#20-24 生きている限り
「それはできない」
「えっ……!?」
「この対価に、こいつは自分の身を差し出した。こいつがもし回復すれば、有事における対特異生物の兵器となることを約束した。要は変身する可能性があるんだ。だからこいつのミューシスを外すことはない」
「待てよ。任務の成功が対価のはずだ」
「私もそう問うた。だが、こいつは自ら望んだんだ」
優也が、自ら望んだ?兵器になることを?
そんなわけない。どうせ脅したりしたんだ。だから優也はうなずくしかできなかったんだ。
長官を強く睨みつける。すると長いキレ目を細めて、はぁと一つため息をついた。
「まだわからないか」
「何がですか」
「孤虎優也がなぜ自ら兵器になることを望んだのか、だ。私は脅しなどしていない。ザセルの焼却任務の成功は対価として充分だったからな。だが、追加であいつは変身するためのこの装置を残すことを望んだ」
「……っ!」
「え、なに、龍斗さんわかったの?」
「もしかして」
口元を抑えて、ありえないとでも言いたげに目を見開く。
「俺たちを守るため……?」
「っ……!」
「もし、もし万が一特異生物がこれからも現れた場合、出動要請がかかるのは俺たちだ。日常に戻ってもなお要請があれば、それは完全に日常に戻ったわけじゃなくなる。それを防ぐために、自分だけは変身装置を残しておけば、俺と海美ちゃんに要請が来ることはない」
「そんな」
「前に孤虎優也は言っていたな。『焼却任務は自分だけでできる』と。それが実現して、願ったりかなったりだろう」
「そんな……!!」
「そんなの許せるわけないだろ。優也のミューシスも外せ」
「断る」
「外せ!」
「お前はこいつの優しさを踏みにじるのか?」
「っ!」
「よく考えろ。生かされたものとして何ができるのか。こいつが……孤虎優也が何を望むのかを」
「それは……」
優也が望むのは、私たちが穏やかに過ごせる未来。
私たちが、それを拒むなんて、できないよ。
「私も忙しいんだ。ここで失礼する。柏木医師、」
「……あいよ」
「あとは、頼んだ」
長官は部屋を後にする。表情は陰って見えなかった。
長官と優也の約束を反芻する。『任務を成功させたら、その後は二人に普通の日常を送らせる』こと。そのために自分は犠牲になってもいいって。それじゃ、そんなんじゃ、
「優也は……っ、ひっく、もどれ、ひっ、戻れてない……じゃん……」
「……」
「バカ。バカ優也。ばかばかばか!ばか!!なんで自分だけ犠牲になろうとするんだよ、死ぬ気なら一緒に死んでって、あの時言ったじゃん!!なんで一人になろうとするんだよ!!」
「海美ちゃん」
「一人は怖いんじゃなかったの、ねぇ、ねぇ!!ねぇぇええっ!!」
激情のまま、眠る優也の胸倉をつかんで上下に揺らす。なんで、どうして。どうしようもない現実やあまりにも無力な自分への怒りは、優也への怒りに置き換わった。
どうして。どうしてなんだよ!
私を見て驚きつつ、慌てて柏木先生が止めに入る。
「海美!やめな!!」
「むかつく!!むかつくむかつく!!なに一人でかっこつけてんの、バカじゃないの!?」
「海美!!優也の生命維持には厳密な管理が必要なんだ!!やめなさい!!」
「うっ………っ、ひっく、グスッ、うぅ……!!」
ほとんど羽交い絞めの状態で無理やりはがされた。ごめんなさい、と小さくつぶやく。
わかってる。どうしようもないなんて、けどこの苦しさだってどうしようもないんだよ。わがままだけどさ、そんなことわかってるけどさ!
床にうずくまって目を腕でこする。柏木先生が近くにあったティッシュを手渡してくれた。礼をして、鼻をかむ。
うずくまった床はすごく冷たかった。そうだ。柏木先生はベストを尽くしてくれている。きっとここに優也を連れてくるのも、機械を用意するのも大変だっただろうに。
「ごめんなさい、柏木先生」
「……いいんだよ。若いうちは、そういう感情を大事にしなさんな。でも、優也のためを思うならここでは暴れないどいてくれ」
「はい……」
「いいこだ。もし優也が起きたら、二人で景気よく殴りつけるといいさ。なぁ、龍斗」
顔を上げると、龍斗さんが優也の服の乱れを直していた。そのまま手は優也の頭に置かれて、ゆっくりと上下する。
悲しそうで、でも少しだけ微笑んでいるようなそんな表情。
「そうですね。起きたらちゃんと言わないと。一人になろうとする癖も、俺たちが治してやるから。ずっと一緒にいて、一人でいることが違和感になるぐらい、体に叩き込んでやる」
「ははは!いいねぇ。面白い。海美ももちろんやるだろ?」
「……うん!待つよ、私」
立ち上がって、龍斗さんの隣で優也の手を握る。
あったかい。生きている証拠だ。
そう。そうだよ。なんでこんな大切なこと忘れてたんだ。
私を見る龍斗さんと柏木先生に、ニコッとできる限りいつものように笑って見せた。
「生きていれば、負けはないもんね」




