第十六話「社会人、海外プレイヤーと出会う」
今回は、海外プレイヤーと一緒に遊ぶお話です。
言葉はほとんど通じない。
遊び方も全然違う。
それでも、一緒に遊んでいるうちに……?
第十六話「社会人、海外プレイヤーと出会う」
よろしくお願いします。
その日も残業を終え、GEワールドへログインした。
いつもの中層ロビー。
ネオンに照らされた巨大都市には、今日も多くのプレイヤーが行き交っている。
「こんばんは」
チャットを打つ。
「あ、グレイさん」
聞き慣れた声。
青いフードを被ったアンナが近づいてくる。
「こんばんは」
「今日も何か行く?」
「短いやつなら」
「じゃあ、普通の四人ミッションでも行こうか?」
「いいね」
そんな話をしていると。
「おっ」
後ろから声がした。
振り返る。
ライフルを背負った、ガンマンのようなコート姿。
タクミだった。
「あっ、タクミさん、こんばんは」
「こんばんは」
「二人とも、これから何か行くのか?」
「うん。適当にミッションでも行こうかなって」
「俺も行っていい?」
「もちろん」
三人でパーティを組む。
向かったのは、廃墟になった都市の地下研究施設。
複数の区画を進みながら敵を倒し、最深部を目指すミッションだ。
特に難しいものではない。
一つずつ部屋を攻略していけば、三十分ほどで終わる。
足りない一人は、自動マッチングで募集することにした。
しばらくして。
『プレイヤーが参加しました』
一人のプレイヤーが転送されてくる。
派手な赤い装甲が付いたジャケット。
大型のマシンガンを背負った中層型の男性キャラ。
名前はMAX。
「こんばんは」
アンナが挨拶する。
少し間があった。
【MAX】
hi
「……」
アンナがこちらを見る。
「外国の人?」
「たぶん」
【MAX】
:)
「通じてる?」
「たぶん」
タクミが苦笑する。
「まあ、ミッションくらいなら何とかなるだろ」
「そうだね」
四人は転送ゲートへ入った。
視界が白く染まる。
次の瞬間。
巨大な地下施設の中にいた。
崩れた天井。
錆びついた配管。
薄暗い通路には、赤い非常灯だけが点滅している。
『ミッションを開始します』
『研究施設最深部へ向かってください』
「じゃあ、行こうか」
三人で歩き始める。
最初の区画。
少し先に、十体ほどのミュータントがいる。
いつも通り。
グレイが前へ出て敵を引きつける。
その間にアンナが七人の小人を展開。
タクミが後方から攻撃する。
誰もが、いつも通り――そう思っていた。
「えっ?」
一人だけ。
MAXが走っていく。
「おい」
敵の集団へ突っ込む。
そのまま通り過ぎた。
「何やってんだ?」
さらに奥へ。
次の部屋へ入っていく。
「ちょっと待って!」
アンナが叫ぶ。
しかし、MAXは止まらない。
姿が見えなくなる。
しばらくして。
遠くから銃声が聞こえた。
ダダダダダダダッ!
爆発。
大量の足音。
「……」
タクミが通路の奥を見る。
「なんか来てないか?」
来ていた。
MAXが走って戻ってくる。
その後ろ。
大量の敵。
「おい!」
最初の部屋にいたミュータントの大群。
次の部屋の警備ドローン。
さらに奥にいたらしい大型機動兵器までいる。
「なんで全部連れてきたんだよ!」
タクミが叫ぶ。
次の瞬間。
一斉に集中砲火が始まった。
「ちょっと待って、待って!」
アンナが慌てて七人の小人を展開する。
Electromagnetic shield deploys...
