#8-7 応援の見込めない中で
「ねぇ、孤虎優也くん?」
「っ!!?」
撫でる手を払いのけ片手を支点に後ろ向きでバク転する。その一瞬後、俺のしゃがんでいた場所でバキッと塗装された地面が割れる音。こいつ!!
「ふふ、さすがは優也くん。反射神経抜群ですね」
ずいっと手を伸ばし、さらにこちらへ何かが伸びてくる。何だ、触手?
周りで驚き集まってくる人達。守る義理はないけど、もしここに海美が戻ってくるなら下手にグロい場所にはしたくない。
迫る触手に驚きすぎて動けない男を加減しながら蹴り飛ばし、しなる触手を避けつつ周りの客を脅すように地面に拳を叩きつけて広く轟音を響かせ恐怖を走らせる。流石の異常事態に野次馬は減り始めた。って、あそこ!
「た、たすけ、」
大きな音に腰を抜かした子供!
「あら?優しい優也くんはどうするの?」
「っくそ!!」
邪魔する触手のような何かを避け、子供の元へわざとらしく見せつけるようにうねうねとうねる触手を蹴り落とす。その一瞬の隙に腕を絡め取られるが、このぐらいの細さなら変身しなくたって!
「変身しなくとも熱は操れるのですね。流石は優也くん」
絡まる触手を焼き切り着地して女の子のところに近づく。
「大丈夫か!?」
「は、はい」
「早く離れて、逃げろ!」
「あ、あの、足が、びっくりして、動けなくて」
「〜っ!」
周りに介助できそうな人はいない。どうする!!
「……目を閉じろ。絶対に開けるな。いいな?」
「え……きゃあああああああ!?」
女の子を抱え上げ力の限り空へ投げ飛ばす。同時に謎の女の方へと出せる1番のスピードで近づき、絡まろうとしてくる触手は熱で焼き切って防御される前に蹴り飛ばす。意外に抵抗はなく、あっさりジェットコースターのエントランスの方へと飛んでいき、衝突してガラガラと大きな音が聞こえてきた。
──今はどうなったかじゃない。コッチ!!
近くの木に飛び移り落ちる女児をキャッチして静かに着地する。落下の衝撃は俺が吸収できた。女児に問題はない。……急上昇急降下だったけど、問題ないだろ。多分。
「目を開けろ。大丈夫だから」
「は、は、はっ......?」
「びっくりしたな。もう大丈夫。大丈夫だ」
「お、お兄ちゃん、だ、れ?」
「フレイムさん!」
すると監視員の方が近くにやってくる。手に持っていたジュラルミンケースを地面に置き、妊婦に肩をかしてくれる。
「中に一式が入ってます。白夜長官から司令が」
「わかりました。この人をお願いします」
「了解」
混乱している女児を抱えて監視員の人は出口であろう方向へ走っていく。これで一安心だ。
ジュラルミンケースを開くと中には変身のシリンジとインカムと拳銃。小型ナイフも入ってる。これで─
シュルルルッッ!
「っ!?」
勢いよく伸びた何かにジュラルミンケースをひったくられる。幸い手に取っていたシリンジとインカムは手元にあるけど、ナイフと拳銃を盗られたのは面倒だ。そのままいくつもの触手に絡められていき、その力でジュラルミンケースは歪んでバキバキと壊されてしまった。中のものも同じ運命を辿っただろう。
耳にインカムをつける。
「司令部。聞こえますか、フレイムです」
『こちら司令部。確認した。スパークは未だ不明だが、ドローンによる空偵の結果ストームは謎の人物と緊張状態にある。来場者の数が多く未だほとんどが避難できていない。変身はするな。時間を稼げ』
「了解」
「ふふ、何か楽しいお話でしょうか」
「触手だと思っていたが、触られた感触でわかったよ。その植物の茎」
「ええ。お久しぶりですね。あの雨の日以来でしょうか」
瓦礫の中から姿を現したのは謎の女性じゃない。声も女性のものではなく、色々な年代の人間の声がまじり、さらにはノイズも混じった聞くだけで気分が悪くなる声。
長い髪の毛のように頭から生える茎、目線を悟らせない黒い目元の布、右側頭部には大きな紫色の花。
間違いない。
「緑と黒のワンピースを見た時にピンとくるべきだったかな」
「ふふ、あれ私のお気に入りなんです。」
くるりと回転し、葉が重なったようなスカートをひらりと見せつけ口元に笑みを浮かべる。
ザセルだ。
「まさか人間に化けれる特異生物だなんて驚きだよ」
「うふふふ何を言うのですか」
ザセルはこちらに手を伸ばす。
「お互い様、でしょう?」




