#20-34 change my future
「何変な顔してんですか。幽霊でも見たような顔」
「夢じゃ……ないよな」
「何寝ぼけたこと言ってるんですか」
「本当に、……本当に……?」
「俺が偽物にでも見えるか?」
ふるふる、と海美は首を横にゆっくりと振る。
揺れて、涙が溢れた。
「あと一つ言いたいことがあるんですけど」
ぱたぱたと足音が集まってくる。それは白夜、狛坂、狛華が駆け付けた音だった。少し遅れて、電話を手に走ってきた柏木も到着する。
誰もが目覚めを待ち望んだ存在がそこにいる。あまりの驚きに言葉は出ないのか、口を抑えるだけになる者もいれば、ただあふれる涙をぬぐいもしない者、普段は見せない穏やかな笑みを浮かべる者がいる。
入り口から吹き込んだ暖かな風が、彼の髪を揺らした。
「チェンジ マイ フィーチャーとか言ってふざけてましたけど、フューチャーじゃなくて、フィーチャーです。変えるのは未来じゃなくて、姿でしょう」
「……ふっ…………あはははっ!あぁ、そうだな」
「あはははっ!!あぁ、うん。そうだ。そうだよね」
「……でも、まぁ」
風に揺れた髪をつまんで耳にかけ、彼の顔が光に照らされる。
そして男性は────孤虎優也は、優しく笑った。
「未来も変えてやりましたけどね」
「ゆうやああああああああああああっ!!」
瞬間弾かれたようにその場を飛び出して、海美が優也に抱き着く。おい、危ないだろ。そう呆れたような声を上げながら避けることもせずそのまま抱きしめた。わぁあああああっと泣く彼女の頭を愛おしそうになでて、頬に一筋の涙が伝う。
「バカ!!バカバカバカ!!なんでっ、ひっく、起きるのおそいんだよぉおおおおお!!」
「ははっ、ごめ……ごめんって」
「もう起きないと思っちゃったじゃんバカ!もう二度と、二度と話せないと思って、もうずっと眠ったままなんだって思って!すごく怖かったんだからね!?」
「ごめん、遅くなって。ごめん。ごめん……っ!」
優也と海美は抱きしめ合いながらその場にずるずるとしゃがみこむ。優也の背中に回した手を軽く握り、ぽかぽかと背中をたたいた。その振動で、オッドアイとなった優也の瞳から涙がこぼれていく。
「バカ、バカバカ!もう放してやんないもん、もう一人にさせないもん!!絶対!!」
「あぁ、ずっと一緒だ。ずっと一緒だから。これから先は」
「なんなの一人で戦わないでよ、私たちといてよ!!」
「うん…………ごめん、でもどうしても、ひっく、二人を」
「これからはずっと、ひっく、ぐすっ…………ずっと一緒だからね!!約束だから!!バカ優也!!」
「あぁ、一緒だ」
「ばか、ばかばかばか……わぁあああああああああああああああっ!!!」
「ずっと……ずっと……っ!!」
とめどなく優也の目から涙があふれていく。お互いの声はどんどん涙にぬれ、かすれて、上擦って。傍目から聞けば聞くに堪えないような声だった。けれど、二人を止める人間はその場にいない。
海美が抱きしめる腕の力はどんどん強くなっていく。優也が海美の後頭部に置く手に力が入って、良く整えられた髪の毛がぐしゃりと崩れる。決して離れないように、もう決して離されないように。
そんな様子の二人を────止められる者はいなかった。
そんな二人へ、一歩近づく影。
「優也」
「……龍斗、さん」
二人のすぐそばに立って、龍斗は二人を見下ろした。優也は顔を上げ、視線がぴたりと合う。
「もう、本当に大丈夫なんだな」
「えぇ。もう大丈夫です」
「よく眠れたか?」
「えぇ、10年分は」
「もういいのか?まだ寝てたっていいんだ。心配しなくとも、俺たちはそばでずっと待ってるぞ?」
「嫌ですよ。やっと起きれたし、ようやく二人に……ひっく、また、会えたし」
「へぇ、俺たちのこと大好きじゃん?」
「えぇ、俺はあんたたちのこと大好きなんです」
「っ!…………」
龍斗は驚いてつい言葉を詰まらせた。それに優也は苦笑して、ただ静かに見つめる。
────わかっている。この人が饒舌になるのは、何か大きな感情を隠すときだって。
少しずつ、少しずつ龍斗の余裕のある微笑みが崩れて、水の膜を張った瞳が大きく揺らいだ。それを見た優也は海美を抱きしめたままクイッと手招きをする。
「何離れたところにいるんですか」
「っ……」
「来いよ────相棒」
「っつ、馬鹿!!」
たまらず二人をまとめて抱きしめるように龍斗が抱き着いた。
「馬鹿野郎!!馬鹿、馬鹿…………何一人で抱え込んでんだよ!」
「ごめんなさい、ごめっ…………!」
「………………違う。ごめん、謝るな。ごめんな。俺が悪いんだ。何も気がつけなくて、何もできなくて、お前が一人抱えこむしかなくなって」
「…………」
「ごめん…………ごめん…………!!」
いつかの後悔を何度も吐き出す。優也は何も言わない。否定も、肯定も口にしない。
龍斗の止まらない謝罪をただ受け止めて、龍斗のうなじのあたりを手でポンと軽くたたいた。それに龍斗の中の何かが弾けて、龍の咆哮のような叫び声が響く。
