#20-4 思いだして、夢の中
そこは確かによくある土産店のような内装をしている。けれど商品の棚に並べられているのは水族館の土産屋にしては異質なものばかりだ。だってそれは、俺と光莉がいつか二人で食べに行った高級ディナーの写真、予定を合わせて遊びにいた都内パン屋巡りに遊園地。どれも俺と光莉が笑顔で映っている写真ばかりだ。
クリスマスマーケットで買ったおそろいのカップも、
誕生日のお祝いに行った店でもらったちょっとした手紙も、
二人で攻略したゲームも。
「全部、俺たちの……」
「うん。そうだよ。私たちの思い出。私のかけがえのない宝物。全部ね」
「水族館の土産屋じゃない」
「お土産に持って帰ってほしい、なんて思っちゃった。ふふ、恥ずかしい。これとかほら見てよ。龍斗が初めて作ってくれたパスタ!おいしかったなぁ」
どこからともなく光莉は皿を取り出す。そこには湯気を立てたシンプルなカルボナーラ。見覚えがある。あれ、俺が作ったやつだ。でもどうしてこんなところに。
困惑する俺に、眉を下げて光莉は微笑む。
「……そろそろ時間もないか。嫌だなぁ」
「光莉、これはどういう」
「わがままもこれでおしまいだね。ごめんね龍斗。すごく混乱してるよね」
「いや、ごめん。俺も何が何だか」
「大丈夫。手を出して?」
言われるがまま左手を差し出す。あれ?俺、何で左手を。
直感的には右手を差し出したはずだった。利き手だし。けれど左手を差し出してしまっていた。それを下げるよりも前に、左手首に何かを嵌められる。
それは、黒い小型の腕輪だった。
「~~~~~~~~~~~っ!!」
認識した瞬間、頭へ欠けていた記憶が濁流のように流れ込んでくる。
この水族館でちゃんとプロポーズしたこと。
このあと、事件に巻き込まれたこと。
事件の後、優也と出会って、海美ちゃんと出会って、戦ったこと。
もう光莉は死んだこと。
もう俺は、死んでいること。
黒い腕輪はミューシスだ。全部思いだした。なんで、なんでこんな大切なこと忘れてたんだ。
はぁっ、はぁっ、呼吸が荒くなる。膝に手をついて、息を何とか整えた。でもモヤがかかったような感覚はすべて晴れて、頭に痛みは残っていない。
俺を支え、心配そうに大丈夫?と光莉が眉を下げた。
「……だい、じょうぶ」
「ごめんね。この時が来たら辛くなるってわかってたのに、どうしても……」
「……もう一度、デートがしたかった。でしょ」
光莉が息をのむ音がした、ような気がした。
「!」
「わかるよ。言わなくったって」
「~~~っ……」
上半身をもたげれば、そこには涙をいっぱいにためた光莉の顔があった。一つ深呼吸をして落ち着いて、正面に向かい合う。
きっと、全部夢なんだろう。思いだしたから、この夢を見る直前のこと。
血を失いすぎた俺は、その場に倒れた。心臓が止まって、そのまま死んだ。
優也と海美ちゃんには申し訳ないな。でも、もう死んでしまったから仕方ない。
へらり、と笑って見せれば光莉はあきれたようにため息をついた。
「光莉の夢の中に招待されるなんて、人生最期にすごいものもらっちゃったなぁ」
「……違うよ。私が龍斗の夢の中に来たんだよ。それで、私のわがまま……もう一度、最後にこの水族館でデートがしたいって願って、叶えてもらっちゃった。あの頃と同じようにするために、わざわざ龍斗の記憶まで閉じ込めて」
「夢みたいな時間だったな」
「ほんと、夢みたい、だなぁ」
「光莉」
「りゅう、とっ……」
光莉を強く抱きしめる。離さないように、ぎゅっと、ぎゅっと。
「このまま夢の中で二人ってのはどう」
「……」
「ずっと一緒にいられる夢、あぁ、いいなぁ。現実の俺、めっちゃ頑張ったんだよ?ご褒美にどう?」
「……そうだね。ほんと素敵な夢。でも、」
光莉が顔を上げる。あぁ、そんな、そんな寂しそうな顔で笑わないで。
「その現実で、龍斗のこと待ってる人たちがいるでしょ?」
「………」
「私はさ、もうむりなんだ。もう、もうダメなんだよ。でも未練はないよ。人として最期死ぬことができた。最愛の人の腕の中で、息を止められたなら、それがいいんだ」
「……」
「でも龍斗は違うでしょ。約束したんでしょ、優也くんと海美ちゃんと。二人が龍斗のこと待ってるなら、私は独占できないよ」
「……でも、俺ももう死んだ」
「まだだよ」
「……え?」
「まだ終わってない。心臓が止まっちゃったんだよね。大丈夫」
そういうと光莉はその手に持っていた花束に祈りを込めるよう、目を伏せる。
するとたちまち青い薔薇は赤く染まっていき、瞬く間に青い花束は赤く変化していった
伏せていた目を開き、幸せそうに微笑んで俺に手渡す。
「な、にこれ」
「私の心臓」




