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第十七話「社会人、最後まで諦めなかった人だけが見られる景色に出会う」

いつも読んでいただきありがとうございます。


今回は、防衛レイドのお話です。


オンラインゲームでは、少し戦況が悪くなると途中で抜けてしまうプレイヤーもいます。

でも、本当に面白い試合というのは、意外とそんな絶望的な状況から始まることもあります。


今回はそんな、「最後まで残った人だけが見られる景色」のお話です。

 その日も残業を終え、GEワールドへログインした。


 いつもの中層ロビー。


 ネオンに照らされた巨大都市には、今日も多くのプレイヤーが行き交っている。


「こんばんは」


 チャットを打つ。


「あ、グレイさん」


 聞き慣れた声。


 青いフードを被ったアンナが手を振った。


「こんばんは。今日も遅いですね」


「ここ最近、仕事が立て込んでて」


「今日も何か行く?」


「何か面白そうなのある?」


「ちょっと待って……」


 アンナは端末を開く。


「これなんかどう? 季節限定の防衛レイド」


 画面を見る。


 資源採掘基地防衛作戦。


 八人で採掘基地を防衛するレイドだ。


「これ、毎年この時期になると復刻するよね」


「報酬も結構いいから、回してる人も多いよ」


「じゃあ行こうか」


 そこへ。


「おっ」


 後ろから声がした。


 振り返る。


 ライフルを背負った、ガンマン風のコート姿。


 タクミだった。


「こんばんは」


「あ、タクミさん。こんばんは」


「二人とも、防衛レイド行くのか?」


「うん」


「タクミさんも?」


「俺も今から行こうと思ってたとこ」


「じゃあ一緒に」


 三人でパーティを組む。


 足りない五人は自動マッチング。


 すぐに八人集まった。


 転送ゲートへ入る。


 視界が白く染まる。


 次の瞬間。


 荒れ果てた鉱山地帯へ転送された。


 巨大な採掘施設の薄暗い内部。


 三基の採掘装置が設置されている。


 周囲には即席の防壁。


 遥か前方に、複数のゲートが見える。


 そこから大量の敵が押し寄せてくる。


 それらの敵を全滅させるか、制限時間まで装置を守り切れば成功だ。


『レイドミッションを開始します』


『資源採掘基地を防衛してください』


『採掘ポイントは三か所』


『すべて破壊されるとミッション失敗となります』


 画面にマップが表示される。


 A。


 B。


 C。


 三つの採掘ポイントが、三角形に配置されていた。


 距離はそれなりにある。


 危ないと分かってから駆けつけても、間に合わない。


 タクミが言う。


「これ、一個落ちると結構きついぞ」


「そうなの?」


「敵が残ったポイントに集中するからな」


「だから最後は防衛線が崩れやすい」


「なるほど」


 アンナは七人の小人を展開する。


「ひとまず、この拠点は私たち三人で守るのね」


「最初の転送で、ある程度決まるよな」


「いいと思う」


 グレイも頷く。


『第一ウェーブ開始』


 警報が鳴り響く。


 ゲートが開き、採掘装置を狙う敵が突入してくる。


 無数のミュータント。


 武装ドローン。


 装甲車両まで。


 一斉に押し寄せてきた。


「来た!」


 アンナが叫ぶ。


 七人の小人が飛び立つ。


 Electromagnetic shield deploys...


