#20-26 その“人”たちは
「待て!!」
岸谷は黙らない。以前の任務の時といい、最終任務直前の時といい、本当にしつこいやつだ。
どよどよと周囲はざわめく。このバカが何を聞くのか、気になるんだろう。
まぁ、まだ岸谷の方がましか。口を持たない傀儡よりは。
「待て、待ってください。最後の、本当に最後の質問です」
「なんだ」
声につられて仕方なく顔を上げると、そこには岸谷が記者席の真ん中で立っている。
ぞわっと、鳥肌がたった。
その目は先ほどのまでの非力な記者のモノとは比にならない。
貪欲で、鋭い濁った眼。それで心臓を貫かれたような感覚。何かが違う。
柄にもなく息をのんだ。隣の狛坂も、メモを取っていたペンを止めて前を見ている。
岸谷は私をじっくりと見つめながら、口を開いた。
「貴方、SCRのトップですね」
「なんの話だ」
「貴方はSCRの長官だ。証拠はないけど、その目がそう言ってる」
「バカバカしい。おい、係員。この異常者を退室させろ。そも、こいつはここにいていい人間なのか、許可証の確認もしろ」
「「はい」」
入り口近くにいた警備員が記者席に入り込み、岸谷の脇をつかもうとする。抵抗もなく岸谷はそのまま記者席から引きずりだされた。そして会場の奥の扉へ──出口へと連れていかれる。
岸谷は私から視線を外すことなく叫んだ。
「お前たちはSCR。人類に仇成す特異生物に特異生物を持って対抗する、特殊な組織!!」
「妄想小説なら家で書いてくれ」
「その戦闘部隊の正体は、僕たちと変わらない普通の日常を送っている普通の人間だ。特異生物が人間になっているんじゃなくて、人間が特異生物に変身することで人類を危険にさらす特異生物と戦ってきた組織だ!!」
「特撮の見過ぎだな」
「最後に答えろっ!!その人達は、もう穏やかに、普通に暮らせるのか!?」
「っ!!」
息が一瞬止まる。隣の狛坂が静かに息をのんだ音がした。
こいつは、一体どこまで。
答えにつまった私に警備員が驚いたのか、岸谷をとらえていた力が一瞬だけ緩む。その隙をついて岸谷が前へ走り出した。記者席を超えて、私の正面へ、バンっと机に何枚もの写真と共に掌をたたきつけた。
「……答えてください。答えてくれれば、僕はこれ以上質問しません」
「……」
穏やかに、普通に暮らすことができるのか。
答えは簡単だ。一人は最終任務から昏睡状態なのだから。
それに残りの二人も同じだ。
どれほど見た目を人間に似せようと、ミューシスを命にかかわらない管理機器に変更しようとも、どれほど一般社会に混じることのできるように体制を整えたとしても。
大切な仲間が未だ目覚めない中で、普通に暮らすことなどできるものか。
沈黙を貫く私に、岸谷は続ける。
「彼らはもう、普通の人のように暮らせるんですか。それなら僕はこの写真も、持っている映像も、あなた達に関連するすべてのデータを消去する。それが僕の応え。僕の選んだ真実だ」
天井の光に逆光になったその影は、私を見下ろしてそう告げた。
しばらくにらみ合いが続く。沈黙の中で、誰も何も言えないまま、私とこいつに視線が集中するのを感じた。
隣で狛坂が私を横目に見つめている。何かに期待するような、そんな熱を感じた。
「どうなんですか」
「……お前のいう、SCRとはなんだ」
「特異生物に対し、特異生物で対抗する組織です。その略は、」
スゥっと息を深く吸った。
「Special mutant Cells organic Rangers」
「……」
「特別な細胞を持った生物の戦闘部隊。そうじゃありませんか?」
「それが真実だとして、お前に何の利益がある」
「なんの利益もありません。でも、事実を捻じ曲げ隠匿するのは許せないだけです」
「……」
「それに、ヒトを救う特異生物。その可能性を信じた人が過去にいました。僕の兄です。もう亡くなりましたが。その人の真実を知りたいんです」
「それを面白可笑しく広げて満足か?」
「……」
岸谷は少し、眉尻を下げる。
記者というのは、昔からどうにも好かなかった。
こちらがどれだけ誠実に対応しても、事実を丁寧に説明しても、それを誇張したり尾ひれをつけたりして平気な顔で世に流す。
軽く絶望した。深く思い知った。あの日、コトラ事件の時。
まだ状況証拠ばかりで、容疑者候補でしかなかった孤虎教授をバイオテロの主犯だと初め報道したのはどこだっただろうか。確かに状況証拠はそろっていた。しかしそれでも確定しなかったため、警察は実名での報道は避けるように協力を要請した。
しかしそれもむなしく、あたかも警察が孤虎利人を犯人として捜査していると、そう読み取れてしまう表現で報道がされた。そんな事実はないのに、叩く犯人がいれば気分が晴れるからか、国民はそれを鵜呑みにしてしまった。それはSCRの中の人間も同じ。
それに心を壊された一人息子のことなど知らずに。
恨めしく強く睨みつける。こいつがやろうとしていることは、我々を脚色し、国民の面白可笑しい玩具にしようとしているのかもしれない。
人類のため命をかけてくれた奴らを、そんな扱いに晒すわけにはいかない。
強く睨みつける。もうこれ以上奴らから何も奪わせはしない。
けれど、岸谷は動揺したような様子は見せなかった。
「……聞こえませんでしたか」




