#7-1 いつもの朝と晴天の霹靂
朝は結構強いかな。ゆっくり準備したいし
7月某日──SCR本部特殊戦闘部隊、隊員個室
シャコシャコと歯磨きを動かす。シャワー浴びた後、軽くタオルで拭いただけの髪から首を伝ってぬるい水滴が胸まで垂れてくすぐったい。
洗面台にかけてあるタオルで拭き取って髪も適当に拭いた。同時に優也と海美ちゃんに朝ごはん今日は何がいいかな、と頭を動かし始める。
口を濯いだ後、顔を簡単な保湿だけして髪をドライヤーで丁寧に乾かし、少量のワックスをつけた手で適当に前髪を7:3のところでゆるめに少しかきあげればいつもの髪型の完成。ぐいっと体を伸ばせば首あたりがポキっとなった。
すこし曇ったままの鏡を擦って手で適当に拭き取とって、鏡で前の任務の時に怪我した胸あたりを見るとまだ赤くなったままだった。炎症が残ってて地味に痛い。そろそろ完治してもいいころなのになぁ〜暇な時に柏木先生にちょっと聞いてこよう。
黒のTシャツを上から着て青い認識タグがついたズボンを履き、簡易キッチンに立つ。今日は……冷蔵庫の中にフルーツ、それといくつかの野菜。スモークサーモンもある。サンドイッチでいいかな。スープは優也が適当に作るだろうし、こっちも適当に作ろう。
冷蔵庫から材料を取り出してトントンとリズムよく野菜とフルーツ、作り置きのゆで卵を切っていく。これは食堂のシェフと知り合って余ってるからってもらった余り物。というか、俺たちが簡易キッチンで調理してる食材はもっぱら食堂の余り物だ。10年それでやってきたから、余り物レシピとかにめちゃくちゃ強くなった。不本意といえば不本意かもね。
「あ」
そういや、来知にも持っていこうかな。
以前のスカンク杉の時、命令違反にオペレーターの業務妨害、その上研究中のシリンジを使わせるとかいうフルコンボを決めた来知。当然の如く追放かと思ったけど、あれが無かったら俺たちが全滅してたっていう功績と、一応研究中のものでも後遺症とか有害事象はなかったし研究は大成功してたわけで。足し算引き算でSCR内にある個室に謹慎ってことになった。裏で的戸が色々やってくれたらしいけど。
来知はもちろん、回復直後の俺も長官から超がつくほどのお叱りをいただいて任務の時以外は基本謹慎だ。研究室に行こうものなら多分消される。冗談きかないからなあの堅物長官。
「よし、できた」
まな板の上に乗るサンドウィッチ達。種類に分けてラップに包む。さてさて行こうかな。
適当な袋を提げて自室から出て5mほど右に歩いたところに同じ扉。扉のロックは電子錠で、暗証番号を入力するテンキーが扉の横にある。暗所番号を入れれば入れるんだけど、まぁ押さなくとも
ガチャ
「……はよっす」
「はいおはよう。今日も眠そうだね」
扉は自動で開く。
扉に半分体を預け今にも瞼が落ちそうな寝ぼけ眼の優也。癖で頭をワシワシと撫でても不機嫌に跳ね返されず素直に受け入れられる貴重な時間だ。髪の毛があらぬ方向に跳ね面白いことになってて服もまだ部屋着のスウェット。いつも通り、さっき起きたな?
