#20-15 絶対に守る
ガサガサッッ
「ヴーーーーー……」
「────え?」
聞き覚えのある音に振り向く。これは、この声は。
振り返った先には、植物が人間の体を形取ったような化け物。四肢の先端は鋭く、顔らしきところには目がない。ただ、牙の除く口があるのみの顔。
見間違えじゃない。でもそんなことあるわけない。
「オルガー……!?なんで……!?」
それも1体や2体じゃない。森林の奥にはさらに多くのオルガーがいる。30いかないぐらいだろうが、どうして生きている。
ザセルの細胞は完全に自死させたはずだ。ならこれはザセルの細胞が組み込まれていないものなのか?それこそ、突然変異によってザセルの細胞が支配していないような。
俺たちも元はザセルの細胞が組み込まれていたが、突然変異によってその支配を逃れている。ありえない話じゃない。
立ち上がって、変身シリンジを──
ドサッ
「っ……」
──無理だ。こんな体じゃ、戦うなんて。
その場に倒れる。動けない。シリンジを持つ手が震える。本能が拒絶している。ダメだ。もうこれ以上変身すれば本当に体がもたない。そう直感する。
「ヴーーーーー……」
「っ、!」
眼前まで迫ったオルガーに庇った腕を切り裂かれ、鮮血がはねて近くの木に飛び散った。衝撃で後ろに転げてしまう。
ぽた、ぽた、とオルガーの触手から血が滴る。今までなんとも思ってなかったはずのそれが、今では最大の恐怖を煽った。
「やめろ、」
「ヴーーーーー……」
オルガーの顔向こうを向く。
その刃が次に振り下ろされるのは、俺じゃなく2人のどちらか。意識のない2人が抵抗できるわけがない。
「やめろ!!」
嫌な予感を振り払うように跳躍し、オルガーを体当たりでふっとばした。
こいつら、いつものオルガーよりも軽い。それに動きも緩慢だ。拳に熱を込めて転がったそれを殴りつければ簡単に燃え上がり、塵も残さず消えていく。
よし、大丈夫。動ける。次────
「あ…………」
次って、いつまで?
森の奥から俺たちの周囲を囲むようにいるオルガーを、あとどれぐらい倒せば終わる?
強く握りしめた拳が震える。
息が上がる。
俺はあとどれくらい、1人で?
片膝が地面に落ちる。ダメだ。余計なことを考えるな。やれ。やるんだよ!!
思考とは裏腹に、体は全くと言っていいほど動かない。ダメだ。絶望してる場合か!
体の震えは止まらない。それでも地面から少しずつ片膝をはなす。いかなきゃ、やらなきゃ、俺が!俺が!!
「わっ!?」
突然後ろにひかれて、思わず尻餅をついた。なんだ、今いきなり服の袖を掴まれて、
「!」
引っ張ってきたのは、2人の手。
眠ったままだ。深い寝息と上下に動く腹部。閉じられた目はそのまま。
だけど俺を1人で行かせないとでもいいたげに、それぞれの手は俺の服の袖を強く掴んで離さなかった。
「……はは、」
思わず笑いがこぼれた。
なんだよ、それ。
敵がそこまできてるんだぞ。戦わなきゃ、3人ここで共倒れなんだぞ。
『いくらでも一緒に泣いてやる』
『泣き疲れたら一緒に笑おう?』
今朝の記憶がフラッシュバックする。あぁ、そうだ。そうだよ。
スゥーっと深く息を吸う。
龍斗さんと海美には、もう返せないぐらいいっぱい素敵なものをもらった。
知らない世界のことを教えてくれた。
まだ見ぬ夢のありかを教えてくれた。
俺1人じゃここまで来られなかった。俺の望む未来へ2人が連れてきてくれた。一度その手を酷く振り払ってしまった俺でも、2人は諦めずに掴んで引っ張って、間違えたなら容赦なくぶん殴って、3人で正しく歩かせてくれた。
なら、
俺は2人を、2人が望む未来へ連れていきたい
「……はは、」
そう。理屈ではこういう理由。
───でも、心の中ではもっと単純。
「俺、あんたらのこと大好きだな」
ずっと前からわかってたはずなのに、今更心の中でストンと落ちた。
そばで眠る2人みて、クスッと笑いがこぼれた。2人の手をゆっくりと払って、ゆっくりと立ち上がる。足はガクガクと震えっぱなしで、視界は霞み、呼吸するたびに喉が焼け切れそうだ。
『3人で一つでいること』
ごめん。約束をやぶる。
俺は1人で戦う。けど、
ギッと目の前を睨みつけて身体中に冷めていた熱を籠らせる。周囲の気温が上がっていく。
絶対に守る。3人で切り開いた未来を。




