#7.5-4 うみの星
トスっと優しくソファに降ろされる。せーの、という龍斗さんの小声と共に目隠しが外され視界が真っ暗闇から一気に明るくなる。パチパチと瞬きをすると徐々にちゃんと見えてきて──
パンッパンッ!
「海美ちゃん!」「海美」
「「誕生日おめでとう!!」」
「っふふふ、ありがとおおおお!!」
やっと開けた視界で2人がクラッカーを鳴らす。優也の部屋はいつもと雰囲気が違って、壁には可愛い風船が貼り付けてあったり電飾がカラフルに彩られていたりして、天井にはガーランドが吊り下げられている。視線を下に少しずらせばテーブルに乗ったご馳走達。わぁ!と声を出す前にお腹がきゅうと鳴った。
「さ、さっそく食べよう。冷めちゃう前にね」
優也がサラダを取り分けて、龍斗さんがバラのように飾られたローストビーフを皿に持って渡してくれる。ソファに並んで座って、グラスをカンっと当てて乾杯!中にはマスカットのスパークリングで白ワインみたいな見た目に大人になった気分に浸っちゃう。
まずローストビーフを一枚ソースにつけてパクっと口に含む。美味しい……!食べている間に優也がパエリアをフライパンからよそって置いてくれたみたいで、色々と手をつけていく。サラダもアヒージョもスープもすごく美味しい!
「どれもすごい美味しい。作ってくれたの?」
「ローストビーフは俺が、その他は優也が作ったよ」
「優也すごい、やっぱ料理上手だね!」
「ありがと。口にあって何よりだ」
「このローストビーフの盛り付け可愛くて好きだしソースも美味しい!火加減も最高!」
「ふふ、気に入ってもらって嬉しいよ」
パクパクと次々に渡される美味しい料理を食べていく。このポテサラなんて病みつきすぎる!今度レシピ聞いてみようかな?作れるかわからないけど!
すると龍斗さんが立ち上がって部屋の扉まで歩いていく。どうしたんだろう。トイレかな?と思うとすぐに戻って来た。
「わぁっ!」
「海美ちゃん。はい、どうぞ」
薄ピンクの大きなラッピング袋!かわいい!
「開けてもいい?」
「もちろん」
リボンを解いて中を見る。あ!これって!
大きめな細長い箱を取り出す。表面に描かれた見覚えのあるロゴ。箱を開くと白と銀の本体が光を反射してキラッと光る。記憶の中のショーケースの向こう側にあったもの。
「欲しかったストレートアイロン!やったぁ!!」
「前に偵察出た時欲しがってたなって思ってね。良かったよ」
「ありがとう!」
龍斗さんがほっとしたように笑う。よく見てるなぁ私のこと。そんな欲しがってるとか、チラチラ見ていたのを見られてたのかな。ちょっと恥ずかしいかも。
「海美」
顔をあげる。そこには視線を逸らしながらプレゼントを手に持つ照れくさそうな横顔。ふふ、と思わず笑ってしまった。何か、こっちまで照れくさくなるからやめてよね。
「ふふ、なーに優也」
「何が欲しいとか、俺にはわからないから期待すんなよ」
「ふふ、欲しいものもらうから嬉しいんじゃなくて、優也からもらうから嬉しいんだよ?」
「う……本当に…?」
「ねぇ聞いてよ海美ちゃん。優也は前からずっと悩んでてね、隙を見て狛坂と一緒に調べてはこれも違うあれも違う。今日外でもあれかなこれかなって悩んでたんだから」
「ちょ!?龍斗さん!言わないでくださいよ!」
突然の暴露に慌てて抗議する優也を龍斗さんは笑う。そっか。そんなに悩んでくれたんだ。こういうの優也は適当にやりそうなイメージしてだったからなんだかすごく嬉しい。
「はい。じゃ、これ。おめでとう」
「ありがとう!」
黄色のラッピング袋に赤と青のリボンが巻かれたプレゼントを受け取る。なんだろう。1番ドキドキするかも。
ゆっくりとリボンを解いて袋を開け、中にあるものを取り出す。淡い黄色と白の縞模様の大きめなフワッフワの塊。これって......
