#20-2 異変
「クラゲっていくらでも見れるよねぇ」
「同じようにくるくる回っているように見えて、光の入り方とか、あの触手みたいなやつの動きとか違うし、飽きないよな」
「ほんと、幻想的。ここ、この水族館のSNSでもバズってたなぁ」
「そうなの?」
「うん。あ、そうそう。この奥にある赤いハート型の水槽の前で写真撮ると、恋愛運アップ!みたいな」
「なんだそれ」
「クラゲの模様がハートに似ているんだってさ」
「へぇ」
「興味は?」
「あるよ。あやかっておこうかな」
「じゃあこっち!」
腕を引かれて奥にあるハート型の水槽の前に立つ。携帯を取り出し、カメラアプリを起動した。
腕を伸ばし、二人の顔と水槽の中のクラゲが収まるように画角を調整する。
逆光で暗いのはうまく明るさを調整して、うん。これで
「はい、チーズ」
シャッターボタンを押せばカシャっとシャッター音が鳴る。
「どう?いい感じ?」
「どうだろ。……え、なにこれ」
写真を確認すると、そこには俺一人しかいない。
それも俺は少し顔立ちが変わっている。なんかちょっと老けた??えー悲しい。写真写り悪くなったかな。ていうかそれどころじゃない。光莉は、光莉はなんで写っていないんだ?
「光莉いない、避けた?」
「なわけないじゃん。てか待って龍斗!怪我してる!?」
「え」
「ほら写真の中の龍斗、首のところになんか大きい切り傷あるじゃん!」
光莉が現実の俺の首を急いで確認するが、当然そんな傷はないし、こんな覚えもない。
光莉なんて透明人間にでもなってしまったのか?なんで映っていないんだ。俺の首の傷は一体なんだ?
「なんか、気味が悪いな。心霊スポットだったりする?」
「人を幽霊扱いするな~」
「いやいや、……ううん、まあいいか」
「恋愛運上げなくていいの?」
「あーーま、恋愛って自分の実力でつかむものだし?」
「言い訳」
「気を取り直して先に行こうよ。次はエビにカニ、タコの展示だってよ」
「なんか……おいしs」
「お姉さんここ水族館だからね~TPOね~~」
「力、パワー、……あとなんだっけ」
そんなふざけた雑談をしながら先へと進む。次の展示は俺の背よりも大きな水槽だ。中は赤を基調とした暗い色で。比較的体の大きな魚の展示もしているらしい。
「すごい、雰囲気あるねぇ」
「ね。……え?」
「どうしたの?」
「…………」
「え、何、どうしたの」
「いや、なんでもない。またぼんやりしちゃった。はは」
「もー、寝不足?また研究所にこもりすぎなんてことないよね」
「ないない。ほら、でかいな~カニ」
「えっ!?これ全部カニ!?すご!」
話題を振って話を逸らす。光莉は目の前のカニに夢中だ。俺だけなのか?俺がどうかしてしまったんじゃないか。
「見て見て!ピース!」
「ふふっ、写真撮るか」
「フラッシュ気を付けてね」
「あぁ」
写真を撮る。やっぱりそこに光莉は映らなかった。
「どう?うまく撮れた?」
「うん。もうばっちり」
「やった。うわ、こっちはでっかいタコ!」
写真に光莉が映らない。それに俺の視界の中で、光莉が水槽に映っていない。あんなに水槽に近づいているのに、どうして反射しないんだろうか。
そして一番の違和感は、影だ。
水槽の中を照らす赤いライト。雰囲気を出すためなのか、それは廊下にもところどころつけられている。その足元の影。俺はあるのに、
どうして光莉の足元に影がないんだ。
「……」
「龍斗?」
光莉は心配そうに俺を見上げる。微笑んで、心配しないでと肩をポンポンとたたいた。
大丈夫。大丈夫、おまじないのように心の中で唱える。怖い顔して光莉を怖がらせちゃいけないな。
さらに先へ進むと、この水族館名物の大水槽があった。ここから見る大きさは高さ10 m、横幅は15 mほど。大海原を生きる魚たちがここで暮らしているらしい。
中でも目を引くのは鰯の群れだ。水槽の中のライトを受けて、銀色の体がキラキラと強く輝いている。
「綺麗……」
思わず時間をわせれて見とれてしまいそうな中、突然照明が落ちる。そして天井近くに設置されたスピーカーから音楽が流れ初め、それに伴って水槽のなかのライトの光が切り替わり、鰯の群れの動きが鋭敏になる。幻想的なショーの始まりだった。
そのとき、突然手に重さがかかる。




