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第十五話「社会人、戦わないプレイヤーと出会う」

今回は、八人レイドへ挑戦します。


新しく追加されたミッションは、暴走した地上戦艦を追いかける高難易度レイド。


ところが、戦闘中に一人だけ戦っていないプレイヤーがいることに気づいて……。


よろしくお願いします。

 その日も残業を終え、GEワールドへログインした。


 いつもの中層ロビー。


 ネオンに照らされた巨大都市は、今夜も大勢のプレイヤーで賑わっていた。


「こんばんは」


 チャットを打つ。


「あ、グレイさん」


 また見つけた青いフード。


 アンナだった。


「こんばんは」


「今日も何か行く?」


「うん」


「今ちょうど、向こうで新しいレイドの募集してるみたい」


 レイドとは、大勢のプレイヤーで同じミッションを攻略するコンテンツのこと。


 GEワールドでは、部下を従えた野盗のボスや、大量の武器を搭載した巨大兵器を相手にするのがレイドの定番だった。


 今回追加されたのは、八人パーティで暴走した地上戦艦を止めるミッションらしい。


「じゃあ行こうか」


 二人でロビーを歩き始める。


 その途中。


「あっ」


 アンナが前を指差した。


「エミリアさんたちだ」


 少し先では、エミリア、レイン、そしてタクミが何やら話をしている。


「こんばんは」


「あっ、こんばんは」


「おっ、グレイさん」


 タクミも軽く手を上げた。


「もうタクミさんと仲良くなったんだ」


 アンナが笑う。


「ええ、この間一緒にミッションへ行ってから、なんとなく一緒に遊ぶようになって」


 レインが答える。


「今ちょうど向こうで、アプデされたレイドのパーティ募集してて」


 アンナが言う。


「よかったら、みんなで参加してみない?」


「いいですね。じゃあ、一緒に行きましょうか」


「面白そうだな」


 五人はそのままパーティを組み、募集へ参加した。


 しばらくして八人揃う。


 事前告知では、かなり高難易度のレイドと紹介されていた。


 戦闘は二パート構成。


 前半は高速で移動する地上戦艦をホバーバイクで追跡し、後半は甲板へ乗り込んで機動兵器を叩き、停止させるという内容だ。


 転送ゲートへ入り、ミッションが始まる。


 視界が白く染まる。


 次の瞬間。


 砂混じりの熱風が頬を撫でた。


 見渡す限りの荒野。


 崩壊した高速道路。


 半ば砂に埋もれた高層ビル群。


 かつて巨大都市だった場所は、今ではただ広い廃墟になっている。


 グレイたち八人は、一台の大型装甲輸送車の荷台にいた。


 軍用トレーラーをそのまま巨大化させたような車体。


 厚い複合装甲に覆われ、その後部には八台のホバーバイクが固定されている。


 全員がすでに搭乗した状態で待機していた。


 輸送車は砂煙を上げながら荒野を走り続ける。


 ゴォォォ……


 低いエンジン音が響く。


『レイドミッションを開始します』


 システム音声が流れた。


『目標。AI暴走型陸上戦艦アーク・ガーディアン


『現在追跡中』


『目標との距離、五千メートル』


 レインが思わず前を見る。


「まだ見えないね」


 アンナが笑う。


「そのうち嫌でも見えるよ」


 すると、エミリアが遠くを指差した。


「あれ……」


 地平線。


 廃墟の向こう側。


 うっすらと砂煙が舞い上がっている。


 最初は砂嵐かと思った。


 しかし違う。


 砂煙は一定の速度でこちらへ近付いてくる。


 やがて。


 巨大な影が姿を現した。


「でかっ……」


 誰かが思わず呟く。


挿絵(By みてみん)


