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第十三話「社会人、会社で同じゲームをやっている人を見つける」

第十三話です。


今回は珍しく、ゲームの外のお話から始まります。


社会人になると、同じ趣味を持っている人が近くにいても、意外と話しかけられなかったりしますよね。


そんな、オンラインゲームと現実の距離感を書いてみました。


それでは、お楽しみください。

 朝九時半。


 都内のIT企業。


 会議室では、今日もプロジェクトの朝会が始まろうとしていた。


 ホワイトボードには、大きく案件名が書かれている。


 金融機関システムクラウド移行プロジェクト。


 認証基盤。


 API。


 バッチ。


 テスト環境。


 私、三上梓はホワイトボードの前に立ち、プロジェクトメンバーへ視線を向けた。


「それじゃ進捗確認します」


 順番に名前を呼んでいく。


「佐藤くん」


「API側は予定通り?」


「はい、実装は終わって本日レビューです」


「鈴木くん」


「テスト環境は?」


「今日中に構築終わりそうです」


「了解」


 いつも通りの朝会。


 大きな問題もなく、進捗会議は進んでいく。


 その途中だった。


「昨日GEワールドでさ」


 後ろの方から小さな声が聞こえた。


「マジ?」


「イベント武器のパーツ、なかなか出なくて」


 一瞬だけ意識がそちらへ向く。


 GEワールド。


 毎日ログインしているゲームの名前だった。


 だが、表情は変えない。


 代わりに一言。


「青木くん、櫻井くん……」


「は、はい!!!」


「私語はあとでお願いしますね」


「あ、すみません」


 二人は慌てて前を向いた。


 朝会は、そのまま何事もなく終了した。


---


 自席へ戻る。


 レビュー依頼。


 設計書確認。


 Teamsのチャット対応にメール返信。


 プロジェクトリーダーとして、やることはいくらでもある。


 統合開発環境のビルドを走らせていると――


「この間実装されたショットガンさ、強すぎね?」


「いや、あのライフルだってどう見ても強すぎるだろ」


「新レイドも、あれ新武器前提じゃね?」


 奥の席、また青木くんの辺りからGEワールドの話が聞こえてくる。


(やってる人いたんだ)


 少しだけ気になる。


 同じゲームを遊んでいる人が、同じ職場にいる。


(ねぇ、二人もGEワールドやってるの? どこサーバー? キャラは中層?)


 そんなふうに、ちょっと話してみたい気もする。


 いやいや。


 開発チームのリーダーで、歳も十近く離れている上司からそれは無理でしょ。


 年齢や立場を気にせず話しかけられる。


 それはゲームの中だけの特権では?


 まして、仕事中に急にゲームの話へ入るなんて違う気がした。


「鈴木くん、テスト環境のブランチをTeamsで送っておいて」


「はい、すぐに」


 そんなことを悶々と考えながら、時間は過ぎていった。


挿絵(By みてみん)


 そのまま一日が終わる。


---


 帰宅。


 シャワーを浴び、コーヒーを淹れる。


 PCを起動し、GEワールドへログインした。


 いつもの中層ロビー。


 ネオンに照らされた巨大都市には、多くのプレイヤーが行き交っている。


「こんばんは」


 軽くチャットを打つ。


「あ、グレイさん、こんばんは。今日はこれから?」


 レオンが振り返った。


「うん。今夜も一時間くらいかな」


「レオンはまだやっていく?」


「そろそろ落ちようと思ってたとこ」


「そっか」


「明日も朝早いし」


「おつかれ」


「おつかれさま」


 レオンは軽く手を振ると、そのままログアウトしていった。


 入れ替わるように、青いフード姿が近づいてくる。


「こんばんは」


「あ、グレイさん、こんばんは」


 アンナだった。


「レオンは今落ちたとこ」


「そうなんだ」


「アンナはまだやってくんでしょ?」


「うん。新武器の部品ほしいし、あともう一回くらい」


「じゃあ、一緒にいこうか」


 ミッションカウンターへ向かい始める。


 その途中。


「そういえば今日さ」


「会社でGEワールドやってる人見つけて」


「えっ」


「話しかけた?」


「いや」


「なんで?」


 日中のできごとを思い出して、少しだけ笑う。


「上司から急にゲームの話されたら」


「ちょっと気まずくならない?」


「もう新武器手に入れたの? 強かった? とか」


「私は別に平気かも」


 アンナはあっさり言う。


「そうかな」


「そうだよ。グレイさんは考えすぎじゃない?」


 そこで少し考えてから聞き返した。


「じゃあ、アンナはさ……」


「なに?」


「初めてレオンと学校で会った時」


「え?」


「レオンがこのゲームをやってるって知って、すぐGEワールドの話したの?」


 一瞬だけ。


 アンナが黙る。


「……」


 少しだけ考えてから、小さく笑った。


「あ、うん。確かに……」


「すぐには話しかけられないよね」


挿絵(By みてみん)


「でしょ?」


「うん」


 二人は少しだけ笑った。


「やっぱりゲームと現実って、ちょっと違うよね」


「現実だと立場があるし、ゲームの中みたいには話しかけられない」


「それは分かる」


 ロビーを歩きながら周囲を見る。


 性能重視のプレイヤー。


 ロールプレイ勢。


 ロビーで雑談している人。


 みんな、このゲームが好きな人が遊んでいて、肩書を気にせず話しかけられる。


「でもさ」


 アンナが言う。


「同じゲームやってるなら、それだけで会社でも仲良くなれそうなのに」


「GEワールドって、サーバー分かれてるし」


「あー」


 GEワールドは複数あるサーバーのうち、どこで遊ぶか決めなくてはいけない。


 自由にサーバー移動もできないから、同じゲームをやっていても、出会って一緒に遊べるとは限らない。


「同じゲームやってても、一度も会わない人なんて結構いるよ」


「まぁ、そうだよね」


「そういうこと」


 転送ゲートが見えてくる。


 入る前に、少しだけロビーを見回した。


 昼間。


 同じ会社で働いていた人も。


 もしかしたら、今この中で遊んでいるのかもしれない。


 同じゲームを遊んでいても。


 サーバーが違えば、一生会わないこともある。


 けれど。


 同じサーバーじゃないとは言い切れない。


「じゃ、行こっか」


「うん」


 二人はいつものように、ミッションへ転送されていった。


第十三話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回は「会社で同じゲームをやっている人を見つけたら話しかけるのか?」というお話でした。


ゲームの中なら気軽に話せても、現実では立場や年齢、仕事の関係などを考えてしまう。


逆に、ゲームの中だからこそ肩書を気にせず遊べるという面もあるのかもしれません。


GEワールドはサーバー制という設定なので、同じゲームを遊んでいても一度も会わない人もたくさんいます。


それでも、もしかしたら昼間すれ違った人が夜には同じ世界で遊んでいるかもしれない。


そんなオンラインゲームらしい距離感を書いてみました。


次回もよろしくお願いします。

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