」
「でもさ」
私は少し気になった。
「そのAI」
「誘ったら絶対来るの?」
「AIだから、断らないでしょ」
「今日は別のことしたい、とか言わない?」
「言わなくていいんじゃないですか?」
「そのミッション苦手なんだよね、とか」
「AIだし」
「今日は別の人と遊びたいな、とか」
「それもない方がいいですね」
「……」
少し考える。
アンナも同じことに気付いたらしい。
「それって」
「フレンドなのかな?」
ユウトが止まる。
「え?」
「いや」
アンナは慌てて付け足す。
「悪いって意味じゃないよ」
「すっごい便利だと思う」
「でも」
「全部、自分の言うこと聞いてくれるんでしょ?」
「まあ」
「それ、友達っていうより」
少し考える。
「フレンドというより、便利な機能っていうか」
「でも」
ユウトはすぐに返した。
「誰もいないよりいいと思いませんか?」
「……」
誰も、すぐには答えなかった。
「それはそうかもね」
私は言った。
半年経ってもフレンドができない人がいたのは事実。
どちらがいいかと聞かれれば、簡単には否定できない。
「AIと一緒に遊ぶゲーム自体は面白そうだけどね」
「ですよね」
「例えば、一人用のゲームとかで」
アンナが言う。
「仲間のキャラが決まったセリフを言うんじゃなくて、チャットで本当に話してくれたら面白そう」
「昨日のこと覚えてたりね」
ミナトも乗ってくる。
「『昨日また同じところで死んでたね』とか言われるんだ」
「嫌だな、それ」
「でも面白そう」
「……あれ? でも待って」
アンナが何かに気付いた。
「どうしたの?」
「いや」
少し考えてから言う。
「AIとだけ遊ぶなら」
「GEワールドというか、MMOじゃなくてもよくない?」
「え?」
ユウトが見る。
「だって」
「自分専用のAIと一緒にミッション行って」
「AIとだけ話すんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、ほかのプレイヤーが同じ世界にいる必要ある?」
「……」
「オフラインのゲームで」
「AIだけネットにつながってれば、それでもできるよね?」
「確かに」
私も頷いた。
専用のAIと冒険する。
専用のAIと話す。
専用のAIとパーティを組む。
それ自体は面白そうだ。
でも。
それだけで完結するなら。
何万人ものプレイヤーが、同じ世界にいる必要はない。
「それになったら」
ミナトが言う。
「俺、何のためにログインしてるのか分かんなくなるな」
「ミナトは特にそうだね」
「俺、ほぼ人と話すために来てるからね」
「ゲームしようよ」
「してるよ」
「チャットを?」
「GEワールドを」
本人の中では、同じらしい。
「でも人間って」
ユウトが言う。
「面倒じゃないですか?」
「まあ」
「誘っても断られるし」
「時間合わないし」
「怒る人もいるし」
「気まずくなることもあるし」
「突然辞める人もいる」
「そうだね」
「AIなら全部ないですよ」
「確かに」
「だったらAIの方がよくないですか?」
間違っているとは言い切れなかった。
人間のフレンドは。
便利ではない。
「ただ」
少し考えてから言う。
「その面倒なのって」
「相手が自分とは別の人だからなんじゃない?」
「別の人?」
「うん」
「今日は行きたくないとか」
「そのミッション嫌いとか」
「今日は別の人と遊びたいとか」
「そういうのって」
「相手にも相手の都合があるからでしょ?」
「まあ」
「こっちの思い通りにならないのが、人と遊ぶってことなのかもしれないね」
「面倒ですね」
「面倒だね」
そこは否定しなかった。
アンナが笑う。
「でも、その面倒なのが嫌ならAIっていうのも、全然ありだと思うけどね」
「結局どっちなんです?」
「分かんない」
「ええ……」
「だって、まだAIプレイヤー売ってないし」
「それはそうですけど」
ミナトが笑った。
「で」
「結局、この人の最初の質問なんだけど」
「あ」
そうだった。
