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第十九話「社会人、外部ツールを使うユーザーと出会う」

今回は、オンラインゲームでたびたび話題になる「外部ツール」のお話です。


ゲームによって扱いはさまざまですが、実際に遊んでいると一度は耳にしたことがある話題かもしれません。


グレイたちが出会ったプレイヤーは、何を見て、何を見落としていたのか。


そんなお話です。

 金曜日の夜。


 一週間の仕事を終え、いつものように夕食と風呂を済ませてパソコンの前へ座った。


「さて……今日もログインしますか」


 キーボードを叩く。


 見慣れたタイトルロゴが表示され、青い光に包まれると、キャラクター『グレイ』がGEワールドの中層ロビーへ降り立った。


 平日の夜ということもあり、ロビーは今日も多くのプレイヤーで賑わっている。


 装備を眺めながら露店を回る者。


 フレンドと雑談している者。


 パーティ募集を叫んでいる者。


 そんな中、見覚えのある黒いコスチュームに薄緑の髪のキャラを見つけた。


「あれ、レインさん?」


「あっ、グレイさん!」


 こちらに気付いたレインが小さく手を振る。


「今日は一人?」


「はい」


 レインは苦笑した。


「エミリアさん、さっきまで一緒だったんですけど」


「うん」


「大学のレポートが終わってなかったみたいで、慌ててログアウトしちゃいました」


「ああ」


 思わず笑う。


「学生さんなんだ」


「たぶん」


 レインも笑う。


「詳しくは知らないですけど、授業とか課題とかよく話してます」


「なるほど」


「だから今日は一人です」


「セカンドベルのみんなは?」


「今日は予定が合わなくて」


 レインが肩をすくめる。


「みんな社会人だったり学生だったりなので、平日はなかなか揃わないんですよ」


「まあ、週末だし予定のある人も多いのかもね」


 そこへアンナもログインしてきた。


「こんばんはー!」


「こんばんは」


「あれっ、レインさんも一緒?」


 アンナが嬉しそうに笑う。


「今日は三人ですね」


「じゃあ、どこか行こうか」


 グレイが言うと、レインも頷いた。


「久しぶりに上級ミッションでもどうです?」


「いいね」


 三人パーティでは出発できないため、残る一人は自動マッチングになる。


 マッチング開始。


 数秒後。


 画面に四人目のプレイヤーが表示された。


 名前は『ヴォルク』。


 見たところ、装備もしっかり揃っている。


「よろしくお願いします」


「よろしく」


 四人は転送ゲートへ入り、ミッションを開始した。


 廃工場を模したステージ。


 敵機械兵が次々と現れる。


 アンナが素早く電磁シールドを展開し、その間にグレイとレインが敵を撃ち抜いていく。


 ヴォルクも立ち回りは悪くない。


 敵を処理する速度も速い。経験者なのが分かった。


「右から増援!」


 レインが叫ぶ。


 その瞬間、アンナが味方全員へ回復フィールドを付与。


 グレイは遮蔽物から身を乗り出し、ライフルを連射した。


 危なげなく第一エリアを突破する。


 すると、不意にチャットが流れた。


ヴォルク

「アンナさん、DPSかなり低いですね。」


 一瞬、空気が止まる。


「えっ?」


 アンナが思わず声を漏らした。


 グレイは画面から目を離さず敵を撃ち続ける。


「DPS?」


 レインが首を傾げる。


 ヴォルクから返事が来た。


「敵に与えているダメージです」


「えっ、なんでそんなことがわかるんですか?」


「外部ツールです」


「パーティ全員のDPS見えてます」


「ああ……」


 グレイは小さく納得した。


 海外製のオンラインゲームでは珍しい話ではない。


 ゲーム画面の情報を解析し、戦闘データを表示する外部ツール。


 自分の戦闘内容を確認するために利用しているプレイヤーも少なくない。


 ただ――。


「アンナさん、もう少し攻撃した方がいいと思いますよ」


 再びチャットが流れる。


 アンナは少し困ったように笑った。


「えっと……私、支援がメインなので」


「でもDPSはかなり低いですよ」


 その言葉にレインが少し複雑そうな顔をする。


 アンナは攻撃よりも、シールドや回復、味方への強化を優先するプレイスタイルだ。


 三人とも、それを分かった上で一緒に遊んでいる。


 だから誰も気にしたことはなかった。


「グレイさん……」


 アンナが少し不安そうにこちらを見る。


 少しだけ考え、静かに口を開いた。


「ヴォルクさん」


「はい?」


「そのツール、自分のプレイを見直すには便利そうですね」


「ですよね」


「じゃあ」


 少し笑って言った。


「ちょっと試してみたいことがあるんです」


 そしてアンナの方を向く。


「アンナ」


「はい?」


「次のエリアだけ、一回支援を止めてみてくれない?」


「……えっ?」


 アンナだけでなく、レインも驚いた顔でこちらを見た。


「えっ、それ大丈夫なんですか?」


「あぁ、アンナも普通に攻撃メインで進んでくれていいよ」


 グレイは静かにライフルを構え直す。


「ちょっと確認したいことがある」


 四人は、そのまま次のエリアへ足を踏み入れた。


 次のエリアへ足を踏み入れると、警報音が鳴り響いた。


 大型機械兵と、それを護衛する小型兵器が次々と転送されてくる。


「来ます!」


 アンナの武器はショットガンだ。


 今回は支援を展開せず、接敵するまで様子を見ている。