 それは山ではなかった。


 全長数百メートルはあろうかという鋼鉄の陸上戦艦。


 無数の履帯で大地を踏み砕きながら、轟音とともに荒野を突き進んでいる。


 左右には対空砲。


 上部には巨大な主砲。


 その周囲を何十機もの武装ドローンが旋回していた。


 まるで移動する要塞だった。


 輸送車内に緊張が走る。


『目標を視認』


『これより追撃フェーズへ移行します』


 ガシャン。


 輸送車後部のハッチがゆっくりと開く。


 猛烈な風が吹き込んできた。


 目の前には荒野が広がっている。


 その先を、陸上戦艦アーク・ガーディアンが走っていた。


『総員』


『ホバーバイクで発進してください』


 ホバーバイクのエンジンが一斉に起動する。


 キィィィィン……


 青白い推進光が足元を照らした。


 アンナがヘルメット越しに笑う。


「なんか、この瞬間が一番ワクワクするよね」


「分かる」


 その言葉に小さく笑う。


『カウントダウン開始』


『三』


『二』


『一』


『発進』


 八台のホバーバイクが、一斉に輸送車から飛び出した。


 砂煙を切り裂きながら、巨大な陸上戦艦を追って荒野を駆け抜けていく。


「行くよ!」


 開幕早々、容赦ない榴弾砲の爆撃。


 無数のドローンが迎撃してくる。


 気を抜けば、障害物へ激突しかねない。


 アンナはショットガンでは分が悪いと思ったのか、後方から七人の小人を展開。


 電磁バリアでメンバーを守りつつ、グレイ、レイン、タクミのアサルトライフルでドローンを迎撃し、エミリアのスナイパーライフルで戦艦の砲台を叩く。


 意外にも、一人の脱落者もなく甲板へ飛び乗った。

 

