#20-16 よく耐えた
静寂の帳が降りた森林の中、熱が地面を伝わり、奇妙な植物の化け物の叫び声が響く。
火の粉が跳ねた。木に寄りかからせた二人に近づけないように、髪の毛一本触れさせないように、震える拳を振りぬいてオルガー達を塵すら残さず焼き切っていく。応援が期待できない状況、終わりの見えない戦いに意識が焼き切れそうになりながらも前を向いた。
絶対に守る。ただそれだけが優也の思考にこびりついて、白目をむいてもなお拳を振り続けた。
鬼神のような戦いぶり。けれど多勢に無勢。次第に圧され、足元がおぼつかなくなる。
ネイチの戦闘、ザセルの戦闘、神聖な炎をまとう鳳凰の顕現。すべてが規格外だった。そんな優也の体に残った力など、もう無いにも等しい。
それでも、まだ戦い続けた。
ついにオルガーの鋭い一閃が優也の肩を貫く。その場によろけたところへ別のオルガーが触手を振り下ろした。何とか心臓への直撃をさけるものの、さらに振り下ろされた触手が左目を貫く。
激痛に怯むことなく、周囲にたかったオルガーを焼き払い、その合間に眠る二人に近づいたオルガーのもとへ走る。動かない片足を引きずり、ぼたぼたとあまりに多い出血で地面を汚しながら、不格好に走る。
「ヴッッ!?」
オルガーを焼き払う。けれど最後の反撃を受けて、その場に膝をついた。オルガーの職種が突き刺さった腹部からとめどなく血が流れていき、口からごぼっと赤黒くなった血の塊を吐く。白目をむいたまま、顔は龍斗と海美の方へと向けられる。
そこへさらなるオルガーが先端が刃のようになった触手を振り降ろした。触手が反射した満月の光が優也の髪に落ち────
ガギンッ
────刹那、満月が陰った。
「~~~孤虎優也!!無事か!?」
影は人型。長い刀を振りかぶり、オルガーを退ける。
長い黒髪は一つに束ねられている。SCRの長のみが着ることが許されている上着はここにはない。戦闘員用の服と防護チョッキ。普段の数十倍も鋭い視線がオルガーに向けられていた。
「目標三体発見!周囲のオルガーは私と有志団が退ける!医療部はそれに続け!!」
『了解!!』
「狛坂は私に代わり引き続き指揮を取れ!!狛華は解析で正確なオルガーの数と位置を解析して送れ!!」
『『了解!!』』
「有志団は絶対にオルガーと直に接触するな。火炎放射器を使え!!」
『『了解!』』
「全部隊集中しろ!!犠牲者を出さずに、絶対にこいつらを死なせるな!!いいな!?」
『『『『了解っ!!』』』』
鶴の一声とはこのことか。彼女の荒れる声に対してSCRの部員たちが負けじと声を張り上げた。
白夜は日本刀を振るい、3人に群がるオルガー達を切り捨てていく。塵にはならないものの、簡単に切り捨てられたそれは地面でのたうちまわり、その場から動かなくなった。
周囲の安全を確認した後、白夜は背に守っていた優也に振り返る。
「おい、大丈────っ!!」
そこには、
「……っ…………………………よく……よくやったよ」
襲いかかるオルガーに対し背をむけて、眠る二人を庇うように抱きしめて、そのまま限界を迎えた動かない優也がいた。
急いで脈を確認すれば、弱いがトクリ、トクリと感じられる。これだけの満身創痍というのに、まだ生きている。ホッと白夜は胸をなでおろした。
敵に背を見せるな。もし私が助けに入らなければ、どうするつもりだったのか。背中に大穴でも開けられていたかもしれないんだぞ。
そんな叱責も今は出てこない。
閉じられていない目をやさしく伏せさせて、ポンと優也の頭に手をおき、労わるように撫でた。
「よく耐えたよ、お前は。……お前たちは。本当に、本当に……」
ずっと、ずっと耐えてきた。
一人、応援も一寸先も見えない中、意識を飛ばしかけながら戦い続けたこの月夜を。
絶望的な状況でも、仲間との絆を確かめあったこの一日を。
孤虎優也、嵐巻龍斗、鮫島海美、そしてSCRの全隊員のすべてを賭けた、10年を。
やっと終わったんだ。
やっと、終わったんだぞ。
白夜の声が震えていたのを、吸い込まれそうなほど真っ黒な夜空に浮かぶ満月だけが、静かに聞いていた。




