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第十四話「社会人、なぜか運営目線の人と出会う」

今回のお話は、「ゲームの要望」と「運営目線」がテーマです。


オンラインゲームでは、「こんな武器があったら面白そう」「こんな機能が欲しい」と話していると、「開発コストが……」「工数が……」という話になることがあります。


もちろん、運営や開発にも事情はあります。


でも、それを考えるのも含めてゲームを楽しむ人、純粋に「こんなのあったら面白そう!」と話す人、どちらもゲームが好きだからこそなのかもしれません。


そんな価値観の違いを、グレイさんたちらしく描いてみました。

ぜひお楽しみください。

 その日も残業を終え、GEワールドへログインした。


 いつもの中層ロビー。


 ネオンに照らされた巨大都市には、今日も多くのプレイヤーが集まっている。


「こんばんは」


 チャットを打つ。


「あ、グレイさん」


 聞き慣れた声。


 アンナだった。


「こんばんは」


「今日も何か行く?」


「行く」


 今夜も、いつもの流れだった。


 ミッションカウンターへ向かおうと歩き出す。


 その途中。


「あっ」


 アンナが立ち止まった。


「どうした?」


「ほら、あそこ」


 視線の先を見る。


 少し離れたロビーで、二人のプレイヤーが話をしていた。


「あれっ!」


 こちらに気付いたのか手を振る。


「確か、この間の!」


 そこにいたのは、数日前にロビーで会った復帰勢のレインだった。


 その隣にはエミリアもいる。


 数年ぶりにGEワールドへ戻ってきたレイン。


 やはり復帰は無理だと諦めかけた時、声を掛けてきたのがエミリアだった。


 彼女のやっているSecond Bellというギルドに誘われたことで、

 その後も、このゲームを続けているようだった。


「こんばんは」


「あっ、どうも」


 軽く挨拶を交わす。


「ギルドどう?このゲーム、続けられそう?」


 自然とそんな言葉が出る。


「はい、楽しいですよ」


 エミリアが横で笑う。


「復帰したばかりだから、レインさんと街を見て回ってたんです」


「昔と全然違いますね」


 レインも苦笑する。


「でも、こうやって歩いてるだけでも結構楽しいです」


 そんな話をしていると、レインがマーケットの武器を眺めながら言った。


「今でも十分面白いけどさ」


「昔あった改造武器とか、アンティーク武器みたいなの、

 また増えたら面白そうだよね」


「例えば?」


 アンナが興味津々に聞く。


「例えば二個つながっているガトリングとか」


「レバーアクションライフルとか」


「そういうロマン武器」


「いいですね、それは使ってみたい」


 エミリアも笑う。


「私は追従型ドローンとか増やしてほしいかも」


「空飛ぶ天使みたいなのが、敵の居場所を教えてくれたり」


「それも楽しそう!」


 四人で笑う。


 その時だった。


「はっ?」


 突然、後ろから声がした。


「そんなの無理だろ」


 振り返る。


 そこには見知らぬ男性キャラが立っていた。


 中層型。


 ライフルを背負った、ガンマンのようなコートを着た中年風のキャラ。


 名前はタクミとある。


「え?」


 レインが首を傾げる。


 タクミは続けた。


「武器一つ追加するだけでもさ」


「モーション作って」


「エフェクト作って」


「バランス調整して」


「テストして」


「開発コストどれだけ掛かると思ってるんだ?」


 一瞬だけ空気が止まる。


 レインとエミリアは顔を見合わせた。


「いや……」


 レインが少し困ったように言う。


「別に実装しろって話じゃなくて」


「こういう武器あったら面白そうだねって話してただけなんだけど」


「でも現実的に考えたら無理だろ?」


 タクミは真面目な顔で言う。


「開発だって予算あるし」


「サーバーだって限界あるし」


「採算も考えないといけないんだから」


 エミリアも少し困ったように笑った。


「まぁ、そうなんでしょうけど……」


「私たち、ただ雑談してただけなので」


 そこへアンナが一歩前に出る。


「ねぇ」


「あなた運営の人?」


「え?」


 今度はタクミが固まった。


「いや、違うけど」


「違うの?」


「違うよ」


 更にアンナは続けた。


「じゃあ、なんでそんなに詳しいの?」


 悪気のない一言だった。


 タクミは少しだけ言葉に詰まる。


挿絵(By みてみん)


 その様子を見て、思わず苦笑してしまう。


 そして、こちらも一言。

 

