#20-19 あの夜の真実
連れられたのは小さな部屋。白く綺麗な部屋だった。中は机とソファ、そして壁掛けのモニターがある。ソファに座るように促されて、私と龍斗さんが隣に座り、その対面に柏木先生が座った。すぐ近くにある棚には湯呑みや茶菓子が用意されている。
「あぁそうだ、茶でも飲むかい?」
「いいから話してください。早く」
「私はどこにも逃げない。少し落ち着くためにも茶を飲みなさい」
「先生!!」
お茶を汲もうと立ち上がった先生をキツく呼び止めた。ごめんなさい。でも今はそんなことどうでもいい。
真っすぐに柏木先生を見つめる。柏木先生が驚いたのは一瞬で、仕方なさげに小さくため息を一つついていた。
「話して」
「……わかったから、そんな目で睨まないでおくれ」
「っ、ごめんなさい。でも」
「ごめんな。ここまで話せなかった私が悪い。だがどうしても守秘義務ってもんがあってねぇ。どこで誰が聞いているかわからないもんだから。ここは扉を閉めれば外からは聞こえない。さて、」
一呼吸おいて、柏木先生はモニターをつけた。用意してあったパソコンにUSBを差し込んで、パソコンをどこかに接続すると、モニターにパソコンの画面が表示される。
「今から映像を見せる。これは3ヶ月前、お前達が最終任務の時の映像だ」
「はい」
「お前達がポイントγで迎えを待っていた時。アンタ達2人はそこで気絶したね」
「……はい」
「その後の映像だ。ドローン映像でちと画像は荒いが、勘弁してくれ」
あの後────私が意識を失った後にやっぱり何かあったんだ。
映像が再生される。ブゥーンという低い音はドローンの羽根の音だろうな。映像は薄暗い森の中、高速で動いている。鳥みたいだ。
そこに人影がぼんやりと写っている。はっきり見ようと少し顔を近づけたところで、ジュウッと何が焼ける音がした。
「あっ!?」
そして炎が上がる。何かが燃えた。人のような化け物、オルガー!?
「なっ、なんでオルガーがいるの!?」
「任務後の映像ですよね?どうしてオルガーが」
「詳細は省くが、ザセルの細胞の支配を受けていない個体がいたんだ。ちょうどお前達のような」
「じゃあまさか、これは……!!」
画面に映る、反対側の人影は。
「「優也!?」」
オルガーを殴りつけているその人影。熱が弾ける瞬間に顔がはっきりと見えた。優也だ。優也がオルガーと戦ってる!
一度優也に吹き飛ばされたオルガーは動くことなく燃えて消える。いつもと比べてオルガーの動きが鈍い。薄暗がりの中を優也が跳躍してどんどん薙ぎ払っていく。
けれどオルガーの数は多い。こんな周囲を囲いこまれた状況で、あんなにボロボロになってちゃ、
「あぁっ!!」
鋭い植物の触手で体を切り裂かれて、地面を転がったところを蹴り飛ばされて、血を吐き出している。それでも震える腕で地面を押して立ち上がって、眠る私たちに近づこうとするオルガーを引きはがしていく。
それでまた、傷が増えて地面を転がって。それでもまた、立ち上がって。
「あぁ、やだ、やめて、もういいから、もう……やめて……!!」
優也は何度も立ち上がる。体のいたるところから血を流して、もはやまともに握られていない拳を振るって、オルガーを眠る私たちから遠ざけようと。
「ゆう、や、あぁ、そんな」
何度も何度も切り裂かれ殴られても、立ち上がる。
わなわなと体が震える。ぎゅうっと視線が画面に釘付けになる。
もういやだ。もういいよ。なんで逃げないの。なんで、どうして。
「っ!!」
反射的に思わず目を逸らした。触手が優也の左目に突き刺さった、その瞬間を見てしまったから。
でもダメだ。何があったのかを知らなくちゃ。何があったのか、全部知らないといけないんだから!
恐る恐る目を開く。そこには白夜長官の姿があった。カメラの外から優也を守るようにオルガーと優也の間に割り込んでいる。それが横にズレて、優也の姿が見えた。
「あ……」
まるで私たちを攻撃からかばうように、私たち二人の体を抱きしめて、背を向けている。
ピ、映像はそこで止められた。
「これが何があったかの全容だ。お前たちが気絶したあと、オルガーが襲い掛かってきた。それを優也が一人で戦った」
「そんな、そんなっ……!」
「……」
「少しして白夜長官と集った有志の救助部隊がオルガーに対応し、その隙に医療部がお前達を回収した。後は話してあるね。SCRの本部で治療を受けた後、さらに高度な医療を受けるためにここへ連れてこられた」
「優也は」
龍斗さんが空っぽな表情で告げた。柏木先生じゃなくて、止まったモニターを見つめたまま。
「優也は、どこにいるんですか」
「……元々、お前たちがポイントγにたどり着いた時、不思議と体温が63℃から37℃まで低下して落ち着いたんだ。しかし、この戦闘中にまた再熱して今は45℃が平均だ。人間の姿じゃ、体に負担がかかりすぎる」
「そうか、だからここに?」
「あぁ。ここは基本低温で管理される場所だからね」
どういうこと?助けを求めて龍斗さんを見つめると、霊安室はご遺体に負担がないように部屋が低温で保たれているんだ、と返ってきた。そうなんだ。優也は今熱がヤバイから、涼しいところで寝ているってことなんだ。
やっと納得がいく。そうか。死んじゃったわけじゃないようね。そうだよね。
安心でやっと張りつめていた緊張の糸がほぐれていく。龍斗さんも同じことを考えていたのか、ふぅと息を吐きだした。
「良かった。てことは、優也は無事ですね。体温が異常に高いだけで。あの怪我も、きっと3か月もあれば治ってるはずだし」
「良かった~~!はぁ、緊張したよ。どうしようかと」
「……」
「……先生?」
「話は、まだある」




