#9-5 嫌な予感
「へぇ、来知って関西出身なんだ」
「はい。幼い頃は関西にいました。でも親の転勤で東京の方にきて、今じゃこっちにいる方が長いので」
数週間後──SCR本部研究開発室2
19時。特に任務も出動もなく、何もない1日だった。というか最近ザセルだけじゃなく他の特異生物も出てこない。オルガーもだ。
暇だなぁ。そんな時思いついたのが来知のところだった。18時も超えたしもう業務時間外だ。ちょっと遊びに行っても迷惑にはならないだろうとやってきたら、予想通り研究室の隣にある休憩スペースでコーヒーを飲んでいた。
「ふーん。確かに関西弁とか聞いたことないな」
「ないですね〜。最近実家に帰っていないし、もうあんまり地元のこと思い出せないですよ」
「帰ってあげれば?SCRとはいえ自由に外出認められてるわけだし。色々出さないといけない書類もあるけど」
「うーん今実家帰ったらびっくりさせちゃいますね、この赤髪!」
「えっそれ見せたことないの!?」
そうなんですよ、と来知がクスクスと笑う。
「SCRに行くことが決まって、どんな得体の知らない場所かわからないし、自分ビビリなんで。景気付けに思い立ってこんな派手髪にしたんですよ〜!」
「行動力の高すぎるだろ!流石だなぁ」
「えへへ、結構もう色落ちしてプリンなってますけど、結構お気に入りだったんで今度また染めてきます」
「いいね、染めたら見せてよ」
「もちろんです!はは、親に見せるのはいつになるかな」
そりゃ年末には帰ってあげなよ〜と笑うとめんどくせ〜と返ってくる。関西ってなると近くないし、色々面倒なんだろうけど帰ってあげたらいいのに。ま、もう10年帰ってない俺が言えた話じゃないけど。
「そういえば、優也くん。大丈夫ですか?」
「優也?」
「あの、先月あったディスティニーランドの……嫌でも耳に入りますから。その、……優也くんが、コトラ事件の引き金って話」
「……あぁ」
別にいつもの調子だ。でもそれがおかしい。あんなことになって正気でいられるはずがないのに大丈夫なふりなんかして。俺たちが見ている優也の表面だけは凪いでいるけれど、きっと奥底じゃどす黒い何かが渦を巻いている。
いつか、取り返しのつかないことになってしまいそうで。
静かに息をのんだ。大丈夫。そんなことにはならない。させない。
「元気だよ。ちょっと危ないけどさ」
「危ない?」
「腹の中で何考えてるかわかんないって話。無理してんのは何となくわかるんだけど、止めようってもねぇ」
「そうですよね。何も経験してない、知らない自分じゃ止める資格がないっていうか……なんというか」
「父親のことも過去の事件のこともそうだけど、最近さらに暗い顔するようになったんだよなぁ。何考えてんだか」
長年の付き合いで培った感覚が静かな警鐘を鳴らしている。優也は何か隠している。後ろめたいことか何か、いつもなら相談してくれるのにないってことは俺にも言えない何かだ。
でも優也ももう子供じゃない。どうしたの?なんていちいち聞かれたくもないだろう。
「変に思い詰めていないといいですけど…」
「優也はもちろん、海美ちゃんも元気なフリするのは得意だからなぁ」
あー……今どきの若い子って感じですよねぇ、と来知が苦笑いする。来知も29だし言うてアラサーだからな。いやいやまだ若い若い。俺も来知も。
ザザッ
『龍斗さん!聞こえる!?』
すると突然耳につけたインカムから海美ちゃんの声が聞こえてくる。来知に目で合図すると来知は小さくうなづいて目線を逸らしてくれた。あれ、ご飯は20時の約束だったような気がするけど。壁にかけられた時計をみるとまだ19:15前。まだ早いよな?
「うん。聞こえるよ」
『あの!研究……開発室の実験室!?何ここどこ!?』
少し声が遠ざかる。あらら、また迷子になっちゃったかな。まぁ広いもんね。
『わかった大規模特別実験室ってとこ!今すぐ来て!!』
「え?大規模……って、何でそんなところいるの」
海美ちゃんが言う大規模特別実験室というのは本部の中でも1番端にある大型の実験施設だ。俺たちが住んでいる特異生物居住区と近い。昔は優也がそこで様々な実験をされていたから、あんまり良い思い出がない。
それにしても迷い込む場所にしちゃ変だ。別にあそこ入り組んでないし、住んでるとことも近い。
なんだかとても嫌な予感がする。
『とにかく早く!優也が死んじゃう!!』
「……は?」
優也が死ぬ?
「龍斗さん?」
「ごめん来知。また今度ゆっくり話そう」
「あ、はい!お気をつけて?」
「任務じゃない。けど緊急事態だ」
椅子を片して走りだす。この研究開発区域から大規模特別実験室はそう遠くない。
何してるんだ────優也!




