#8-9 混乱と恐怖の中で
「ちょっ、特異生物って何の話!?」
出口へとすごい勢いで流れる人の波に押されて前に進めない。逃げていく人達はみんな口々に「特異生物だ!」って叫んでいたけど、何、何の話?
特異生物が出たって、そんなことある!?ここはディスティニーランドだよ!?
「あぁ、もう!通して、通してってば!私はそっち行きたいの!」
もしかしたら優也と龍斗さんに何かあったのかな。インカムも何もないからわからない……あ、そうだ!
ポケットから携帯を取り出す。何とか人通りの少ない道に抜けて通話を繋ぐ。
『こちら狛坂!海美ちゃん平気!?』
「うん平気!何が起こってるの!?」
『ザセルと新たな特異生物一体が出現した。現在優也くんがザセルと、龍斗さんが新しい特異生物と交戦中。ただ、まだ一般人の避難が完了してないから変身はできない状況だ』
「変身できないって、2人は大丈夫なの!?」
『大丈夫。2人とも生身でも強いんだ。とにかく海美ちゃんは』
バシッ
「いっ!?」
携帯を持つ手に弾ける痛み。携帯は地面を滑っていく。な、何、……誰!?
携帯に夢中になって気づかなかった。目の前には大柄な男の人。白髪が混じった色素の薄い茶髪に細く鋭い瞳。顔には皺がいくつか入っていて60歳ぐらいの男の人。こんなに暑いのにちゃんとしたスーツを着て私を見下ろしている。身長が私よりもずっと高くて、もしかしたら龍斗さんよりも高そうだ。その威圧感で言葉がつまりそうになる。
「誰?何するんですか!」
「………」
男の人は無言で携帯の方に歩いて、ガシャンと携帯を踏みつぶす。
「えっ」
「………」
「……何、何なの…!?」
すると突然後ろからジュラルミンケースが滑って私にぶつかって止まる。ちらっと見ると遠くに監視の人。ありがとう!確かこの中にインカムが──
ゴッッッ!!
「っああ!?」
男の人に腹を殴られる。あまりに一瞬すぎて反応できなかった。ゲホッゲホッと大きく咳き込む。何今のスピード。人間じゃありえな......ちょっと待って、まさか、こいつ...…!?
なかなか起き上がることのできない私を放置して、男の人はジュラルミンケースを踏み潰した。シリンジもインカムも全部お釈迦だろう。
普通の人間にあんなことできるはずがない。てことは、この目の前にいるのは
「特異生物......!」
「お前に」
身構える私に対し、謎の男は右手で左腕に爪を立てる。何をするつもり...…?
「お前に戦う意志はあるか」
「意志?」
「逃げない、逃げ出さないその意志が」
「……ある。あるよ。だって私は」
もう何も知らないお嬢様なんかじゃない。強くて優しくて、かっこいい、
「私はシャークガールだから!!」
「なら、」
そういうと男の人は爪を立てた右手を左腕の肘にあてて、手へ向かう方向へゆっくりと皮膚を引き裂き、抉れた皮膚から血がぼたぼたと流れ出す。そのまま流れで左手首をぎゅっと掴み、
「変身」
男の人がそういうと、みるみる男の人の体の色がその血の色と同じ色になっていく。赤黒い体は大きく筋肉が発達していて、ゴリラみたいに全身が筋肉になっているみたいだ。頭からは下へ向かった後に上へ向かうように湾曲した2mはありそうな角が生えている。
やばい。そう本能が告げている。
喉がヒクヒクと痙攣する。頭から血がサーっと引いていく。
こんなの変身していてもしていなくても、
戦えば、死んじゃう。
「その意志、貫いてみろ」