「パジャマ?」
「ルームウェア兼パジャマ。フリーサイズだけどサイズ調整も簡単にできるらしい。着心地が良くて眠りやすいらしくて、その……こっち来てよく眠れてんのか……心配で」
「眠れてるか……?」
「色々、環境も変わったし戦闘訓練なんて辛いことも多いだろうし、ストレスで眠れてないかも……って」
「ねぇ海美ちゃん。もう一個、袋の中見て」
じんわりと暖かくなる胸のあたり。龍斗さんの指先に誘導されて袋の中を確認する。中には一つ、小さな小袋が入っている。透明なラッピング袋、その中には。
「綺麗……」
紺色をベースの大理石にキラキラと淡い黄色の星が散りばめられたようなデザインのヘアクリップが丁寧に包装されて入っていた。大理石の模様が夜の海の水面のようで、そこに浮かぶ小さな黄色の宝石は海に浮かぶ星のようだ。
その輝きに見惚れる。なんてことないはずのその小さなダイヤ一つ一つの輝きはまさに一等星と言えるくらいに輝いていて。私だけの一等星だ。
「海美はいつもその黄色の魚のヘアピンしてるから、その、実用的かなって。綺麗だし。……別に要らなきゃ捨てればいいし」
「こら、そういうこと言わないの」
コツンと龍斗さんに小突かれる優也はいつもの頼りになる様子じゃなくて、おそるおそるこちらの様子を見ながら怯えながら話している。きっと初めてなんだろうな。じっくりじっくり考えてくれたからこそ怖いんだろうな。
こんなにたくさんの人がいっぱい私のことを見てくれて、考えてくれて。どれだけ私は幸せ者なんだろう。
胸が暖かい気持ちでいっぱいになる。ぎゅうっともらった一番星を抱きしめる。
「優也、龍斗さん」
「ん?」「な、なんだよ」
「2人ともありがとう!!!大好き!!!」
「「うわっ!?」」
2人に勢いよく飛びついた。ソファの上だけじゃバランスが取れなくて、ずるずると床に落っこちる。急に抱きつく私を受け止めながらも優也は何してんだと呆れて、龍斗さんはふふふと微笑ましそうに笑った。
「こちらこそありがとうだよ、海美ちゃん」
「へ?」
「海美ちゃんが来てくれてからSCRの雰囲気がよくなったような気がするんだ。気が緩んだとかじゃなくて、俺らへのあたりが弱くなったり、各部署の衝突がなくなったりとかね。それに優也もこんなに笑うようになってさ」
龍斗さんが真っ直ぐ私を見据えて微笑む。そうかな。私、みんなを繋げられたのかな。優也は苦笑いを溢す。
「笑うというより困ることの方が多いような気もしますけど……でも確かに、雰囲気は明るくなりましたよね。ほんと」
「生まれて来てくれて、ここに来てくれてありがとう。海美ちゃん」
「うん。嬉しい。ありがとう!」
こんな誕生日が来るなんて思いもしなかった。痛い思いも辛いこともたくさんあるし、これからもきっとある。それでもこんな幸せな時間があるのなら、未来を信じてみたい。
「ふふふ、喜んでくれて俺も嬉しい。でもね、まだデザートもあるんだ。食べない?」
「デザート!?」
「外で買って来たフルーツケーキだよ。……こんだけ作って食わせといてあれだけど、腹空いてるか?」
「ふふん、女子は甘いものは別腹なんだからね」
なんだそれ、と優也が笑う。いいでしょ女子高校生舐めんな!と胸を張ればはいはい、と頭をポンと撫でられた。
顔を見れば眉尻が下がってスッと細められた優しい瞳、口角が緩く上がった私の大好きな優也の優しい笑顔。
ねぇ神様、願わくば
この時間が、この幸せな日々が、少しでもゆっくり進みますように。