 青白い障壁が展開される。


 グレイは前へ出る。


 分身を展開。


 敵を引きつける。


 タクミは高台へ移動し、アサルトライフルで次々に敵を撃ち抜いていく。


 野良プレイヤーたちも手慣れていた。


 大型火炎放射器。


 ロケットランチャー。


 スナイパーライフル。


 それぞれ役割を分担しながら迎撃する。


 第一ウェーブは順調だった。


 しかし。


『WARNING』


 警報が鳴る。


「大型兵器!」


 アンナが叫ぶ。


 Bポイント側。


 巨大な四脚戦車が姿を現した。


 全身を厚い装甲で覆い、両肩には大型ミサイルポッド。


 腹部には連装ビーム砲。


「まずい!」


 集中砲火。


「アンナ、小人は?」


「無理。ここからじゃ届かないよ」


 間に合わない。


 轟音。


 採掘ポイントBが爆発した。


『Mining Point Bravo destroyed.』


 施設が崩れ落ちる。


 敵の進軍ルートが変わる。


 残る採掘ポイントへ向かって動き始めた。


「一個落ちた!」


 アンナが声を上げる。


 その時だった。


【野良】


無理だな


 チャットが流れる。


 直後。


『プレイヤーが離脱しました』


「えっ?」


 アンナが画面を見る。


 タクミはため息をついた。


「いるんだよ」


「こういう人」


「少しでも順調にいかないと、すぐに次へ行く」


「報酬効率だけ考えてる」


 グレイは敵を撃ちながら笑う。


「まだ始まったばかりだけどね」


挿絵(By みてみん)


 第二ウェーブ。


「一個落ちるだけで、こんなに増えるんだっけ?」


 大型ドローン。


 多脚砲台。


 自爆兵。


 さらに大型兵器まで加わる。


「左!」


「ドローン!」


「了解!」


 三人も必死に応戦する。


 それでも。


 敵は止まらない。


 ついに。


 採掘ポイントCまで突破された。


 轟音。


 巨大な爆発。


『Mining Point Charlie destroyed.』


 残る採掘ポイントは、あと一つだけだった。


 基地中央。


 最後の採掘施設へ向かって、敵が押し寄せてくる。


 戦況は、誰の目にも明らかだった。


 その時。


【野良】


もう無理じゃない?


【野良】


一回破棄してやり直した方が早いでしょ


 チャットが流れる。


 そして。


『プレイヤーが離脱しました』


 残り五人。


 アンナが小さく息を呑む。


「……」


「確かに」


「ここから勝つのって、かなり難しいよね」


 七人の小人を操作しながら呟く。


 どこへ配置するか。


 どう時間を稼ぐか。


 必死に考えていた。


「小人のジェネレーターは?」


「第二ウェーブの開始から作ってたから、もうすぐ完成するけど」


「接近されたら、どうしようもないよ」


 タクミも苦笑する。


「俺も効率だけ考えたら、やり直した方が早いとは思う」


「報酬目当てならな」


 その時だった。


「いや」


 グレイが笑う。


「面白くなってきたじゃん」


「え?」


 アンナが振り向く。


 タクミも思わず聞き返した。


「何言ってんだ?」


「こういう試合」


 グレイは最後の採掘ポイントを見る。


「結構好きなんだよね」


「勝てるかどうか分からないくらいが、一番面白い」


「だからグレイさん、変なんだよ」


 タクミが呆れたように笑う。


 アンナも思わず吹き出した。


「でも」


「ちょっとだけ分かるかも」


 そう言って画面を見る。


「じゃあ」


「どう守る?」


 グレイはマップを開いた。


 野良の二人も覗き込む。


「敵は全部ここへ来る」


「侵入ルートは、この三か所」


「大型の機動兵器が通れるのは、正面だけだな」


「七人の小人を要塞化して、正面からの砲撃は全部防ぐよ」


「その間に、機動兵器はロケットランチャーで破壊してくれる?」


 ロケットランチャーを持った野良プレイヤーが、無言でサムズアップする。


「タクミさんは? 高台から全部見える場所ある?」


「ある」


「じゃあ、そこで自爆兵の対処を頼む」


「了解」


 作戦は決まった。


『最終ウェーブ開始』


 ゲートが開き、轟音がフロアに広がる。


 想像以上の数で、奥の壁すら見えなかった。


 大型戦車。


 武装ドローン。


 重機動兵器。


 さらに。


 巨大な四脚要塞兵器まで姿を現した。


「うわぁ……」


 アンナが思わず声を漏らす。


「多すぎる」


「来るぞ!」


 タクミが叫ぶ。


 七人の小人が一斉に展開する。


 Electromagnetic shield deploys...


 Laser interception system active.