「ほら、海美ちゃん来る前に髪の毛だけでも何とかしなよ」
「……っす」
「まーた夜更かししてたでしょ。ドラマは1日2話まで!」
「っす」
のろのろ歩く優也を押して部屋に入る。床は3人座るスペースあるな、よし。
優也が洗面所で顔を洗う間ローテーブルに作って来たサンドウィッチを乗せ、近くのクッションを持って来て適当に床に座る。ソファもあるけど2人がけだから3人とも床で食べる暗黙の了解だ。
ソファの対面にある大きめのテレビはサブスクライブのアプリが入ってるやつで、昨日?今日?の夜はずっと今人気のドラマを見れるだけ見ていたみたい。娯楽が碌にないからドラマっ子に育ったもんだ。
俺と同じ黒のTシャツとズボンに着替え、赤い認識タグを揺らして洗面所から出てくる優也。目は覚めたみたいだ。髪の毛はまだちょっと跳ねてるけど。
優也がちらっと机の上のサンドウィッチを見ると、カチッと音がして小さな小鍋がIHコンロの上に置かれる。水が適当に入れられて、ぐつぐつとして来たらキャベツ、ベーコンが適当に切られてポイポイと入り、コンソメが入って最後に溶き卵で閉じられる。いい匂い。あーお腹すいた。
立ち上がって優也の後ろからスープを覗き込む。すると鬱陶しそうに払われた。なんでよ。見てただけでしょ。仕方なく棚から小皿を取り出し机へと運ぶ。
「優也何食べる?BLTとか、卵とか、あとスモークサーモンとかもらったんだよね」
「え、いいな。スモークサーモン食いたいです」
「オッケー。じゃ早いもん勝ちってことで」
「フルーツないんですか?」
「あるよ。りんごも」
「じゃそれで」
はーい、と小皿に取り分けて、スープを作る優也の隣で冷蔵庫から牛乳を取り出してまた机の上に置き、コップを3つ用意する。優也がスープを取り分けて持って来てくれた。完成だ。
「あ、龍斗さん扉開けてください。来てます」
「あいよ」
優也の呼びかけに入り口へと向かいがちゃっと扉を開ける。するとバタバタと走って来た海美ちゃんがきゃあっ!?とびっくりして後ろにぴょんと跳んだ。あぁごめんごめん。慣れないよね、優也の耳の良さは。
「おはよ、海美ちゃん」
「あ、えあ、おはよう龍斗さん!」
さらさらでストレートのボブヘア、黒Tシャツとショートパンツ。いつもの海美ちゃんだ。この生活が始まる前までは結構余裕持って来てたのが、つい最近はギリギリを攻めるようになって来てる。しょうがないよね、女の子は色々時間かかるし。
「ごめん!またギリギリで……」
「いいのいいの。ちょうどよかったし。さ、入って」
「俺の部屋ですけどね」
いつもの朝。いつもの会話。
こんないつもがあるのは、優也が朝の人が多い食堂に行けないけど、3人でご飯が食べたいとご要望の海美のため。
そう海美ちゃんのため。海美ちゃんの……
「優也っふふ、寝癖ついてる。珍しい」
「え、どこ」
「ここだよ、ここ」
うん。あのさ、
「直したげるからそこ座って」
「いいよ、後で。今はご飯食べたい」
「え〜……まぁ確かに?あったかいのがいいよねぇ」
君ら、距離近ない?
え?俺だけ?これ思ってんの俺だけ?いや絶対これ見た人みんな近いって思ってるからね?海美ちゃんのパーソナルスペース狭すぎるのか優也が女子との距離感わかってないのか何なのかよく分からないけど、結構くっついてること多くない?多すぎじゃない?何?俺が研究でいなかった間の訓練で何か俺の知らない絆も成長してんの?嘘でしょ?
というか優也も優也で、何で人見知り発揮してないわけ?数ヶ月前に入って来た狛華ちゃん始め、慣れるまでに半年以上はかけるお前がなんで出会って3ヶ月の海美ちゃんとそんな仲良いんだ??
ま、まぁ。それは一回置いとくとして。
優也を見る海美ちゃんがニコニコととても嬉しそう。うん。嬉しそう、嬉し……
その瞬間、ピシャァァアアッと頭の中で雷が落ちる。
これはすなわち、青天の霹靂。
海美ちゃん、もしかして優也のこと好き?




