#20-13 ここにいるよ
体が右へ左へ大きく揺らされる感覚で目が覚めた。
「おー起きたか、寝坊助」
「龍斗さん」
「おはよ、優也」
「海美」
俺の腕をそれぞれの肩に回して連れてきてくれたようだ。引きずられていた足を地面にまっすぐつける。
いける。歩ける。
「ここは、どこですか」
「研究所の裏手にある森だな。ポイントγがすぐそこだ。なんか迎えがこねぇし、インカムもやられて連絡取れないけど」
「そこで待ってよ。きっと来てくれるよ」
お互いがお互いを支え合っている。相変わらず龍斗さんの片腕はないし、海美の呼吸も荒い。かくいう俺も全身傷だらけだ。満身創痍とはこのことをいうんだろう。
でも歩ける。3人なら。
「帰るぞ、みんなのところ」
「もちろん、りょーかい」
「了解!」
一歩一歩、歩みを重ねてポイントガンへ辿り着く。目印にしている森林のギャップのあるところ。ここだ。空を見上げれば、星の一つも見えない夜空に浮かんだ満月が俺たちを静かに見下ろしている。
耳を澄ますと、遠くから火の音が聞こえてきた。音の感じからして、思っていた以上に研究所から離れているらしい。火災の影響をほとんど受けず、鬱蒼とした森の中は薄暗い。
森林ギャップの近くに3人で座り込む。あぁ、もう一歩も動けない。その場で仰向けになって横になった。
それに釣られるように隣に海美が横になって、龍斗さんが俺を間にするように反対側に横になった。川の字かよ。
「あーーつっかれた。もう動けねぇや。はは」
「私もーー。もうダメだ」
「……生きてます?アンタ達」
「心臓は動いてるよ」
「私も!」
「そうか、わかった」
心臓が動いていればいい。腕や首が吹っ飛んでもなんとかなる。……らしいから。
どこまでいっても体は化け物だ。思わず苦笑する。一番人外してるのは俺のはずなんだけど。
「心臓、止まっちゃったかと思ったよ」
「……いいや、案外ちゃんと止まってたと思うよ?」
「えっ?」
「そうなんですか?」
「多分?でもただの夢とは思えなかったし」
「「夢?」」
「……夢ん中でさぁ、光莉と会ったんだよね」
見た目こそ嬉しそうで、けれど寂しそうな声。
視線を左に傾ければ、目を伏せ夢へ思いを馳せながら笑う龍斗さんがいた。
「俺心臓止まっちゃったって言ったらさ、じゃあ私の心臓をあげるって言われて。はは、本当にもらってたりするかもね」
「私もみたよ、夢。お姉ちゃんが出てきてね、私の心の側にずっといるよって言ってくれたの」
「心臓は心の臓器。もしかしたら海美ちゃんも心臓もらってるのかな?」
「……父さんも、同じこと言ってました。心の中にずっといるって。切り開いた先の未来を精一杯生きろって」
「はは、俺たち、あの3人に助けられたのかぁ」
胸に手を当てる。
トクントクンと、鼓動が聞こえる。
全身に血を送りだすポンプ。体を突き動かすエンジン。心の臓。
ここにいるの?ねぇ、
「お姉ちゃん」
「光莉」
「父さん」
グスっと鼻を啜ったのは誰だろう。
ひっくと嗚咽を漏らしたのは誰だろうか。
視界がクラゲのように揺れて、夜空に浮かんだ満月が溶けていく。森林の静寂の中で、3人分の啜り泣く声が響いた。
心臓が動いている。
心臓が鼓動している。
ここで俺たちは息をしている。
これからも、この先もずっと。
しばらくして、ねぇ、と海美がつぶやいた。