「まあ」


「言いたいことは分かるかな」


 えっ?とアンナもこっちを見る。


「普通」


「そこまで考える人ってあまりいないでしょ?」


「開発大変なんだろうなって思うことはあるよ」


 レインたちも黙って聞いている。


「でもさ」


「タクミさんは、それ以上に何か危機感があるように見えたんだけど」


「何かあったの?」


 タクミは一瞬、黙ったあと、こう切り出す。


「いや、昔さ」


 少し間を置いて、タクミが続ける。


「GEワールドって、一時期かなり人が減ったこと、あっただろ」


「あったね」


 頷く。


「そうなの?初めて聞いた」


「あぁ、おそらくアンナが始める前の話」


 アンナは「へぇ」と興味深そうに耳を傾ける。


「アップデート延期して半年もミッション追加されなかったり」


「久しぶりに追加されたと思ったら、

 使い回しのマップに、使い回しの敵ばかり」


「サービス終了するんじゃないかって言われてさ」


「公式放送も毎回荒れてた」


「俺、その頃もずっとやってたんだよ」


 タクミは少しだけ遠くを見るような表情になる。


「俺のフレンドも、あの頃ほとんど辞めちゃって」


「ギルドも半数以上がオフライン」


「ログインしても誰もいない日が増えてさ」


 レインが静かに聞いていた。


「それ、もしかして四年前のこと?」


「ちょうど俺が辞めた頃だ」


「そうなの?」


「うん」


「ギルドの人も、フレンドも誰も来なくなって」


「俺もそのまま休止しちゃった」


 タクミは小さく頷く。


「そういう時期だった」


「だからかな」


「その頃から開発放送とかインタビューとか、

 よく見るようになってさ」


「よくわかんないのに、株価やら決算やら見たりして」


「運営も大変なんだなって思うようになった」


「それで?」


 アンナが聞く。


「気付いたら」


「開発コストがどうとか」


「工数がどうとか」


「そんなことばっか考えるようになってた」


 少しだけ苦笑する。


「昔は俺だって、新武器欲しいとか」


「こんなマップ行きたいとか」


「そんな話してたんだけどな」


 少しだけ沈黙が流れる。


 エミリアが穏やかに笑った。


「でも」


「私たちはプレイヤーですから」


「面白そうって話をするくらい、いいと思うんです」


「実装できるかどうかは、運営さんが考えることですし」


「私たちは」


「こんなのあったら楽しそうって、話してるだけですから」


「そうだね」


 レインも笑う。


「久しぶりに戻ってきて」


「またそういう話ができるの、結構楽しいよ」


 確かにと頷いた。


「欲しいものは欲しいって言えばいいと思うよ」


「無理なら無理で運営が決めることだし」


「俺たちはプレイヤーなんだから」


「面白そうとか」


「こういう武器好きとか」


「そういう話をするくらい自由でいい」


 タクミは少し照れくさそうに頭をかいた。


「そうだよな」


「なんか俺」


「いつの間にか運営の心配ばっかりしてた」


「俺、運営じゃないのにな」


 その一言に、その場のみんなが笑った。


「じゃあ」


 アンナが嬉しそうに言う。


「私はシスター服の新型が欲しい」


「私は天使みたいなドローン」


 エミリアが続ける。


「俺は二連ガトリングが撃ちたい!」


 レインも負けじと言う。


「それ絶対かっこいいけど、レインさん装備できなくない?」


 それはそうと苦笑する。


「俺はチェーンソー付きショットガンだな!」


 タクミが言った。


 一瞬だけ静かになる。


「子供じゃん」


 アンナが吹き出す。


「いや、でもロマンあるだろ」


「ある!」


 レインが笑う。


「絶対使いたい」


「それは俺も欲しい」


 思わず笑った。


「せっかくだし」


「みんなでミッションでも行く?」


「いいんですか?」


 エミリアが聞く。


「もちろん、タクミさんも一緒にどう?」


「じゃあお願いします」


「よろしく」


「よろしくお願いします」


 五人はパーティを組み、転送ゲートの前へ並ぶ。


 ロビーには今日も多くのプレイヤーがいた。


 攻略を見ながら遊ぶ人。


 自分で試しながら遊ぶ人。


 復帰してきた人。


 ロールプレイを楽しむ人。


 そして。


 ゲームが好きだからこそ、少しだけ運営のことまで考えすぎてしまう人。


 遊び方は人それぞれ。


 でも。


 みんな同じ、一人のプレイヤーだった。


 五人は笑いながら、ミッションへ転送されていった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


今回は「運営目線で話すプレイヤー」のお話でした。


実際のオンラインゲームでも、「開発コスト」「工数」「サーバー負荷」といった話題になることがあります。


もちろん、それ自体が悪いことではありません。


ただ、レインやエミリアのように「こんなのあったら面白そうだね」と雑談する時間も、ゲームの楽しみ方の一つなんじゃないかなと思っています。


今回からレイン、エミリア、そしてタクミも少しずつ登場人物として動き始めました。


またどこかで登場するかもしれませんので、その時はよろしくお願いします!

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