#20-23 穏やかな未来を願って、叶えて
『もし任務を成功させたら、その後は二人に普通の日常を送らせる』という景品を、与えたまでだ」
「え……?」
普通の、日常?
それって、どういうこと?
長官は静かに目を伏せた。過去のその景色を思いだしているのかな。
「任務が終わって日常生活に戻ることになれば、ミューシスは邪魔だろう。それに常に命が脅かされている状況も負担になる。しかし、特異生物であるが以上管理と監視が必要なのは確かだ。だからミューシスに代わる、別の装置を開発することになった」
「ミューシスでの殺害は、しないってことですか」
「あぁ。新たな機械では、お前たちが万一国民に危害を加えた場合の緊急時に体の自由を奪う程度はするが、殺しはしない」
「なんで、」
「SCRの長として、お前たちに完全な自由をやる。それが孤虎優也への景品────褒賞、と言い換えた方がいいか」
長官は目を開き、優也に視線を送る。シュー、シュー、ピ、ピ、ピと無機質に続く命の音に、少しだけ眉間のしわが寄っていた。
龍斗さんと私の完全な自由。普通の日常。それが長官から優也に贈る、ご褒美。
任務が終わって、なかなか殺されなかったのはそういう事だったんだ。もしかして、病室を出ることなくこのまま殺されちゃうのかも知れない。二人に再会することも叶わずに。
そうやってこの2か月間、なんとなく目を逸らしていた不安がなくなっていく。
「自分は生きて帰れる可能性は低いが、もしも二人が日常に戻るなら二人はできる限り普通の生活をさせろ、とのことだ。その義手も、お前の顔も、苦労したと聞いた。柏木先生からな」
「あぁ、大変だったよ。日常生活に違和感なく戻れるように工面してくれと頼まれちゃ、ね」
「戸籍やこれからの就学、就職についても案ずるな。問題の無いようこちらで手続きを行う。金も国が用意する」
日常に戻れるための準備。
ミューシスは外され、命を脅かさない別の機械に変更になった。
体は柏木先生ができる限り最良の治療を施して、見た目だけでもかなり普通の人間に近いものになっている。それに普通の暮らしから、世間から省かれないように手続きもお金も用意されて。
全部、優也が私たちの穏やかな未来を願って。それを白夜長官が叶えて。
胸の奥がじん、と熱くなる。
優也は未来を最悪から最善に変えようと、私たちの知らない所で奔走してくれていたんだ。
伝えたいことを言い終わったのか、長官は出口に向けて歩き出す。
「……以上だ。では、私は失礼する」
「あ……ま、待って!そしたら優也のミューシスも!!」
「……」
「優也のミューシスも外してください。いいですよね、だって別のに変えるんでしょ?だから」
「それはできない」