AIの話に夢中になって、すっかり忘れていた。
「どうしたらフレンドできるんです?」
ユウトが聞く。
「……」
今度は、全員が黙った。
「分かんない」
最初に答えたのはミナトだった。
「分からないんですか?」
「俺、喋ってたら普通にフレンドできてたからさ」
「それ、さっきも聞きました」
「じゃあ」
アンナが言う。
「ミッション終わった時に、ちょっと話してみるとか?」
「何て?」
「えーっと」
アンナも考える。
「『また一緒になったらよろしく』とか」
「それでフレンド申請?」
「そこは……流れで?」
「流れってなんですか」
「難しいね!」
アンナがとうとう笑った。
「ギルドに入るのも一つじゃない?」
私が言う。
「初心者歓迎のところとか」
「ちょっと怖くないですか?」
「まあ、合わなかったら抜けてもいいし」
「入るまでが怖いんですよ」
「それも分かる」
「ゲームの外にもあるよね」
アンナが言う。
「例えば、GEワールドのDiscordとかさ」
「それも知らないところに入るんですよね?」
「……そうだね」
「結局、全部勇気いるじゃないですか」
ユウトが困ったように言った。
「たぶん」
私は答えた。
「これをやれば必ずフレンドができる、って方法はないんだろうね」
「そんなあ」
「アンナみたいに現実の友達と始める人もいるし」
「ミナトみたいにロビーで話してるうちに増える人もいる」
「ギルドに入って増える人もいる」
「野良で何度も一緒になって、知り合う人もいるかもしれない」
「全部たまたまなんですか?」
「結構そうなのかも」
アンナが言う。
「やっぱAIの方が簡単じゃないですか」
「それは間違いないね」
私も認めた。
AIなら。
最初から知り合いだ。
関係を始めるための偶然もいらない。
話しかける勇気もいらない。
断られる心配もない。
「ところで」
アンナが言った。
「ユウトさん、このあと何するの?」
「え?」
「ミッションとか行く?」
「まあ、行こうかなとは」
「じゃあ一緒に行く?」
ユウトがアンナを見る。
「俺とですか?」
「うん」
「いいんですか?」
「もちろん」
「グレイさんも行くでしょ?」
「まあ、暇だしね」
ミナトも立ち上がる。
「じゃ、いってらっしゃい」
「ミナトは?」
「俺は行かないよ」
「行かないの!?」
「戦いたくないって言ったじゃん」
「ほんとにゲームしないね」
「してるって」
ミナトを残して、三人でミッション受付へ向かう。
歩きながら、少し考えた。
AIなら。
「一緒に行く?」
そう聞けば。
きっと必ず、
「行く」
と答えてくれるのだろう。
人間なら、断られるかもしれない。
そもそも。
声を掛けてもらえる保証すらない。
でも今回は。
たまたまユウトがミナトと話していた。
たまたま私たちが、そこを通りかかった。
そしてアンナが、
「一緒に行く?」
と聞いた。
それだけだった。
フレンドになる方法なんて、結局分からない。
ただ。
誰かと知り合うきっかけというのは。
案外、こんなものなのかもしれない。
今回は、MMOのフレンドを作ることの難しさと、最近、噂になっているAIプレイヤーについてのお話でした。
もし仮にAIプレイヤーが本当に実現したら、かなり便利だと思います。
誘えば来てくれる。
下手でも怒らない。
ログイン時間も合わせてくれる。
過去の会話も覚えてくれる。
一人で遊ぶ人にとっては、かなり魅力的な存在になりそうです。
ただ、それで全部満足できるなら、今度は「それってMMOである必要があるのかな?」という疑問も出てきます。
人間のフレンドは、AIよりずっと面倒です。
誘っても断られるし、予定も合わないし、意見も違う。
でも、その面倒さは、相手が自分とは別の人間だからこそ生まれるものでもあります。
そして何より、MMOでフレンドができる方法というのは、たぶん決まっていません。
偶然話したり、ギルドに入ったり、何度も同じ人と遊んだり。
今回は、そんな「人と知り合うきっかけ」について考えた回でした。




