#20-17 期待がいっぱい、君に会いたい!
緊張する。緊張する。
3か月後────都内某病院にて
ここまでの緊張は久しぶりかもしれない。そう。それこそ3か月前の最終任務ぐらい。
いや嘘。あれよりはマシだけど。
今私は扉の前にいる。個室を出る直前だ。
3か月前の最終任務のあと、何とか生き延びて回収された私はすぐに医療部に押し込まれた。
それからまるまる1か月は眠っていたらしい。最終任務から1か月後に目が覚めたらこの個室に連れてこられた。なんでも、地下のSCR本部は少しずつ縮小傾向にあるみたいで、高度な医療を安定してできるこの都内の病院に連れてこられた。
都内の病院。それはつまり、普通の患者さんもいるわけで。
そんなところに特異生物なんて同室になったら、そりゃもう怒られちゃうわけで。
「いよいよ、この部屋ともお別れかぁ」
ぐるりと慣れ親しんだ部屋を見渡す。特異生物である私たちに割り当てられたのは特別な個室。というかもともと病室じゃないところを病室として作り替えたらしい。それもこれも長官が上手いことやってくれたらしいんだよね。
私たちに言われた約束事は、勝手に部屋を出ないこと。周りの人たちへの配慮のため。
いやぁ、大変だった。大体2か月ぐらいこの部屋に監禁されているんだもん。
それが今日、解禁される。色々の手続きとか認可の云々とかが済んだらしいから。
まずどこに行くかって?そりゃ、
「龍斗さん、優也、元気だよね……?」
二人のところ以外ないじゃん。
二人も同じように搬送されたことは聞いてる。けど、状態は詳しくは聞いていない。看護師さんもお医者さも、微妙な顔してるだけで誰もはっきり言ってくれないんだもん。
だから会いに行く。きっと二人の部屋も近いはずだ。
何度も見た時計をまた見上げる。時間は午前8時58分。9時から出ていいことになってるから。
「ふぅ…………」
大丈夫大丈夫。きっとみんな元気だ。
あの日、あの最終任務の最後。優也が『融合』と『進化』の力を使ってザセルを倒しきったあとにお姉ちゃんと会う夢を見た。起きたあと、なんとかポイントγに到着して、少しだけ話して寝ちゃった。
ただそれだけだったし。みんなそうでしょ。多分。なら怪我をしているわけもない。
大丈夫、きっと、みんな元気だよね。
「あと1分……いや40秒ぐらいかな」
かかとを浮かせてトン、トンと床につけてを繰り返す。もう少しで会える。もう少し。もう少し。
カチ、カチ、カチと時を刻む秒針をこんなに見つめるのって、初めてかも。
ドキドキと跳ねる心臓で、私の期待は明け透けだ。
カチ
「来たっ!!」
秒針が12を指したことを確認して、横開きの扉を開いて外に飛び出す。長い廊下。左右を確認すると左側に似たような扉が一つ。それがスライドして、
ガラガラ……
「あれ?海美ちゃん」
「りゅっ……!!」
その姿を視界にとらえた瞬間、あふれる感情のままに彼に飛びついた。
「うわっ!?」
「龍斗さん!!龍斗さぁあああんっ!!」
「びっくりした……元気そうだね、海美ちゃん。よかった」
「龍斗さん元気!?よかった元気だよね!!」
「うん元気元気。元気だからちょっっっと放そ??そろそろ肋骨逝くかも」
「あごめん」
強く抱きしめすぎちゃった。パッと腕を放して少し後ろに下がる。
右目に眼帯をしていて顔全体は見えないけれど、龍斗さんだ。よかった!
安心で動悸が収まる。落ち着いて龍斗さんをよく見ると、右腕を少し後ろに回していた。
あぁそうか、と一人納得していると、龍斗さんは悲しそうな顔をする。
「あぁ、ううん。元気そうっていうのは失礼か。ごめんね、海美ちゃん」
「んぇ?」
「結構傷残っちゃったね。移植跡は少しずつ気にならなくなるだろうから心配しないで。薬はもらった?」
「あぁ、うん。毎日顔に塗ってって言われてる奴なら使ってるよ」
「そっか。ううん……ごめんね」
そういって龍斗さんは私の右頬に軽く触れる。あぁ、これか。
最終任務で爆破された私の頭は本当にひどかったらしい。だからなんか体のどっかの皮膚を移植してなんとか目立たないようにしてくれたらしい。それでも深い傷はどうにもならないみたいで、口のあたりに口角から続くよう、横に一本の傷跡が色濃く残っている。
「そんなに気になってないかな。生きてるだけいいの。ていうか龍斗さんも腕、大丈夫?」
「あぁ……これね」
「え!?」
軽く挨拶するみたいにひらひらと右手を振る。え、なんで!?最後、右腕なくなっちゃってたよね!?
まさか生えたの!?
「そ、それ、生えたの?」
「これね、義手」
「義手…………」
「そう。結構スムーズに動くんだよ」
「あ、え、こ、これが……?」
どっからどうみても普通の腕にしか見えない。これが義手?義手ってもうちょっと金属の部分が見えるものだと思ってたけど、こんなに自然な義手もあるんだ。
疑わしい視線に気が付いたのか、本当だよと笑って入院着の上に来ていたカーディガンをめくる。確かに数本のベルトでハーネスのように固定されている。ほ、ほんとに義手なんだ。
「すごい、外から見るだけじゃ全然わからないね」
「本当にね。まあ、本物通りの動き通りってわけにはいかないけど、慣れれば日常生活に支障はないかな」
「そっか。それなら……よかった?」
「なんで疑問形?」
「ううん……日常生活でも困ること多そうだなって、ちょっと思っただけ」
ほら、色々メンテナンスとか故障とかもあるだろうし。
そう言うと、龍斗さんはふふっと嬉しそうに笑った。
「ふふ、相変わらず優しいね。ありがとう」
「ううん。何か困ったことあったら言ってね。私にできること手伝うし!できなくても一緒に考える!」
「頼もしいね。……それで、優也は?」
「!」
そうだ。優也は?
この廊下はあまり長くない。私の部屋と龍斗さんが出てきた部屋があって、龍斗さんの部屋のさらに隣にもう一つ部屋がある。私の部屋の左側に龍斗さんの部屋があって、その奥に優也の部屋があるんだろう。
「あっ、龍斗さん。あれじゃない?」
「おお、あれかも」
「なんで出てこないんだろう?」
「アイツ朝弱いからなぁ」
「あそっか。確かに。まだ寝てるのかも」
「じゃあそっと起こしに行こう!」
「ドッキリでもしようか」
「いいね。寝起きドッキリ!」
こそこそと足音を極力立てずに部屋の前まで近づく。龍斗さんと目を合わせて、いたずらっぽく二人で笑った。びっくりするかなぁ。起きたら寝癖できてそう。
寝癖直したら、3人で朝ご飯食べたいな。それでいろんなこと話したいな。たくさん、話したいことがたくさんあるんだ。2か月も我慢してたんだよ?付き合ってもらわないと。
行くよ?と小声で声をかけると、左手でしーっと口に人差し指を当てながら右手で丸を作って微笑まれた。あぁいっけない!耳いいから聞こえてきちゃう!
扉に手をかける。ふぅーーっと息を静かに深く吐いた。
ガラガラガラッ!
「優也、起きろーーーーーーーーーーーっ!!」