 レインがライフルを構える。


 いつもなら最初に展開されるシールドもない。


「本当に止めるんですね……」


「少しだけね」


 グレイはそう答え、敵へ向かって走った。


 大型機械兵の機関砲が火を吹く。


「っ!」


 グレイは慌てて遮蔽物へ飛び込んだ。


 いつもならアンナのシールドがあるため、そのまま撃ち続けられる場面だった。


 レインも敵の狙撃を避けながら位置を変える。


「思ったより撃てませんね……。」


 そこへ小型兵器が横から回り込んでくる。


 ヴォルクも回避に専念せざるを得なくなった。


 攻撃する時間より、身を守る時間の方が長い。


 大型機械兵の耐久力も、なかなか減らない。


挿絵(By みてみん)


「アンナ」


 グレイが声を掛ける。


「もういいよ」


「はい!」


 その瞬間だった。


 アンナが素早く前へ出る。


「シールド展開!」


 青白い障壁が、敵の射線上へ次々と展開される。


「回復いきます!」


 続けて回復ドローンが飛び出し、削られていた体力が一気に戻る。


「サプライボックスも置いときますね」


 今回はいつもよりサービスがいい。


「助かります!」


 レインが安心したように前へ出る。


 グレイも遮蔽物から身を乗り出し、敵の弱点へ正確に弾丸を撃ち込んだ。


 ヴォルクも再び攻撃を始める。


 さっきまで苦戦していた大型機械兵の耐久力が、みるみる減っていく。


「終わり!」


 最後の一撃で大型機械兵が爆発し、ミッション完了の表示が現れた。


 四人はロビーへ戻る。


 少し沈黙が流れたあと、グレイが口を開いた。


「ヴォルクさん」


「はい」


「さっきのツール、今も見てます?」


「見てます」


「どうでした?」


 少し間があった。


「……全員、途中からDPSがかなり落ちました」


「そうだよね」


 グレイは頷く。


「アンナが攻撃しなくなったからじゃない」


「アンナが支援を止めたから」


 ヴォルクは黙っている。


 レインも小さく頷いた。


「私も途中から回避ばかりで、全然撃てませんでした」


「俺も」


 グレイは笑う。


「普段なら多少無理してでも撃てる場面がある」


「でも今日は守ってくれる人がいなかった」


「だからみんな、攻撃より生き残る方を優先した」


 ヴォルクが少し考えるようにチャットを打つ。


「でも、アンナさんのDPSはやっぱり低かったです」


「そう」


 グレイはあっさり認めた。


「そこはツールの数字通りだ」


 アンナが少し苦笑する。


「私、撃ってないですから」


「でもね」


 グレイは続けた。


「アンナが作っていたのはダメージじゃない」


「俺たちが安心して撃てる時間なんだ」


 レインが「ああ」と納得したように声を漏らす。


「だから私たちのDPSが上がってたんですね」


「そういうこと」


 グレイはライフルを肩に掛けた。


「数字は間違ってない」


「でも、数字だけでは見えない仕事もある」


「支援職って、そういう役割だから」


 ヴォルクから返事が来るまで、少し時間があった。


「……そこまでは考えたことありませんでした」


「俺も最初はそうだったよ」


 グレイは笑った。


「だから外部ツールを使うこと自体は悪いことじゃないと思う」


「自分のプレイを見直すには便利だしね」


「ただ」


 一呼吸置く。


「その数字だけで、人のプレイ全部を評価するのは難しい」


 ヴォルクはしばらく何も言わなかった。


 やがて短くチャットが流れる。


「ありがとうございました」


 そのままパーティから抜けていく。


 静かになったロビーで、アンナがほっと息を吐いた。


「ちょっと緊張しちゃいました」


「ごめんね」


 グレイが苦笑する。


「でも分かりやすかった」


 レインも笑った。


「支援って、すごく大事なんですね」


「私なんて当たり前だと思ってたけど」


 アンナは照れくさそうに頭をかく。


「私はみんなが楽しく遊べれば、それで十分です」


「だから撃つのは、みんなに任せます」


 その言葉に小さく笑う。


「じゃあ、今日も安心して撃たせてもらおうかな」


「はい!」


「次のミッション、行きましょう!」


 三人は再び転送ゲートへ向かう。


 GEワールドには、さまざまな遊び方をするプレイヤーがいる。


 強さを追い求める者。


 景色を楽しむ者。


 仲間との会話を楽しむ者。


 そして、自分のプレイを数字で分析する者。


 どれも、この世界の楽しみ方の一つなのだろう。


 だからこそ。


 数字だけでは見えないものも、きっとある。


 そう思いながら、次のミッションへ向かっていった。

第十九話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回は「外部ツール」をテーマにしてみました。


実際のオンラインゲームでも、自分のプレイを分析するために使われることがありますが、数字だけでは分からない役割もたくさんあります。


特に支援職は、自分がダメージを出すよりも「味方が安心して戦える時間」を作ることが仕事です。


ゲームを長く遊んでいると、「数字では表せない貢献」をしているプレイヤーに助けられる場面は本当に多いですよね。


次回は、また別のオンラインゲーム文化をテーマにしたお話をお届けする予定です。


引き続き、グレイさんの日常を楽しんでいただければ嬉しいです。

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