  艦橋付近から、巨大なガーディアンが唸りを上げて出現した。


 四門の機銃とビーム砲が一斉に薙ぎ払い、圧倒的な火力を見せつける。


「こっちからも来るよ!」


 ワイヤーアンカーで空中に体を固定したレインが叫ぶ。


「えっ、これはやりすぎ!」


 本体だけでも手一杯だというのに、船倉の開口部から二機の多脚砲台まで姿を現した。


「うわぁ……」


 手負いの野良プレイヤーへ放たれたビーム砲を、エミリアがすんでのところで空間歪曲によって逸らす。


「危ないところでしたね」


 アンナもすぐに回復ドローンを送り込む。


 激しい戦闘。


 高難易度レイドらしい大混戦だった。


 その時。


「おい」


 パーティチャットが流れる。


「一人戦ってなくね?」


 そう指摘したのは、野良プレイヤーのハヤトだった。


 全員が周囲を見回す。


 フィールドの端。


 コンテナの陰。


 一人のプレイヤーがしゃがみ込んだまま動いていない。


 名前はエマ。


「寄生じゃね?」


 ハヤトが続ける。


 タクミも少しだけ眉をひそめた。


 しかし。


「終わってから聞こう」


 そう短く返した。


 そのまま戦闘は続く。


 二十分後。


 激闘の末、ようやく機動兵器は沈黙した。


 レイドクリア。


 報酬画面が表示される。


 ロビーへ戻った。


「ねぇ」


 このまま解散する雰囲気だったが、やはりエマへ話しかけることにした。


「なんで戦わなかったの?」


 しばらく返事がない。


 やがて。


「ごめんなさい」


「実は昨日も別のパーティで何回も死んじゃって」


「邪魔だから来るなって言われて」


「それで今回のレイドも、こんなに難しいなんて知らなくて」


「また怒られるのが怖くて……」


 その一言で空気が変わる。


「そうだったんだ」


 エミリアが優しく言う。


「私も最初はそんな感じだったよ」


 レインも笑う。


「俺なんて最初のレイド、五回くらい死んだから」


「私はもっと」


 エミリアが苦笑する。


「床しか見てなかったよ」


 少しだけ空気が和らぐ。


「そうだったんだ、ごめん」


 寄生だと指摘したハヤトも、疑ってしまったことを申し訳なさそうに謝る。


 少し肩身が狭そうだった。


 しかし。


「でもさ」


 アンナが口を開く。


「今回は違ったけど、実際に寄生目的のプレイヤーっているよね?」


 一瞬だけ静かになる。


 レインが頷く。


「いるとは思う」


 エミリアも言う。


「私も見たことあります」


 タクミも腕を組んだ。


「いる」


「だったら」


 アンナが続ける。


「ハヤトさんの言いたいことも分かる気がする」


 その意見には頷いた。


「そうかもしれない」


「え?」


 アンナが振り返る。


「でも」


「そうかもしれないだけで決めつけるのは違う」


「本当に寄生目的だったかもしれない」


「電話が掛かってきたのかもしれない」


「体調が悪くなったのかもしれない」


「怖かったのかもしれない」


「理由なんて本人に聞かなきゃ分からない」


 エマは小さく俯いた。


 タクミが言う。


「でもさ」


「寄生する奴は本当にいるぞ」


「うん、それも確かにいると思う」


 タクミの言いたいことも分かる。


「でも」


「寄生する人がいるからって」


「全員を寄生扱いしたら」


「まともな人までいなくなるんじゃないかな」


 タクミは少し黙った。


「……」


「それも、見てきた」


 静かな声だった。


「うーん、でも」


「俺はやっぱり納得できないかな」


「戦わないで報酬だけ貰う奴はいる」


「そうだね」


 素直な意見に笑った。


「じゃあ」


「タクミさんならどう作る?」


「え?」


「MMOに限らず、昔のゲームって」


「報酬なんてほとんどなかったでしょ?」


「それでもみんな遊んでた」


 レインが頷く。


「でも状況は変わった」


「MMOを始め、継続して遊ぶことを前提としたゲームが登場した」


「そこで、やっぱり人は少しずつ離れていく問題に直面する」


「だから運営は……」


「ログインボーナス」


「期間限定イベント」


「ランキング」


「限定報酬」


「いろんな仕組みを作ったよね」


 アンナが言う。


「人を減らさないため?」


「そう」


「でも、報酬を増やしたら、今度は報酬だけ欲しい人も出てきた」


 タクミは考え込む。


「じゃあ」


「初心者も楽しめて」


「放置もなくて」


「人も減らなくて」


「毎日遊びたくなるMMO」


「タクミさんならどう作る?」


 しばらく沈黙が流れた。


 やがてタクミが笑う。


「……思い付かないな」


「そうなんだよ」


「この問題って、MMOが始まってからずっと答えが出てない」


 エミリアが呟く。


「人だけ責めても、解決しないんですね」


「そう、人は環境に左右されるからね」


 エマが頭を下げた。


「今日はすみませんでした」


「次はちゃんと前に出ます」


 後日。


 また同じレイドでエマとマッチした。


「今日は頑張ります!」


 そう言って飛び出すエマ。


 三十秒後。


 豪快に吹き飛ばされる。


「その意気、その意気!」


 アンナが笑う。


「今のは誰でも死ぬだろ!」


 一緒になってダウンしているタクミも笑う。


「ナイスチャレンジ」


 アンナと一緒に蘇生しながら言う。


 エマも笑っていた。


挿絵(By みてみん)


 オンラインゲームには、いろいろな人がいる。


 強い人。


 弱い人。


 怖くて動けなくなる人。


 効率を求める人。


 ゲームを作るのは運営かもしれない。


 でも、その世界を作っているのは、そこに集まるプレイヤーたちなのかもしれなかった。

お読みいただき、ありがとうございました。


今回は、オンラインゲームでたびたび問題になる「寄生プレイヤー」のお話でした。


戦わずに報酬だけを受け取る。


それだけ聞けば悪いプレイヤーのように思えますが、本当に全員が同じ理由なのでしょうか。


そして、そもそもゲームに「毎日遊ばなければならない報酬」が増えたのはなぜなのか。


そんなことを考えながら書いたお話です。


それにしても、地上戦艦をホバーバイクで追いかけて、そのまま甲板へ飛び乗るレイド。


普通に遊んでみたいですね。


次回もよろしくお願いします。

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