#20-14 未来で何がしたい?
しばらくして、ねぇ、と海美がつぶやいた。
「ねぇ。もう特異生物って、いないんだよね?」
「あぁ。ザセルの細胞は全部死んだ。内側から操って、全部自害させた」
「『Parasite』だよね。すごかった」
隣で海美がぐいっと腕を伸ばして伸びをしながら深呼吸をする。龍斗さんは隣で首のあたりをかいた。その指先は血色がいい。
「特異生物が居ない世界って、さ。どんなだろう」
「楽しみだねぇ。みんな笑って、生きてる未来」
「俺、想像がつかないです。自分がこの先の未来でなにしてるか」
「っはは、たしかに。今まで夢見た未来まで来たからね。じゃ教えてよ、さらなる先の未来でさ」
「そうそう。優也の見る未来を見に行こう、一緒に!」
「俺の、未来……」
考えていなかった。とにかく最悪な未来を変えることに必死で。
この先どうなるか。まぁ、まずは研究材料にされるだろうな。的戸さんに。もう任務に邪魔されることなく自由な時間が増えるし。
それで、お役御免になったら……
「……」
殺されるのか。
特異生物なんて生きてちゃまずいしな。お国的には。
ザセルと違って俺たちを殺すのは簡単だ。ボタン一つで心臓に毒が打ち込まれる。もし長官が賭けに乗ってくれているなら、それ以外の未来の可能性もあるわけだけど。どうだろうな。
「……」
まぁあまり期待しないでおこう。ありもしない希望に縋るのは、もう疲れたから。
でも少しぐらい、未来に夢みたっていいじゃないか。それに帰ってすぐに殺されることもないだろう。完全に特異生物がいなくなったことを確認するには時間がかかる。
その間だけでもいいから。
「何がしたいですか」
夢ぐらい、見たっていいじゃんか。
ずっとやってみたいことがあったんだ。憧れていたけど、できるわけがないと遠の昔に諦めてしまっていた。けれどこうして、生きて大人になった。ザセルを倒せた。その未来でやりたいこと。
誰かと笑ったり喧嘩したりドラマのような大恋愛をしたり。それに見に行きたいものもたくさん。
夜明けの美しい青も、
陽の光に微睡む猫のあくびも、
海に沈む太陽も、
夜空に咲く大輪の花も、
空を覆う数えきれない小さな輝きも。
やりたいことは、山ほどある。
しばらく返事を待つが帰ってこない。
「……龍斗さん?海美?」
左右を確認すると、2人は目を伏せていた。
「っ!!」
おい、まさか!
跳ね起きて2人の脈を確認する。指先にトクントクンと鼓動を感じた。2人とも眠ってしまっているだけだ。呼吸の音も正常。顔色も悪すぎない。大丈夫。大丈夫。
胸を静かに撫で下ろす。よかった。ていうか話の途中で寝るなよ。びっくりするだろうが。
その場でしゃがみ込んで、1人満月を見上げる。一切欠けのない綺麗な満月だ。夜に任務に出てもこうやってのんびり眺める暇はないから、なんだか嬉しくなった。
今までつかめなかった、のんびりとした新しい日常。死刑になるまでの間は夢見たって許されるだろう。
冬の冷たい風が吹く。それが頬を撫でて────
ガサガサッッ
「ヴーーーーー……」
「────え?」
聞き覚えのある音に振り向く。これは、この声は。
振り返った先には、植物が人間の体を形取ったような化け物。四肢の先端は鋭く、顔らしきところには目がない。ただ、牙の除く口があるのみの顔。
見間違えじゃない。でもそんなことあるわけない。
「オルガー……!?なんで……!?」




