#20-18 地下二階、手を引いて
ガラガラガラッ!
「優也、起きろーーーーーーーーーーーっ!!」
開いたと同時に叫んだ。
そこには
「…………あれ?」
「っ……!」
「優也?あれ、優也は……?」
扉を開いた先は、もぬけの殻だった。
ベッドとか周辺の機械とか、ソファとかテレビとか、そういうのはそろっていて、私の部屋の構造も一緒。だからきっと、ここは私たち三人の部屋のうちの一つのはず。なのに部屋の主がいない。生活感も、使われている感じもない。お手洗いに行ったわけでもなさそう。
なんで?
なんでいないの?
ひやり、と背中に何かが伝う。
「間違えちゃった……?優也の部屋、ここじゃないのかな」
「……」
「龍斗さん?」
「いや、多分ここは優也の部屋として用意されてると思う。俺の部屋と同じ構造してるから」
「あ、私も同じ部屋の構造だよ」
「なら特異生物の俺たちが一般人の病床と混ざらないように作られた部屋だ。優也はここに運ばれてくる予定だった」
「……だった?」
「……」
「え、ちょっと、黙んないで」
何その過去形。運ばれてくるときに何かあったみたいな言い方じゃん。
ここは確実に優也の部屋なのに、なんでいないのか。
なんで、まさか、優也に何かあったの?あの後、私の知らない所で。
違うと思いたい。けど、ここに優也がいないことが何よりの証拠で。
どうしたの。怪我?それとも他に何かあるの?というか、
君は今、独りなの?
「探さなきゃ」
「うん」
「行かないと」
「うん」
「早く、優也が一人になっちゃう」
どうしよう。どうしよう。
困惑と焦りでいっぱいになった頭に、いつかの優也の姿が映る。
『ただ、……ただ!!もう独りぼっちが嫌なだけなんだよ!!』
初めて見た君の涙を、自分を犠牲にしながら隠し貫いていた想いを。
独りぼっちになんて、絶対にさせないって決めたんだ。決めたのに。
気が動転して酷い顔をしてしまっていたのか、落ち着かせるように龍斗さんが私の肩に手を置いた。龍斗さんは微笑んでいて、これが大人の余裕かと、どこか冷静な自分が感服する。
「そうだね。でも落ち着いて、冷静に動こう」
「うん」
「病院の中をあてもなくうろうろするのはまずいから、まずは聞きこもうか」
「え?」
龍斗さんは部屋を出て、龍斗さん自身の部屋へと戻る。ひょこっと中を覗き込むと、ベッドの傍にある電話でどこかに電話をかけているようだった。
「……あーもしもし。柏木先生いますか?ちょっと聞きたいことあって。はい。はい……柏木先生?あぁ、元気ですよ。はい。義手も慣れてきました。はい。はい。で、優也のことなんですけ……え?海美ちゃん?」
くるっと龍斗さんが不思議そうな顔をして振り返る。私の顔を目を丸くして見つめてきた。
「いますよ。えぇ。……え?」
「な、なに。どうしたの」
「はい。はい。……本館4階エレベーターBですね。わかりました。今すぐ行きます」
電話を切る。不思議そうな顔は不安な顔つきに替わっていた。なに、どうしたの?
