第十二話「社会人、復帰勢と出会う」
オンラインゲームは、ゲームである前に居場所だった。
そんな人も、案外多いのかもしれません。
今回は長い間ログインしていなかった「復帰勢」のお話です。
その日も仕事を終え、シャワーを浴びたあとGEワールドへログインした。
いつもの中層ロビー。
ネオンが照らす巨大都市空間には、多くのプレイヤーが行き交っている。
マーケット前では雑談。
壁際ではエモート。
いつも通りの夜だった。
「こんばんは」
「あ、グレイさん」
少し歩いた先にアンナがいた。
今夜もこんな時間までログインしているギルドメンバーはアンナくらい。
最近の若者は健康的だ。
少なくとも、この時間まで起きている自分よりは。
「なんか行く?」
「行く」
そう返したところで、横から声がした。
「あの、すみません」
振り返る。
古い装備を着たプレイヤーだった。
サービス開始当時によく見かけた中層装備。
いわゆる、当時の流行り装備というやつだ。
当然、今ではほとんど見ることがない。
「ここに武器改造屋ありませんでした?」
「武器改造?」
アンナが首をかしげる。
「そんなお店あった?武器MODなら後ろの店で売ってると思うけど」
「いえ、アンダーバレルを追加したいんですけど」
「アンダーバレルの追加?なんのこと?」
少し考えて思い出した。
「ああ……昔あったね」
「そうなの?」
「うん、改造できる武器があって、
銃口の下にランチャーやらショットガンやら
追加できたんだけど」
「へぇ」
「でも、その武器システム自体が、
もう四年くらい前に無くなったよ?」
「えっ?」
「ここにあった改造屋も、そのときマーケットへ統合された」
「そうなんだ」
「もしかして、復帰勢?」
「はい」
そのプレイヤーは、小さく笑った。
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「ここの自販機も、もうないんですね」
復帰勢らしきプレイヤーはレインといった。
「毎日ここで回復買ってたんだけど」
「あったね」
だいぶ前に無くなって、言われて思い出した。
「知らなかった」
アンナが言う。
「サービス開始からやってるんじゃないの?」
「私は三年くらい前からかな」
『へぇ』
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街を歩きながら話を聞く。
「久しぶりにログインしたんですか?」
「四年か、五年ぶりかな」
「相当前だね」
「友達に誘われて始めたんだけど」
「周りもだんだんログインしなくなってきて」
「僕もそのときやめちゃったんだけど、
なんとなく戻ってきた」
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「でも……」
メニューを開いている素振り。
フレンドリストを開いているようだった。
「やっぱりもう誰もログインしてない」
「ほとんどの最終ログイン日が四年前」
当時のフレンドは大勢いたのだろうか。
「四年前」
「三年前」
最終ログイン。
そんな文字が並んでいるのかもしれない。
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「所属していたギルドも、もうなくなってた」
「そうなんだ」
「憧れてた大型ギルドも解散してるし」
「なんていうギルド?」
「確か白玉なんとかっていう」
「グレイさん、知ってる?」
「どうだったかな、それもだいぶ前の話だろうし」
「装備も全部型落ちだ」
レインは少しだけ苦笑いを浮かべた。
「なんか、自分だけ世界から取り残されたみたいで……」
アンナが聞いた。
「ねぇ、またこのゲームやるの?」
「どうだろ」
「もう、知ってる人も誰もいないし」
その声は静かだった。
「まあ」
どう声をかけたらいいか、なかなか思いつかなかった。
「ゲーム自体が好きなら、また遊べると思うよ」
「そうかな」
「人によるけどね」
無理に勧めるつもりはない。
でもMMOは居場所が重要なのも確かにある。
復帰勢は、昔話の浦島太郎のような心境なのだろうか。
そのまま玉手箱を開けてしまいかねない。
「やっぱり今さら無理かな」
小さく呟く。
ログアウトしようとする。
その時だった。
「あれ?」
後ろから声がした。
「もしかして……レインさん?」
振り返る。
そこにはエミリアという名の女性キャラがいた。
レインは戸惑う。
「ごめん」
「名前は……」
「覚えてなくて」
相手は笑った。
「大丈夫です」
「私、同じギルドにいたんですけど、ほとんどお話してませんし」
「でも覚えてますよ」
「確か毎日マーケットの前にいましたよね」
「いつも改造武器を使ってた人」
レインは少しだけ笑った。
「そんなところまで覚えてるんだ」
「毎日見てましたから」
「今、小さいギルドやってるんです」
「レインさん、いまフリーでしたら、
よかったら、うちのギルドに来ません?」
「え?」
「別に何かやってるギルドでもなくて、
気楽に集まっているだけなんですけど」
少しだけ沈黙が流れる。
知らない街。
知らないシステム。
知らない人たち。
でも。
一人だけ。
自分を覚えている人がいた。
「……じゃあ」
「もう少しだけ遊んでみようかな」
その一言で、相手が嬉しそうに笑う。
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少し離れた場所から、その様子を見ていたアンナが言った。
「一人いるだけで、そんなに違うんだね」
「オンラインゲームだからね」
そう短く答えた。
ロビーには今日も多くのプレイヤーがいる。
始めたばかりの人。
長く遊んでいる人。
途中で離れた人。
そして、また戻ってきた人。
昔と同じ景色はもうない。
でも、新しい景色なら、これからまた作れるのかもしれなかった。
第十二話でした。
昔遊んでいたMMOへ久しぶりにログインすると、フレンドリストは真っ黒、ギルドは解散、装備は型落ち、街まで変わっていて、自分だけが取り残されたような気分になる。
実際にそんな経験をした人も多いのではないでしょうか。
今回は「もう戻れない場所」と「それでも新しく始められるかもしれない場所」をテーマにしてみました。
そして、ほとんど話したこともないギルドメンバーが自分を覚えていてくれる。
オンラインゲームって、そういうちょっとした出来事が意外と嬉しかったりしますよね。
次回もまた、社会人ゲーマーたちの日常を書いていこうと思います。