電磁バリア。
大量の銃弾が、青白い障壁に弾かれる。
しかし。
MAXは、そのまま敵の真ん中へ突っ込んだ。
数秒後。
倒れる。
「何してるの!」
「助けるぞ!」
「助けるのかよ!」
「放っておけないでしょ!」
三人で必死に応戦する。
グレイが前へ。
アンナが支援。
タクミが電磁バリアの後ろから、分散攻撃で撃ち続ける。
「多すぎるだろ!」
「右からも来てる!」
「分かってる!」
大混戦。
それでも。
なんとか最後の一体を倒した。
「……」
「……」
「……」
三人で立ち尽くす。
周囲には、大量の敵が倒れている。
「疲れた……」
アンナが呟く。
「まだ最初の部屋だぞ」
タクミも呆れている。
倒れているMAXを見る。
「こいつ」
「絶対わざとだろ」
「とりあえず起こそう」
アンナが蘇生する。
MAXが立ち上がった。
そして。
【MAX】
lol
「……」
アンナが首を傾げる。
「ろる?」
「グレイさん」
「なに?」
「lolってなに?」
「笑ってる」
「えっ?」
「たぶん、面白かったってことだと思う」
アンナが周囲を見る。
倒れた大量の敵。
減った回復アイテム。
ボロボロになった三人。
「こっちは死にかけたんだけど!」
【MAX】
LOL
タクミが言う。
「こいつ、絶対反省してないだろ!」
次の区画へ進む。
「今度は普通に行こう」
「そうだな」
「一体ずつ倒せばいいんだから」
三人で頷く。
その横を。
MAXが走っていった。
「……」
「……」
「……」
「また行った!」
アンナが叫ぶ。
「おい!」
MAXは止まらない。
また敵の集団を通り抜ける。
さらに次の部屋へ。
「何なんだよ、あいつ!」
タクミが追いかける。
そして。
【MAX】
GO GO GO!
「何がGO GO GOだよ!」
また大量の敵がやってくる。
「アンナ!」
「分かってる!」
七人の小人を展開。
Electromagnetic shield deploys...
Laser interception system active.
再び大混戦。
「左!」
「来てる!」
「大型兵器もいるぞ!」
「さっきより多くない!?」
爆発。
銃声。
飛び交う弾丸。
MAXは楽しそうにマシンガンを撃ち続けている。
「なんであいつだけ楽しそうなんだよ!」
タクミが叫ぶ。
数分後。
最後の敵が倒れた。
再び静かになる。
【MAX】
NICE!!!
【MAX】
NICE TEAM :)
「褒められてるよ」
「そういう問題じゃねえよ!」
タクミは不満そうだった。
しかし。
少しだけ笑っていた。
三つ目の区画。
「今度こそ」
タクミが言う。
「もう放っておこうぜ」
「でも」
アンナがMAXを見る。
「また行きそうだよ?」
「行かせとけ」
その時。
MAXが走り出した。
「ほら」
「知らん」
タクミは動かない。
遠くから銃声が聞こえる。
また大量の敵を集めているらしい。
「……」
その様子を見ながら、少し考える。
「これ」
「なに?」
アンナが聞く。
「ちょっと面白くない?」
「えっ?」
タクミがこちらを見る。
「どこがだよ!」
「普通に攻略したら簡単なミッションだけど」
遠くから爆発音が聞こえる。
「MAXが敵を全部連れてくるから」
「なんか、高難易度ミッションみたいになってる」
「だから何で、それを楽しもうとするんだよ!」
「だって」
少し笑う。
「来るって分かってるなら、今度は準備できるでしょ?」
アンナが聞く。
「助けるの?」
「どうせ連れてくるし」
「そうだけど」
「今度は先にバリア張れる?」
「できるけど……」
アンナは少し考える。
そして。
七人の小人を展開した。
「右側に三機」
「左側に二機」
「後ろに二機置くね」
「じゃあ、俺は前に出る」
タクミを見る。
「タクミさんは?」
「……」
タクミはため息をつく。
ライフルをリロードした。
「なんであいつの遊び方に合わせるんだよ」
そう言いながら。
後方の高台へ移動する。
「来た!」
アンナが叫ぶ。
通路の奥。
MAXが走ってくる。
その後ろには。
今まで以上の敵。
「多いな」
「多すぎるだろ!」
しかし。
今度は準備できている。
「アンナ!」
「もう張ってる!」
敵の一斉射撃。
電磁バリアが受け止める。
その隙に、グレイが前へ出る。
タクミのアサルトライフルが敵を撃ち抜く。
一体の敵から波及する分散攻撃。
グレイの分身で誘導し、密集した敵を次々に一掃していく。
MAXもマシンガンを乱射。
「右!」
「任せろ!」
「バリア、あと五秒!」
「十分!」
次々に敵が倒れていく。
そして。
最後の一体。
タクミの銃弾が撃ち抜いた。
静かになる。
「……」
アンナが周囲を見る。
「倒した」
「倒したね」
【MAX】
AMAZING!!!
