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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#20 change my future
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340/342

#20-5 貴方は、貴方の未来を


 そういうと光莉はその手に持っていた花束に祈りを込めるよう、目を伏せる。

 するとたちまち青い薔薇は赤く染まっていき、瞬く間に青い花束は赤く変化していった。


 伏せていた目を開き、幸せそうに微笑んで俺に手渡す。


「な、にこれ」


「私の心臓」


「し!?」


「あげる。大丈夫だよ、ちゃんと動くから。それに失いすぎた血も、全部全部あげる。首の傷だって、ふさいでおいてあげるから」


「いやうご……!?って、そういう問題じゃない!」


「なんで?私の心臓じゃご不満?」


「そもそも心臓をあげるって何、どういう意味!?」


「そのままだよ。私が龍斗の心臓に住み続けるの。止まってしまった時間も、全てまた未来に向けて動き出す」


「っ……」


 止まってしまった時間。


 貴女が俺の前から消えたときから、ずっと止まってしまった時間が、動き出すって言うのか。


 それが動き出す。音を立てない心臓が、冷え切った手足が熱を持つ。

 目頭が熱くなる。光莉の言いたい意味が、わかってしまったような気がして。


 そんなのいやだよ。


「心臓って、心の臓器って書くじゃない?私はもう体がもたなくてさ、隣にいることはできない。だから龍斗の心の傍にいさせてよ」


「……」


「ね、ダメかな。……嵐巻龍斗さん」


 光莉は微笑む。あぁ、ずるい。ずるいよ。そんな顔されたら俺が断れないこと知ってるくせに。

 手に持った花束よりも華やかな笑みを携え、緊張なんてしないような普段の調子で、告げる。



「私と一生一緒にいてください」



「……ぅ」


「どんな貴方も大好きだから。これから先の貴方の未来を、私に見せてほしいの」


「ひか、り」


「どんな夢を見つけるの?どんなふうに叶えるの?あぁ、どんな人と出会うんだろう。どんな物語が待っているんだろう。愛おしいあなたに、どんな未来が待っているんだろう」


「光莉!」


「その未来を、心に一番近いところで、ずっと見ていたんだ」


「光莉……!俺は、俺は……!!」


 光莉の肩をつかむ。ぐちゃぐちゃになった顔でも、しっかり目を合わせて。


「そんなこと言わないでくれ。俺は、光莉がいない世界なんて嫌だ」


「……」


 止まった時間が動き出す。


 それは、俺が貴女のことを乗り越えて、先に進むこと。


 つまり光莉の言いたいことは、光莉の命を犠牲に、俺に一人で生きろって言うんだろう。

 違うよ。嫌だ。嫌だよ。俺は貴女の居ない世界なんて。


「ずっと一緒にいたかったのにあんなことになって、何度も諦めては諦められなくて、それで、こうグスッ、こんな、こんなことになったけどまた会えたのに!!!」


「ごめんね」


「また会えたのに、また離れろなんて」


「ごめんね」


「そんな、そんなこと!」


「……ごめん、ね」


 光莉の肩をつかむ。寂しさに揺れる大きな瞳に、俺の必死な顔が映りこんでいた。




「そんな酷い世界なら、俺は死んでやる!」




「っ!……やめて!」


 光莉が俺の頬をはたく。衝撃と、音。そして痛み。

 ありえない、と言いたげな瞳が俺を貫いた。


「そんなこと言わないで。こんな酷い世界の中でも見つけたんでしょ?大切な夢のありかを、大切なかけがえのない仲間を!」


「っ!!」


「こんな酷い最悪な世界でも生きたいと思えた理由を見つけたなら、それを全部投げ出して、私を選ぶなんて許さないから!!大好きな貴方のことを雑に扱うなんて、貴方でも許さないんだから!!!」


「ひが、ッグスッ、り、」


「私のことを忘れろなんて言ってない。こんな酷い世界で一人で生きてとも言っていない。ただ、……ただっ!貴方には貴方の仲間が、世界が、未来があるの!!たとえ私がそこにいなくたって、」


「あぁ、ぅ、」





「貴方は、貴方の未来を生きるの!!」





 ぎゅっと乱暴に花束を押し付けられる。勢いに押されて、黙ってそのまま受け止めた。


 温かい。あぁ、あったかいなぁ……


 顔を見合わせる。釣り上がっていた眉は元に戻って、けれど笑うわけでもなく、ただ涙を拭いもせず流し続けたまま、俺を静かに見つめていた。


 お互い見つめあう。何も、何も言葉が出てこなくて。

 少しして、呼吸が落ち着いてきたところで、やっと口が開いた。


「光莉」


「何」


「俺さ」


「うん」


「生きてていいのかな」


「……」


「許されないと思ってた。光莉を救えなかったこと。俺自身が許したくなかった」


「……」


「生きていたくない。死んでしまいたい。ずっとどこか、頭の片隅にあって、笑ってても楽しくても消えることはなかった。それでもいいのかな」


 ずっと、ずっと、頭から離れなかった。

 どうしても許せなかった。

 

 貴女を護れなかった自分が生きていていい、なんて思えなくて。

 それは、優也や海美ちゃんといても消えることはなかった。これから先も、きっと消えることはない。


 光莉は少し寂しそうに笑った。


「……わかんないよ。そんなこと」


「……」


「ただ、一つ言うなら」


 ドクン


 止まっていたはずの心臓が音を鳴らした。

 鼓動は全身に響く。血が巡る。熱が伝わる。


 視界が端からホワイトアウトし始める。




「この先の未来で、見つけた夢の中で、見つからない答えを探してみるのもいいんじゃない?」




「……光莉、」


「もう時間だね」


「傍で見ててね」


「もちろん。女の人に鼻の下伸ばしてたらズキズキさせちゃうからね」


「光莉以上に好きになる人なんかいないよ」


「冗談よ。好きに生きて。どんな人を好きになってもいい。その未来を私に見せて」


「……」


「あと、早く死んじゃおとかしたらまたビンタだからね」


「……大丈夫今俺のこと大好きな奴らが隣にいてくれてるからね。嫌でも行けない」


「それは何より。寂しくなさそうだね」


「ねぇ、」


「何?」




「俺と出会ってくれてありがとう」




 視界が完全に白く染まっていく。

 夢の終わり。そう直感する。

 ゆっくりと貰い受けた花束ごと光莉を優しく抱きしめた。

 


 この温度を一生かけて忘れていくために。そして、



「私も龍斗と会えて、幸せだったよ」



 貴女のこの笑顔を、忘れないために。



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