「海美ちゃん、今からちょっと本館4階に行こうか」
「なんで?」
「柏木先生から話があるって。優也のことで」
ドクン、と心臓が大きく音を鳴らした。
なに、話って。
別に嫌な話じゃないよね?優也だけ別のところにいるってだけだよね?何もないよね、別に。
答えを求めて龍斗さんに視線を仰いでも、眉間に皺を寄せたままで答えはない。
行くしかない、よね。
「行こう、龍斗さん」
「ここは別館みたいだから、あっちだね」
「うん」
何も話さないで病院の中を歩く。渡り廊下を渡って、その先には多くの人が行き交うエントランスがあった。そのままスルーしてエレベーターへ向かい、タイミングよくきた誰もいないエレベーターに乗り込む。
僅かな浮遊感。1階から4階なんてあっと言う間だ。なのになんだか永遠のように感じて。
「大丈夫」
「え?」
「大丈夫だよ。ICUがあるみたいだ。大怪我してるだけだよ。きっと」
「っ!」
「最悪はない。大丈夫だから」
「……」
やめてよ。そんな話したくないの。最悪がどうとかじゃないでしょ。元気じゃないと意味ないんだよ。
早く、早く着いてよ。早く会いたいよ。早く着いて。お願いだから、あの笑顔に早く会いたいんだ。
エレベーターが4階に到着して扉が開く。そこはICU1と書かれた扉で外と中が限られていた。
「ここか?エレベーターB……間違えてないな。ここだ」
「ここで待ってればいいの?」
「おぉ、海美、龍斗。来たか」
そこへスクラブを着た柏木先生がやってくる。ちょこちょこ検査とか診察とかで会ってるから、この姿も見慣れたなぁ。
「柏木先生、優也は」
「そう焦らさんな。まずは私の話を聞け。ついてきなさい」
柏木先生の後についていく。入るのはICUじゃなかったみたいで、近くにあった職員用と書かれた扉にカードをかざし、扉を開く。職員用階段なんだ。
階段を一階分あがって出ると、そこは普通の病棟だった。すれ違う看護師さんにギョッとした目で見られる。あ、ご、ごめんなさい……
気まずさにさささっと早歩きで病棟を渡り歩いて、また職員用の扉に入る。開けたそこは職員だけが使うエレベーターが並ぶエレベーターホールだった。
「わざわざあそこまで来てもらったのに悪いな。アタシがあそこの担当でね、優也のところにいくにはこのエレベーターしかないんだ」
そう言って下のボタンを押す。下?下にいるの?
「何階に行くんですか」
「地下二階さ。あそこは一般人が寄りつかないからね」
「……なんで地下なの?私たちと一緒じゃだめなの?」
「……」
到着したエレベーターが扉を開く。柏木先生の後を追うように乗り込んだ。中にはさっきのエレベーターと違って、職員へむけた注意事項やらなんやらが書いてある。そこには病院の簡易図もあって、どこになんの診療科があるのかを書いてあった。
結構大きい病院だ。だけど、へぇ、本当に色々な診療科が……
「え……」
「どうした?」
「地下二階って……霊安室じゃ」
壁に貼られた診療科の数々。地下二階には何があるのかと思えば、そこは霊安室と書かれていた。
そこがどんな場所ぐらい、私にでもわかる。
狭いエレベーターの中で先生に詰め寄る。
「ねぇ、ねぇなんで霊安室いくの、ねぇ!!」
「落ち着け、落ち着け海美。お前の思っていることとは違う」
「じゃあなんで優也は私たちと一緒じゃないの!?優也はっ、なん、なんで霊安室にいるの!?」
「理由があるんだ。詳しくはここでは話せない。だが、まずは私の話を聞いてくれ」
「〜〜っ!!」
すぐにエレベーターは扉を開いた。柏木先生について外に出る。なんだか、少しだけ寒気がする。地下だから?
「龍斗」
「え、」
突然柏木先生が足を止めて振り返る。それに釣られて振り返ると、エレベーターの中で立ちすくんだまま動かない龍斗さんがいた。
ぼーっと壁を見つめている。ちょうど病院の中の簡易図が書かれたあたりだ。私が霊安室の文字を見つけたところをずっと、心ここにあらずみたいな感じで見つめている。もしかして、エレベーターが止まったのに気が付いていない?
動かない龍斗さんに柏木先生が声をかけた。
「龍斗、行くよ」
「……あ、はい。すみません」
「龍斗さん」
よく見れば、顔は真っ青だ。血の気が引いてしまっている。
何も言えない。大丈夫だよ、なんて、そんな気休めなんか。
だらりと下がった手に触れてて、両手で包み込む。
「行こう」
「……うん、行こう。ごめんね」
「うん」
手を引いて、ゆっくりと歩き出した。何も話すこともないまま柏木先生に着いていき、連れられたのは小さな部屋。白く綺麗な部屋だった。中は机とソファ、そして壁掛けのモニターがある。
ソファに座るように促されて、私と龍斗さんが隣に座り、その対面に柏木先生が座った。すぐ近くにある棚には湯呑みや茶菓子が用意されている。
「あぁそうだ、茶でも飲むかい?」