【MAX】
NICE!!!
思わず笑った。
「確かに」
「今のはちょっと面白かった」
「……」
アンナも少しだけ笑う。
「ちょっとだけね」
二人でタクミを見る。
「何だよ」
「普通にやった方が早いだろ」
「そうだね」
「間違いなく」
「回復アイテムも使うし」
「うん」
「疲れるし」
「そうだね」
タクミは少し黙った。
「……まあ」
ライフルを背負う。
「ちょっとだけなら」
笑っていた。
最終区画の手前。
そこで四人は立ち止まった。
「これは……」
広い空間。
その先。
今までとは比べものにならない数の敵がいた。
機械兵。
武装ドローン。
大型兵器。
まともに戦っても、かなり苦戦しそうな数だった。
「さすがに無理だろ」
タクミが言う。
MAXも珍しく動かない。
敵を見る。
こちらを見る。
もう一度、敵を見る。
そして。
【MAX】
too many?
「……」
アンナが言う。
「あれ」
「絶対行きたいんだよね?」
「たぶん」
「聞いてるだけだろ」
タクミが言う。
「さすがに、あの数は無理だって」
MAXは待っている。
誰も動かない。
少し沈黙が流れる。
「……」
やがて。
タクミがライフルを構えた。
「アンナ」
「なに?」
「さっきのバリア」
「もう一回いける?」
アンナが驚く。
「行くの?」
「ここまで来たら」
タクミは敵の大群を見る。
「全部倒すだろ」
アンナが笑った。
「タクミさん」
「なに?」
「さっきまで普通にやれって言ってたよね?」
「うるさい」
こちらも武器を構える。
そして。
チャットを打った。
【グレイ】
GO GO GO!
一瞬。
MAXが止まる。
次の瞬間。
【MAX】
LET'S GOOOOOOOO!!!
「よし、やっちゃえ!」
アンナが笑う。
四人で走り出す。
今度は。
最初から全員一緒だった。
三十分後。
ミッション終了。
予定より大幅に時間が掛かった。
何度もダウンした。
回復アイテムもほとんど使い切った。
それでも。
最後まで全員で戦った。
【MAX】
GG
【MAX】
FUN :)
アンナが聞く。
「GGは?」
「グッドゲーム」
「あ、これは分かりやすい」
そして。
もう一つ。
【MAX】
FRIEND?
フレンド申請が届いた。
「……」
タクミが画面を見る。
「最初から最後まで、好き勝手やりやがって」
「面白くなかった?」
聞いてみる。
「……」
タクミは少し考える。
「普通にやるより疲れた」
「うん」
「時間も掛かった」
「うん」
「でも」
少しだけ笑う。
「まあ、ちょっと面白かった」
フレンド申請を承認する。
アンナも承認した。
もちろん、こちらも。
すると。
【MAX】
tomorrow again? :)
タクミが即座にチャットを打つ。
【タクミ】
NO
少し間があった。
【MAX】
lol
「……」
アンナが笑う。
そして。
覚えたばかりの言葉を打ち込んだ。
【アンナ】
lol
「おい!」
タクミが叫ぶ。
「使い方覚えたからって俺に使うな!」
思わず笑った。
アンナも笑う。
【MAX】
LOL
いつもと同じミッション。
いつもと同じ敵。
それでも。
一緒に遊ぶ人が違えば、ゲームは少しだけ違って見える。
海外のプレイヤーは最後まで、自分の遊び方を変えなかった。
変わったのは。
むしろ、こちらの方だったのかもしれない。
その日は。
いつもより少しだけ遅くまでログインしていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、海外プレイヤーと一緒に遊ぶお話でした。
オンラインゲームをやっていると、言葉の通じない海外プレイヤーと一緒になることがあります。
何を考えているのか分からない。
こちらの常識も通じない。
今回のMAXのように、突然とんでもない遊び方を始める人もいるかもしれません。
でも、それに付き合っているうちに、いつものミッションが妙に面白くなってしまう。
ゲームの内容は同じなのに、一緒に遊ぶ人が違うだけで、まったく違う体験になる。
今回は、そんなオンラインゲームの面白さを書いてみました。
そしてアンナは、ひとつ賢くなりました。
lol
次回もよろしくお願いします。