 青白い電磁障壁が、最後の採掘ポイントを包み込む。


 敵の銃弾。


 ミサイル。


 レーザー。


 次々に迎撃されていく。


「今!」


 要塞兵器が通路に入ったところで、グレイが飛び出す。


 分身を展開。


 足を止める。


 その隙に。


 野良プレイヤーは小人のサプライボックスから弾頭を取り出し、ロケットランチャーで兵器を着実に削っていく。


 アンナは七人の小人を制御しながら、凍結地雷で自爆兵の足を遅らせる。


 一体。


 二体。


 三体。


 タクミの分散攻撃が、次々に敵を巻き込んでいく。


「右!」


「分かってる!」


 アンナは七人の小人を細かく動かし続ける。


 障壁が消えそうになる。


 すぐに別の小人が展開。


 次の障壁。


 さらに次。


「あと十五秒!」


 アンナが叫ぶ。


 採掘ポイントの耐久。


 五%。


 発生の隙間を縫って、大型兵器のビームが直撃する。


 二%。


「まずい!」


 グレイが巨大兵器の前へ飛び込む。


 分身を他の敵へ回し、自らを囮にして時間を稼ぐしかなかった。


 タクミも叫ぶ。


「ボスを落とす!」


 ライフルを撃ち続ける。


 一発。


 二発。


 三発。


 耐久ゲージが、少しずつ減っていく。


 残り十秒。


 採掘ポイント。


 耐久一%。


「もう無理!」


 アンナが思わず叫ぶ。


「いや」


 タクミが笑った。


「まだだ!」


「あと少し!」


 残り五秒。


 巨大兵器が、最後の砲撃を放とうとする。


「グレイさん!」


「任せて」


 巨大兵器の弱点を突く。


 兵器のヘイトが、一時的にグレイへ向いた。


 その一瞬。


 タクミが引き金を引いた。


 アサルトライフルの連射。


 弱点を撃ち抜く。


 残り三秒。


 二秒。


 一秒。


 爆発。


 巨大兵器は崩れ落ちた。


『MISSION CLEAR』


 一瞬。


 誰も喋らなかった。


 静まり返るフロア。


挿絵(By みてみん)


 最後の採掘ポイントだけが、かろうじて残っている。


「勝った……」


 アンナが呟く。


「本当に勝てるんだ」


 ロビーへ戻る。


 三人とも、少し疲れていた。


 アンナが笑う。


「こんな試合、初めてだった」


 タクミも苦笑する。


「正直」


「俺も途中で終わったと思ってた」


 グレイが笑う。


「こういう試合って」


「MMOだと結構あるんだよ」


「残り一秒」


「耐久一%」


「誰も勝てないと思った試合」


「でも勝つ」


 アンナが聞く。


「だから最後までやるの?」


「うん」


「途中で抜けちゃうと」


「こういう試合には出会えないから」


 タクミは少し考え込む。


「さっき抜けた奴」


「今頃、次のレイド行ってるんだろうな」


「そうだね」


 グレイは小さく笑う。


「でも」


「一番もったいないのは」


「報酬じゃない」


「え?」


 アンナが首を傾げる。


「この試合を最後まで遊べなかったことかな」


 少し沈黙が流れる。


 アンナは笑顔になった。


「私」


「最後まで残ってよかった」


 タクミもライフルを背負い直す。


「……俺も」


「たまには、こういう試合も悪くないな」


 三人は並んでロビーを歩き出す。


 オンラインゲームでは、効率を求めることも大切だ。


 報酬を集めることも。


 装備を強くすることも。


 でも。


 誰もが負けたと思った戦いを、最後の最後でひっくり返す。


 そんな景色は。


 最後まで諦めなかった人だけが見ることのできる、オンラインゲームならではの特別な思い出なのかもしれなかった。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。


このお話は、実際にMMOやオンラインゲームでよくある出来事が元になっています。


拠点の耐久力が残りわずかだったり、制限時間があと数秒だったり。

「もう無理だろ」と誰もが思ったところから、最後の最後で逆転勝利する。


効率だけを考えれば途中で抜けた方が良い試合だったとしても、そんな試合ほど終わったあとに一番記憶に残っていたりします。


グレイはそういう試合が好きな人です。

タクミは最初こそ効率を重視していましたが、最後には少し考え方が変わりました。


オンラインゲームの魅力は装備や報酬だけではなく、一緒に遊んだ人との思い出なのかもしれませんね。


次回もよろしくお願いします。

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