#20-33 今度は間に合った
「なんだてめぇ!?どっから出てきた!!」
強盗はためらわず、突然現れたその男に向けて続けて発砲した。万事休すと思われたその場面、しかし瞬間に細くなった猫のような瞳孔がその銃弾の軌道を見極め、全て素手でつかみとっていく。ぎゅっと拳を握りこめばジュウと焼けるような音がして、開かれた拳からカランカランと焼潰れた銃弾が落ちていった。
「なっ……!?」
通常ありえないその光景に動揺した隙をついて、男は近くの棚をひっつかみ強盗へ向けて倒した。ぎゃあ、と叫びながらなんとか棚をその体で受け止める強盗の体を軽く蹴ると、強盗はコンビニの外へふっとばされて床に転がる。強盗が落とした拳銃を警備員のいる方向へ床を滑るように蹴り飛ばして、ゲホゲホとむせる男の前に立った。
「ううぅあああああああああああっ!!金!金をよこせ!!」
強盗は無茶苦茶な動きで立ち上がり、ふらつきながら男に拳を向ける。けれど簡単にかわされてしまい、その場にドテンと転がってしまった。再び立ち上がろうとしたところで男が強盗の首筋へ素早い手刀で落とし、男はいよいよ沈黙した。
突如現れた入院着の男。それがすさまじいスピードで強盗を制圧した。
その光景に周囲にいた人間たちを目を丸くし、その場から動かない。
その注目を一身に浴びる男は気まずそうに頭をかき、一番近くにいた警備員に声をかけた。
「あの、この人頼んでもいいですか。多分もう動かないんで」
「え、あ、はぁ……って、貴方は大丈夫ですか!?」
「あぁ、俺は大丈夫です」
「いやいやいや、入院患者さんですよね、どうしよう主治医に報告しないと……てか、点滴とか全部引っこ抜いてるじゃないですか!血出てますって!」
「あぁ……でも主治医が今こっちとんできてると思うんで大丈夫です。血は焼いときます」
「はい……!?」
混乱したままの警備員に後を頼み、男はコンビニの中へと戻る。そこには息子を抱きしめている母親の姿があった。
「ごめんね、怖かったね」
「おかあさん、ヒーローきた!」
「え……っ!あ、ありがとうございます!ありがとうございます!!………………あれ、」
子供を抱きしめながら何度も頭を下げる母親は、ふいに男の顔をじっと見つめた。
「貴方は……」
「ヒーロー!ありがとぉ!」
ぴたりと動きを止め、目を見開き驚く母親の横を息子が駆け抜けて、男の足元に抱きつく。一瞬驚きながら、ふふっと軽く笑って視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
子供の真っ赤になった顔と虚ろな目にすこし眉を寄せて、頭を少し撫でた。
「別にヒーローじゃねぇよ。怖かったな、風邪ひいてんのによく頑張った。もう大丈夫だからな」
「怖くないもん!ぜぇんぜん!」
「はははっ、強いやつだ。お母さんのこと大事にしろよ」
「うん!父さんいないから、俺が守るんだよ!」
「……そうか。なら、強くならないとな」
「うん!お兄ちゃんみたいなヒーローになる!」
「だからヒーローじゃないっての。……怪我ありませんか」
すっと立ち上がって、母親の女性に声をかける。女性はフラフラと覚束ない足取りの息子を抱き上げると、男性に向かってまた頭を下げた。
顔を上げると、何かを悟った笑みを浮かべている。
「また助けていただいて、ありがとうございました。ご恩は一生、忘れませんから」
「忘れてください、こんな嫌なこと」
「ふふっ……いえ、忘れませんよ」
「おかあさん……ゲホゲホッ」
「あぁ、ごめんなさい。それでは私はここで」
そのまま足早に親子は去っていった。近くに医療従事者がきていて、親子は連れられて行く。耳を澄ませば複数の足音がこちらに向かってくるのが分かった。もう警察に通報もされているだろう。
あとはそれぞれの専門家に任せれば大丈夫。ふぅ、と一息ついて、体を横に向ける。その正面には、二人が────龍斗と海美がいた。
男性を見つめる2人分の視線。その主たちは時間が止まってしまったように、ピクリとも動かなった。信じられない。口は動かずとも目がそれを告げている。
そんな2人を見て、男性はくしゃっと笑った。
「何変な顔してんですか。幽霊でも見たような顔」




