#20-25 傀儡ばかりの記者会見
「では、質疑応答に入ります。質問のある方は挙手をお願いします」
数日後────都内某所、記者会見にて
広い会議室にたくさんの記者とカメラ。その視線は前方の机につく我々に注がれている。
特異生物の事件について、そして直近の特殊遺伝子細胞総合研究所における大木との戦闘についての報告だった。前に置かれた机には警察庁の長官や法務庁、防災庁の担当者などが並ぶ中、端に私と狛坂がすわっている。
私たちが話すこともない。バレないようにあくびを噛み殺した。
これはいわゆる態度の問題だ。この会見で国民に伝えるべき事実は『特異生物は殲滅した』ということのみ。そこに至るまでの情報は捻じ曲げられており、それはもちろん政府内で隠匿されている。
もちろん、SCRの存在も一切触れられない。『特異生物の対応に当たっては、特殊な訓練をうけ認可に得た戦闘部隊』という表現がされるだけだ。私と狛坂はその戦闘部隊の指揮を執っていた人間としてここに置かれているだけ。それ以外は何も話す必要はない。
それに用意された記者も随分飼いならしているものばかりだ。質疑応答と言うが、それも仕組まれたものばかり。ここでもし失言をしたとて、強大な力で黙らせる。LIVE配信でないのもそのためだろう。
粛々と質疑応答が続いていく。しばらくたって、質疑も終盤だ。これ以上はないだろう。
「では他に質疑のある方は挙手をお願いします」
「はい」
「ではそこの方、どうぞ」
決められた質問以外は来ない。茶番もいいところだ。国民を騙すには、充分だが。
またあくびをかみ殺す。隣では狛坂が死んだ目で正面を見つめていた。寝不足だろうか、うっすらと隈ができている。ここ最近、政府やメディアとのコネクトで忙しいようだったし。ちゃんと休暇を与えないといけないな。
「~~~~~を回答とさせていただきます」
「ありがとうございました」
「では、お時間となりましたので、ここで終了と────」
「ちょっと待ってください!!」
「!!」「!?」
緩み始めていた空気が一気に引き締まる。
記者席の奥で声が上がった。なんだ、こんな話は聞いていないぞ。
司会が落ち着いた声色で制する。けれどその異分子は口を閉じようとしない。
「私、記者の岸谷と申します!!あの、特異生物の焼却にあたった戦闘部隊につきまして質問させていただきたいのですが!」
「……!」
岸谷、か。
とんとん、と自分の腕を指でつついて思いだす。
聞いたことがあるな。いつの日かの特異生物の焼却任務の時に、特異生物と手を組んでいたとかいう頭が異常な記者だ。結局、特異生物と手を組んでいたわけではなく、ただ利用されているだけだったことが判明して解放したのがまずかったか。
あれが何の質問をするのか。まずい、ストッパーが効かないやつの質問に頭の固いこいつらが対応しきれるのか?
流石に無視するわけにもいかないのか、司会者は苦笑いで岸谷にマイクを渡すように促す。
マイクをもった岸谷はマイクがなくともうるさいくらいの声量で話し始めた。
「すみません、こんな間際に。戦闘部隊について質問です。戦闘部隊は特殊な訓練を積んだ戦闘部隊だと聞きましたが、それは人間の戦闘部隊ですか?」
「えぇ、もちろん。安全などの管理を徹底しながら、特異生物の対応に当たってもらいました」
「……それはおかしい。これを見てください!」
その記者は目にもとまらぬスピードで写真をばらまいていく。ほら見たことか。異分子は何をしでかすかわからない。実際、前に並んだ無能どもは小声で対応に困惑していた。この程度のハプニングで動じるとは、なんとも情けない。
はぁ、と小さくため息をつく。隣で狛坂が眉間に手を当てた。休暇を与えなければと思ったが、そんな暇はないかもしれない。
どよめく傀儡の中で、岸谷は声を張り上げる。
「これは僕が撮った写真の一部です。約1年半前、特異生物が臨海工業地帯で大爆発事故を起こした時のものです」
「……」
「大爆発後、黒く焼けた大地にたたずむ無傷の一人の男性。顔はぼかしましたが、この男性は件のSCRと呼ばれる組織の一員とされる男性です。それが、特異生物の戦闘が起きた場所で撮影されました。他にも証拠はあります」
そういって岸谷はタブレットの画面を掲げる。
「これは特殊細胞遺伝子研究所の事件の時の、近くの住宅の家庭用防犯カメラの映像です。この道の中央にいるのが僕で、今から……ここ!」
映像には夜道の中央にたたずむ岸谷が、どこからともなく現れた男にうなじをはたかれその場で気絶する映像だ。報告の無い家庭用の監視カメラまでは、SCRといえど流石に隠しきれない。
トントン、と静かに指で机をつつく。こいつ、これが目的だったのか?
タブレットで拡大された男は、我々の良く知る特徴的な茶髪の人物。
「ここにいる男性は、さっきの写真の男性と同じです。彼は人間であり、そして特異生物だ。真実は、『人間が特異生物に変身し、世界を守るために戦っていた。』違いますか!?」
「何の話をしているのでしょうか。まったく記憶にございません」
「それなら思いださせてやりますよ。この映像の話です!」
タブレットには、ザセルに操られていたフレイムが変身を解くシーンが映し出されている。最終任務前に出回って話題になった映像だ。顔こそモザイクがかけられているが、それが写真の男────孤虎優也であることに誰も疑いはもたないだろう。
「これでもまだ、彼が特異生物に変身できる人間ではないと言いたいんですか。僕の見立てでは、この男性が所属しているSCRという組織こそ、悪とされる特異生物と戦っていた戦闘部隊なのではないですか!?」
「……では仮に、それが特異生物だったとして」
ピクっと岸谷が反応した。すぐに視線は私に向けられる。気が付いたな。この会見で前に並ぶ人間の中で、誰が真にこの場を支配しているのか。
真実を追う記者、だったか。くだらない。
「それがなんだ。その男性も、SCRという組織もあったからなんだ」
「な、なんだ……って」
「SCRという組織と政府がつながっているという証拠はないだろう。仮にその組織があったところで、政府に繋がりがない以上問題はないし、特異生物は全て焼却した。もしかしたらその男も焼却した特異生物の中にいるかもしれないな」
「っ!」
「お前が主張している、対応に当たった戦闘部隊が特異生物だという話は断じて否定する」
「そんな嘘が」
「私たちが特異生物という危険分子を飼っているとでも?そんな危険を侵さなくとも焼却は可能だ。先ほどそっちの人間が説明したようにな。それに、『人間が特異生物に変身する』? 笑わせるな。『特異生物が人間に化ける』ならまだしも、そんなことができるわけがない」
「それは、そう…………だけど…………」
「それを踏まえて、お前はなにが言いたい」
「……」
言葉を詰まらせたな。これで終わりだ。
顎で司会者にクイッと指示を入れると、気を取り直したように岸谷に座るように促す。
くだらない。何がしたかったんだこの記者は。変に嗅ぎまわったところで無意味だというのに。
「では、他に質疑もないようですので、これで────」
「待て!!」




