#8-5 眩い光と水の中で
海美に引っ張られ次にやってきたのはいつのまにか龍斗さんが予約していた鑑賞スペース。周りには一般の人たちも多く、目の前にはこの遊園地の目玉とも言える地中海を模した海が視界いっぱいに広がっている。てか、え?海の上の船でショーをやるのか?すごいな
「間に合ったー!さ、優也これ持って」
「なにこれ」
「水鉄砲。知らない?」
「知ってるわ。なにすんの?」
「……ま、ショー見てればわかるよ」
どこから取り出したのか自分の水鉄砲をそれっぽく構え、意味ありげにニヤッと笑う海美。何だそれ。周りを見渡すと観客はほとんど自分の水鉄砲持ってきてるみたいだけど、使うのか?
困惑する俺を置いて、園内放送用のスピーカーから楽しげな音楽と共に女性のよく通る声が響く。
『みなさんようこそ!ディスティニーランド、サマーフェスティバルへ!盛り上がる準備はできてますかー!?』
「「「\\それはディスティニーッッ!!//」」」
……掛け声ださくね?
『びしょびしょに濡れる覚悟はできてるかー!?』
「「「\\それはディスティニーッッ!!//」」」
「え?」
『さぁ行きますよー!サマーフェスティバル、一緒に踊っちゃお〜〜!!』
明るい司会の声と爆音で流れるずいぶん楽しげな音楽と共に海上に浮かぶ船から一気に放水が始まり、辺り一体に水と同時に噴き出たミストが降りかかる。あ〜こう言う感じか。夏っぽい。それに、
「涼しくてありがたいな」
「ほら、優也も踊る踊る!!」
「うわ、え、ちょ!?」
「はっぴ〜じゃーにー!はぴじゃに〜!!」
大きな越え出歌う海美に手を取られ掛け声と共に腕を上げ、胸元まで下げて、また上げて。クルッとその場でターンしてピースサイン。
ちょ、待って!?は、恥ずかしい!!
「う、海美、俺はこういうのちょっと」
「ほらほら止まらない!何も気にせず思いっきりやっちゃえ!!」
「うぁっわ、海美!?」
鑑賞スペースを予約しているだけあって俺たちの周りはスペースがあり、俺の手をとってクルクルと舞踏会のように回る。急に正面で止まったかと思えば上、下、キラキラしてまた上!なんだよこのダンス意味がわかんねぇよ!?
……でも
「あはははっ!優也変な顔!」
「なにがdむぎゅ」
「ほら笑顔笑顔!周りなんて気にしない!だってみんな楽しんじゃってるんだし、私達も楽しんじゃお!」
「俺は楽し」
「ダ〜ンス!!!」
「聞けよ!」
俺の言葉を無視してダンスは続く。前にいる人だかりも同じように踊って中には腰まで振って大袈裟に踊る男もいてクスッと笑いが溢れた。
あぁ、うん。あれ見たら恥ずかしくないかも。隣の海美もめっちゃ楽しそうに踊るし。まぁ、海美に乗ったってこにすれば俺も気恥ずかしさ振り切って思いっきりやれそう……かな。
隣の人とハイタッチ!イェーイ!という司会の声に海美と目を合わせてハイタッチ!
「はははっ!」
「楽しいでしょ!あ、そろそろ水鉄砲構えて!」
「え?こう?」
「ガチじゃん………違う違う。空に向けて!」
周りの人達も足踏みをしてリズムをとりながら持っている人は水鉄砲を空へ構えている。
『ディスティニーランドに遊びに来てくれたみんな、空へ一気に飛び出そう!』
「「「\\ディスティニーッッ!!//」」」
「優也、せーのでうって!」
「あぁ」
『3〜2〜1!放て!!』
「せーの!」
「「「『スプラッシュサマー!!!!』」」」
そう言って船からも含め一斉に水が発射される。ここまで軽い引き金は初めてだ。シャーっと音を立てて役目を果たした結果、放たれた形のない弾丸は落ちて、当然自分の頭にかかるわけで。
「冷た!?」
「さっきそこで入れてもらったばっかだからね。ほらまたダンス!」
海美が笑う。丁寧に揃えられた前髪は水で乱されて、綺麗に結ばれていた三つ編みは激しいダンスと水で少し崩れている。海美の動きに合わせて崩れて飛び出た髪の毛の一本一本が跳ね、その上を水滴が踊っている。
俺の細くなった瞳孔は、全てがスローモーションになったように逃すことなく捉える。
まるで映画のワンシーン。照明代わりの太陽を水がきらりと跳ね返し、舞台の上で際限なくどこまでもキラキラと眩しく輝く女優のようだ。その動き、表情、輝く瞳、それらの一瞬が何度も切りとられ目の奥に焼き付いていく。
忘れられないぐらい、記憶にも焼き付いて。
『ゲストのみ〜んな!もっともっとも〜〜〜っと楽しんじゃお〜!!』
「うおーー!あはははっ!優也も一緒に楽しんじゃお!!」
「……うん!」
差し出された手を取った。子供みたいにはしゃいで踊って。
楽しいって、きっとこういうこと。
過去をなかったことにはできないけど、こんな俺でもまだ人間に戻れるのかもしれない。こんな風に踊って笑っているだけで、嬉しい楽しいそんな気持ちで心がいっぱいになったような、そんなバカなことを考えて。
「見てますか、教授」
そう嬉しそうに呟く龍斗さんがシャッターを切る音も、夢中になる俺の耳には届いていなかった。




