#20-30 お見舞いと不和
「龍斗さん、狛坂さん、お待たせ〜!」
花瓶を手にもち、結奈さんと一緒に病室に戻る。すると眉を下げて少し困ったような、暗い顔をしている狛坂さんと、ありがとう〜と手をヒラヒラ振る龍斗さんが待っていた。
ん?なんか空気重くない?なんか話してたのかな。
花瓶をテーブルに置いて龍斗さんの隣に椅子を持ってきて座る。
「何の話してたの?」
「優也が寝坊助って話。もう1年経つのになぁ」
「あぁ、そういうこと」
「でも優也さん、まだ心臓は動いていますから。付随して他の臓器も」
「脳の機能は完全に停止しているのに。奇跡というかなんというか」
「信じるしかないね。そう、チェンジマイフューチャー!ってさ」
龍斗さんが大げさに変身ポーズをとりながらふざけた調子で笑う。それにつられて狛坂さんと結奈さんがけらけらと笑った。懐かしいな。もうミューシスもないし戦うような事態もなかったから、久しぶりにみた。
そうだよそうだよ。最悪の未来なんて、チェンジチェンジ!何度でも変えちゃうもんね!
ガラガラっ
「何をしている」
「!?」「!!」「あ、白夜長官」「長官!」
いきなり部屋に入ってきたのは意外な人物。われらがSCR長官、白夜狼牙長官だ!
反射的に席を立って敬礼する。すると長官はいい、と手を下げて下すように命じた。
あれ?白夜長官が持ってるのは、
「果物……?」
「え、マジ?」
「なんだ。私が部下の見舞いをして何が悪い」
「まだ何も言ってねぇんだけど……」
「それに花束も!ありがとうございます長官!」
「スパーク、お前はこの春から大学に通うんだろう。こんなところで時間を無駄にしている場合か?」
ぎく、と肩を跳ねさせた。確かに、大学は結構レベルの高いところを選んでいる。
いやぁその。そりゃ学力が追い付くかわかりませんけど、受験勉強でみっちり勉強したし、ちゃんと受験に受かってるし!?大丈夫大丈夫!
目を逸らしおどおどしだす私の考えを見透かしたのか、長官はそうではない、と言いながら続ける。
「春休みぐらい友人と遊んだらどうだ。こんな湿けたところで油をうっていないで」
「え?学力とかの問題じゃ」
「そんなものどうとでもなる。若い時間はあっという間だ。いつまでもここで時間を無駄にしていると後で後悔するぞ」
「……おーい、俺のこと見えてます?」
「推薦した研究所の誘いをすべて断っている奴に話すことはない」
「はは、いつも通りの辛口で安心したよ」
ははは、と龍斗さんは乾いた苦笑いをこぼす。龍斗さんに対する長官のどことなく厳しい態度はこれか、と苦笑いした。
確かに若い時間はあっという間だ。あの最終任務が昨日のことのように感じるのに、実際はもう1年経っているんだもん。怖くなっちゃうよ。
でも、
「無駄じゃないです。私、優也の傍にいるって決めたので」
「……」
「ずっと。これが10年続いてもずっと待ってますから。優也は必ず目を覚ますって信じてる」
「……」
「……流石はシャークガール、だね」
さて、と言いながら龍斗さんが立ち上がる。長官が机に置いたフルーツバスケットの中を覗き込んで物色し、梨を取り出した。
「みんなで食べようか。俺切ってくるよ」
「え、じゃあ桃もたべたい!」
「いいね。リンゴは優也の分を残しておくとして、アンタも食べんの?」
「私はすぐにここを出る。4人で食え」
「あいあい、りょーかい」
ゴロゴロ……
「っちょ!?!?」
「ふふ、おなかすいちゃいましたね」
時間は昼過ぎ。空腹に耐えかねたおなかが音を鳴らす。もう、ちょっと!空気読んでよ恥ずかしいじゃんか!!
顔を赤くしていると龍斗さんがごはんにしようかと笑った。まぁ、簡易キッチンはあるけど食材はない。1階にコンビニがあったし、そこで買ってこようと話がまとまって、私と龍斗さんがコンビニへ向かう。
特別棟から普通棟へ連絡通路を介して雑談をしながら移動していく。地上階で連絡通路がつながっていて、結構近いんだよね、ここ。
1階のエントランスホールは天井が高く広い。そこにたくさんの人が行き交っている。高齢者の方が多いけど、中には体調の悪そうな子供ちゃんもいる。顔が真っ赤になっていて、もしかしたら風邪とか引いているのかなぁ。
「……」
ぐったりした子供ちゃんをなでているお母さんらしき人はすごく不安そうな顔だ。そうだよね。不安だよね。
「海美ちゃん?」
「あ、ごめんごめん。今行くね」
止まってしまっていた足を前へ進める。通りすがりにどうか、あの子が元気になりますようにと願いながら。
コンビニは入り口近くにあった。コンビニにしてはかなり広く、普通のコンビニでは見られないような商品や表示がされている。すごいなぁ。
「何食べたい?」
「ううん……ハンバーグとか食べたい。一人暮らし始めてからあんまし肉食べてないから」
「そっか。じゃあ夜はどこか食べに行こうか?狛坂と狛華ちゃんも予定空いてたら声かけてさ」
「いいね!じゃあ夜に備えて昼は抑えめにしようかな……」
「ん~俺はいつも通りおにぎりで────」
ガシャンッ!!
「────え?」
龍斗さんの言葉が途切れる。突然鳴り響いた不和の音。
店の中にいるお客さんはみんな突然のことに驚きと困惑の表情を隠せないでいる。
振り向けば、コンビニのレジで店員を怒鳴りつける、真っ黒な服装の不審な男。
「俺はコンビニ強盗だぁあああああああ!!!金、金出せ金ぇっ!!」