「あぁあぁああああぁぁあああああっ!!」
「…………俺は、ここにいますから。ここが、あなたの居場所ですよ」
「龍斗さん…………っ!」
「それに、忘れてないですよね?」
腕を放して、優也は小指を前に差し出す。
それを見た龍斗と海美は一瞬お互いの顔を見合わせたあと、正面に向き直って笑って、その小指に自分の小指を絡めた。
「俺たちは」
「ずっと、ずーーっと!」
「3人で、1つでしょ?」
誰も置いていかない。
誰も一人にしない。
誰一人も、決して分かたれぬように。
絡まった小指は固く絡まり合って、上下に揺れた。
誰も離さないまま、三人は笑い合う。涙は止まらない。周囲の目なんて気にせず、ずっと待ち望んでいた再会の感動に心臓を早く打っていた。
針千本のむどころか、億千本飲まされるところだった。じゃあ次は無限本ね。そんなに飲めるかよ。飲まないようにするんでしょ。そうですね。────なんてふざけて。
それを見守るように、コンビニの外から三人を見つめている人間たちがいた。
「あぁ優也くん……!よかった、よかったぁ!!」
「本当に……グスッ、本当に目が覚めたんですね……!」
「……あぁ」
「どうして突然目覚めたんだい。何かしたのか?」
「いや、我々は何もしていない。……強いて言えば、聞こえたんじゃないか」
「聞こえた?」
「コンビニ強盗に襲われた時の、あの“二人”の悲鳴が。あいつは地獄耳だからな」
「……二人ねぇ。二体じゃなくて?」
「……」
「ははは。そんな怖い顔しなさんな。そうかいそうかい。二人の声が届いたか」
「全く……そうでもしないと起きないとは、本当に仕方のないやつだ」
「二人を守るために、深い眠りから目を覚ましたってのか。はははっ、……優也らしいな」
そんな話をしているところへ警察が到着する。地面に伸びている強盗犯を車の中へ詰め込み、野次馬のように集まっていた周囲の人々を規制した。
規制線が引かれたその向こうで、一人の居合わせた記者がコンビニを見つめていた。首から下げているカメラの電源は入っていない。
その記者に気づいた龍斗が、二人にばれないよう静かに二人の顔を隠し、記者を視線だけで刺した。けれど、一向に記者がカメラやスマホを向けないことに首をかしげる。
「……?」
「よかったです。目が覚めたみたいですね。なら、“僕が広める真実はない”」
「……」
「じゃあ、僕はこれで」
そのまま周囲の野次馬の中に消えていく記者に戸惑う。なんだったんだ、あの記者。視線が追いそうになったところで、優也に名前を呼ばれ、すぐに意識がそちらに向く。
赤い瞳が二人を映す。二人の熱が優也に伝わる。
まるで夢のようだ。だけどここは現実で、世界は大して形を変えていない。
けれど確かに変わったのだ。ただ戦い、そして死を待つだけのはずだった三人の歩む未来は、確かに。
しばらくして、三人は立ち上がる。そこでやっと、自分たちの置かれている状況に気が付いて、少し照れたように顔が赤くなったり、それをクスクス笑ったり、全く気にしていなかったり。
「さぁ、行こっか!みんなも待ってるよ!」
「そうだね。行けるか?相棒」
「当然。二人もいいですね?」
「あぁ!」「もちろん!」
三人で支え合いながら前を向く。そこはただのコンビニだ。外に大衆が歓声を上げて待つわけでもないのに、誇らしく胸を張って、そして澄み渡った春の空のような清々しい表情だった。
そして、未知なる世界へ。まだ見ぬ夢の中へ。
切り開いた未来の先へ。
揃えて一歩、強く踏み出した。
Specific mutant Cells organism Ragers - SCR -
FIN.
約4か月半ほど、お付き合いいただきありがとうございました!
書いてて楽しかった~!
近いうちに後日談を書こうと思っているので、気になる方はぜひ!
改めて、ここまでお読みいただきありがとうございました!!
またいつか、この場所でお会いしましょう。
none(作者)
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ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
初めはこれほど多くの方に読んでいただけるとは想像もしておらず、驚きとともに読者の皆様への感謝の気持ちでいっぱいです。
現在、後日談となる短編を執筆しており、もう少しだけ物語が続きます。
もう少々お付き合いいただけますと幸いです。
加えて、使わなかったシーン集や設定集、「noneのここを見て!」といった解説企画も(noneの余力がありましたら)お届けしたいと考えておりますので、楽しんでいただければ幸いです。
なお、SNSでも設定の裏話などを随時発信しておりますので、よろしければ併せてご覧ください。
改めまして、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
noname(noneの友人)




