#7-2 いつもの朝と走る電流
朝は弱い。というか夜が強すぎる。
7月某日──SCR本部特殊戦闘部隊、隊員個室
ふあぁぁあと大きなあくびをする。暗い部屋の中、テレビが世界の絶景を静かに映し出していた。
あ、足音。そろそろ来るか。名残惜しくベッドに別れを告げてフラフラと玄関の方へ歩き扉を開ける。俺がわざわざ開けなくともコード知ってるから入れるんだろうけど、ちゃんとお迎えはしたい。
「……はよっす」
「はいおはよう。今日も眠そうだね」
扉を押し開けた先には石鹸の香りに髪までセットし終わってる龍斗さん。片手には作って来てくれた朝ごはんが入ったビニール袋。いつも思うけど、この人、朝強すぎるんだよな……
「ほら、海美ちゃん来る前に髪の毛だけでも何とかしなよ」
「……っす」
「まーた夜更かししてたでしょ。ドラマは1日2話まで!」
「っす」
いやわかってるんだけど、夜ベットに入っても頭の中で色々考えちゃってなかなか寝付けなくて、気分転換にドラマでも流してれば寝れるかもと思って見始めたらドンドン見ちゃうんだよな。昨日みたドラマは人気なだけあるなと納得するような出来だったし。つい見ちゃう。
のろのろ部屋に戻る俺の背中を軽く押してくる龍斗さん。そのまま俺は洗面所に向かう。うわ、ひどい寝癖。顔を洗い適当に寝癖を直して着替える。歯磨きをしている間に目が冴えて来た。口を濯いでリビングに戻ると龍斗さんが机の上にサンドウィッチを並べていた。今日はコンソメでいいか。
IHコンロに鍋を置いて、水と適当に具材をいれて火にかける。そうだ、卵余ってたし卵とじにしよう。割って溶いた卵を入れていく。途中龍斗さんが覗いてきたのを追い払った。なんでよ、と抗議したそうな顔。絶妙に邪魔。
「優也何食べる?BLTとか、卵とか、あとスモークサーモンとかもらったんだよね」
「え、いいな。スモークサーモン食いたいです」
「オッケー。じゃ早いもん勝ちってことで」
「フルーツないんですか?」
「あるよ。りんごも」
「じゃそれで」
龍斗さんお手製の甘く煮たりんごのフルーツサンドウィッチ、めちゃくちゃ美味いんだよな。りんごの程よい甘味と酸味、それを包むふわふわのホイップ。想像するだけで楽しみだ。
トットットッ
「あ、龍斗さん扉開けてください。来てます」
「あいよ」
扉の近くを急いで走ってくる足音。今日も寝坊か。この生活が始まってから始めは頑張ってきてたけど、俺と同じで朝は弱いらしい。部屋の扉を開けると同時にきゃあ!という声が聞こえてきた。そろそろ慣れてくれ。
「ごめん!またギリギリで……」
「いいのいいの。ちょうどよかったし。さ、入って」
「俺の部屋ですけどね」
いつもの朝。いつもの会話。
この生活が始まったのは朝ごはんを俺と龍斗さんと3人で食べたいと駄々をこねる海美のため。朝の食堂は時間がずらせないうえに人も多いから行きたくない。
「優也っふふ、寝癖ついてる。珍しい」
「え、どこ」
「ここだよ、ここ」
頭の後ろを触られる。そこまで見えてなかった。
「直したげるからそこ座って」
「いいよ、後で。今はご飯食べたい」
「え〜……まぁ確かに?あったかいのがいいよねぇ」
海美が俺の隣に座る。海美を挟んで向こう側に龍斗さんが座る。龍斗さん、海美、俺のいつもの順番。
──まただ。
「え!すごい、色んな種類ある!私これ食べたい!」
「それ俺の」
「えぇ!?なんで!?」
「早いもん勝ち」
にや〜と勝ち気に笑うとなんでよ〜!!とゆさゆさ体を揺すられる。やめろやめろ。助けがもらえないかとちらっと龍斗さんの方を見る。あ、また、まただ。
また龍斗さん、怖い顔してる。
何だか最近、龍斗さんが俺と海美のことを見る時複雑な顔をしてることが最近多い。微笑んでいるかと思ったら真剣に何かを考え込んだり、俺を寂しそうに見たり。どうした?と聞くとなんでもないよ、なんていつものように笑われ、あしらわれてしまう。
よくわからないけど嫌な予感がするんだ。海美が入ってどんどん成長していくに連れてこの調子だし、前に「これ以上あんたに背負わせない」的なことも言っちゃったし。それに龍斗さん自身も年齢がきてる。
まさか、とは思うけど。
嫌な予感は加速して、頭に電流が走った。
龍斗さん、もしかして海美と代わって身を退こうとしてないか?




