↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#20 change my future
PR
362/369

#20-27 生かされた者のできる贖罪

 

「……聞こえませんでしたか」


「ん?」


 岸谷は少し伏せていた顔を上げる。ちょうど、私に正面になるように。

 その顔を見て、目を見開いた。


「もし彼らが普通の生活に戻るなら、データの一切を破棄します。僕が真実を広めれば、きっと彼らの普通と呼ばれる日常はおびやかされてしまうから。けれど、もし戻れないなら」


 


 私の視線の先にあるのは真実を追う貪欲な瞳。

 その奥には澄んだ夜空のような純粋さと美しさがあった。




「僕は彼らのために、真実を広めます。正しく。彼らの身に何が起きたのか。彼らが何を思って生きていたのか。そのすべてを」


「何故」


「僕たちが彼らのことを忘れないため」


「……」


「僕たち人類のために、命を尽くした人たちがいた。僕たちはその事実を……痛みを、想いを、願いを、そのすべての真実を知って生きないといけない。それが、」


 岸谷はふっと顔をほころばせる。



「生かされた者のできる、唯一の贖罪でしょう」



 隣でぎゅっと布の擦れる音がした。視線だけ沿わせれば、狛坂がズボンを強く掴んで目を伏せている。

 閉じた目に映っている姿は、おそらく私と同じだろう。


 生かされた者のできる贖罪。それは、生かしてくれたその者の人生を知ることと言いたいのか。

 奴らの、奴の、痛みを、想いを、そのすべてを。


 再び見上げれば、岸谷は凪いだ表情で私を見つめていた。いきりたって怒鳴り散らかすことも、泣いて媚びるような真似もしない。ただ静かに答えを待っていた。


 全てを話すつもりは毛頭ない。隠してきたのはこの世界の平穏のため。それは、奴らの願う未来でもあるのだ。それをわざわざ壊すことはしない。


 けれど、この記者なら、きっと。


 気まずそうにトントンとマイクをつつき、司会者が顔色をうかがう声色で声をかけた。


「あのーーーーー……お時間が……」


「……すまない。では、回答する」


「はい」


「お前の言うことはすべてがでたらめだ。証拠もないのによくそこまで言えたものだ。その度胸だけは評価してやる」


「……」


「私たちはお前の言うSCRではない。それに、当該隊員も特異生物ではないし、多くはその後平穏に暮らしている」


「……」


「だが」


「!」



「隊員が一名、重篤な負傷をしてあの日から昏睡状態だ。その回復を私たちは待ち望んでいる」



「っ!!」


「ちょ、ちょうか、」


 司会が慌てている。それだけではとどまらず、記者席にいた者たちもざわめきメモを取り始めている。あぁ、よかったな。今日一日ずっと白紙だったメモに特ダネが載って。


 隣で狛坂が何かをこらえるような表情を見せた。きっと、奴の酷い姿を思いだしたのだろう。

 椅子の足を蹴って、喝を入れる。


 泣くな。今、私たちがここで折れるな。

 己にも喝を入れるように、奥歯を嚙み締めた。


「それは……」


「すでに危険な状態は脱しているが、意識が回復しない。いつ回復するかは不明」


「特異生物だから、ですか」


「…………しかし、私たちは────」




 真実を求めるその目に、私からの応えだ。




「────私は、必ず目を覚ますと信じている」



「っ!!」


「“お前の広める真実はない”。理解したならば、ここを出ていけ」


「!……はい。わかりました」


 警備員に連れられてその場を後にする。納得した表情。あの記者ならば大丈夫だろう。きっと。

 少しだけ、信じてもいいのかもしれない。アイツのような記者がいるメディアならば。


 気が乗った。


「それと!」


「!」


「次の記者会見ではコトラ事件について報告がある。今度は正規の手段をもってここに来い」


「えっ……!?」


「……ふふっ」


 目を白黒と点滅させ、魚のように口をパクパクと開閉させるバカどもの反対で、狛坂が耐えられなくなったように小さく笑った。異論があるのかと目で聞けば、軽く横に首を振る。


「それとSCRとかいう組織の略称。もう一度言ってみろ」


「え、あえっと、Special mutant Cells organic Rangersです」


「センスがない」


「えぇっ!?」


 眼玉が飛び出しそうなぐらい見開いて、その場で飛び上がった。……こいつ、こんなにバカっぽかったか?さっきまでの貪欲な追及者はどこへ行ったのか。そう呆れていると狛坂が隣で吹き出していた。うるさいぞ。


 「Special」 mutant Cells organic Rangers、か。まぁ確かに「特別」ではあるが、特異生物の成り立ちから考えれば違うことは分かっただろうに。センスが足りていない。惜しかったな。




 特異生物とは、特定変異細胞生物の略称だ。「特別」ではなく、「特定」の意味を持つ。




「特異生物に特異生物をもって対抗する組織。もしそんなものがあれば、その名は」


 息を深く吸い込む。岸谷の顔が期待で満ちて輝いたように見えた



「“Specific” mutant Cells organic Rangers。通称SCR……だろうな」



 皮肉気に笑えば、岸谷は屈託のない笑顔でそうですか、と残して、その場を去った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。